[KATARIBE 30863] [HA06N] 『霞の晴れるとき』(2-7)

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Date: Thu, 01 Mar 2007 23:31:07 +0900
From: Subject: [KATARIBE 30863] [HA06N] 『霞の晴れるとき』(2-7)
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 ごんべです。
 「霞の晴れるとき」、続きを行きます。

 一年経って、まだこんだけしか進んでないのかー、と思う今日この頃(滅)
 遅筆だなあ。
 でも続ける。頑張ろう。

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小説『霞の晴れるとき』
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http://hiki.kataribe.jp/HA06/?KasumiNoHareruToki


死中の活
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「――くっ」

 とっさに身を引き27号―― "手長" との間合いを離す陽。
 ざっくりと左下腕の人工皮膚を切り裂かれている。
 というより、皮膚一枚で済んだのが奇跡かも知れない。

「……そんなところにも」
「ええ」

 すた、と着地した "手長" はニヤリと不敵に笑ってみせる。
 うっすらと両のふくらはぎから踵にかけ線状の光が走っており、それがゆっ
くりと消えていく。

「私の脚や "足長" の腕は、機構としては仮のもの、ハリボテのようなものだ
からね。その分、本物として作る、本物らしく見せる場合にはできないような、
変わったものを仕込んであるのよ。特に "足長" は、ちょっとしたものを持っ
ているわ」

 どうやら、両脚の至る所から適宜レーザーメスを発動させられる仕組みを備
えているらしい。腕で受けようとした陽に触れる直前で発動したため、後ろへ
下がるのがあと一瞬遅れていたら、深刻なダメージを腕に受けていたところだ。
同系統の機体と判断して指先だけと思い込んでいた裏をかかれた形になってし
まった。そうでなくとも、不意打ちで使われればおそらく避けられないだろう。

「私の場合はこの程度だけれどね、でも戦うには十分」
「……なるほど」

 蹴りの威力を載せたレーザーメスに破魔杖がどの程度耐えられるか未知数で
ある以上、受けて防げないとなれば、かわすしかない、と言うことである。し
かしそれは、接近白兵戦ではアクションの選択肢を減らし、隙をも生む。

 あるいは――

「だが、こちらから攻撃すればどうということはない」

 陽は両の手で破魔杖を掴み、一捻りして左の小脇に挟んだ。
 そのまま先端を地摺りに下げ、27号の接近を牽制する。

 おそらく陽は、破魔杖のリーチと破壊力で間合いを制圧しながら27号の攻撃
を封じ、打撃の機会を窺うつもりだろう、と27号は読んだ。では、どのような
攻撃で来るか――

 鋭い突きが、地面すれすれから跳ね上がって27号の首筋を襲う。

 初手としては当然だ。間合いが長く、攻撃力があり、投影面積が小さいため
いなしにくい。
 しかし、来る場所がわかっていればどうと言うことはない――破魔杖を27号
の「脚」から守るために、矛先は自然と27号の上半身に向かうだろうと予測し
ていたのである。
 様子見か必殺か、陽の自信の「初球」だったが、それを27号は「強打」した。

 首筋を掠めた破魔杖の軌跡を自慢の腕でがっちりと捉え、もう一方の腕で杖
の中程を強かに打ち上げる。
 つられて陽の両腕が浮かび上がった一瞬を、27号は見逃さなかった。

 大きく飛び込み、杖を殴った腕を地面について逆立ちになる。28号の脚力に
匹敵する27号の腕力は抜群の安定感で彼女の姿勢を支え、がら空きになった陽
の左脇腹へ踵回し蹴りが叩き込まれる。レーザーメスの光条がその踵に走った。

「もらった!」

 ――その時。

 勝ちを確信した27号の視野の中で、今まさに一撃を加えようとしている陽の
左脇腹に、ぽかり、と闇に満たされた「穴」が開いた。

 ……何だ、あれは?

「かかったな」

 これから痛恨の打撃を加えられるはずの陽が、ぽつり、とつぶやいた。

 珊瑚とともに、陽も数ヶ月の間だけ前野の手ほどきを受けた、影術。
 珊瑚と違って陽は、この魔術を習得し腕前を高めることなどとうの昔に放棄
していた。しかしアンドロイドの身の上なれば、一度覚えたことを忘れること
は滅多になかった。
 彼が覚えた術は、物体をある物の表面に一瞬だけ飲み込ませ縫いつけるだけ
の呪紋ひとつ。だがそれが己の身体の上であれば、たとえコンマ1秒の間でも
充分だ。

 「穴」の正体は、魔力を湛えた影術の呪紋。
 その発動呪式は、まさに彼が持っている破魔杖の一端に仕掛けられていた。

 27号の足がめり込むはずだった陽の脇腹で、黒黒とした光とともに呪紋が発
動し、どっぷりと「穴」に吸い込まれたその足首を陽の両手ががっしりと掴ん
だ。指先のレーザーメスが作動し、脚の内骨格にまで深く食い込む。

「!!」
「うおおおおぉっ!!」

 ゴキッ、と鈍い音がして、固定された27号の下腿が中程で折れ曲がる。
 さらにわずかしか保たなかった術が斥力を発して27号の足を吐き出し、その
勢いすらも利用して、陽は27号を彼女の身体ごと振り回し、ありったけの力で
地面に叩き付けた。

「っ……がっ!?」

 予想だにしなかった態勢での致命的な衝撃に、27号は機能を麻痺させダウン
した。
 そして、陽の関心は既に27号には無かった。

『珊瑚!』

 鋭い、決然とした通信リンクが虚空を飛ぶ。

『今行く!』


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 次は、足長さんの本気。そして珊瑚は。

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ごんべ
gombe at gombe.org

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