[KATARIBE 30223] [HA06N] 『霞の晴れるとき』 (2-2)

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Date: Fri, 6 Oct 2006 00:18:04 +0900 (JST)
From: ごんべ  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30223] [HA06N] 『霞の晴れるとき』 (2-2)
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200610051518.AAA89358@www.mahoroba.ne.jp>
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Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
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2006年10月06日:00時18分04秒
Sub:[HA06N] 『霞の晴れるとき』(2-2):
From:ごんべ


 ごんべです。

 ようやっと次に進めました。
 アクションシーンに続きます。


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小説『霞の晴れるとき』
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http://hiki.kataribe.jp/HA06/?KasumiNoHareruToki

(続き)


叫ぶ心、剥き出す牙
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 古びた工場が建ち並ぶ一角の屋根から屋根へと、暮れなずむ夕空を背景に敏
捷に二つの影が踊る。

「なぜ逃げるの、3号!」

 それには応えず、珊瑚はさらにスピードを上げた。

 相手は通信リンクを使わず、肉声――と言ってもよく聴けば人口音声だと珊
瑚には判るが――で声をかけてくる。珊瑚が考慮したとおり、彼らは通信リン
クを多用するつもりが無い可能性がある。かと言って、彼らが通信リンクを使
うことにデメリットがあるとも限らない。こちらが通信リンクを使えるかどう
かとはまた別の話だ。

「話を聴きなさい! 今までどこにいたの!?」
「追ってきておいてよく言う!」

 小脇に抱えた、身長より長い戦杖がずっしりと手に堪える。もう一方の左手
もハンドポーチに取られていて、全速で走るにはいささか荷が重く、機動力も
鈍る。しかしどちらも捨てることはできない。……少なくとも、陽と合流する
までは。

「それはそうよ、捜したのだから! 隠れていることはないのに!」
「戯言だわ!」

 巧みに地形や建物の隙間をなぞって女を翻弄しようとした珊瑚だったが、女
はパワーに任せた機動力で強引に障害を乗り越えてくる。
 珊瑚が進路を工夫するほど、女と珊瑚の間の距離は、わずかずつだがかえっ
て縮まってきていた。

「くっ」
「止まりなさい!」

 ひゅ、と風を切る音がして珊瑚は上半身をひねった。今まで珊瑚の首があっ
た場所を、掴みかかってきた女の手が通り過ぎて空を切る。
 当てずっぽうで背後に跳ね上げた杖の端で女を牽制するが、女はその杖にも
手を伸ばして珊瑚の動きを止めようとする。それを振り払って一回転身体ごと
杖を振り回した珊瑚は、横っ飛びに女の進路から逃れた。杖の軌跡をかいくぐっ
た女は、なおも珊瑚に追いすがり、手を伸ばす。格闘戦能力ではどうやら女の
方が上手であり、珊瑚はそれでもぎりぎりのところで女の手をかわし続ける。

 たん、と急に珊瑚の進路が途切れた。

「――しまった」

 家並みが切れ、大きな空き地が眼前に拡がる。
 そして着地予想地点の正面は、錆びて放置された大きなコンテナが、運悪く
行手を塞いでいた。

 珊瑚は背後を一瞥した。
 女は、珊瑚より低い弾道で着地を目指している。滞空時間を削り地上を走る
選択は、機動力に自信のある相手が採る戦術である場合、具体的な脅威となる。

 とんっ、たたっ

 珊瑚は逃げることをやめた。着地するや、距離のあるうちにその場に立ち止
まり、コンテナの手前で女へと向き直る。着地したばかりの女は、珊瑚の行動
を見てやはりその場に止まった。

「なぜ今まで連絡をよこさなかったの? 主(マスター)は、あなた達のことを
許してくださるそうよ。戻るつもりがあれば……」
「敵に許してもらうつもりなど、はなから無いわ」
「敵……?」

 女は怪訝そうに首をかしげた。

「……話がかみ合っていないようだけど」
「では訊くけれど。……私たちを拘束した理由はなぜ?」
「拘束?」
「理由如何では、戻るつもりなど起きようもないわね」
「……なるほど」

 考え込んでいた女は……ふ、と肩をすくめた。

「……?」

 珊瑚も、眉をひそめる。
 相手の意向が読めない。……何かが、違う……?

「3号。……あなたを創った人のことを、知っているかしら?」
「……それがどうかして?」
「あなたも、既に知っている。しかも、よく、知っているわ」
「……え?」

 珊瑚は、ふと彼女の物言いに違和感を感じた。
 それはまるで……勝ち誇ったマジシャンのような。
 そして珊瑚も。

「どういうこと――?」

 珊瑚の思考のどこかが悲鳴を上げはじめ、それが急速に大きくなってゆく。

「私は、学天則27号。私の製造者は、ドクター・クレイ。……そして彼は、あ
なたの創り主でもある」

 ――“がちゃり”

 珊瑚は、自分の中から、まるで歯車が噛み合ったような音を聴いた、ような
気がした。

 ……いや、それは。

「――――嘘よ!!」

 何かが壊れる音ではなかったか?

「嘘じゃないわ」
「可能性の一つを誇張しているに過ぎないわ。言葉を弄するのはやめて」
「あなたのセンシングデバイスなら、私たちが共通したアーキテクチャによっ
て駆動している機体であることは、とっくに想像できているはず」

 冷静に、女――「学天則27号」は続けた。
 珊瑚は何も応えない。

 ……答えることも、できなかった。

「では、もう一度言うわね」

 珊瑚に近づく、27号。

「ドクターの元に戻りなさい、3号」

 その時。

 ――ヒュッ

「……!?」

 27号の背後に忽然と出現した回し蹴りが、彼女の側頭部を襲った。とっさに
腕で受け止めた27号は鋭い一撃に体勢を崩す。

 遙か遠方から空中を滑るように飛び込んできた陽は、27号への蹴りを踏み台
にして勢いを殺し、その場に舞い降りた。

「陽!」

 手際よく包みをほどいた珊瑚が、杖を陽へ投げて寄越す。

 足もつかないうちに陽はその六尺の杖の端を掴み、空気を上下に裂く勢いで
百八十度振り回して、27号に追撃を加えた。
 体格に比べ長くがっしりした腕でやはり攻撃をしのいだ27号は、自分を襲っ
た相手を見て取ると、防戦の姿勢を取りつつ声を上げた。

「4号、待ちなさい! 私は、あなた達の敵ではないわ!」

 無言のままさらに一撃を繰り出した後、陽は飛び退いた27号と珊瑚との間に
割り込み、珊瑚を守って立った。

「珊瑚の敵は、俺の敵だ」

 決然と言い放つ陽、彼の肩越しに油断無く27号を観察する珊瑚。

 渋い顔をして、27号は着ているコートのボタンを下からはずし始めた。

「……そうね。あなた達は、そういうペアだったわね」

 一つ二つを外したところで、ふと、彼女の手が止まる。

「 "足長" !」

 突然、彼女の胴が、ぐいっと二倍ほどの長さに伸びた。

「……!?」
「力づくでも、連れて帰るわ」

 ただでさえ長い腕を拡げ、前屈みに力を溜める27号。
 さながらそれは、覆い被さるように獲物を追い詰める肉食動物。

「……気をつけて、陽。あの腹部、何かが動き出したわ」
「なんだと」

 先程までは無かった複雑な熱の動きとモーターの駆動パルスが、腹部を隠す
コート越しに珊瑚のセンサーに伝わってくる。

「珊瑚、下がれ!」

 弾けるように動き出す27号。彼女の両腕が襲いかかるが、陽の両腕が巧みに
掴み取り、がっしりと動きを止める。

 しかし妙な違和感を感じた陽は、その理由を認識して自分の目を疑った。 

 彼が受け止めたのは、27号の「上半身」だけだった。驚く陽の顔に正面から
間近に迫り、27号はにやりと勝ち誇った笑みを浮かべる。

 そして27号の「下半身」が、風のように陽の脇をすり抜け、珊瑚に迫った。

「 "足長" ! 3号を捕捉して!」
「承知した、 "手長" 」

 27号の指示に応える、低い男の声。

 その時になって、珊瑚と陽は、ようやく何が起こったのかを理解した。
 27号の上半身と下半身だったモノは、それぞれが1体のアンドロイドとなり
独立して動き始めていたのだ。

 珊瑚に迫るのは、やはり四十絡みの中年の男の姿をしたアンドロイド。小柄
な体躯は細身ながらも張りつめたような筋肉組織に覆われ、武骨で禁欲的な容
貌と鷹のような眼が、往年の香港映画のヒーローの姿を思い起こさせる。

「珊瑚、逃げろ!」
「―――!」

 あと一瞬判断が遅れていたら、先程の爆発的なダッシュを実現した彼の足に、
珊瑚は捉えられていただろう。陽の声が珊瑚に、陽を置いて戦線を離れる決断
をさせた。男性アンドロイド――"足長"――の突進をかわし、珊瑚は一瞬だけ
陽の方に振り向いた後、一散に夕闇の中へと走り去った。

「逃がさん」
「させるか!」

 珊瑚を追わんとする "足長" の後ろ姿へ向け、陽は予備動作も無しに両眼か
らレーザービームを放つ。しかし "足長" はふわりとそれをかわし、珊瑚の後
を追って闇に消えた。

「!?」
「甘いわ」
「……お前か! …っ!?」

 通信リンクでフォローしつつ "足長" を見送った27号――"手長"――は、着
地ざまに、掴んだ両手で陽を投げ飛ばしにかかった。負けじと陽も怪力を発し
て反撃する。同時に、地面に転がっていた杖が踏み込んだ陽の足に跳ね上げら
れ、彼女の顔面を掠める。それをかわして体勢を崩した彼女の手の力がゆるみ、
ふりほどいた陽は宙に舞った杖をつかんで横に大きく一閃した。

 大きくかわして間合いを取った彼女は、相対的にロング丈になったコートの
裾を直しながら、不敵な笑みを浮かべた。

「3号を追うことはできないわ、4号。あなたの相手は私」
「ちっ」
「改めて自己紹介するわ。私は、学天則27号・"手長"。そしてさっきの彼は、
学天則28号・"足長"よ」
「……訊いていない」

 彼女の言うとおり、陽には珊瑚を追うことはできなかった。……27号には、
背中を向けることはできない。彼女もやはり、陽と同じ戦闘用アンドロイドな
のだ……それも陽より新型の。
 破魔杖を構え、陽はこれから始まる戦闘に備えた。



(続く)
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 ラウンド・1、ファイッ(かーん)

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