[KATARIBE 29799] [HA06N] 『霞の晴れるとき』 (1-1)

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Date: Mon, 27 Feb 2006 00:03:12 +0900 (JST)
From: ごんべ  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29799] [HA06N] 『霞の晴れるとき』 (1-1)
To: kataribe-ml@trpg.net
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Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
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2006年02月27日:00時03分11秒
Sub:[HA06N] 『霞の晴れるとき』 (1-1):
From:ごんべ


 ごんべです。

 MOTOIさんからプロットをいただいていきなり降りてきた、霞原姉弟の決着
エピソードを、小説形式でお送りします。

 ここまで約1年ほどやつらの音沙汰がありませんでしたが、その辺は置いと
いて(ぉぃ)、決着を急ぐことに致しました。ご了承下さい。
 そのため、人間関係等は2005年初冬のものを前提に置いています。ただ、
一部2005年終盤に確認されている関係については、考慮の上盛り込んでいます。

 最初に登場人物を挙げておきますので、登場するキャラの本体の方、お手数
ですが随時チェックをお願いいたします。m(_ _)m


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小説『霞の晴れるとき』
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登場人物
--------
 霞原珊瑚(かすみはら・さんご)
  :少女型アンドロイド「学天則3号」。現在は榎家に潜伏中。
 霞原陽(かすみはら・よう)
  :少年型アンドロイド「学天則4号」。同じく榎家に潜伏中。
 榎士郎(えのき・しろう)
  :吹利学校大学部工学部教授。裏の顔はアンドロイド専門家。
 榎愛子(えのき・あいこ)
  :士郎の妻。愛菜美の製作にも携わった、士郎の優秀な助手。
 榎愛菜美(えのき・まなみ)
  :士郎製作の少女型アンドロイド。珊瑚・陽の事実上の教育係。
 神之木涼(かみのぎ・りょう)
  :主人を失い流離の途にあるアンドロイド。士郎により復活し、滞在中。
 猫実美子(ねこざね・よしこ)
  :製作者不明のアンドロイド少女。榎家の居候。
 ドクター・クレイ
  :珊瑚と陽の創造主だが、ある事情により出奔されている。


暗闇よりの視線
--------------

「ふふ…………見つけた」



破られる静寂
------------

 ……2005年12月上旬某日の昼下がり、榎家。

「ただいま」
「あ、おかえりー」
「あら、愛菜美。帰っていたのね」
「うん、今からバイトだから、ちょっと戻ったの」
「そう。気をつけてね……陽は?」

 それは、突然の出来事だった。

「昼頃に出かけたんだって……珊瑚ちゃんは、バイト行かなくて良いの?」
「今日は図書館だけね。ちょっと読みたい物があるから借りてきたの」

 キイイィンッ

「……!!」
「……? 今何か……」

 ドサバサッ

「えっ、さ、珊瑚ちゃん!?」

 頭を抱え、うずくまる珊瑚。
 足下には、借りてきたと思しき本が落ちている。

「……何でもないわ」

 這うように手を伸ばしながら、何とか平静を取り戻して本を手に取り埃を払う。

「何でもないって顔じゃなかったよーっ」
「大丈夫、少し余分な信号が入っただけよ。前にもこういうことはあったの」
「でも……」

 にこりと笑ってみせる珊瑚。
 心配だよ、と言いかけて、愛菜美は思わず口をつぐんだ。

(だって、珊瑚ちゃん、ものすごい形相だったんだもん……)

「……少し休ませてもらうわね、そうすればすぐに治るわ」
「う、うん……くれぐれも、無理しないで、私やパパに相談してね」
「……大丈夫よ。……さあ、遅れるわ」

 なおも心配そうに振り返る愛菜美を送り出し、珊瑚は玄関ドアを閉じた。
 その顔には、もう先程のような笑みは欠片も見られなかった。

「……こんな時に、来るなんて」


迫り来る危機
------------

 電磁波センサーの感度を最大限に引き上げる。
 歩き去る愛菜美の発するごく微弱な電波さえ感知するほどまで感度を上げて
も、周囲には怪しい個体は感じられない。

『……珊瑚』
『陽も聴いたの?』
『ああ』

 控えめな最小限の信号で、陽からの通信リンクが秘話モードで届く。
 靴を脱ぎながら珊瑚は、陽に作戦を伝える。

『陽……ここを捨てるわ』
『……わかった』
『合流ポイントは 0344803/1354118/C。但し私の進路に漸近線ルートで』
『撤収は任せる。頼んだぞ』
『わかったわ。可能な限り急いで』

「……珊瑚さん?」

 ぴく、と、自室のドアノブにかけていた珊瑚の手が止まる。
 そこには、愛子の依頼で片付けものをしていた神之木の姿があった。

「神之木さん……」
「どうしました?」
「……いいえ? 何でもありません……と言いたいのですが、ちょっと調子が
悪くて」
「そうなのですか? ……お大事になさって下さい」
「ありがとう」

 神之木が見送るのに笑顔で会釈を返しつつ、ぱたんとドアを閉める珊瑚。

 そして、その後彼女がそのドアから姿を見せることは、無かった。


士郎の帰宅
----------

「あ、榎先生、お疲れ様です」
「おお、お疲れさん」

 士郎は、早い時間に今日の仕事をすべて片付け、研究室を後にした。
 車を走らせ、事故を起こさない程度に家路を急ぐ。

 今日は愛子は仕事のため、愛菜美もアルバイトのため帰りが遅い。
 今家にいるのは、珊瑚、陽、美子、神之木の4人。
 (もっとも、陽がこの時間に家に戻っている可能性は、そう高くはないが)

 そのはずだった。

「ただいまー」
「あ、おかえりなさい〜」

 居間でくつろいでいた美子が顔を出して出迎える。

「みんなは?」
「神之木さんはお台所ですっ。陽さんはまだうろうろしてて、珊瑚さんは、
なんか疲れてるみたいで部屋で休んでるそーですっ」
「疲れ?」

 また、何か激しく考え込んでいたのだろうか……などと考える。
 人間で言うところのストレスのような状態が昂じれば、電子回路、特にCPU
には随分な負担となる。人間でなくとも避けた方が良いのだ、と士郎は常々
珊瑚に伝えているのだが。
 何しろ、彼らの作成者ならぬ士郎の身では、彼らに何かあってもいかんとも
しがたい。

「珊瑚君」

 ドアをノックする。

「珊瑚君、いるのかい?」

 ノックする。
 ……返事はない。

「どうしたんだい? 入るよ」

 仕方なく、ドアを開けて部屋に入る。

 姿が、ない。

「珊瑚君?」

 もしかしたら、ベッドに珊瑚が埋もれているのかと士郎は思ったが、珊瑚と
陽が使うそれぞれのベッドは、綺麗にメイクされていた。

 おかしい。片付きすぎている?


分析する頭脳たち
----------------

「榎さん」
「……神之木さん?」

 階段を上がって、エプロン姿の神之木が姿を現した。

「どうしたんです?」
「大丈夫です、火は消してきました……もしや、珊瑚さんに何か?」
「何か心当たりでも!?」
「いえ。ただ……」

 いわく、その日の珊瑚は、足音が違っていたのだ、と言う。
 陽が思い通りにならない時でもない限り、珊瑚は歩調もドアの開け閉ても、
余程のことがなければ、常に静かなのだと。しかし先程帰宅した際は、どうも
乱暴な印象を受けた、と言うのだ。

「……すると、何かに急いで?」
「かも知れません。珊瑚さん自身は、何も言いませんでしたが……」
「一体どこへ……」

 ふと見回した士郎の目に。
 きちんと整えられた本の束が、机のパソコンの前に積まれているのが写った。
 新品ではない。よく見るとそれは、市の図書館の蔵書だった。

 手に取ろうとして、彼は一枚の紙切れに書かれたメモに気付いた。

《 愛菜美へ 代わりに返しておいてください  珊瑚 》

 図書館のカードとともに残されたメモ。

「……まさか!」
「榎さん!?」

 あわてて地下室に下りた士郎は、部屋の隅のパネルを操作し、電波受信装置
の動作状況を確認した。

 実はある時から、士郎はこの装置を常時起動させ、とあるプログラムを走ら
せていた。それは、特定の周波数帯の電波信号を常に記録すること。
 その周波数とは、珊瑚と陽(及び愛菜美)の通信リンクが使う帯域であった。

「プライバシー侵害と言われそうだが……必要だと思ったんだ」

 受信記録には、夕刻頃に相当に強い電波が入感したことが記録されていた。
 これだけの信号のクリアさで、この強度は、珊瑚や陽や愛菜美の出力では
達成できないはずだ。
 その直後に、すぐ近く――おそらく榎家の中――からの電波と、遠くから
届いたと思しき弱い電波とが、何回か検出されている。それっきり、入感は
無い。
 士郎が信号のログを解析装置に入力すると、しかしエラーとともにバイナリ
データの羅列が吐き出されてきた。いずれの電波も通信リンクの交信データだ
が、どうやら秘話モードのもののようだ。

 彼らの通信リンクはユニークな仕組みを持った通信方法で、秘話モードにお
いてはデータにスクランブルがかかって傍受不可になる上、プロトコルすらも
が動的に変化するため、対象でない機体に対しては、通信リンクを行っている
ことすらわからない状態を作り出せる。だが、通信電波そのものを監視すれば
存在自体は確認できる。

 たぶん愛菜美は、事の次第には気づきもしなかっただろう。
 しかし記録からは、次のような状況が仮定できる……つまり、第三者からの
通信リンクがあった後、珊瑚と陽が交信し、姿を消した。

 珊瑚は、戻ってこないつもりだ。おそらく陽も。
 それほどの身の危険を感じるほどに、ここにいてはいけないと思わせるほど
に、珊瑚を走らせるものとは。

「……間違いない。彼らの言う "追っ手" が、すぐそばまで来ていたんだ……」

 状況からは、この場所を発見されたとしか思えない。
 そのため、あわてて場所を移した……つまり、逃げ出したに違いない。
 しかし、それで事態が好転するとは、士郎には思えなかった。

「あれほど、僕に相談してくれって言ったのに!」

 まだ二人とも遠くへは行っていないだろう。
 士郎は、できる限り急いで準備を整えると、再び上階へ戻った。
 廊下には、事の次第を察した神之木が士郎の上着を携えて待ってくれていた。

「榎さん」
「すぐに彼らを探しに出ます。愛子には次第を伝えてください。美子ちゃんに
は、内緒にしておいた方が良いでしょう」
「わかりました。……お気を付けて」


$$
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 まだまだ続きます。

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ごんべ
gombe@gombe.org



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