[KATARIBE 30262] [HA06N] 『霞の晴れるとき』 (2-3)

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Date: Mon, 23 Oct 2006 01:43:16 +0900 (JST)
From: ごんべ  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30262] [HA06N] 『霞の晴れるとき』 (2-3)
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200610221643.BAA57071@www.mahoroba.ne.jp>
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2006年10月23日:01時43分16秒
Sub:[HA06N] 『霞の晴れるとき』 (2-3):
From:ごんべ


 ごんべです。

 ようやく続きです。
 アクション篇、その3。種明かし篇の一端、でもあります。

 MOTOIさん、口調修正その他、よろしくお願いします。m(_ _)m


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小説『霞の晴れるとき』
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http://hiki.kataribe.jp/HA06/?KasumiNoHareruToki


解かれるほころび
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「パパ……さっきの話って、どういうこと?」
「ああ、それだけどね」

 新本町から再び吹利市内の方へと向かう車の中で、先刻からの疑問を改めて
口にした愛菜美に、士郎が答える。

「珊瑚君と陽君は、実は『誰からも追われていなかった』んじゃないか、とい
うことなんだ」
「……え?」

 愛菜美はきょとんとした顔で士郎を見た。

「それってどういう……珊瑚ちゃんが嘘をついてるって言うこと!?」
「いや、そうじゃない」

 車内のコンソールは、ごく断続的に流れてくる短い通信リンクの信号と、周
囲の状況とを、余さず画面上にデータとしてプロットし続けている。
 士郎は、コンソールから流れるナビゲーションと、愛菜美との会話の両方に
意識を払いながら、注意深く車を進めた。

「残念ながら、誰も悪くはなかった、と言うことになるかな」
「???」
「つまりね」

 士郎の中では、問題の仮説はほぼ確信に変わっていた。

「珊瑚君と陽君には、敵などいなかった。よって、二人が逃げる理由などどこ
にもない――そう言う可能性が、成り立つんだよ。たった一つの前提を崩すだ
けでね」
「それって……?」
「二人が見たという“敵”の存在さ」
「なぜ?」
「彼らは、今まで一度も二人に対して具体的な“攻撃”を仕掛けていないんだ」
「でも、捕まっていた、って……」
「そうだね。でも、危害が加えられたと言っていたかな? 二人から聞いた情
報を総合すると、『危害が加えられる前に逃げ出した』と解釈できる。実際、
二人は彼らに対して先手を取ったようだね。そうであれば、見事に逃げ切れた
ことも説明が簡単になる」
「うん……」
「そして、彼らには攻撃する意思はおろか、敵対の意思も無かったのだと思う
よ。愛菜美が言うように、紳士的な相手である可能性だって期待できる。もち
ろん、二人に逃げられたのだから、厳密に言えば『追う』つもりにはなってい
ると思うけどね」

 現に、先程からこちらをうかがう影は一向に見当たらない。
 悪意を持った仮想敵は、存在しないかも知れないのだ。

「でも、じゃあなぜ初めに捕まえる必要があったの?」
「そこで、もう一つ曖昧だった前提があることにも気付いたのさ」
「何?」

 そこで士郎は、ふと、ため息をついて愛菜美に目をやった。

「……残念ながら、人間も機械も、記憶というものは曖昧で、且つちょっとし
た仮定の間違いから全くの誤認識を起こしうるものなんだ。つまり、前提が違
えば、同じ事実を目の前にしても、判断される結論は別のものになる。一方で、
これまでの話は全て――」

 一旦言葉を切り、慎重に語彙を選ぶ士郎。

「――珊瑚君が接した事柄と判断“だけ”を元にしたものなんだ」
「……」

 士郎は話を続ける。

「こういったことは本当は厳密に検証されなければならない、けれども今まで
は事情が事情だし、特に反証となる事柄も急ぐべき必要も無かったから、その
ままになってきたんだね。でも、珊瑚君の判断に異論を唱えても、現在の状況
を説明できる、と言うことが今回の件で解ってきたんだよ。つまり」
「……つまり……?」
「捕まったこと、創り主についての所属情報が消されていたこと、と言った珊
瑚君の証言を前提とするのは、曖昧だ、と言うことなんだ。『そうではなかっ
た場合』という重大な可能性が見落とされていた。……わかるかい?」
「もしかして……」

 愛菜美の脳裏にも、まさかと思われた一つの答が、形を得ようとしていた。

「珊瑚ちゃんたちは、創られたばっかりだった、と言うこと!?」
「そう。可能性の一つとして、二人を追っていたのは、他ならぬ二人の創り主
ドクター・クレイだった、と考えられるのさ」

 渋い顔で、士郎は自分の推測を明言した。

「わざわざ誰にも気付かれないように暗号化通信リンクを珊瑚君と陽君に向け
て送るなど、通信リンクの特徴を一番わかっているのは、誰か? そう問われ
てまず第一に念頭に置くべきは、やはりドクターの陣営だと、僕は思うね」


ただ戦うもの達
--------------

 ごおぉんっ!

 轟音とともにコンテナの側面を凹ませた陽の殴打を、かわしきれなかったよ
うに見せておいてぎりぎりでかわした27号のカウンターが、陽の顔面を襲う。
紙一重で見切って逆に破魔杖で27号の腕を極めようとした陽の動きは、しかし
するりとかわされて距離を離されてしまった。

 戦闘慣れしている、と陽は思った。自分たちのデータがフィードバックされ
ているわけでもないだろうに、27号は全く手練れの格闘家の如き動きを見せる。

 身体を低くして、改めて間合いを詰めてくる27号。身構えた陽は彼女の動き
を見切って次の一手を出そうとした。
 が、その隙を見計らったように27号が先手の一撃を繰り出す。

「!?」

 見切り損ねたか、と思って間合いを取る陽に、27号はまたも頭から突進して
くる。後ろ手に隠した彼女の手は、いつ何を持って繰り出されてくるかわから
ない。
 陽が身構えるよりもやはりわずかに前に、彼女の腕が伸びてくる。陽と同じ
レーザーメスの切っ先を杖で軌道修正してかろうじて受け流しながら、陽はよ
うやくその認識不全の理由を見抜いた。

 27号の腕は、会った当初の長身のサイズに合わせた長さになっている。しか
し今の彼女の身長は、当初より30〜40cmも低い。そこから想像される腕の長さ
が、実際の彼女の腕の長さと食い違っているのだ。そして彼女が一撃を繰り出
す腕の動きは、それこそ人間離れして速い。その結果、想像する間合いよりも
わずかに外から攻撃がヒットしに来るように見えるのだ。そしてそのリーチは、
現に陽の腕のリーチよりも長い。

「……杖を捨ててはくれなさそうね」
「そこまで甘くはない。それに、いつまでも人間のつもりで騙せると思うなよ」
「別に不意打ちが主戦術ではないわ」

 戦闘アンドロイド同士が、本気で激突すればどうなるか。
 それは……まだ試したことはない。

「試して、みるか」

 感情など無いはず。しかし。

 試してみたい。
 ただそう思う意思が、陽の電脳に宿った。

 そしておそらく、27号も。

「容赦は、しないわ」


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 次はいよいよ、28号に追い詰められる珊瑚のシーンへ。

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ごんべ
gombe at gombe.org



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