[KATARIBE 30479] [HA06N] 『霞の晴れるとき』 (2-5)

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Date: Tue, 12 Dec 2006 22:29:24 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30479] [HA06N] 『霞の晴れるとき』 (2-5)
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年12月12日:22時29分24秒
Sub:[HA06N] 『霞の晴れるとき』 (2-5):
From:ごんべ


 ごんべです。

 ようやく続きを。
 まだ当分続きます。どうかお付き合いをば。m(_ _;)m


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小説『霞の晴れるとき』
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http://hiki.kataribe.jp/HA06/?KasumiNoHareruToki


露呈 (続き)
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 珊瑚は立ち上がり、服と、左手のハンドポーチにこびりついた汚れを払った。

「……私をどうするつもり?」
「連れて戻る」
「どうやって」
「手段を問うつもりはない」
「御免蒙るわ」
「お前次第だ」
「そうね」
「……聞きたいか?」

 珊瑚は、まっすぐに28号を見返した。

「……何を」
「お前たちが戻ってこない理由については、当初から様々な想定が検討されて
いた」

 ぐ、と珊瑚の手に力がこもる。
 見透かすような言葉。

「当然だが、お前たちがそうなった原因についても綿密に調査され、検討され、
可能性が提示されている――」

 28号が再び口を開いたのを隙と見て、珊瑚は後ろ向きのまま不意に走り出し
た。28号はL字鉄棒に飛びつき、引き抜きざまにぶんと音を立てて珊瑚へと投
げる。円盤状に回転しながら珊瑚を襲った鉄棒だが、広い土手の中腹で珊瑚は
それを難なくかわし、今度こそ28号に背を向けて走り始めた。

「広い場所では無理か……」

 言うが早いか爆発的に加速する28号。
 期待よりも間を開けることができず、珊瑚は内心で舌打ちをしていた。

「その結果判明したのは、実に些細なことだった。そしてそれらは、今のお前
たちの状態を確実に説明できる」
「……?」

 “足長”は珊瑚とのチェイスを再開しながらも、一呼吸おき、改めて口を開
いた。

「2003年9月15日深夜、ドクター・クレイの当時の研究所で、ロールアウトす
る直前で最終調整に入っていた2体のアンドロイドの生産ポッドが、突然の異
常動作を起こした」

 2年前の秋。

 珊瑚は思わず聞き入っていた……反論もひとまず置いて。

 ――それは、珊瑚と陽の、「生まれた」日。

「その原因は、研究所の周囲一帯を見舞った停電。――その際、研究所がバッ
クアップ電源へと切り替わる合間に、それらの生産ポッドにおよそ0.03秒の電
源断が起こったと考えられている」

 バックアップ電源による保護はなかったのか?などと考える自分が恨めしい。

 同時に珊瑚は気付いてしまっていた。“足長”の言う事態がどんな事態を引
き起こす可能性があるか、に。

「さらに可能性を検討した結果、そのうちの一基において論理制御信号線だけ
が、電力供給不足から来る電圧低下からの回復に最大約0.008秒遅れを生じ、
その結果内部のアンドロイドは、誤って初期化信号を受信したおそれがあるこ
とがわかった。もしそうであれば、その機体は、必要な情報が書き込まれる前
の時点で、さらに何らの指針も与えられない、間違った起動をしてしまったこ
とになる」

 だん、とひときわ強い踏み込みで“足長”が珊瑚の首もとに手を伸ばす。
 彼の言葉に対し様々な反証の可能性を探って頭を巡らせていた珊瑚は、危う
くかわしそこねるところだった。

 紙一重でかわした瞬間、珊瑚は自分を見つめる“足長”と目が合った。
 人を射すくめるような、鋭い視線。獲物として、聞き手としても、決して逃
がさないという迷わぬ意思の顕れ。

「もう解るだろう。――それが、お前だ。3号」
「……」

 次の瞬間に伸びてきたもう一方の手を、珊瑚の肘鉄がかろうじてはじく。

 “足長”は続ける。

「推測される経過としては、おそらくお前は自己防衛プログラムが起動した状
態になり、自己防衛のためにあらゆる現状把握行動を行い……そして、お前と
の連携をプログラムされてスタンバイしていた同型機の存在をスキャンし当て
た。4号だ」

 学天則4号――すなわち、陽。

「…………」
「もしその時、所属情報すら初期化されてしまっていたお前が周囲の環境を敵
地と判断していたのだとすれば、あとは想像に難くない。元々ペアとして作ら
れていた4号は、お前の指示をすんなり受け入れたことだろう。そして自己防
衛プログラムを動作させていたお前の状態に合わせ、所属情報を更新し――最
少限のものを除き封印または消去してしまったと考えられる」

 今でも覚えている。……いや、忘れようもない。
 あの時、自分の横には、確かに陽がいた。
 その場でただ一人の、自分の味方。
 あの時の彼は。

 ――もし、自分が、誘わなければ……?

「……私が…………っ」

 ざ、と足下の土塊(つちくれ)を掴み、間近の28号の顔面に投げつける。
 それを避けんとして彼の動きがひるむ間に、保険に繰り出してくる下段の蹴
りをもかわし、かろうじて再び間合いを開ける。

 光学センサーを守ったと言うことは、彼のそれ以外のセンシングデバイスは
恐れるに足らぬ可能性がある。
 ……ならば、まだ珊瑚に打つ手は、逃げ切れる目はある。

 しかし――

「……たとえそうだとしても。それは『高い可能性の一つ』に過ぎない。私が
そのような動作に陥ったという証拠は無いわ」
「……お前の口からそのような詭弁を聞こうとは思わなかった」

 顔の土埃をぬぐった28号は、静かに言葉を継いだ。

「お前であればこそ、『理解』できたはずだ。3号」
「……」

 違うか、と28号の目が問う。
 鷹のような視線。
 射すくめられ、致命の一撃すら受け入れそうになるような。

「認めるのだ、3号。そして――帰ってこい」

 珊瑚は、ついに反論をあきらめた。
 おそらく、彼の言うことは限りなく事実に近いだろう。
 ということは、自分たちは。

 空を仰ぐ。
 夕暮れの紫色の夜空に、皓々と白い光を放つ月が、珊瑚の目に入った。
 小さく、遠く、どこまでも透き通った光で、今にも消えそうになりながら輝
き続け、しかしどこまでも追いつけない。
 ――そんな風に憧れた真実が、今、目の前にある。

 そして、珊瑚は。

「嫌よ」

 そう、答えた。


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 タネ明かしシーンでした。べたなネタですね。説明過多かも。
 昔読んだマニア向けのSF漫画で、停電とか4号機ライプニッツとか少女型飛
行ロボットとか言うネタに反応した人がいらっしゃいましたら、ごんべまで。
(ぉぃ


 次回は、足長さんが本気を。珊瑚さん絶体絶命。

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ごんべ
gombe at gombe.org


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