[KATARIBE 30397] [HA06N] 『霞の晴れるとき』 (2-4)

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Date: Wed, 29 Nov 2006 00:22:41 +0900 (JST)
From: ごんべ  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30397] [HA06N] 『霞の晴れるとき』 (2-4)
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200611281522.AAA24029@www.mahoroba.ne.jp>
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Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
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2006年11月29日:00時22分41秒
Sub:[HA06N] 『霞の晴れるとき』(2-4):
From:ごんべ


 ごんべです。
 進まねー。


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小説『霞の晴れるとき』
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http://hiki.kataribe.jp/HA06/?KasumiNoHareruToki


露呈
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 夜の帳が下り始めた市街地、その中の地形情報に彼女にだけ見え隠れするルー
トをたどり、珊瑚は道無き道を走りに走った。

 どれだけ走っても――背後からは、ひたひたと自分を追う足音がぴったり追
いかけてくる。

 どこへ逃げる?
 何のために?
 ……どうやって?

 自らの電脳から次々わき上がる問いに答を探しながら、珊瑚はひたすら走る。

 …………彼らの主が、私たちの創造者ドクター・クレイですって…………?

 「学天則27号」、奴はそう言った。信憑性は? ――現時点ではゼロ。そう
である可能性は? ――要検証。そうであるために必要な要件は? それはイ
コール、あの静止画像の男がドクター・クレイであるための要件、と言える。

 ――NG。検証不能。

 珊瑚は、自分たちがいかに「ドクター・クレイ」という人物のことを知らな
いかを痛感した。
 最初に調べた前野も、彼の調査能力を上回るドクターの神出鬼没ぶりに、そ
の実像を掴めないでいた。珊瑚自身、榎家に間借りしながら前野の情報を引き
継いで調査を続けたが、彼の活動のかなり初期の記録と、彼が利用して財を成
したと思われる随分昔の株取引の銘柄までは特定したものの、膨大な数に上る
であろう当時の顧客の中から一人に絞り込むまでの労力(および違法にもなる
であろう調査の危険)を考えて頓挫していた。

 では、もし彼がドクター・クレイであったとして、その場合どうなる?

「…………!」

 自分たちは、捕まっていたのではなかったか。
 しかし彼がドクターであるのならば――

 自分たちは、捕まっていたのではなかったということか?

 そんなことは――

 ――否。可能性として、高い確率で成り立つ。
 即ち、自分たちが一度も起動していない状態であれば。
 そして彼が創り主ドクター・クレイであればこそ、その場にいることは、何
よりも自然なことである。

「……嘘よ。そんなはずは……」

 ひゅっ、と風を切る音を、珊瑚は危うく聞き逃すところだった。
 危うく身をひねったところを、後方から、どこかの軒先で見た金物のバケツ
が前方へと飛びすぎていった。追っ手……28号の仕業だろう。

 ちょうど辺りは、狭い路地にさしかかっていた。先程追われたときの反省か
らなるべく障害物と直線を活かすように走っていたが、この場で「飛び道具」
に狙われては……逃げ場がない。

 珊瑚は急転回して、横のフェンスの破れ目、その奥に続くとある工場の敷地
へと飛び込もうとした。

 ガシャンッ!

 背後から飛んできた板状の金属が、重たく派手な音を立ててフェンスの断面
にぶつかり、跳ねた。針金を編んだフェンスは破れ目のせいで複雑な弾性を見
せ、金属板の軌道を読もうと困難な三体問題に挑んだ珊瑚の電脳は、自分の身
を守るため、そこへ飛び込むことを中止した。
 どこかから拝借された撒水栓の鉄の蓋が珊瑚の細い首筋を直撃する事態は避
けられたが、その代わり珊瑚は、その場にブレーキをかけて止まってしまった。

 珊瑚は振り向いた。
 28号――“足長”が、そこに来ていた。
 コンマ数秒の間に恐るべき距離を詰め、目の前に迫る。

 速い……っ

 反射的に渾身の力で路面を蹴り、珊瑚は再び路地を疾走した。

 ――否。まだ証明が済んでいない。
 もし彼がドクター・クレイなら、なぜ自分たちはあのような行動を取ること
になったのか。なぜ自分たちを放っておいたのか。
 ――なぜ、自分たちはこのようなことになってしまったのか?

 珊瑚は自問する。しかし、彼女の中では、答は出ない。

 その珊瑚に、28号は容赦なく追いすがる。
 ひたすら寡黙に、猛禽のような目で、隙をうかがいながら。

 28号が鈍い破壊音を背後で立てたのを聞き、珊瑚は彼が、今通り過ぎてきた
フェンスから何かを――おそらく金属の骨組みをもぎ取ったことを理解した。
 全速力で路地から飛び出し、とっさに広い土手へと横っ飛びに転がる。

 ざく、と土手の斜面に突き刺さったL字鉄棒を見て、珊瑚は、この追っ手が
自分の動きを「確実に止める」ことだけを考えているのを理解した。

 28号が路地から現れる。

「否定することは、簡単だ」

 彼はおもむろに口を開いた。
 一転してゆっくりと歩を進めてくる。しかしその威圧感は、さらに増して。

「しかし、単なる否定は滅びの思考だ――お前はそうではないと、信じている」


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 このシーン、途中ですが一旦ここまで。

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ごんべ
gombe at gombe.org



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