[KATARIBE 29929] [HA06N] 『霞の晴れるとき』 (1-2)

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Date: Mon, 29 May 2006 23:50:26 +0900 (JST)
From: ごんべ  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29929] [HA06N] 『霞の晴れるとき』 (1-2)
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年05月29日:23時50分26秒
Sub:[HA06N] 『霞の晴れるとき』 (1-2):
From:ごんべ


 ごんべです。
 あれこれあって随分と書き上がりませんでした。失礼しました。

 まず、前回のメールの訂正をば。

> そのため、人間関係等は2005年 **初冬** のものを前提に置いています。ただ、
>一部2005年終盤に確認されている関係については、考慮の上盛り込んでいます。

 「初冬」は間違いです。「初頭」に訂正すべきですね。
 意味が半年以上、1シーズン違ってしまいます。「初頭」の方が先ですね。


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小説『霞の晴れるとき』
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時系列(仮確定<1-1冒頭に記述済み)
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 2005年12月上旬、某日。


登場人物(1-2追加)
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 煖(ナン)
  :無道邸のメイド。実は前野の部下で使い魔な猫娘。精霊魔法を使う。


駆ける騎士
----------

 急げ。
 少しでも早く。
 少しでも近く。

 陽は、全速力で吹利市郊外を東へ、幡多町方面へと走っていた。
 最早――いや、元々陽はそうだが――その走りを人に見られることの異常は、
考慮していなかった。

 移動観測した限り、謎の通信リンクは珊瑚つまり榎家とほぼ同じエリアから
発信されていた。それは偶然ではないはずだ。
 また、「(拠点としての榎家を)捨てる」、「漸近線ルートで」、……これら
の言からわかることは、珊瑚が自分の身に危険が及ぶ可能性を自覚し、陽との
合流を望んでいると言うことだ。それも、すぐにでも。
 つまり、敵は榎家のすぐ近くに来ている。
 もしかしたら、珊瑚の存在や位置を特定しているかも知れない。

 その状態では、こちらの動きは、容易に捕捉され得る。
 その中で榎家を撤退することは……。しかし今の珊瑚なら、それ以外の選択
はしなかっただろう。
 それは、最良でありながら、最悪の決断だ。
 おそらくは、それ以外の判断をさせないことが相手の狙いだろう。

 遠くへ出ていたことが、これほど裏目に出たことはない。
 早く合流しなければ。

 珊瑚が危ない。


姉弟と教授
----------

 まだエンジンが暖かい車に、士郎は通信リンク帯域の電波モニター装置と、
その他諸々の装備を積み込み、エンジンをかけた。
 しかしどこを目指すというあてがあるわけでもない。電波モニター装置の
出力を車内のディスプレイに接続しながら、士郎は珊瑚と陽の行動をいろいろ
と想像してみた。

 珊瑚と陽が榎家に来てから、もう2年が過ぎている。
 その期間に比べると、珊瑚や陽、そして愛菜美の話によれば、士郎が彼らを
保護したのは意外と早い段階であったらしい。
 2年前の2003年9月16日に、彼らは誕生したらしい。もっとも、誕生と言っ
てもそれは彼らの記憶でさかのぼれる限界、と言うに過ぎない。
 と言うのも、その時点でどうやら彼らは製作者の手を離れて拘束されていた
らしいのである。自らの稼働状態と周囲の状況との不一致を察知した珊瑚は、
同時に拘束されていた陽をともなって出奔し、電脳から抹消されていた自分た
ちの製作者……創造主を求めて、逃亡生活に入った。
 そのおよそ2ヶ月後に、愛菜美を通じて士郎は彼らと出会うことになる。

 その短い期間の間に、彼ら二体は予想以上の困難に直面することになった。
 まだ見ぬ創造主との別離、拘束者のもとからの脱出、追っ手を警戒しつつの
創造主捜し、そして、様々なストレスを強いる社会的な不自由。
 その中で珊瑚は、ある一つの感情だけは、確実に理解するに到った。

 恐怖。

 何も見えない恐怖、自分が無力であることの恐怖、知識の無い凶器への恐怖、
手の届かないところで張り巡らされる害意への恐怖……
 それらはいずれも、自分を否定される恐怖につながる。

 経緯については詳しくはわからないが、珊瑚自身が語った話だ。そして珊瑚
は確かに、「怖い」という言葉については的確な文脈で使用してくる。
 だからこそ彼女は、いつも控えめで、いつも用心深く、いつも可能な限り
考えを巡らせようとするのだ。

 その点で言えば、彼らはかなりよくやっていると思う。
 珊瑚は自分たちを常識知らずだと自覚しているようだが、それにしても最低
限の知識は実装された状態で完成している。都合の良い拠点さえ得られれば、
まだ自分たちだけで行動できていたのではないか。

 しかし、だからこそ士郎は、彼らに対してのもどかしさを禁じ得ない。

 彼らにとって、現在でベストの居場所を与え、唯一にして随一のバックアッ
プができる存在であると、自分は自負している。少なくとも、彼らの保護者で
はあると。
 だが、あるいは彼らにとっては、自分はカウンセラー以上のものではなかっ
たのかも知れない。そうでしかないこと、(アーキテクチャが違いすぎるメカ
ニズムであるために)「医者」とはなれないことが、もどかしい。
 そんな彼らであればこそ、士郎たちが本来部外者であるような話題ならば、
自分たちで何とかしようとしてしまうのではないか……。

 その懸念が、残念ながら的中してしまったわけである。

「……もう少し、信用……いや、信頼してほしかったんだけどなあ」

 正直言って、問題の核心を把握しているとか、何か名案があるとか、そうい
うわけではない。だが、自律アンドロイドの作り手として、彼らがどのような
状態に置かれていて、何が問題なのか、それだけでも把握したい。自分の力と
立場で、何かできることはあるかも知れないのだ。そう思いたい。

 アンテナの配線も終えた士郎は、暮れなずむ吹利市街へと再び車を出した。


メイドは見た
------------

 ここで、時間は少しだけさかのぼる。

「あら……?」

 吹利市街から幡多町へ続くなだらかな上り坂の途中で、車を走らせていた煖
は、見知った顔の少女がかなりの俊足で坂を駆け下りていくのとすれ違った。

 毎週のように無道邸にも出入りしている少女、確か……霞原珊瑚。

 煖の目を引いたのは、彼女が左手にポーチ、そして右腕にかなり長い棒状の
包みを抱えていたことだった。おそらく、立てれば彼女の背よりも高いだろう。
 そして煖は、その包みの中味……杖に、「見覚え」があった。

「あれは……マスターが力を付与した……?」

 外見ではない。包みを透かして伝わってくる、その杖が帯びた呪力。それは、
彼女の上司にして使役者であるところの、前野浩の手になるものであった。
 あれは確か、珊瑚の弟の霞原陽に与えられたものだったはずだ。

「珍しいですね……??」

 しかし煖の車はすぐにその場を通り過ぎ、珊瑚の姿はあっという間に視界の
背後へと行き過ぎていった。もはやバックミラーではその表情までは見えない。

「……時間が空いたら占ってみましょうか」

 忙しい時間で手を離せない自分を少しだけ残念に思いながら、煖は大して気
にも留めず、夕食時を控えた無道邸へと車を走らせた。


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 あまり盛り上がりのないとこまでしか書けてませんが、今日はここまで。
 続きます。

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ごんべ
gombe @ gombe.org


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