[KATARIBE 30005] [HA06N] 小説『動きだした状況』

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Date: Wed, 12 Jul 2006 00:55:32 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30005] [HA06N] 小説『動きだした状況』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200607111555.AAA90370@www.mahoroba.ne.jp>
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Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
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2006年07月12日:00時55分32秒
Sub:[HA06N]小説『動きだした状況』:
From:久志


 久志です。
 ほったらかしすぎて当人が本筋を忘れてる(おい)史兄の事件簿です。
もう一気に動かしてしまうつもりです、ええ。

一応今までの流れ
----------------
 ツンデレ話関連 〜出会い編
 http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28500/28518.html
  ちっともツンデレってませんので、史久奈々の出会い編に変えようかと。
 小説『現場の本音』 
  http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28300/28397.html 
 小説『別人の背中』 
  http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28300/28398.html 
 小説『今時辻斬り』 
  http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28400/28400.html 
 小説『聞き込み開始』 
  http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28400/28424.html 
 小説『聞き込み継続』 
  http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28400/28432.html 
 小説『蝙蝠の思惑』 
  http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28400/28439.html 
 小説『捜査の理想』 
  http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28400/28492.html 
 小説『行動開始それぞれ』
  http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28500/28551.html

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小説『動きだした状況』
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登場キャラクター
----------------
 本宮史久(もとみや・ふみひさ) 
     :吹利県警巡査。のほほんお兄さん。またの名を昼行灯。
     :2000年当時、26歳。
 卜部奈々(うらべ・なな) 
     :吹利県警警部。一見キツイ女性。ちょっと史久を意識してる。
     :2000年当時、24歳。

史久 〜賭け
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 行動をおこすか否か。

 店の隅、埋もれるように置かれた屏風。
 さほど目を引かない品物ばかりの中、いかにも価値のありそうな一品。そし
て、そっと触れた表面に感じた和紙のざらっとした感触と、その奥に微かに感
じた不自然な湿り気。そして、表面を叩いて返ってきた鈍い衝撃。

 何かがある。
 だが、まだ確証はなくすべては僕の推理と勘でしかない。
 それに何かあったとして、今の事件と関連しているという根拠もない。
 あやふやな状況下で下手な行動を起こしたとして、決定打でなかった場合、
かなりまずいことになる。
 どうするか。
 もう一度手を伸ばして屏風の表面をゆっくりとなぜる。ざらっとした感触の
中、微かに先ほども感じた不自然に湿った感触。

 何かある。
 だが、それが何か?
 よからぬものか?
 今回の事件に関わるものか?

 屏風の表面に触れた手をゆっくりと動かす。
 ふと、触れた手を伝って背筋に這いよるような悪寒が走った。

「……っ」
 反射的に手を引っ込めて、もう片方の手で触れた指をゆっくりさする。
 なんだ、今の悪寒は?
 先ほど触れた箇所から感じたのは、背中から這い上がってくるような、なん
ともいえない生理的な薄気味の悪さとちりちりと焦れるような違和感。
 少し注意深く、今度は指先で軽く屏風の表面を叩く。返ってくる鈍い響き。
この奥に何かが隠されている、察するに普通でないものが。
 一か八か、危険な賭けだ。
 失敗したら……まずい事になる。警部殿にも類が及ぶだろう。
 だが。さっき手に感じた悪寒、なんともいえない生理的な不快感。ただ事で
はない何かがある。

 店主と話している警部に視線を向けて、片手を挙げて指先で輪を作る。こち
らに気づいて、視線を店主に向けたまま警部が手を上げて襟に手を触れる仕草
――了解の合図――が見えた。

 ここは、ひとつ。やるしかない。


奈々 〜思考中
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 不審な動きがあると思われた古物商。
 でも、店内は特に目新しいものも見当たらない。

「こちらの品はどうでしょうか?」
「ええ、これですがね」
 店の端に置かれたガラスケースの向こう、多少の値打ちものと思われる精巧
な懐中時計の説明を聞きながら、考える。さっきから、品物についてやらの話
を聞いていて。妙にひっかかっている。
 表向き、古めかしい雰囲気を出してはいるものの、どこか作りきれていない。
置かれている品々も古めかしいというよりは、物は自体は古くても長年置かれ
ていたという印象を感じず、とってつけたようなちぐはぐな何かを感じる。

 そんな私の考えを見透かしたように、店主から死角の位置から店内の様子を
伺っていた本宮巡査がこちらを見て小さく指先で輪を作るのが見えた。

『連絡』

 ひとつ、息を呑む。
 更に輪を作った手を軽く握った。

『行動許可求む』

 彼は何かを掴んだ?

「そういえば、ひとつお伺いしてもいいですか?」
「ああ、はい」
 店主に声を掛けながら本宮巡査が見える位置で襟に触れる――了解の合図。
 彼は何を見つけ、どう動くつもりなのか。
 
 でも、彼ならば、信じられる。


史久 〜発見
------------

 警部殿から許可の合図をもらってすぐ。
 先ほどの違和感を感じた屏風に注意深く手を触れながら上へと探る。僕の予
想が当たっていればこの中に仕込まれた時の跡がどこかにあるはず。
 上部の縁を探る指先に触れる、ごわごわした和紙を透かしてその下に感じる
湿った触感と微かに中に空気が入ったと思われる不自然なふくらみ。
 ここか。
 一つ、息を飲む。
 もし僕の目測が誤っていたとしたら、とんでもない失態だろう。
 握りこむように指先に力を込める。

 そのまま。
 一気に表面を引き剥がした。

「なっなにをっ!」
「……巡査!」
 店に響く二つの声、混乱した男の声と鋭い警部殿の声。

 あった。

 引き剥がした屏風の中、埋め込まれるように隠されていたもの。
 数にして六本、長さおよそ五十センチほど。小太刀、打刀、長めの脇差しと
いったところかな。艶やかに光る刀身は心なしか不穏な空気を醸し出している
ように見えるのは僕の気のせいだけとも思えない。

「な、なにを!?」
「すいません、手が滑ってしまって」
「大変申し訳ありません、弁償いたします」
 すかさず警部が動揺する男の背後に回りこむ。
「こちらは、刀剣ですよね」
「な……な……」 
「登録証、お持ちのはずですよね?」
 じりっと、一歩足を踏み出す。
 僕と警部殿に挟まれた状態で、ぱくぱく口を動かすだけの男の顔を見据える。
「美術刀剣ですよね。これは確か所持する場合に登録のいる品物のはずですが」
「う」
「きちんと届けを出して登録すれば、ちゃんと商品として扱えますし。なんの
問題もないはずですが?」
 額に浮かんだ脂汗をぬぐいもせずに、立ち尽くしている。
「登録証、お持ちで無いんでしょうか? それにどうしてわざわざ品物を隠し
たりするんでしょうか?」
「くそっ」
「きゃっ」
 一転して、弾かれるように後ろに立っていた警部を突き飛ばして走りだす。
 同時に僕も床を蹴った。

 一歩、二歩。
 五歩もいかずに男の首根っこを掴んでその場にふせる。
「公務執行妨害及び銃刀類所持取締法違反容疑で逮捕する」


時系列と舞台 
------------ 
 2000年2月頃 
解説 
---- 
 史久と奈々さんの出会いの頃。小説『行動開始それぞれ』の続き。 
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以上。


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