[KATARIBE 28432] [HA06N] 小説『聞き込み継続』

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Date: Sun, 13 Feb 2005 02:09:37 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28432] [HA06N] 小説『聞き込み継続』
To: kataribe-ml@trpg.net
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Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
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2005年02月13日:02時09分37秒
Sub:[HA06N]小説『聞き込み継続』:
From:久志


 ちは、久志です。

 へろっと聞き込みを続けてみました。
奈々さんの微妙な心情も多少入ってます。

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小説『聞き込み継続』
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登場キャラクター
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 本宮史久(もとみや・ふみひさ) 
     :吹利県警警察官。のほほんお兄さん。またの名を昼行灯。
     :2000年当時、26歳。
 卜部奈々(うらべ・なな) 
     :吹利県警警部の一見キツイ女性。ちょっと最近動揺気味。
     :2000年当時、24歳。


奈々 〜車に戻って
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 覆面パトカーのドアを閉めて、一息つく。
 あの後、本宮巡査に連れられるままあの建物を後にした。

 聞き込みの間、私は何もできずただ本宮巡査の後についているだけだった。
 普段とはまったく違う、相手をまったく寄せ付けず物怖じしない本宮巡査の
態度にただ圧倒されるだけだった。
 これが、現場に出ている強さなのか。それとも彼自身の強さなのか。
 どちらにしても、自分が後ろからついてきているだけの何もできない存在で
あることに変わりはない。

 書類や数値ではわからない、現場の実態と、厳しさと。
 普段の雰囲気ではわからない、彼の仕事での顔と、その強さと。

 ぎゅっと手を握る。
 自分の無力さが、ただ痛い。


「あそこは、ちょっとはずれっぽいですね」
「そう、ですか……すみません、私、何もできずに」
「そんなに気になさらないでください、僕も最初にあそこに訪れたときは今の
警部と同じような感じでした」
「ですが」
「気持ち、切り替えましょう」
「はい」
「次、いきますか」
「ええ」

 ハンドルを握る彼の横顔が、いつもと違って見える。
 普段のふわりとした人のよい笑顔はそのままだけど、でも、その笑顔の奥に
底知れない何かが潜んでいるような、そんな違和感。

 県警屋上での常人離れした動き、
 ついさっきまでの息を飲むような情報屋とのやりとり。
 彼の顔を知るたびに、自分がどんどん薄っぺらい人間のように感じてくる。

 もう一度、横顔を見る。

「どうしました?」
「いえ……」

 その笑顔はやっぱりいつもの巡査で、なぜか自分はほっとしている。

 自分の位置と彼の位置。
 スタートラインが違うだけのはずなのに、どうしてこんなに深い差を感じる
のだろう。
 現場を潜り抜けてきた経験の差か、当人の心の強さか、あるいは両方か。

 もっと、しっかりしなければ。
 もう一度手を握り締める。

 巡査と警部。しかし、今はそんな階級の差なんていうものはまったく意味を
なしていない。今の状況を見れば自分など下っ端の下っ端もいいところだ。

 ただ、思う。
 自分から見て、彼のいる場所が、ひどく遠い。

 そのことが、なぜか……心に痛い。


史久 〜帰り道で
----------------

 結局。
 あの後、いくつかその手の筋を回ったけれど、刀剣に関するめぼしい情報は
得られなかった。まあ、そうそう簡単に洗えるものでもないってことぐらいは
わかるけど、やっぱり収穫なしってのはちょっとつらいなあ。

「なかなか、厳しいですね」
「そう、ですね」

 アポロレーンでの出来事から、なんとなく警部の様子がおかしい。
 まあ、あそこは結構インパクトあるしなあ。

 それに、それとは別に。
 あ、いや、うん、なんでもない。
 警部の視線が気になってる、なんてことは、ないですよ、ええ。


「一旦、県警に戻って先輩と落ち合いましょう、あっちの状況とすり合わせて
聞き込み方針を練り直してみましょうか」
「はい」

 ハンドルを切る。
 走りこんだタイヤが少しきしんだ音をたてて走り出す。
 県警へと向かう道すがら。

「本宮巡査」
「はい」
「……巡査はこの事件をどう見ます?」
「そう、ですね」

 辻斬り。
 先輩は事件を勝手にそう呼んでいたけど。

「通り魔にしては、随分大胆かと思いますね」
「はい」

 辻斬り。
 その昔、武士が自慢の刀の切れ味を試す為や、腕試し、興味本位で、夜間に
通行人を斬り捨てたこと。
 先輩はあれで案外、鋭いところをついているような気がする。

「僕が思うに……正直、犯人は楽しんでる」
「……はい」

 あの遺体状況から考えて、犯人の腕前は相当なものだということが伺える。
そして、その腕前をもってすれば、相手を即死させるのはそう難しいことじゃ
あないはずだ。
 一旦とまった僕の言葉を警部が続ける。

「わざと、相手に即座に致命傷を与えず、相手をいたぶって、尚且つ一旦手を
止めて相手に逃亡の隙を与え、逃げようとしたところに止めを刺した」
「ええ」

 僕のイメージから見ても、犯人は一度不自然に手を止めている。これは生存
反応からしてもあきらかだ。そしてその理由として、警部が挙げた内容が一番
しっくりくる。

「……加害者の嗜虐性がうかがえますね」
「ええ。それに……まあ僕の予想ですが、犯人また繰り返します」
「はい」

 なんていうかな、僕の勘にすぎないけれど。何故か確信してる。
 この犯人はまた殺る。
 絶対に。

「それと、犯人に妙な自信を感じます」
「自信?」
「あまりにね、お粗末過ぎるんですよ。事後処理がね」
「まったく警戒の欠片もありませんでしたね」
「はい」

 犯人は殺害後、そのまま無造作に現場を後にしている。
 刀をぬぐいもせず、恐らく返り血もお構い無しに。
 点々と続いた血の跡からも、犯人の無造作振りがわかる。

 それが単に粗忽者であるか、あるいは……相当な自信を持っているか。
 あるいは、そこまで思考することができなくなっている状態であるか、かな。

「どうしたものでしょうか、ねえ」
「…………」

 はてさて。


史久 〜アポロレーン再び
------------------------

 県警に戻って。
 先に戻った先輩と合流したものの、どちらもあまり状況は芳しいものではな
かった。
 めぼしい情報は、今のところなし。あれだけ無造作に行動したと思われる犯
人を目撃した人物もなく、不審者情報も今のところ引っかかるものはない。
 こうして結局、双方収穫なしで今日のところはお開きになった。

 まだ残って書類作業を続けると言った警部と、こんな時でもどっかに繰り出
す予定の先輩を置いて、僕はひとり県警を後にした。

 ぼんやり、考える。
 うーん。こう、なんとなく。正直、ちょっとイヤな予感がしている。
 そして、僕の正直な予感というのは、それがイヤなものであればあるほどよ
く当たる。まあ、嬉しくはないけど。

 やっぱり。これはちょっと、もう一度細かく洗ってみる必要があるかなあ。

 踵を返す。
 今からいけば、もうちょっと上役さんとも会える時間帯だ。


 吹利アポロレーン。
 今はもう、すっかり日も落ちて。
 つい夕方に来た活気のある雰囲気とはまた違う。しんと静かで、どこか得体
の知れないのっぺりとした空気に包まれている。
 まあ、表向き市場という立場上、夜はどうしても静かになるわけで。

 でも、逆に。
 そういう時こそ集まる人たちもいるわけで。

 すっかり明かりも落ちた建物内、勝手知ったる通りを歩く。
 たたんだ店の商品にうずもれて寝る者、隅で遅い夕食をとる者、目を覚まし
てじっとこちらの様子をうかがう者。
 相手にせず干渉せず、夜歩くならばなおさらに。

 足を止める。
 夕方訪れた店の前、準備中の札にもお構いなしにドアを押す。

 広い店内、部屋の真ん中にぽつんと置かれたテーブル以外はすべて取り払わ
れて、中央のテーブルに向かい合うように座った男二人と、その脇に夕方の金
髪の青年が控えている。

「てめえっ!」

 立ち上がろうとした金髪青年を座った男が制した。
 制した方は年の頃でいうと、僕の父の年代よりは多少若い、といった感じ、
向かいに座ったもう一人のほうは、僕にお茶を持ってきてくれた店員さんです
ね、まあ上役さんとその片腕といったところ、かな。まあ金髪さんは言い方悪
いけど下っ端さんか。

「僕のことお聞きにならないんですね」
「ただのネズミじゃないことくらいはわかるさね」
「そうですか」

 断りもなくテーブルに近づく。
 また金髪さんが何か言おうとして、僕と上役さんを交互に見てとまった。
 上役さんが苦笑しながら金髪さんを強めに制した。

「あまり若いのをいじめないでやってくれないか?」
「いや、すいません。なにぶんこちらも仕事なもので」

 夕方の話、耳に入ってるようですね。
 まあ、ていうか店員のおじさんがいるんだから耳に入って当たり前か。

 透かし彫りの入った古めかしいテーブルの上、広げられた碁盤の上に白黒あ
ざやかに碁石が並んでいる。

「囲碁ですか?」
「好きかね?」
「ええ、よく祖父の相手をしていました」

 母方のお祖父さん、合気柔術の稽古の後によく囲碁の相手をしたっけかな。

「おまえさんはどう見る?」
「そうですねえ」

 うーん。白ちょっと厳しいですね。
 けど、まあ、うん、なんとかなるかな。

「ならば、打ってみるか?」
「よろしいんですか?」
「構わんさ」

 ひとつ白の碁石を取る、艶々としたきめ細かな石がしんなりと手になじむ。
いや、これはなかなか良いものですね、本蛤かな?
 碁石を人差し指と中指ではさんだまま、少し盤上をさまよわせる。
 そのまま、一箇所ぱちりと碁石を置く。

「ここ、かなあ」
「ほう」

 まあ、あくまで僕の判断ですが。
 一瞬、向かいの席に座った店員のおじさんが動揺したように僕を見た。

「なかなか、いい手だ」
「どういたしまして」

 こう、ひょっとして。いや、まあ確信したけど。
 上役さんの顔とおじさんの動揺からして見て、どうやら僕は上役さんの優位
をひっくり返したっぽい。

「お前さん……何を探っている」
「もう伝わってると思いましたが?」

 ゆっくりと上役さんが葉巻をくわえる。
 慌てて懐を探る金髪さんを差し置いて、ポケットのライターを取り出した。

「火、おつけしますか?」
「ああ」

 小さな炎が揺れる。
 薄紫の煙をゆっくり吐き出しながら、上役さんが口を開いた。

「残念ながら、その手の話はない……が」
「が?」
「最近、見慣れぬ付与師の話を聞いた」
「付与師……ですか」

 一瞬、脳裏に知人の顔が浮かぶ。

「最近、この界隈でもそいつの話をたまに聞く」
「なるほど」
「参考になるかは知らんがな」
「いえいえ、ご協力ありがとうございます」

 ライターをポケットにしまって一礼する。

「重ね重ね、本当に失礼しました」

 ちらりと上役さんが僕を見上げる。

「お前さん、ネズミ家業は飽きないか?」
「性に合ってますから」
「そうか、惜しいな」
「いえ、そんな」

 もう一度、深く頭を下げる。

「お前さん、また碁でも打ちにこないか?」
「囲碁だけならば」

 気に入っていただけたのは嬉しいですが、囲い込みは勘弁です。

「では、失礼します」

 上役さんの言葉を受け流して、何か言いたそうな金髪さんと、言葉を失って
しまった店員のおじさんを尻目に僕は店を後にした。


史久 〜アポロレーンを後に
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 アポロレーンを後にして。
 車のキーを入れて、エンジンをかける。

「ふむ」

 それにしても付与師、かあ。
 ちょっと普通でないヤマになる、かな。

 まあ確かに、今回の事件からすると本気で裏ルートで正規の業物を手にした
と考えるより、少々普通でないルートから普通でない業物を手に入れたとする
ほうが、今回の犯人の行動からしてより矛盾が少ない。
 しかし、まあ。

「うちで追えるヤマ、かなあ」

 ちょっと、厳しいかもしれない。


時系列と舞台 
------------ 
 2000年2月頃 
解説 
---- 
 史久と奈々さんの出会いの頃。小説『聞き込み開始』の続き。
 奈々の心情とさらに奥まった聞き込みをする史久。
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以上。

 ちなみに付与師と聞いて思い浮かんだのは前野氏です(きっぱり)



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