[KATARIBE 28439] [HA06N] 小説『蝙蝠の思惑』

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Date: Tue, 15 Feb 2005 17:01:00 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28439] [HA06N] 小説『蝙蝠の思惑』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年02月15日:17時00分59秒
Sub:[HA06N]小説『蝙蝠の思惑』:
From:久志


 ちは、久志です。

 ツンデレ事件簿、ちょっとすすめます。
ていうか、こんなおちゃらけ刑事どもに事件を任せたくないなあ……

 つか先輩がえらい勢いでキャラ固まっていきます。
キャラ化するのもそう遠くないかもしれません(よせよ)

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小説『蝙蝠の思惑』
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登場キャラクター
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 本宮史久(もとみや・ふみひさ) 
     :吹利県警巡査。のほほんお兄さん。またの名を昼行灯。
     :2000年当時、26歳。
 卜部奈々(うらべ・なな) 
     :吹利県警警部。一見キツイ女性。最近振り回され気味。
     :2000年当時、24歳。
 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :吹利県警巡査。ヘンな先輩。別名おネエちゃんマスター
     :2000年当時、28歳。

三人三様
--------

 翌日。
 県警にて、僕と先輩と警部の三人でもう一度情報のすりあわせをしている。
 あの後、僕が単独で情報を集めていたのと同じく、先輩、警部も同じく独自
に情報を集めていたらしい。

「というわけで、だ」
「はい」

 まあ、先輩の情報集めのやり方の内容は僕もわかってるからあまりつっこん
で聞かないけど。

「俺の『チキチキおネエちゃん情報』によるとだな」
「またおネエちゃんのお店いってたんですね、先輩」
「捜査のための情報集めだ、しかないだろう」

 昨日はお互い足を棒にしてさんざんあちこち聞き込みした後だっていうのに、
あいかわらず元気だなあ。ていうか、しかたないとか言いながら随分嬉しそう
に見えますがね。

「こないだ、ある店にだな。ちょっと羽振りがいい奴が来たらしい」
「はい」
「まあ年齢は二十代後半から三十代前半、最近吹利にきたっぽい風らしいな、
ちょっと日本語がカタコトの男らしい」
「……ほう」

 ふと、アポロレーンできいた話が頭をよぎる。
 最近、あの辺りに現れた付与師。そして、先輩のいうちょっと最近羽振りが
よくなった男、と。

「まあ、こう、ちょっと小金はいったからぱーっとおネエちゃんと戯れとく?
みたいな感じだったらしい」
「先輩みたいな人ですね」
「黙れ貴様」
「正直な感想です」
「俺の高尚なおネエちゃんとの語らいを不純な輩と一緒にするな」
「無駄に経費つかって何が高尚ですか」
「捜査の一環だ、仕事だぞ」
「こないだ総務課さんににらまれたの忘れてるでしょう」
「つーか、こっちだって最新情報の維持に必死なんだ。この懐寒いのに自腹を
斬れというか?」
「あたりまえです、市民の血税を無駄に使わないでください」
「……あなたたち、いい加減にしなさい」

 こほん、という警部の咳払いで二人揃って黙り込む。
 いや、あの、えーと、すいません、警部。ついいつもの調子で……

「まあ、うん。正直このヤマと関連があるかどうかまでははわからんが、最近
の目立った動向ということでちょっと注目してみた情報だ」

 確かに、今のところめぼしい手がかりがさっぱりない。被害者周辺の洗い出
しや近辺の聞き込みでも、とくに怨恨や機密に関わるものも出てこず、異常者
による通り魔的犯行という色を強めている。
 とりあえずは不審な動向は片っ端から洗い出すって感じですかね。

「では、次に私が調べた情報です」
「はい、警部」

 数枚のコピー紙が机に並ぶ。

「この店です」
「はい」
「ふむ」

 書かれているのは小さな古物商の情報。それぞれ店の地図から規模の詳細、
最近の取り引きなどの詳細が細かに記載されている。

「刀剣類の売買を行ったという形跡ではありませんが、つい最近高価な屏風と
絵巻を続けて購入しています」

 ついっと、紙に指先を走らせる。

「金額だけで見れば驚くほどではありませんが、小さな骨董店にしてはかなり
大きな額だと思います。それに、いままでは話題にも上らなかった店が急に大
きな買い物をしたというのは、少し怪しい気がします」
「なるほど」
「ほほう」

 金と女。
 捜査の基本ってやつですね。

「ところで、お前はどうなんだ?」
「僕ですか、これがなかなか難しくて」
「ほおう」

 先輩が横目でじろりと僕をにらむ。

「どっかの腹黒は秘密主義だからなあ」
「……人を腹黒言わないでくださいよ」

 正直、先輩にだけは言われたくありません。腹黒さ加減でいったらどうみて
も先輩のほうが僕より上です。

「申し訳ありませんが、こちらは特に収穫はありませんね」
「まあ、そういうことにしておくかな」
「なにか言いたいことでもあるんですか」
「いーや、別に、なあ」
「……二人とも、それくらいにしなさい」
「あ、はいはい」
「すみません、警部……」

 あたた、また警部に怒られた。
 というか、先輩ちょっと感づいてそうだなあ。

 それにしても。
 最近、おネエちゃんの店にきた羽振りのいい男。
 最近、大きな買い物をした小さな骨董店。
 最近、現れたという見慣れぬ付与師。

 個々でみれば不連続な何の関連もなさそうな出来事だけれど。
 ちょっと、ラインが見えてきたかな。

 うーん。
 でも、まだちょっと判断には悩むところかな。もう少し絞込みが必要かもし
れない。

「まずはだな、羽振りのいい男とその周辺については俺が続けて調査する」
「こっちはこの骨董店と関連業者周辺ですか」
「んだな、あわせていこう。不審者の聞き込みに関しては双方継続で。警部も
よろしいですか?」
「ええ、わかりました」

 とん、と警部が資料をまとめる。

「あと先輩」
「あん?」
「もう経費落ちませんからね」
「うぐっ」
「総務課の人ににらまれるのはもう勘弁ですよ」
「俺の尊い捜査に自腹を斬れと?」
「ちゃんと私情と切り分けしてくださいよ」
「……貴様」
「僕からは以上です」

 これがなければ先輩だってそれなりに優秀なんだけどなあ。


蝙蝠は夜に飛ぶ
--------------

 夜。
 警察に夜はない。

 実際、この仕事だと逆に夜のほうが忙しいことのほうが多い。
 夜の闇は犯罪者の姿を隠すし、また心の境界線もあいまいにする。
 犯罪に対する罪悪感とか良心とか常識とか。

 そして、闇に隠れて動く者は別に犯罪者だけじゃあない。
 取り締まる者だって、闇に隠れて動くこともある。

 僕は、表向き吹利県警内では刑事課見習い刑事という任に就いている。
 が、それとはちょっと別の顔もある。

 吹利県警零課。
 ちょっと通常の手段では解決できない、僕らの日常から少し逸脱した通常の
方法によらない犯罪。そういう事件を秘密裏に解決し、治安と安定を保つ。
 警察内部のちょっと特殊な人間だけでなく、他から派遣されたちょっと普通
でない人材達とで組織された超常現象捜査組織。
 僕は、裏向きこちらと兼任というちょっと微妙な立場でもある。

 でも、僕は別段常人と違っていたり特殊な能力を持っているわけではない。
 ちょっと人よりタフで腕っぷしがったって、ちょっと人よりしぶといだけの
ただの一般人。
 正直、零課内でもちょっと微妙な立場にいる。

 そして兼任零課在籍である僕の任として。
 通常発生する多くの事件の中で、通常の捜査では対処しえない事件の見極め
と零課移行への判断、また零課捜査での露払いなど。
 まあいわゆる下っ端ってとこだろう。


 「分をわきまえる」って言葉がある。
 それは、巷でよくあるイメージである「何も知らない奴は引っ込んでいろ」
というマイナスな意味だけではないと思う。
 分をわきまえると言うことは、自分の位置役割をしっかりと理解しろという
ことだと思う。
 自分が今どこにいて、他人から見てどんな役割があるのか。
 自分に何ができて、何ができないのか。そういう自分の立場をしっかり理解
することなんだと思う。

 僕の立場。
 正直、僕自身自分でもそれほどヘボではないとは思っている。
 けど、ここ零課においては、僕の実力はそうそう大したものではない。
 並み居る猛者の先輩方から見れば、僕はまだまだヒヨコだろう。
 何がすごいとか何ができるというわけでなく、明らかに僕とは次元が違う。
 そのことをしっかりと理解して、僕の立場、僕の力、僕のできうる事で零課
の人間としてどう動くか。

 自分の分をわきまえろ。
 そして見極めろ。

 このヤマの裏にいる者が何か、そして僕達で対処しうるものか。
 その判別が僕の零課所属巡査としての仕事だ。

 いつきても、零課への報告のときは緊張する。
 僕の独自調査、先輩の情報、警部の調査資料を元にした今回の事件の簡単な
報告。

「なるほど」
「ええ、まだ初手の初手でしかありませんが」
「お前はどう見る?」
「……あくまで予想ですが、ちょっと厄介そうです。もうちょっと情報を絞っ
てみませんとわかりませんけど」
「ふむ」
「もう少し捜査を続けて情報をあぶりだしてみます。そして捜査続行が危険と
判断し次第、こちらへ引き渡します。いかがですか?」
「うちは構わない。お前達の手柄にはならないが」
「構いませんよ」

 ひっかからなくもないといえば嘘になる。
 できれば自分が手がけたヤマは自分でケリをつけたいとは思う。
 けど。

「僕達だけでカタをつけようとしてあらぬ被害者や殉職者を出すよりは、対処
できないと判断した時点で即座にこちらへ引き渡したほうが賢明です」

 先輩と初現場になる警部には悪いけれど。

「そうか」
「引き続き捜査続けます、またこちらへの情報がありましたらご連絡します」
「わかった」

 ふと、童話で読んだ蝙蝠を思い出す。

 日常と非日常の間を飛ぶ、どっちつかずの蝙蝠。
 僕は県警内においてそんな立場にいる。

 一礼して、零課を後にする。

 帰り際、ふと警部のことを思い出す。
 警部にとってはこのヤマが今回が初事件なんだよなあ。
 所属して初めての事件をうやむやに取り上げてしまうのは、ちょっと引っか
かるな。きっと気にするんだろうな、生真面目な警部のことだから。

 でも。被害者を出さない、怪我人を出さない、捜査で無駄な動きをしない。
という理想的な事件の解決を考えたら、たぶんこのヤマは僕らの手に余る。

「……警部」

 この間の聞き込みの頃から、ずっと。警部は色々悩んでいるように見える。
 その悩みが何か、ちょっとだけわかるような気がする。
 自分が力及ばないことに対する焦りと不安。
 正直、僕にもそんな時期があった。

 以前、弟の命日の日にあった警部の小さな後姿。
 さくらさんから聞いた、警部の過去。

 アポロレーンでの聞き込みの際、引き寄せた警部の肩はかすかに震えていた。
 それでもなお、怖気づかず躍起になって調査をしていたんだろう。あの骨董品
店の調査はほとんど夜を徹してでないと、夜から始めてあそこまで資料が集まら
ないはずだ。

 頭を振る。
 だめだ。今、考えることは事件のことだけでいい。

 けど。
 なんで、こんなに気になるんだろう。


時系列と舞台 
------------ 
 2000年2月頃 
解説 
---- 
 史久と奈々さんの出会いの頃。小説『聞き込み継続』の続き。 
 捜査で浮かび上がったいくつかの情報と、零課所属である史久の思惑。
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以上。

 なにげに、史久ええかっこしいです。



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