[KATARIBE 28397] [HA06N] 小説『現場の本音』

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Date: Sat, 5 Feb 2005 23:01:05 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28397] [HA06N] 小説『現場の本音』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年02月05日:23時01分04秒
Sub:[HA06N]小説『現場の本音』:
From:久志


 ちは、久志です。

 なんかツンデレ路線から外れてるヨ!
警察関連のあれこれはこのさい考えるのをやめました(おい)

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小説『現場の本音』
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登場キャラクター
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 本宮史久(もとみや・ふみひさ) 
     :吹利県警警察官。のほほんお兄さん。またの名を昼行灯。
     :2000年当時、26歳。
 卜部奈々(うらべ・なな) 
     :吹利県警警部の一見キツイ女性。ちょっと最近動揺気味。
     :2000年当時、24歳。
 先輩  :史久の先輩、刑事課でコンビを組んでいる。

史久 〜現場
------------

 気を抜いているときに、狙ったように事件は起きる。もっともしょっちゅう
抜けてる僕がいうことじゃあないんだけど。
 ちかちかと光る赤色灯。
 シャッターの光が何度となく光って、黙々と作業している鑑識さん達を照ら
している。
 現場の公園に着いたのは、僕と先輩と卜部警部の三人。

 鑑識の親分さんに軽く会釈する。
 指し示された先、チョークで囲まれた中の遺体。

「いやあ、これはひどい」
「あいかわらずお前さんの『ひどい』には感情がこもってねえな」
「そんな、ひどいです」

 鑑識さん、その言い方じゃまるで僕が冷血漢みたいじゃないですか。

「しかし、そのくらいの図太さがあるほうがトイレ通いのうちの若いのよりマ
シだな。いっちょお前の爪の垢飲ませてやってくれないか」
「……遠慮します」

 まあ、うちの先輩も僕より長いわりにトイレ常連ですがね、おまけにしょっ
ちゅう貧血起こすし。
 へろへろと手袋をはめて、一礼してからその場にしゃがみこむ。

「拝見します」

 えーっと被害者さん、顔の鼻から上がありませんね。
 それに右腕も肘の手前あたりから先が無くなってるし。ああ、お腹も結構深
く切られてます、かなり中身はみだしちゃってますね、腹圧あるからなあ。
 ちょっと失礼して上半分が無くなった頭の切り口を眺めてみる。
 いやはや、これは相当鋭利な刃物で斬られてますね、頭蓋骨がすっぱり切れ
てます。

「えっと、腕と頭の上のほうはどちらに?」
「腕は植え込みのところ、頭部はこっから二メートルほど先だ」
「なるほど」

 不意に黙ったままの先輩が僕の袖を引いた。

「史久」
「なんですか、先輩」
「ちょっと頼む」
「……またですか」
「俺、多い日なんだ」

 なにが多い日ですか、先輩。しょーがないなあ。

「五分で戻る、検証進めといてくれ」
「わかりました」

 まあ、現場でもどされるよりかはましですけどね。

 はてさて、現場検証しましょうか。
 ちょっと行儀悪いけど、地面と平行になるようすれすれに視線を落とす。

 被害者さんがここで倒れていて、頭がそのまた先に飛んでいるということで。
地面すれすれのまま視線を巡らせる、ふと若い鑑識さんがいる箇所に目がいく。
あの微妙な土の不揃いっぽさでいうと。

「足跡ですか?」
「はい」

 体を起こして。

 足跡。
 それもちょっと普通に歩いたのとは違う。もっとこう、土踏まずの上のほう
親指の付け根あたりに力のはいった。

 踏み込み位置、かな。うん。

「なるほどね」

 あ、そういえば警部はどうしたっけ。

「警部?」

 ふと、背後の方に警部が手を握り締めたまま遺体を見つめている。

「警部どうなさいました?」
「あ、す、すいません」

 顔色悪いですよ。でも初現場にしちゃこれはちょっとキツイですかねえ。
 僕が刑事課に赴任したときの初現場も、上半身ぐっちゃになっちゃった遺体
見ちゃってさすがにその日はご飯食べれなかったしなあ。

「無理なさらずに、少し気を落ち着けてからにでも」
「いえ、平気です」
「ですが」
「平気です、検分を続けます」

 うーん、その心意気はありがたいんですが。いやここはひとつ、言っておか
ないとかな。

「警部」
「はい」
「無理にやせ我慢して現場で吐かれるよりは、トイレで吐いてきてくれたほう
がこちらも楽です」

 びくり、と警部の両肩が跳ねた。

「……すいません」

 ああ、ちょっとキツかったかなあ。まあ、やせ我慢はよくないですし。
 今回はいきなりちょっと強烈ですし、気持ち悪くなるなって言うほうが無理
ですよ、この場合。

「あ、いえ警部、そんなに気にしないでください。先輩なんかもしょっちゅう
吐いてますし」

 先輩なんか僕より刑事歴長いのに貧血起こすわ吐くはでこっちも大変なんだ
よなあ。

「ごめんなさい、すぐに戻ります。すいません」

 ああ、いっちゃった。
 うーん、生真面目すぎる人だなあ。まあ先輩みたいに我慢しなさすぎも問題
なんだけど。

「おう史久、復活だ。発見者から聴取してくるぞ」

 まあ、先輩は復活も早いのがとりえですけどね。


奈々 〜口惜しさ
----------------

 まだ吐いた感触の残る口をゆすぐ。

「はあ」

 かすかに滲んだ涙をぬぐって、ハンカチで口を押さえる。

 情けない。
 現場にでて怖気づくなんて。

『無理にやせ我慢して現場で吐かれるよりは、トイレで吐いてきてくれたほう
がこちらも楽です』

 本宮巡査の台詞が刺さる。
 現場を知る刑事としての彼の言い分はもっともで。自分がただのお飾りで、
現場でなんの役にもたてていないのがただ口惜しい。

 情けない。
 何がキャリアなのか。

 でも、それとは別に、なにかが心に刺さる。
 どういうわけか彼の言葉にひどく動揺している。
 なぜだろう。

 ぎゅっとハンカチを握り締める。

「よし」

 しっかりしなければ。
 私は、父と同じ警察官なのだから。


時系列と舞台 
------------ 
 2000年2月頃。
解説 
---- 
 史久と奈々さんの出会いの頃。小説『後ろ姿』のあと。
 現場入りする史久と奈々、初現場に怖気づく奈々に史久の一言。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
以上。

 動揺するのは意識の裏返し。



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