[KATARIBE 31472] [HA06N] 2007年のクリスマスの情景 4

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Date: Mon, 24 Dec 2007 23:03:15 +0900
From: Subject: [KATARIBE 31472] [HA06N] 2007年のクリスマスの情景 4
To: kataribe-ml <kataribe-ml@trpg.net>
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[HA06N] 2007年のクリスマスの情景 4
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登場人物
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 蒼雅 渚
 蒼雅 紫


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 こっそり、パジャマのポケットに入れておいた携帯が、ぶるぶると震える。
 思わず声を出しそうになりながら、渚はかろうじて気取られずに目を覚ます
ことが出来た。とはいえ、油断は出来ない。隣で眠っている紫を起こすことな
く、まずベッドを出ないといけないのだ。
 これはかなり難易度の高いミッションだった。まず、自らの置かれている状
況を冷静に確認しようとして、渚は早くも頓挫しそうになった。すぐ目の前に、
紫の寝顔があったからだ。しかも、紫の左腕は渚の肩に回されていて、いわば
捕らえられている状態だった。普段であれば、このまま紫の寝顔にキスして、
再び眠りにつくことを選ぶだろう。そうしたい衝動が、左胸から毎分百回ほど
全身に送り込まれる。
 しかし。
 年に一度、今宵だけは耐えなくてはならない。耐えるのは辛い。出来れば耐
えずに、誘惑に身を任せてしまいたい。でも。今日これを耐えてもあと364
回、閏年なら365回残っている。それに、もし耐えずに身を委ねてしまった
ら。紫の喜ぶ顔を見られるチャンスを、一回減らしてしまうことになる。

(紫、ちょっと、数分だけ、ごめんね)

 心中で謝りながら、そっと紫の手を肩から外す。同時に、極力刺激しないよ
うに、ずるずるとベッドから抜け出した。あらかじめ半開きにしてあったクロー
ゼットを静かに開いて、引き出しからサンタ衣装を取り出す。なぜ持っている
のかもう覚えていないが、サイズが丁度いいのでいつか何かに使うかもしれな
いと思って、ずっと取っておいたのだ。パジャマをそろそろと脱いで、ベルベッ
トのサンタ衣装に袖を通そうとして、デザインに気づく。キャミソールとスカー
トのツーピースになっていて、その上からさらにジャケットを羽織れるように
なっていた。
 数分のことやし、ジャケットはなしでええかな。
 などと、下着姿のままで考えること十数秒。オイルヒータでほんのり暖まっ
ているとはいえ、冬の夜中は半裸には寒かった。

「っくしゅん」

 思わず口を押さえて、ベッドの様子を確認する。幸い、今の可愛らしいくしゃ
みで、紫が目覚めた様子はない。
 これは急がないといけない。渚は改めてジャケットまで着込んで、抜き足差
し足で部屋を出た。部屋の外、リビングのソファの裏に、プレゼントの特大ふ
わふわあったかひざ掛けを隠してあるのだ。ちなみに、イギリスの老舗の、ラ
ムズウールを使った高級品だ。

(紫、喜ぶかな?)

 丁寧にラッピングされたひざ掛けを胸に抱いて、紫の満点笑顔を想像する。
ついでに台詞まで。満点笑顔で寄り添って、ひざ掛けにくるまれて。三十秒ほ
ど、唇の感触まで再現された幸せな想像に浸った。我に返って、気を引き締め
た。もう予定より一分近く遅れている。
 紫に目撃されたときに備えておいた、背負い袋と変装セットはあきらめて、
ひざ掛けを胸に抱いたまま、渚は再び部屋に入る。

「めりーくりすまー……よい子のみんなー、爆睡しとるかねーふぉっふぉっふぉ」

 それでも、小声であらかじめ考えていた雰囲気を出す為の台詞だけは言って
おいた。もちろん、応える声はない。よい子は寝ているのだから。

「紫は世界で一番良い子やから、ぐっすりお休みしてるよね、うんうん」

 素に戻って、一人納得する。何かと愛情をアピールしないと気が済まないら
しい。再び忍び足で、ベッドへ一歩、また一歩と歩み寄る。義父の譲もずっと
こうしていたのかと思うと、このミッションならびに使命の重さに、感慨もひ
としおだ。

「サンタさんがプレゼントを……あ」

 寝顔を覗き込んで、もう何度目かわからないが渚は硬直した。紫の安らかな
寝顔。少し微笑んでいるような、穏やかな口元。そして軽く握られた手。頬に
かかっている艶やかな黒髪。思わずプレゼントを傍らに置いて、手を伸ばして
いた。
 髪を撫でて、頬にかかっている一房をそっと肩に流して、頬を撫でて。紫の
幸せそうな寝顔と、柔らかく暖かい肌の感触に、渚は完全にとろけてしまって
いた。なんとも意志薄弱なサンタではあるが、こればっかりは責めることが出
来ない。我に返るだけ、まだマシなのかもしれない。もっとも、窓ががたんと
揺れなければ、そのまま幸せの牢獄に囚われてしまっていただろうが。

「……はっ。しっかりして、渚! これはお義父さまから受け継いだ大事な使
命……そう、これを果たせば朝には……紫の満面の笑みが……」

 しかし、幸せは用意周到なことに幾重にも紫の笑みを用意していたのだった。
浸ること一分少々。唇の感触に続いて、密着している紫の柔らかさと暖かさま
で再現されていたのだ。その為、我に返るまでの周期が、だんだん長くなって
きている。それでも。ほうっと悩ましげなため息をついて、渚は現実になんと
か帰還した。

「そんな紫を独占するためにも──ここは涙を飲んで」

 大げさに拳を握る渚。この仕草は、紫にそっくりなのだが、本人は気づいて
いない。蒼雅式に気合いを再充填して、枕元にプレゼントを安置する。その上
には、手書きのクリスマスカードを角度がずれないよう、丁寧に置いて。

(……お義父さま、使命は果たしました……)

 サンタ衣装を脱ぎ捨てて、素早くパジャマに着替える。そしてサンタ衣装を
丁寧にたたんで、クローゼットの奥に隠す。あとは、ベッドに戻るだけだ。愛
してやまない、紫が眠るベッドに。
 冷気が極力潜り込まないように気をつけて、布団に入ろうとして。渚にとっ
て世界一の寝顔がそこにある。

「おやすみ、紫」

 頬に軽く口づけて、こそこそと布団に潜り込む。起きるまで紫がそうしてい
たように、今度は紫を抱きしめるようにして、眠りについた。


時系列と舞台
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12月25日


解説
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1  http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/31400/31469.html
2  http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/31400/31470.html
3  http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/31400/31471.html
Wiki http://hiki.kataribe.jp/HA06/?Xmas2007

意志薄弱なみぎーサンタですが、どうにか使命を果たしました。

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Toyolina
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