[KATARIBE 31469] [HA06N] 2007年のクリスマスの情景 1

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Date: Sat, 22 Dec 2007 23:47:24 +0900
From: Subject: [KATARIBE 31469] [HA06N] 2007年のクリスマスの情景 1
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[HA06N] 2007年のクリスマスの情景 1
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登場人物
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 本宮尚久   本宮法律事務所の所長
 蒼雅 渚   本宮法律事務所の学生アルバイト


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 年末年始の勤務予定を、所長にメールで提出する。ただ勤務可能美を提出す
るだけならそれでいいが、今回は少し事情が違う。その報告ついでに、事務の
奥村さんから回されてきた、一枚の紙を持って。渚は所長の前に立っていた。
 本宮法律事務所の所長、本宮尚久は渚からのメールに添付されている、エク
セルファイルに目をさっと通す。年内は勤務可能だが、年始からは一ヶ月、一
月いっぱいは休ませてほしいと備考欄に書かれていた。一月といえば、大学生
にとっては試験期間で、なによりも学業が優先される期間だった。逆に、一月
が終われば、入試等々もあって、大学は長い春休みになる。

「ああ、試験だね……うん、学生さんの本分だからね」
「はい。申し訳ないですが、お願いします。試験終わったら、二月三月はいっ
ぱい入れますので」

 小さく頷いて、尚久は承認のボタンを押した。

「わかった、ずっと頑張ってくれてこっちも助かってたよ。試験、がんばって」
「はい、ありがとうございます。全部優取ってきます……あ、あとこれを」

 決して大言壮語ではないなと思いつつ、渚が差し出した紙を受け取る。セミ
ナー案内のFAXの裏紙に書かれた、何本もの縦線。上の方には、記名欄が。

「……これは?」
「お歳暮を振り分けるのに、公平にしましょうってことで、回ってきてるんで
す。上にお名前書いていただいて、好きなところに好きなだけ線引いてくださ
いって、奥村さんから預かってきました」
「ああ、了解。じゃあ……ここで」

 無造作に尚久は姓を記して、何本か横線を引いた。ちなみに、今回のお歳暮
は、一升瓶を筆頭に、定番の品であるハム詰め合わせ、年越し蕎麦セット、ビー
ルのセット、紅茶セット、スイーツセットの6品が争われることになっていた。
女性陣の一番人気はスイーツセットで、男性陣の一番人気はビールセットだ。

「はい。線とかこれだけでよかったですか? もっといっぱい引いてもらって
も」
「今からそんなに書いたら、実際に引くとき大変になるからね」
「あ、それもそうですね。じゃ、これ預かっていきます……あ、あと……すみ
ません、何回もあとあと言って。……えっと、チケット、ありがとうございま
す。明日、行ってきます」」

 数週間前に、渚にあげたチケットのことを思い出す。戸萌克五郎から頂いた、
駅ビル最上階のレストランのチケットだ。宿泊も込みで、買うと相当な値段の
するものだった。尚久は、自分には不要だからと、目の前で少しはにかんでい
るアルバイトの女の子にあげたのだった。

「ああ、楽しんでくるといいよ」
「はい、失礼しますっ」

 少しトーンが上がっている彼女に手を振る。内心、明日のことで頭がいっぱ
いになっているであろうその後ろ姿を見て、尚久はあげてよかった、と思った。
自分が持っていても、きっと期限が切れてしまっていただろうから。
 これから長い時間を、まだまだ続いていく道を大切な人と並んで歩いていく
彼女に。ささやかながら、お祝いになればと思っての行動だった。

「クリスマス──か」

 彼の三人の息子は、結局仕事で、この週末の三連休はなかなか家に戻りづら
いらしい。義娘たちが、合同でクリスマス会を開くらしく、尚久はそれに真っ
先に呼ばれていたのだが、仕事にかこつけて断った。義娘たちの配慮は痛い程
理解出来る。それでもやはり。今年は、今年だけはどうしても義娘たちや孫た
ちと過ごそうという気にはなれなかった。
 最後のメールに返信して、パソコンの電源を落とす。今日くらいは早く退出
してもいいだろう、そう思った。無二の親友、小池国生がいつも言う台詞。

「所長である君が、早く退出しないと所員の皆さんも帰りづらいんですよ」
「はは、そうだね。クリスマスの前くらいは──そうするよ。君も、そうして
あげないとね」

 仕事熱心なのはお互い様だから、言い返すのも忘れない。そんな彼と、きっ
と今年はともに過ごすことになるだろう。理由は、自分と同じだ。
 コートを羽織り、マフラーを軽く肩にかけて。

「それじゃ、今日はお先に」
「はい、お疲れ様でした、所長」
「お疲れ様です」

 ビルの階段をゆっくりと下りていく。こつこつと靴底が軽く音を立てる。
 時計を見ると、まだ七時を回ってすぐだった。そして、クリスマスイヴまで
は、まだ二日もあるのだった。
 なら、普段通りに過ごそうか──。
 独りごちて、尚久はゆっくりと商店街へと足を向けた。


時系列と舞台
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12月下旬


解説
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クリスマスの情景とやらを連作やらで書き寄れたらおもしろいかなとか思いま
した。した。


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Toyolina
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