[KATARIBE 31471] [HA06N] 2007年のクリスマスの情景 3

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Date: Mon, 24 Dec 2007 00:26:27 +0900
From: Subject: [KATARIBE 31471] [HA06N] 2007年のクリスマスの情景 3
To: kataribe-ml <kataribe-ml@trpg.net>
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[HA06N] 2007年のクリスマスの情景 3
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登場人物
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 蒼雅 紫
 蒼雅 渚


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 メニューを見ても、何がなにやらさっぱりだった。
 隣に小さく、日本語で表記されていたが、それを見てもさっぱりだ。
 ウェイターが去っていった後、二人してメニューを確認する。
 普段なら、こういうときに渚が優しく教えてくれるのだが、渚自身、こういっ
たレストランは初めてらしく、メニューに食い入っていた。

 「一口オードブル」
 きっと可愛らしいお料理なんでしょうね。
 「フランス産 フォアグラのミルフィーユ仕立て オペラ風」
 フォアグラはわかるけど、オペラ風ってなんやろ。
 「下関より河豚のバロティーヌ コンソメ仕立て 爽やかな生姜風味にて」
 ふぐ……初めて食べます。
 「フレッシュ殻付きオマール海老のロースト 冬野菜とキャビア添え」
 殻ついてるエビ。キャビア……初めて食べる、うち。
 「聖夜のグラニテ」
 ぐらにて……?
 「特選和牛ヒレ肉のトルネード トリュフ入りソースとともに」
 勇ましくて奮い立ちそうなお料理の名前ですね!

 一通り考えてみたが、やっぱりよくわからない。テーブルに、二人で向かい
合いながら、紫はふと気づいた。いつも隣にいる渚が正面にいることに。それ
だけで、今日は特別なのだと思った。
 ナプキンの向きが曲がっていないか、丁寧に確かめている渚の姿が、とても
愛おしく映る。ただ、真剣なあまり、少し余裕がなくなっているようにも見受
けられた。
 周りを見ると、年配の男女から若い男女まで、満遍なくテーブルについてい
る。二人はその中では、相当若い部類に入るから、少し場違いな気分になって
しまっているのかもしれない。
 渚を助けなくては。紫はそう思って、話し始めた。

「渚さま」
「え、うん。なに?」

 キャンドルホルダーには、三日月と星が浮かび上がっていた。蝋燭の光の先
に、少し不安げな渚の表情がゆらめく。

「お料理、楽しみですね」

 まずは楽しむこと。そのためには──自分だけではダメだ。相手も揃って楽
しめないと。二人に、今のような晴れの場でのコツを、渚の恩人である小池国
生が教えてくれていた。
 そして、紫は少し考えて無難に料理の話題を出すことにしたのだ。

「私、こういった異国のお料理はあまり馴染みがなくて……緊張してます」
「う、うん、実はうちも……周り、大人の人ばっかりやし……すごいドキドキ
してるの」
「一緒ですね、でも、あの方が……小池さまがおっしゃってましたから、きっ
と大丈夫だと思います」
「え、そうやったっけ……」
「ええ。お二人だったら、きっと大丈夫、って。お墨付きを頂きました」
「……うん。ありがとう。そやね、そう思ったら……なんか緊張してる場合や
ないって思えてきたかも」

 肩の線が少し緩く流れているように見えた。少し力がぬけたのかもしれない。
 よかった。渚さま、少し落ち着かれたみたい。

「せっかくのお心遣いですもの」
「うん。今、ここでこうして紫と一緒に居られるのって……いろんな人に、助
けてもらってるおかげやし……それに、うちがカチコチんなってたら、紫も気
になって、お料理楽しまれへんよね」

 紫はさらに続けた。リラックスさせるという当初の目的を果たした安堵感か
ら、つい思うままに言葉を連ねていく。

「……渚さま」
「うん?」

 一息吸って、ゆっくり吐く。

「渚さまは……とても、素敵です」

 少し耳が熱くなるのを感じながら、紫は続けた。正面の渚は、顔まで赤くし
ている。

「渚さまの、お優しいところ、いつも一生懸命なところ、それに……いろんな
人と、交流されてるところ……私にはないものをいっぱい持ってらっしゃって」
「え、そんなことないよ。それに、紫はうちより優しいし、一生懸命やし」
「そうやって、私を立ててくださるところも……素敵です。だから」
「う、うん……」

 また一息吸う。
 小池が、こう言って差し上げればきっと喜ばれますよ、と紫にこっそり耳打
ちした言葉。それを思い出して、丁寧に繰り返して。
 いざ、言おうとしたときに。

「食前酒をおもちいたしました」
「は、は、はいっ!!」

 二人ほぼ同時に、少し跳ね上がりながらウェイターに返事をする。
 その様子に、ウェイターは声をかけるタイミングを間違えたことを悟り、即
座に頭を垂れた。

「も、申し訳ございません」
「い、いえ、あの、その」
「お、おおお兄さん、ううん、ウェイターさんは、どうか、お気になさらず、
お願いします」
「あ、ありがとうございます、そ、それでは……改めまして、食前酒でござい
ます……本日は、シャトー・ディケムの1998年ものを、ご用意いたしました」

 さすがに手つきにおぼつかない様子はまったくない。至って自然な所作で、
二人の手元のグラスに注がれる白の雫。ワインのこともあまりよくわからない
が、普段飲んでいるものとは明らかに何か違う気がする。

「では、コースを始めさせていただいても、宜しいでしょうか?」
「……お願いします」

 そう応えた渚の声からは、緊張している様子はなかった。ウェイターの見事
な点前もあって、結果としてかなりリラックス出来たらしい。

「紫」
「はい」
「乾杯しよう?」
「はいっ」

 お互い、グラスを軽く持ち上げて。
 言い出しっぺの渚が、少し間を空けてから、口を開く。

「乾杯、紫と過ごす初めてのクリスマスに」
「……渚さまと過ごす、思い出の夜に」



時系列と舞台
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12月22〜23日


解説
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2  http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/31400/31470.html
Wiki http://hiki.kataribe.jp/HA06/?Xmas2007

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