[KATARIBE 28084] [HA06N] 小説『公私混同』

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Date: Wed, 5 Jan 2005 15:26:57 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28084] [HA06N] 小説『公私混同』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200501050626.PAA33027@www.mahoroba.ne.jp>
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Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
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2005年01月05日:15時26分57秒
Sub:[HA06N]小説『公私混同』:
From:久志


ちは、久志です。

久方ぶりに(というかほとんど動いてない)本宮家長男の人を動かしてみました。
警察内部風景なんて適当な上いいかげんなのでツッコミは無しの方向で。

たまには失恋ばっかでなくらぶらぶも書こうぜ?ってことで(失恋担当は幸久)
コンセプトはツンデレ(意味を履き違えてる可能性もあり)

ちなみに過去に長兄な人がでたEP。
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/21100/21117.html
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/21100/21118.html
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/21100/21177.html

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小説『公私混同』
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登場キャラクター 
---------------- 
 本宮史久(もとみや・ふみひさ) 
     :吹利県警警察官。のほほんお兄さん
 卜部奈々(うらべ・なな) 
     :吹利県警警部の一見キツイ女性。実は…

仕事の顔
--------

「みなさん、新年明けましておめでとう」
「おめでとうございます!」

 吹利県警、新年朝礼。
 フロアの職員一同が総立ちで署長の新年の挨拶を聞いている。

「新しい年を迎えて、君たちに改めて伝えておきたいことが……」

 長い。

「これからも諸君は皆に愛される一警察官として……」

 とても長い。

「人という字は支えあって初めて成る言葉であり……」

 うんざりするほど長い。


「長いですねえ」
「……足イテエ」

 一時間以上立ちっぱなし、それも抑揚のない声で延々話を聞かされているの
で、だんだん聞いているのが辛くなってくる。徐々に、足の位置を変えたり、
体をよじったりしはじめるのが数名でてきた。

「そこ、真面目に話を聞きなさい!新年早々たるんでいますよ!」

「わっ」
「げっ」

 慌ててわたわたと姿勢を正す。

「すみません、卜部警部」
「気を引き締めなさい」
「はっ」

 一瞬、フロアがしんとなるものの、また何事もなかったように話が続いた。


メールの顔
----------

 やっと長い長い話が終わって。

「卜部警部に睨まれるなんて、新年早々災難だな史久」
「あ、ええ、まあ、しょうがないですよ」
「しかし、相変わらずキツイな、女史は」
「ははは」

 卜部女史。
 いわゆるキャリア組と言われる、出世街道が約束されてるエリートである。
 ドラマや映画だととかく悪役っぽくて嫌味がちなイメージがあるが、彼女は
悪役っぽくもなく嫌味もない。なかなか優秀でもあり、キャリアという嫌われ
がちな立場ながら、署ではそれなりに信頼もある。だが、ちょっとキツイ。

 提出書類などなどは年末のうちにあらかた片付けてしまっていたので、事件
も無い今、特にすることがない。
 そんなときは。

「お茶、いかがですか?」

「お、頼むわ」
「本宮、こっちも頼む」
「こっちもついでに」
「ああ、あとでこっちにも頼む」

「はい、わかりました〜」

 いそいそと、勝手知ったる給湯所で、湯飲みをすすぐ。

「本宮巡査」
「あ」

 背後にきつい眼差しが刺さる。

「卜部警部……」
「一番多忙な年末年始警備を終えたとはいえ、一年の計は元旦にありです。
気を抜いた態度では、警察官としてしめしがつきませんよ」
「すいません警部。……あの、警部、お茶はいかがですか?」
「結構です」

 かつかつ、とヒールの足音もよく去っていく。

「ふぅ」

 一息。

「あいかわらず、難儀な女性(ヒト)だなあ」

 くすりと笑うと、湯飲みを一つ一つお盆に並べる。



「お茶お待たせしましたー」
「おー」

 一通り、お茶を配って席に着く。

「お前、また卜部警部に注意されてたろ」
「あ、聞こえてました?」
「聞こえるって、お前ぼんやりしてるからしょっちゅう目つけられてるぞ」
「いや、参りましたねえ」

 笑って机に目をやると、お茶をいれてる間に個人用携帯電話にメールが届い
ていたらしい。

「あ、メール」

 ピッ

『史さん、今日は挨拶回りで少し飲んで帰ります。9時頃には帰れるように
するので、先に家で待っててくださいね。 奈々』

 はい、待ってます。

「こら。お前、にやけてるぞ」
「え?あ、すいません」

 肘で小突かれながら携帯を切る。
 と。

「本宮巡査」
「あ」

 腕組みをして立つ姿は小柄ながらも威圧感はすごい。

「情報交換は大切ですが、勤務中の私用メールの多用は控えなさい。公私混同
は慎むように」
「はっ、すいません警部」

 かつかつ、と。警部が去った後に広がるほっとした空気。

「厄日だな、お前」
「ははは」

 今日は荒れてるなあ。


いつもの顔
----------

 初出勤を終えて。
 いつもの帰宅ルートとは違う、近鉄吹利の電車に乗り込む。

 今は七時半。
 少し飲んで帰る、と、言ってたなあ。
 ぬるめのほうじ茶に、おにぎりでも作っておこう。

 たぶん今日の様子だと、荒れて帰ってくるんだろうなあ。



 時計は九時をまわって半分まできたところ。
 ぼんやりセンベイをかじりながらテレビを眺めていると、少し乱暴にドアを
開ける音がした。テレビを消して、てくてくと玄関に向かう。

「おかえりなさい、奈々さん」

 玄関にはほんのり頬を赤くした奈々さんがふくれっつらで靴を脱いでいる。

「ただいま、です」
「お疲れですね」

 なんとなく、聞かなくてもわかった。
 警察っていうものはみんながみんな聖人君主なわけじゃあない。
 キャリアという立場で女性である奈々さんにとっては、そりゃあもう居心地
の悪い宴席だったに違いない。

「ほらほら奈々さん、座り込まないで」
「もう、寝ますっ」

 ああ、ふらふらだ。奈々さん、そんなに飲めるほうでもないのに。
 ほとんど気合で帰ってきたんですね、その様子だと。

「しょうがないなあ」

 よっこらせと、着の身着のままでくでくでに倒れた奈々さんを抱えあげて、
居間のソファに寝かせる。

「う……ん」
「待っててくださいね、いまお水持ってきますから」
「いーやー」

 そんなに上着ひっぱったら伸びちゃいますよ、奈々さん。

「ほら、しっかり。ちょっと待っててくださいね」

 台所でコップに水を注いで、差し出すと。ぷい、とそっぽを向かれた。

「奈々さん、ほら、お水飲んで酔いさまして」
「それは、命令ですかっ?本宮巡査」

 違いますって、こりゃ重症だ。
 コップをテーブルにおいて、ソファに腰掛けて奈々さんの頭を膝にのせる。

「また何か言われたんですか?」
「しりませんっ、あんなオヤジどもっ」
「はいはい」

 膝枕しながら、振り乱してくしゃくしゃになった髪を撫でてあげる。
 しばらく様子見かな。


 横になって落ち着いてきたのか、奈々さんが頭を押さえながらゆっくりと体
をおこした。髪はまだはねてるけど。

「お茶……飲みたいです」
「命令ですか?個人的なお願いですか?」

 いじわるだなあ、僕も。

「……命令です」
「了解しました」

 ここで公私混同は慎むようにとおっしゃったのは警部ですよ、と言ったら
どうなるかなあ、さすがに言わないけど。

 台所でラップを掛けておいたおにぎりと、少しお湯をさましてぬるめにいれ
たほうじ茶をお盆に持って、居間にもどる。

「卜部警部、ほうじ茶とおにぎりをご用意しました。召し上がりますか?」

 奈々さんの口がへの時に曲がる。
 あーあーちょっといじわるがすぎたかな。

「あーごめんなさいごめんなさい奈々さん、おにぎり食べますか?」
「……はい」

 もそもそと、隣に座った僕によりかかったままおにぎりを食べる。

「おにぎり、おいしいです」
「はい」
「ありがとう……史さん」
「どういたしまして」

 なんかホント、難儀で可愛いひとだなあ。
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いじょ。

 昨日流そうと思ってたら予想以上にのびてしまった。



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