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シナリオ着想とはゲームのシナリオを作るにあたってのコンセプト(方向性)をまとめたもの。シナリオと異なり、シナリオ着想を作るには「思い付き」が重要な役割を果たします。
シナリオ着想を作る一つの方法が「ルールブックを読む」です。これはルールブックの随所にちりばめられた要素を手がかりにして、それらを組み合わせたり、大げさにしてみたり、逆に考えてみたりしながらシナリオ着想を得るという方法です。
特に、ワールドセクションやNPC/モンスターセクションは、製作者側が着想のヒントとなるように工夫を凝らして作られていることが多いので、重点的に読むのが吉です。
それでは実際の例を交えながら、シナリオ着想を作ってみましょう。今回使用するのはアジアンパンクRPGの「サタスペREmix+」(以後サタスペ)です。サタスペの場合、ワールドパートはp143〜p193なのでここを中心に読んでいくことになります。
尚、以下では「イメージを膨らます過程」を描写するために一部の文体が異なっています。ご了承ください。
今回は下に引用した「大阪市ゴミ処理場」(p154,155)からシナリオ着想を作っていきます。
大阪中のゴミがここに捨てられ、沙京の住人がそこにむらがる。いち大産業なのだ。
ゴミの楽園。壊れた家具、電気製品、屑鉄などが荘厳なまでに積み上げられている。沙京の貴重な資源となる。
──ゴミ処理場には大阪中のゴミが集まるということは、給与明細とか公共料金票なんかの個人情報に関するゴミも当然ここに集まってくる。他にも色々なものが運ばれてくると考えても問題ないだろう。
──ゴミは生ゴミや壊れた電化製品、古新聞紙など「不用になったもの」を指す。では、これを逆に考えるとどうなるだろう。不用の逆は有用だから「有用なゴミ」となる……このままだと意味不明だから少しずらして「有用なのにゴミとされてしまったもの」としてみよう。
──「有用なのにゴミとされてしまったもの」にはどんなものがあるだろう。外見はゴミのようだったけど、実は大切なものとかか。例えば無地の茶封筒に入った書類とかお金を挿んであった辞書みたいな。
──大切なものがゴミとして処分場に運ばれたら、探しにいかないとまずいよな。
結果として、下記のようなシナリオ着想が得られました。
誤って処分してしまった重要物品を大阪市ゴミ処理場(p155)から回収する。ゴミ処理場ですでに発掘されてしまいナニワ兵器廟やパウワウマーケットに運ばれているという展開もありえる。
これをさらに拡張しつつシナリオとして仕立て上げていくのは各DD(サタスペにおけるGM)におまかせしたいと思います。が、以下に拡張する手がかりを置いておきます。
次は五大盟約(有力犯罪組織)の一つである「コンビナート」(p178-191)を起点に着想してみます。
コンビナートとは、釜ヶ崎一帯を根城として大阪に根を張るロシアンマフィアの一派である。大阪五大盟約の中では最も歴史が浅く、その規模も小さいが、ソ連軍をバックに持ち、大阪随一の戦闘力と引き金の軽さを誇る過激な盟約だ。
──コンビナート、というだけだと範囲が広すぎるから、ひとまず具体的な人物を考えよう。有名人(p178-179)から選んでも良いけど、今回はオリジナルの「コンビナートの幹部(男)」ということにしてみる。
──「コンビナートの幹部(男)」ということは、武器密売などに関与する凶暴な人物なんだろうな。ま、盟約の人間で凶暴でない奴ってのも少ない気がするが。それとワード(p178)を見るとロールスロイスを乗り回す金持ちという感じかな。まとめると「金持ちで冷酷で凶暴な男」ってところか。
──今回は「金持ちで冷酷で凶暴な男」が依頼人にってことにしてみよう。
──「金持ちで冷酷で凶暴な男」が弱みを持っていて、それを解消するためにPCたちに話を持ちかけるとしよう。じゃあ「金持ちで冷酷で凶暴な男」の弱みってなんだ? 娘を溺愛していて、さらにその娘が行方不明になったというのが面白いかな。
──「娘」をもう少し具体的に考えてみよう。ルールブックを読むとp157に「私立清浪女子高校」っていうお嬢様学校があるな。ここに通ってたということにしよう。ロシア系の女子高生なわけだな。
結果として、下記のようなシナリオ着想が得られました。
コンビナート幹部の愛娘が行方不明となった。私立清浪女子高校(p157)に通っていた彼女を探しだす。方向性としては敵対組織や組織内の抗争,駆け落ち/自由を満喫してた,地下帝国鰐族(p163)の若者が攫った等。
シナリオに仕立て上げるにあたって、まずは以下の点を押さえる必要がありそうです。
最後はp162の「地上から見た地下帝国」にぽつんとあった「ヒデヨシ」を起点に。
地上の大半の人間は、地下帝国を都市伝説の一種と解釈しており、その実在を信じていない。都市伝説の中には、地下帝国とはヒデヨシが秘密裏に造らせた秘密都市の残骸だ、などと主張する人間たちもいる。
──「ヒデヨシ」ってのは「太閤はん(さん)」の名で親しまれてる戦国時代末期の天下人だろう。400年以上昔の人物がどうやってシナリオに関わってくるのか。とりあえず「秀吉 太閤」でGoogleして……なになに「天下普請を支えたのは秀吉の強大な武力ですが、それ以上に豊富な資金を握ったことも理由にあります。各地の主要な鉱山を直轄地とし(後略)」か。じゃあ「ヒデヨシの埋蔵金」てのをでっちあげてそれを探すシナリオってのはどうだろう。
──誰かが「ヒデヨシの埋蔵金」に関する資料を手に入れて、その捜索をPCたちに手伝わせる、と。
──なにやらトンデモなシナリオになりそうだが、こういうのが似合う存在といえばアダムスキー教・金星派(p177)か第三帝国(p167)だろう。今回はナチスのオカルト研究機関、アーネンエルベ(p167)が資料を手に入れたということにしよう。
結果として、下記のようなシナリオ着想が得られました。
「ヒデヨシの埋蔵金」に関する資料を手に入れたアーネンエルベ(p167)はPCたちを利用して大阪各所で穴を掘りまくる。大阪市整備公団(p181)やナニワ地下帝国(p184)が絡んでくる可能性が高い。
まとめとして、チェックリスト法を参考にしつつ、キイワードをシナリオ着想に育て上げる方法を整理してみましょう。
今回使ったものは以下の3つです。どれも使い勝手が良いので、シナリオ着想を考えるときに頭の片隅に置いておくと良いかと思います。
さらに、実例の中では使いませんでしたが「組み合わせる」を追加しておきます。
他にも細かい手法は数多くありますが、ひとまずは上記の4手法を基本として押さえておけば良いでしょう。
「シナリオ着想の作り方: シリーズで複数書くのでなければ『ワールド設定からシナリオ着想を作る』」はこれで終わりです。
尚、念のために言っておくと、各キイワードから連想されるシナリオ着想は一つに限られません。考える人によっても違いますし、同じ人間でも時と場合によって別の着想に到達することは少なくないはずです。自由な発想でいろんなシナリオ着想を考えましょう。
「シナリオ着想をシナリオに仕立て上げる方法」についてはまた後日。
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