[KATARIBE 32186] [OM04N] 小説『花野の蚊帳・其の三』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Sun, 22 Mar 2009 23:31:33 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 32186] [OM04N] 小説『花野の蚊帳・其の三』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <20090322143133.36B3F306801@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 32186

Web:	http://kataribe.com/OM/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/32100/32186.html

2009年03月22日:23時31分32秒
Sub:[OM04N]小説『花野の蚊帳・其の三』:
From:いー・あーる


どうも、いー・あーるです。
のったりくったり書いてます。

以前、
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/32000/32032.html
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/32000/32099.html
で流した話の続きです。

*******************
小説『花野の蚊帳・其の三』
=========================
登場人物
--------
 妙延尼(みょうえんに)
   :綴る手の持ち主。布に手ずから施した刺繍が、魔を祓う力を持つ。
 賀茂保重(かも・やすしげ)
   :陰陽寮の頭。
 兼輔(かねすけ)
   :陰陽師の一人。有力貴族の家の息子。女性にもてるらしい。
 友則(とものり)
   :陰陽師の一人。まだ若い。薬師の兄を持つ。
 
本文
----

 それはもう一日一日、暑いばかりの頃であったと思う。

 夏は夜……と言われるが、実際、昼日中のしとどに汗をかく暑さをひと時忘
れられるのが、この夜である。加えて陰陽寮は様々に施した悪霊避け等の為か
何なのか、全体に空気がひんやりとしているように思われる。無論、あやかし
は夕方から夜にかけてよく出てくる、という理由もあるが、とにかく陰陽寮は
夜にかけても結構人が詰めていることがおおい。

 それは、丁度市中に鬼が出た、との報が入った後、数日後。

「御頭、友則が」
 鬼の行方は未だにわからぬが、どうやら今日は行方を占うには適さぬと出た。
従ってそれなりに時間があると見てか、声をかけてきたのは兼輔だった。
「どうした、また兄のことか」
「はあ」
 見やった先で、友則はひどく戸惑った顔をしていた。
「……一昨日の、ことなのですが」


 兄の元に、蛍の姫の乳母がやってきたのだという。
「この時期……去年までは、兄が蛍を取って、姫のところに持っていくのが常
でした。姫もそれをいつも楽しみにしておいででした」
 だが、流石に今年はそのようなことも出来ない。仕方ない、と、最初から兄
は考えていたそうだが。
「乳母殿が……蛍を頼んできた、そうです」

 最初、兄は断ったという。
「それはそうだろう」
 兼輔が頷く。
「はい。そもそも来るなと言い出したのは向こう、それに薬師が要らぬほど姫
が元気になっておいでなら、蛍の原まで行けばよい、と」
 しかし。
「乳母殿は、ただただ頭を下げるだけだったそうです。蛍を持ってきてはくれ
ないか、見せて差し上げてはくれないか、と」
 どうして、と尋ねても答えず。断ると言えば頭を床に擦り付けるようにして
頼み込む。年配の女性のその姿に、流石に兄も根負けしたという。
「それで」
 そこまで言って、友則が言いよどむ。保重は目を細めた。
「友則」
「は」
「お前、やったな」

 年若いとは言え、陰陽寮に侍ることを許されている身である。友則は或る術
を使う。
 蟲使い、と、その術を名付けたのは時貞である。鬼は居らぬ、あやかしなど
見えぬ、という奇妙な陰陽師も、虫を使う彼の術だけは素直に認めたらしい。
 虫を、使い魔のように使う術。無論虫の知能は低く、何かをさせようとして
もたいしたことは出来ないが、とにかくどこにでも居る。彼等を捕えて眼とも
耳ともすることが、友則には可能なのだ。

 はい、と、友則は素直に頷いた。
「兄には申しておりません。ただ、蛍を捕えるを手伝え、とのことで……私は
そちらも得手でございますれば」
「蛍を、『眼』にして送り込んだか」
「中の、二匹のみですが」

 虫籠に入れた蛍は十ほど、それを友則は兄に渡し、兄はそのまま乳母に渡し
たという。
「それで」
「それが」
 友則は奇妙な顔になった。困っているのか、と、保重は思い、直ぐに思い違
いに気がつく。
 困っているのではない。
 彼は、畏れているのだ。
「それが……」
             **

「……蛍」
 閉じ込められた虫籠から、ふわりと視野が広がる。己の、そして仲間の放つ
淡い緑の光の元で、細い腕はやはり微かに緑に染まって見えた。
「義則殿が、届けてこられまして」
 そう、と、細い声が答えた。

『目』は、ふわりふわりと飛ぶ。
 部屋を薄い布が囲っており、蛍はその中を漂うように飛んでいる。
 普通、くすんだ緑の一色である蚊帳に、幾種類もの花が刺繍されているのが
見てとれた。

「あの方は、でも、おいでにはならないのですね」
 細い声がぽつりぽつりと放つ言葉は、蛍の光の速さで蚊帳の中に広がる。
「ひいさまを心配なすっておいででした」
 返事は、無かった。

 蛍はふわり、ふうわりと飛ぶ。
「薬師に診て貰うことは、もう要らぬと父上は仰ったけど、ではどうして私は
ここから出られぬのです?」
 乳母の返事は無い。
 姫もまた、返事を待っているようでもなかった。
「八重の桜が見たかった」
 呟きは、桜の花が散るようにさらさらとこぼれる。
「桐の花が揺れるのが見たかった」
 葉の緑に染まりそうな白い手が、ふわりふわりと蛍を招く。
「青星、須八流の星をもう一度見たい」
 
 蚊帳に囲まれたこの場所からは、空さえもよく見えない。
 頼りない光に照らされた姫は、この世のものとは思えないほどに美しかった。

 それにしても、と、友則は思ったという。
 今年、八重の桜を見逃した、はあるだろう。桐の花も、もう雨に流れて咲い
てはおらぬ。
 しかし。
(青星に須八流は、これからまだ先、冬の星ぞ)
 その先に至るまで、彼女は星さえ見えないというのだろうか。
 それとも。
(もう、彼女は)

 その可能性に思い至って、ひやり、とした時に。

「……乳母や。義則様に、ことづけても良いかしら」
「とは?」
「お礼を申し上げたいの」
 困ったような顔で、乳母は頷いた。
「蛍をこんなに取っていただいたのだもの。お礼のお手紙を差し上げねば」
「それは……はい、流石にそれは構わないと思います」

 そう、と、姫は微笑んだ。
 ふわふわ、と蛍は蚊帳の中を飛んだ。
 ふわふわ、ふわふわ。

 その速度のまま、『目』は、蚊帳まで飛んだ。あわよくば……もしどこかに
隙間なり穴なりあれば、そこから出てゆこう、と。

 しかし。

            **

「その瞬間、式の術が解けまして」
 これははっきりと、悔しげに友則が言った。
「ほう」
「もう一匹、耳だけはもう少し残っていたのですが、文の為の、紙はどうだの
墨はどうだの、としか聞こえませんで……結局あきらめました」
「……ほう」

 結界、という言葉を、保重はまず思いついた。
 しかし、蛍姫の周囲には、今のところ陰陽寮は関わっていない。
 兼輔を見ると、軽く頷いて返す。恐らく彼もまた、陰陽寮の陰陽師達が直接
関わっていない結界、というところにひっかかったのだろう。

「それで、友則」
「は」
「お前は、どう見た」
 保重の言葉に、友則は一度ぐっと口を閉じた。

 どう、の意味は互いに判る。陰陽師としての感覚、直感のようなものを莫迦
に出来るものではない。
 ふわりふわりと飛ぶ蛍、そしてその中に伸ばされる姫の手。
「……すきとおるように、思いました」

 恐らく、蚊帳には何らかの仕掛けがあるのだろうと、友則も判る。陰陽師の
『目』を留めるような仕掛けは、確かに普通は作れるものではないことも。
 しかし。
「恐ろしいものではない、と思いました。危ないものでもない、とも」
 ふむ、と、保重は一度頷いた。
「では……当座は、放っておいてもよかろうよ」
「え」
「いや、放っておかないほうがいいのは決まっているがな。しかし今は」
 ああやはり、と言いたげに、兼輔が肩を竦めるような仕草をした。
「まずは、市中に出る鬼を何とかせねばなるまい……ということですか、御頭」
「そうなるな」

 既に、宮中の女房が一人盗み出された上で食われ、近くに居た男もまた、腕
一つ噛み切られた状態で見つかっている。

「判りました」
 友則は深く頷いた。
「私もそう思っております。ただ」
「うん。これが片付いたら、蛍の姫のことも調べたほうがいいのは確かだな」
「はい」

 頷く二人を見ながら、保重はふと思った。
 蚊帳。そこに記された花の……『刺繍』。

 だとすれば。

            **

「そこまで判って、何でひいさまとお判りになりませんでしたかね」
 ぶしつけな声に、妙延尼は慌てて振り返った。
「これ、お兼」
「いや、全くお兼殿の言うとおりだ」
 野菜を貰いに、との妙延尼の言葉通り、背中の背負子にぎっしりと山芋や蓮
根を積んだままのお兼に、保重は頷いた。
「ただ、それが判っても、まずはあの鬼のほうを先に片付けねばならなかった。
あれはなかなか大変で」
 ああ、と、妙延尼が手を打った。
「夏の頃、三枚か四枚ほども、狩衣の袖を繕いましたなあ」
「それだそれ」
「血がべっとりくっついていて、洗うのも大変でございましたよ」
 憮然として言いながら、お兼は軽々と荷を降ろし、湯を沸かす用意をし始め
た。
「それほどのあやかしでなければ、刺繍の残ったところはそのまま、周りを改
めて綴れば宜しいのですけれど、あの時は一旦全て糸を解きましたものね」
 そういえばそうだった、と、何度も妙延尼は頷く。
「確かに……あれほど大変な相手が居ったのであれば、保重様も他の事まで気
が向かないものでございましょう」
「……ま、恥ずかしながら、その通りで」
 土間のほうから、盛大に鼻を鳴らす音がした。保重は苦笑して、また言葉を
継いだ。

「結局、我等は全て……後手に廻ったことになる」

解説
----
 蛍の姫の様子を探る友則。

*******************

 全然進んでませんね!(ほがらかに)

 であであ。
 
 


 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/32100/32186.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage