アキトさんによります、ルールブックを読みやすくするレイアウトについて解説する記事です。同人誌を作成している人などには、有用な内容だと思います。
対話編式……ようするにリプレイ風に会話によってすすめられています(語り部のエピソード形式とも言います。初出タイトルは「エピソード『ルールブックは読みやすく』」でした)。
無料版のTRPG情報誌 語り部日報において、分割して短期集中連載、有料版の語り部日報では一括送信で掲載されました。
- 内容紹介
- 目次
- 登場人物
- ルールブックとレイアウト
- 良くないレイアウトの一例
- より多くの人がルールブックを理解できるような工夫
- 視覚表現:視線の動きをスムーズにする
- 視覚表現は視線の動きをスムーズにする
- 文章と図を組み合わせる
- 複数の独立した図表を並べる
- 中央に説明する図表を置く
- 視覚表現と検索性は表裏一体
- 「欄外解説」の問題
- 「欄外解説」の補足
- 最近のルールブックほか
- まとめ
- アケト(あけと)
- TRPG をはじめてまだまもない男の子。純朴なユーザ代表。
- おにいさん(おにいさん)
- 通りすがりのコアなユーザ代表。辛口のコメントを出してくれる便利なキャラ。
- おねいさん(おねいさん)
- ちょっとした編集知識のある、やさしひおねいさん。
- アケト
- 「うーん、読みにくい〜」
- おねいさん
- 「どうしたの?」
- アケト
- 「ルールブックがよくわからないの」
見るとそこには一冊のRPGルールブックが置かれていた。
- おねいさん
- 「ルールブックは読みにくいものが多いからね」
- アケト
- 「なんでルールブックは読みにくいの?」
- おねいさん
- 「それはレイアウトがあまり良くないからなの」
- アケト
- 「じゃあ、レイアウトが良くなったらわかりやすくなる?」
- おねいさん
- 「もちろん♪レイアウトでは重要なのは情報を整理すること、あとは視覚的に整理された情報を結びつけるなのよ」
ここで唐突におにいさんが登場。
- おにいさん
- 「そんなことはない!検索性さえ高ければ、おのずと情報は整理されるはずなのだ」
- おねいさん
- 「あなたはそれでも良いかもしれないけど、検索性が高いだけではなかなかルールを修得できない人がでてきちゃうでしょ。ルールブックには、チュートリアルブックの性質も必要なのよ」
- アケト
- 「ちゅーとりある?」
- おねいさん
- 「あ、ごめんごめん。チュートリアル [tutorial] ってのは、パソコン関連とかで使う言葉で基本的な使用方法を指導するもののことを言うの」
参考知識としてあげておくと、チュートリアル [tutorial] のもともとの意味は「家庭教師 [tutor] による指導授業」のこと。
- おにいさん
- 「それは『よくわかる本』とかを別に出せばよいではないか」
- おねいさん
- 「その手の本は、もとのシステムがよっぽど売れないと、利益が見込めないらしいわよ」
- おにいさん
- 「むぅ……じゃあ、全体の構成をもうちょっとだけ改善すればいい」
- おねいさん
- 「それも含めてレイアウトなのよ」
- おねいさん
- 「たとえば、どこで困ってるの?」
- アケト
- 「うーんと、キャラクター作成してて、飛び飛びの頁を見なくちゃいけないトコとか。あっちこっちの表を見なくちゃいけないの」
RPG のルールブックでは、説明文と図表が同一ページや見開き内に収まってない場合が多い。これは「ルールブックのおよその構成」や「ルールブックの読み方」についての予備知識を持ってない人たち(はじめて遊ぶ人など)にとっては、ルールの理解はおろか TRPG をはじめる上でも大きな障害となりかねない。
さらに、セッション中に使う情報をすべて見つけ出すまでかなりの時間がかかることから、快適なセッションを行なう上でも障害となる。
- アケト
- 「表が一個所にまとまってればいいのに」
- おにいさん
- 「でも読むときに別になってるとそれはそれでわかりにくいぜ」
- おねいさん
- 「それは、同じ表が文中と巻末に載るようにすればいいでしょ?それから、何かの事情で、無くせないときも、関連のある図表は(XXページ参照)とかきちんと記すとかね」
- おにいさん
- 「なるほどね。つまり、こういった問題を無くすための方法を考えるわけだな」
ここまでの話を「ルールブックに求められているものはなにか」という視点でまとめてみよう。ルールブックには「検索性」だけではなく「読みやすさ」と「分かり易さ」も同時に求められている。
つまり、はじめてルールブックを読む人がストレスなく読みすすめることができ、RPG にあまり習熟していないユーザーにも分かるようなものであることも求められていのだ。
- アケト
- 「あと、フローチャートってよくわかんない」
- おにいさん
- 「なに、おまえフローチャートが読めないのか?」
現実問題として、フローチャートが「読めない」という人はけっこう実在する。この場合「読めない」というのは、単に不慣れなこともあるが、馴染む経験がなかったことも要因なのだ。読めない人が悪いなんて論法は通用しない。
- アケト
- 「フローチャートなんか嫌い〜」
- おにいさん
- 「わがままいうな、我慢して読め!」
- おねいさん
- 「そんなケンカしないの」
- アケト
- 「だって、おにいさんがいじめるんだもん」
- おにいさん
- 「うるさい!フローチャートなんて根性さえあれば読めるんだ」
- おねいさん
- 「ちょっと、無茶苦茶いわないでよ」
- おにいさん
- 「じゃあ、どうしろってんだ」
- おねいさん
- 「落ち着いて考えてみなさいよ。フローチャートを減らすことは絶対できないの?」
- アケト
- 「そうか!箇条書きとかで書けるところはあるはずだもん」
- おねいさん
- 「そのほかにも、フローチャートを使わなきゃどうにもできない時もPC系のフローチャートはできるだけ避けて、視覚表現を考慮した女の子の雑誌にあるYes/Noクイズみたいな形にするとかね」
- アケト
- 「あ、知ってる!おねいさんがよく『相性判断』とかやってるやつでしょ。どうせやっても無意味なのに」
- SE
- ばきっ
- おにいさん
- 「……たしかにあの手のYes/Noクイズが読めない奴はそうそういないな」
- アケト
- 「え、おにいさんも女の子の本よむの?」
- SE
- どがっ
- おにいさん
- 「……ま、とはいえあんな凝った作りじゃあ面積くっちまうぞ」
- おねいさん
- 「たしかに、最終的にはあきらめなくちゃならないこともあるわ。ホントはルールブックが色々な体裁で出せれば一番なんだけど。なかなかそうもいかないし」
例えば、HTMLの教本には「タグ辞典」のようなものから「一週間でわかる!」みたいなものまで幅広い体裁のものがある。このようにできれば、ルールブックが理解できないから特定のRPGをしない、という人はいまよりもぐっと減るだろう……無理だろうが(同人誌で出してしまう、というのも手だが、それはそれで別の問題が生じてしまう)。
- アケト
- 「じゃあ、ルールブックが読みにくくても諦めるしかないの?」
- おにいさん
- 「そ。諦めて読むんだよ」
- おねいさん
- 「いえ、それはちょっとちがうわ。たしかに読めない人が出るのはしょうがないわ。でも、できるだけ読めるようにする努力は欠かしちゃならないはずよ」
- おにいさん
- 「ま、そりゃそうだな。俺だって『17ページのつぎは301ページ、また107ページの図版参照』なんていう『チャート式』には納得してないしな」
ところが頭が痛いことに、こうした「チャート式」は以外と多い。
もっともチャート式が導入されたことで、検索性は目次に頼るしかなかった頃よりも格段にあがっている。
しかし、せっかくなら関連記事をできるだけ見開き単位、もしくは頁単位で完結させ (できなかったらコラムやイラストで調節すればいい)、 その上で肩見出しなどで検索性を確保する方が、プレイする際の負担がより小さくなる、はずだ。
- おねいさん
- 「じゃあ、ルールブックには情報の整理と視覚表現が重要、ってことは納得してもらえたかしら?」
- おにいさん
- 「情報の整理が大切だってことはわかったよ。でもまだちょっと『視覚表現』ってのがわかんないんだよな。例えば『2−1−3』とかって見出しが太字になってないと困るとかそういうこと?」
- おねいさん
- 「そういうときは、ゴシック系の太字とかにするべきよ……と、視覚表現の説明ね」
視覚表現は視線の動きをスムーズにする

おねいさんは、カバンからノートを取り出すと、まっさらなページを開いてなにやら書き込みはじめた。
- おねいさん
- 「最初に断わっとくけど、文章は全部横書きね。で、文章の流れが『A→B→C→D』だったとき、右と左のどっちが読みやすいと思う?」
- アケト
- 「左!」
- おねいさん
- 「そう、視線の動きがスムーズなのは左側ね」
- おにいさん
- 「ふむ」
文章と図を組み合わせる

- おねいさん
- 「ただ、それぞれのブロックが固まってて、適度に離れている時は人間工学とかも加味して、こんな風にしたり……」
- おにいさん
- 「ちょいまち。これじゃあ、日本語として変じゃないか?」
- おねいさん
- 「『C』のところには図表とかを配置するのよ」
複数の独立した図表を並べる
- おねいさん
- 「……ABCDが独立性の高い、画像などのブロックなら、こんな風にするのが良いと言われてるわ」
中央に説明する図表を置く
- おねいさん
- 「あと、何か表について説明するときなんかは、中央に図表を置いてしまうのもひとつの手ね」
- アケト
- 「キャラクターシートの記入例とかだね」
- おねいさん
- 「そう、大判のルールブックではたまに見られるわ」
視覚表現と検索性は表裏一体
- おねいさん
- 「これはあくまで一例だけど、『視覚表現』ってのはこんなことね」
- おにいさん
- 「なるほど、すこしはわかってきた」
- アケト
- 「見やすいのは大事なんだねー」
- おにいさん
- 「でも視線の動きとか言われると、検索性とも関連があるな。ページの内容についての解説が別のページだったり、注の飛び先が先のページだったり、解説している表がそのページになかったりとかすれば、検索性も低くなるし」
- おねいさん
- 「そうね。同じ問題を別の視点から見てるだけなのかも」
- アケト
- 「そうそう。欄外に解説があったりするのも読みにくい〜」
- おにいさん
- 「俺も欄外解説は嫌いだ。あれは視線の流れをぶった切るからな」
- おねいさん
- 「それは、本文の一行文字数を減らして、欄外注のパートとの間の余白を増やすとかすれば視線の流れを切れないわよ」
- アケト
- 「じゃ、なんでそうしないの?」
- おにいさん
- 「それは本の頁数が増えて定価が高くしないといけなくなるからだろ」
- おねいさん
- 「い、一部のファッション雑誌みたいに、普通より横幅が広いAB判の本にするとか。そうすれば欄外注もバッチリよ」
- おにいさん
- 「書店やショップがいやがるな。棚に入りづらいって。それにやっぱり定価が高くなるんじゃないのか。紙面の面積は大きくなるんだから」
- おねいさん
- 「えーとえーと……」
- おねいさん
- 「うーん、でもルールブックのレイアウトって大変なのも事実よ。なにしろ『理解しやすく』『何度もあちこち検索し』『プレイ中も大いに参照する』なんてものなんだし。おまけに『チュートリアルブックっぽさも求められる』は、『システム用語が非常に多い』 ってんだからさぁ……」
- アケト
- 「お、おねいさん、なんか目がコワイよぅ」
- おねいさん
- 「ま、まぁ、たしかに欄外解説は視線の流れを切ることもあるわ。でも、かといってなんでも文中に埋め込んでると、リズムが崩されてよみにくくなることもあるんじゃない?」
- おにいさん
- 「いわれてみるとそうかもな」
- おねいさん
- 「……例えば、本文に『一般行為判定は2D6+技能レベルで判定します』とあって、欄外に『2は6面体ダイスが二個、6は結果に足す数値を表します』なんてあったら読みにくいし……」
- おねいさん
- 「ただ『一般行為判定は(一般行為判定というのはキャラクターがする可能性のある行動を抽象的に判定する方法のことです)は2d+6+技能レベルで判定します』とだけ本文に書かれても、やっぱり読みにくいでしょ?」
- おねいさん
- 「だから、結局のところ文章の重要さによって、本文に埋め込むか、欄外にするかを分ければ欄外解説すること自体に問題はないはずなのよ」
- おにいさん
- 「ま、できないだろうけどな」
- アケト
- 「たしかにそうだよね。……でも、ルールブック作ってる人たちは一体なにを基準に分けてるんだろ?」
- おにいさん
- 「そりゃ、書き忘れたルールとかを欄外に書き足してるんだろ」
- おねいさん
- 「……」
- おねいさん
- 「とにかく、最初から、必要なことは本文に書いてあって、欄外にあるのはさして重要でないことや補遺である、ってことが信用できれば、欄外解説付きでも読みやすくなるのよ」
- アケト
- 「そっか〜」
- おにいさん
- 「……やっぱ欄外は追加文章が本文に入らなかった時の余白なんだよ」
ちなみに、本文で出てくる例について補足すると、セクション毎の本文初出で「『ダイス2個を振った出目』+技能レベル+修正値を『達成値』と呼びます(以下『ダイス2個を振った出目』は 2d6 と略記)」とした上で、書籍全体の初出個所の欄外に「mDn」の注をつけるのが一つの模範解答と言えるだろう。
- アケト
- 「そーいえば縁のとこの欄外(F)に書き込まれてると、本文よりも先に目に入っちゃうんだよね」
- おにいさん
- 「あ、俺も。欄外解説はサイドよりもページ下にまとまってたほうが便利だな」
- おねいさん
- 「たしかに、専門用語の解説とかを入れる場合には、下の欄外を使った方が良いかもしれないわね」
- おねいさん
- 「でも、リプレイとかでは、サイドの欄外に『そのプレイがどういう理由でされてるか』の解説を入れた方がいいんじゃない?」
- アケト
- 「そっか、必ずしもサイドの欄外がマズイわけじゃないんだ」
- おにいさん
- 「結局のところは、『目的に添ったレイアウト』をすりゃいいんだよ」
ここでは欄外解説についてのみ扱ったが、念のために指摘しておくと、コラムや用語解説のページとしてまとめてしまうという方法もある。
- おにいさん
- 「でも最近のルールブックは以前のものに比べて、良くなってるとこもあるんだよな。ルールセクションはまだまだだけど、データセクションとかは、一つのデータがページ分断されにくくなってきている」
- おねいさん
- 「なるほど、たしかにそうかもね。やっぱり、クラスとか装備品とかたくさんあるものは文章量も同じぐらいにした方が色々な点で良いのよ。そういう点では以前よりもいくらか改善はされているわね」
- アケト
- 「え、まだダメな点はあるの?」
- おねいさん
- 「すべてのクラスで、レベルごとに憶えられる呪文の数をそろえるとかしてくれると、一覧の見栄えがぐっと良くなるのよ。でもなかなかそうなってないじゃない」
- アケト
- 「……それって単に一覧表を作るときに楽だから言ってない?」
- SE
- ごすっ
暗転。
そして、うやむやのまま終幕。
本文で主張しているのは、以下の点です。
ルールブックに求められているもの
- 検索性 :必要な情報がすぐ見つけられること
- 読みやすさ :ストレスなく情報が受け手に伝わること
- 分かり易さ :どこを読めばよいかすぐに分かること
→この3点を向上するためにはレイアウトへの配慮が必要
レイアウトの良否を分けるポイント
- 説明文と図表が同一ページや見開き内に収まっているか
- 視覚情報という観点(視線への配慮)を導入しているか
「欄外解説」の問題点
「欄外解説」には視線の流れを切る危険性がある。これを軽減するためには以下の2種類の工夫が有効である。
- 本文に埋め込むか否かは文章の重要さで区別される
- 縁の欄外ではなく、内側や下を使用する方法もある
最近のルールブックへのフォロー
- データセクションのレイアウトはテキスト量の標準化が進み向上してる
本エピソードは、IRCにおいて常設されている「#システムデザイン考」でのログを元にして、アキトが創作したものです。よって登場人物はすべて架空の人物であり、実在の人物とは一切関係ございません。
尚、ご意見・感想などがありましたらメールをお願いします。
謝辞
この小文を書くにあたって、以下のみなさんのお話を参考にさせていただきました。この場を借りてお礼申し上げます(50音順,HN / IRC での名前)。
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