◎第1回【交渉モデル】 第2回【交渉モデル――「取引」】 第3回【交渉モデル――「説得」】 第4回【交渉における諸要素その1】 第5回【交渉における諸要素その2】 ◆1-1【交渉モデル】 この交渉モデルは、交渉に関するルールモデルです。特定のゲームシステム に依存しないものとして考えられています。主にシナリオ/セッション中の、 比較的重要な交渉(特にプレイヤーキャラクターからの働きかけ)を念頭におい ています。 本来、これら単純化されたモデル/ルール化を用いなくとも人はその経験に よって交渉/取り引きのノウハウやルールを確立しているものです。 しかし個々の事例を取り上げていけば、いくら書いても追いつかないほどの 量になってしまいます。 そこで、この交渉モデルは「セッションにおける交渉ルール運用」ではなく、 交渉の仕組みを単純化することによる学習効果を主目的として組み立てる事に しました。 ◆1-2【交渉のタイプ】 ここでは交渉のタイプを便宜的に以下の二つに分類します。 ☆「取引」 交渉において、外交や売買/買収などといった物理的/社会的利益に関わる ことがらを扱います。「取引」は主に交渉相手の理性に対して訴えかける行為 で、主に違いの利害の一致点を求めます。 ☆「説得」 交渉において、宣誓や慰撫/脅迫などといった信条的/心理的充足に関わる ことがらを扱います。「説得」は主に交渉相手の感情に対して訴えかける行為 で、相手に何かを望む行為を求めます。 現実には「取引」と「説得」の間に明確な境界線はありませんし、一つの交 渉においても「取引」と「説得」が入り交じる事が多くあります。 ◆1-3【交渉手順「取引」の基本モデル概要】 「取引」は交渉の中でも、特に利害が発生する場合や理性に訴える場合に用 いられます。たとえ物理的な取り引きが発生するとしても、それが感情的なや り取りによって行われるならば「説得」を適用します。 この交渉モデルでは「取引」の結果は以下の手順によって求められます。 (1)プレイヤーは【PCの利益の提示】を行う ※1 (2)プレイヤーは【利益と損失の提示】を行う ※1 (3)マスターは 【利益度】を求める (4)マスターは 【信用度】を求める (5)マスターは 【取引反応表】から結果を求める (6)プレイヤーは次の対応を決める。 ※1:(1)と(2)は順不同です。 「取引」は、(1)〜(6)の流れを1サイクルとして交渉がまとまるか、どちらか が交渉を打ち切るまで繰り返されます。 ◆1-4【交渉手順「説得」の基本モデル概要】 「説得」は交渉の中でも、相手に何かの行為を求めたり感情や信条に訴えか ける場合に用いられます。 たとえ物理的やり取りきが発生しないとしても、それが何らかの利害関係を 発生させるなら「取引」を適用します。 この交渉モデルでは「説得」の結果は以下の手順によって求められます。 (1)プレイヤーが【要望の提示】を行う (2)プレイヤーが【条件の提示】を行う (3)マスターが 【肯定度】を決定する (4)マスターが 【親密度】を決定する (5)マスターが 【説得反応表】より基本的な結果を求める (6)マスターが 【感情】を考慮して最終的な結果を求める (7)プレイヤーは次の対応を決める。 ※1:(1)と(2)は順不同です。 「取引」は、(1)〜(7)の流れを1サイクルとして交渉がまとまるか交渉が決 裂するまで繰り返されます。
第1回【交渉モデル】 ◎第2回【交渉モデル――「取引」】 第3回【交渉モデル――「説得」】 第4回【交渉における諸要素その1】 第5回【交渉における諸要素その2】 ◆2-0【交渉モデル――「取引」】 ☆2-1【PCの利益(リターン)の提示】 プレイヤーは交渉の結果によって期待/要求する「キャラクターの利益」を 提示します。この場合の利益は明確な結果に限らず幅を含んだ希望や要望であっ てもかまいません。 ただし誰の目にも明らかな「キャラクターの利益」は(暗黙の了解として)告 げる必要はありません。 実際にはキャラクターには利益(リターン)だけでなく損失(リスク)を追う場 合もありますが、特に交渉相手に提示する必要はありません。多くの場合キャ ラクターの損失は誰の目にも明確であるか、交渉相手はキャラクターの損失に ついて無頓着である事が多いからです。 ですが、キャラクター自身は自らのリスクについては意識を留めておくべき でしょう。 例:違法行為に対する口止め料の要求の場合 「PCの利益」=『口止め料』 「PCの損失」=『後に消されたり、脅迫罪で捕えられる可能性』 ☆【利益(リターン)と損失(リスク)の提示】 キャラクターは交渉相手に対して、交渉の結果生じると見込まれる「交渉相 手の利益」と「交渉相手の損失」を提示します。 ただし誰の目にも明らかな「交渉相手の損失」は(暗黙の了解として)告げる 必要はありません。 例:違法行為に対する口止め料の要求の場合 「交渉相手の利益」=『社会的ダメージの軽減』 「交渉相手の損失」=『口止め料』 ☆2-2【利益度】 この交渉によって、交渉相手がどれだけのリターンとリスクを得る事になる と”考えている”のかを「利益度」として表します。 利益度は「PCの利益の提示」及び「利益と損失の提示」を判断基準として求 めますが、その他にも交渉相手自身が知りうる情報や状況も加味されます。 (利益) ↑3 ノーリスクハイリターン、又はリターンに対してリスクが小さい。 2 日常的に見込まれるリターンとリスク。 ↓1 ハイリスクノーリターン、又はリターンに対してリスクが大きい。 (損失) ☆2-3【信用度】 交渉相手が取引の対象としてキャラクターの事をどれだけ適当であると考え ているか、取引内容をどれだけ信用しているかを「信用度」として表します。 信用度は交渉相手自身の主観的な尺度とキャラクタに対する情報によって求 められます。 (信用) ↑3 長期に及ぶ取引があったり社会的信用があると見なされている 2 取引相手としては日常的な相手/一見さん ↓1 正常な取引が行われる事を信用(もしくは期待)していない (不信) ☆2-4【取引反応表】 信用度を縦軸、利益度を横軸に見立ててそれぞれの場合の交渉相手の反応を 表にした物を「取引反応表」と呼び、「取引反応表」によってキャラクターの 「取引」に対する交渉相手の大まかな結果を求めます。 個々の事例における具体的な結果は交渉の内容や状況を加味してマスターが 決める事になります。 ◎取引反応表 利益度 1 2 3 信 1 A B D 用 2 C E G 度 3 F H I ◎取引結果概要 A:論外。考慮に値する取引相手でない。交渉は打ち切られる。 B:関わる事を忌避し、交渉打ち切りの理由を探し始める。交渉は打ち切ら れる。 C:その条件のままでは交渉がまとまらない事を指摘する。譲歩をや再提案 を求める。 D:詐欺や犯罪/情報隠匿を疑い裏をとる。即座に隠匿情報の開示や保証を 要求する。 E:通常の手順として交渉相手の妥協の可能性を探る。可能であれば譲歩を 求める。 F:中期/的長期的な信用を加味して妥協点を探るか、代替案/逆提案を提 示する。 G:通常の手順としてリスクの再確認を行う。特に問題がなければ交渉をま とめる。 H:特に追加の条件もなく、幾つかの確認と共に交渉をまとめる。 I:一応の確認と共に交渉をまとめる。自ら譲歩や協力を申し出るかもしれ ない。
第1回【交渉モデル】 第2回【交渉モデル――「取引」】 ◎第3回【交渉モデル――「説得」】 第4回【交渉における諸要素その1】 第5回【交渉における諸要素その2】 ◆3-0【交渉モデル――「説得」】 ☆3-1【要望の提示】 キャラクターは交渉相手に対してどのような事を望んでいるのかといった「PC の要望」を提示します。 その内容がどれほど具体的であるのかは自由ですが、解釈の幅が曖昧な場合 には交渉相手が勝手な解釈をしたり要望が理解できなかったりする事もありま す。 ☆3-2【条件の提示】 キャラクターは「PCの要望」を告げると共に、交渉相手に対して「交換条件」 を提示する事ができます。 この場合の取り引きは、物理的/社会的な内容である必要はありませんし、 要望との関連性も特に求められません。また、条件の提示は必須項目ではあり ません。 ☆3-3【肯定度】 キャラクターの要望や条件が、交渉相手の感情や信条、行おうとしている行 為などに対してどれだけ近いの肯定的なのかを「肯定度」として表します。 肯定度は「PCの要望」及び「交換条件」を参考にしますが、それよりも交渉 相手の行動規範や信条ポリシー/隠された願望といった感情を満足させるかど うか? といった点が重視されます。 「説得」においては度々、交渉相手の内面と外面が一致していない事があり ます。 例) 提示している条件にたいする肯定度を3段階に分けた場合 (肯定的) ↑3 交渉相手の信条やその場の感情/行為に合致した提案や条件 2 交渉相手の信条やその場の感情/行為とずれた提案や条件 ↓1 交渉相手の信条やその場の感情/行為に反する提案や条件 (否定的) ☆3-4【親密度】 交渉相手が説得を行ってるキャラクターの事をどれだけ信頼しているのか/ 同じような信条をどれだけ共有しているのかといった”キャラクターの心理的 距離”を「親密度」として表します。 親密度は交渉相手自身の主観的な尺度とキャラクタに対する感情によって求 められます。 例)親密度を3段階に分けた場合 (親密) ↑3 同じ信条を共有したり互いの事を理解しているような特に親密な関係。 2 特に親密ではないが不快感も感じない相手。顔や名前が分かる程度。 ↓1 全くの門外漢、もしくは信条が反したり感情的に嫌悪感を催す相手。 (疎遠) ☆3-5【説得反応表】 親密度を縦軸、肯定度を横軸に見立ててそれぞれの場合の交渉相手の反応を 表にした物を「説得反応表」と呼びます。 「説得反応表」によってキャラクターの「説得」に対する交渉相手の大まか な結果を求めます。 個々の事例における具体的な結果は交渉の内容や状況を加味してマスターが 決める事になります。 例:信用度/利益度を3段階に分けた場合 ◎説得反応表 肯定度 1 2 3 親1 A B D 密2 C E G 度3 F H I ◎説得結果概要 A:聞く耳も持たなどころ敵対的な態度に変る。交渉は決裂する。 B:不信感を露にし交渉を打ち切ろうとする。交渉決裂する。 C:すげない態度。交渉を打ち切ろうとする。 D:要望や条件は聞くものの、その意図を探ろうとする。 E:その場の感情によって態度を変えるがやや否定的な意思を表明する。 F:承服しかねる意思を表明しつつも、しばらく逡巡する。 G:警戒しつつも交渉は中断しない。場合により「取引」へと移行する。 H:最大限妥協できる範囲で説得を受け入れる。条件や「取引」を提示するか もしれない。 I:喜んでキャラクターの提案に従う。更なる協力や援助を申し出るかもしれ ない。
第1回【交渉モデル】 第2回【交渉モデル――「取引」】 第3回【交渉モデル――「説得」】 ◎第4回【交渉における諸要素その1】 第5回【交渉における諸要素その2】 ◆4-0【交渉における諸要素その1】 ☆4-1【情報】 現実の交渉は本来、多種多様な条件によって影響をうけ、単純な結果ではま とまらない事が往々にしてあります。 それらの未確定要因を排除するために最も重要となるのは、交渉相手に関す る様々な情報です。 例えば、売買を取りまとめようとしている交渉相手が、明日までにまとまっ た金を作らねばならないと知っているならば、より多くの譲歩を引き出せるか もしれません。 これから買おうとしている商品の相場の価格や質を知らなければ、高値を吹っ かけられたり安物を掴まされてたりするかも知れません。 情報は事前の調査や交渉相手の直接の観察などによって情報は得られます。 ☆4-2【嘘】 「交渉相手の利益」を過大に告げたり「交渉相手の損失」や「キャラクター の利益」の一部分や全体の隠匿、ミスディレクションといった真実や事実を意 図的に隠す行為を「嘘」と呼びます。 これは交渉の結果を最初から守るつもりがなかったり、一旦交わされた交渉 の結果を意図的に破棄したりするといった行為も含まれます。 相手が知り得ない事実を掴んでいたり、その場の対処が優先される場合など に「嘘」は有功な手段となります。 コミュニティの習慣/風習によっては「情報の隠匿」が常套手段と見なされ る事もあります(ましてや、正直に話す事自体が愚かな事と考えられるコミュ ニティもあるでしょう)。 つまり「嘘は許される範囲で吐くか、ばれない嘘を吐くべきである」という ことです。 ☆4-3【時間】 交渉は時に時間による制限を受ける事があります。 新聞記事やニュースなどにおいても、新たな融資を受ける事ができず債務超 過に陥り倒産する会社の話は良く見られます。 交渉相手に時間的余裕が無い場合など、意図的に交渉を長引かせる事で相手 に譲歩を迫るなどといった事が考えられます。 もっとも、交渉相手が待てる限界を超えてしまった場合には交渉は打ち切ら れるか他の交渉相手を探しに行くかもしれません。 そうでなくても、交渉が急いでまとまる必要がなければ早急に結果を求める 必要はありません。 交渉を一時中断/保留する事でその間に新たな状況が発生したり、情報の収 集/再検討を行う事もできます。 ☆4-4【圧力】 交渉相手に対して精神的/肉体的/経済的/社会的(etc)圧力をかける事が できるならば、それを交渉材料として扱う事が可能です。 つまり「交渉失敗時の相手のリスク」を増大させる事で相対的に「交渉相手 のリターン」を増やす行為を行うという事です。 重要な事は「自分が相手に圧力をかけられるのは何か?そしてそれは十分に 有効なのか?」を見極める事です。 部分的な実力行使や実力行使までの期限設定を併用すれば効果はさらに上が ります(ただし相手の報復能力が自分のリスクになる事を忘れては行けません)。 圧力は特に何か守るべきものを抱えていたり、意志の弱い相手に特に有効な 手段となります。 この方法は世間一般では”脅迫”と呼ばれています。 ☆4-5【別提案】 目前の交渉が上手くまとまらなかったしても、交渉相手との関係が即座に切 れるとは限りません。 全くの新たな交渉を持ち出す事で交渉自体を継続させる事ができますし、も しかしたらその新たな提案が本来の交渉の再考を促すかもしれません。 互いにに違った便宜を図る事でトータルでの利害を一致させる交渉もありま す。 一般的には「こちらは◎◎するから、そちらは**してくれないか?」といっ た交換条件が用いられます。 交渉相手に直接の利益が発生しない場合でも、交渉相手にとっての利益を保 有する第三者を介在させる事で間接的に取り引きをするという事もできます。 この時”◎◎”と”**”の間に、共通する価値基準(例えば金銭など)が存 在する必要がないため、柔軟な交渉が行えます。
第1回【交渉モデル】 第2回【交渉モデル――「取引」】 第3回【交渉モデル――「説得」】 第4回【交渉における諸要素その1】 ◎第5回【交渉における諸要素その2】 ◆5-0【交渉における諸要素その2】 ☆5-1【コミュニティ】 特定の社会や組織、市場といった共通の慣習を共有する集団には独自のルー ルや習慣があります。 キャラクターが求める利益について権限を持っているのは誰か?侵してはな らない禁忌はなにか? そのコミュニティにおける価値観などといった事柄で す。 そのようなコミュニティなりのルールを知っていれば、無用なトラブルを回 避したり、そのコミュニティ内での協力を得る事もできるかもしれません。 風習/宗教/法律といった地域コミュニティだけでなく、会社組織や官僚組 織、貴族やギルド間のパワーバランスなどといった事がかんがえられます。 一般的にそのコミュニティにおいてタブーとされる出来事に対しては、交渉 相手は非協力的になるでしょうし、あえてタブーを破ろうとする交渉相手であ ればそれなりの理由が存在する事でしょう。 ☆5-2【感情】 理性的なやり取りである「取引」に比べ「説得」はその場の感情や信条によっ て大きく揺らぐ(それも悪い方に)可能性があります。 交渉相手の感情が特に高ぶっていたり何かに強く妄執していたりいた場合、 その反応は予測しがたいものになります。 そのため、マスターは交渉相手の最終的な態度を決定する時、適当な判定 (システムによる)をおこなって”極端な反応”がおこる可能性を考慮に入れて 下さい。 キャラクターはまず、感情を落ち着けるように「説得」する事もできます (そのような余裕があればの話ですが)。 ☆5-3【個性】 一般的な傾向があるとしても、キャラクターが実際に目の前にしている交渉 相手は、一人の個性を持つキャラクターである事に変りはありません。 Aという交渉相手とBという交渉相手に同じ提案をしたとしても、全く違う 答えが返ってくるかもしれません。 交渉相手の個性が交渉内容に影響するかもしれませんし、しないかもしれま せん。下に幾つかの「個性」の例を挙げます。 ◎「猜疑的」な交渉相手は、常にキャラクターの言葉の裏をとろうとするでしょ う。ただ嘘やごまかしを警戒するあまり思い込みによる行動をおこすかもし れません。 ◎「短気」な交渉相手は、あまり細々したり時間をかけた交渉を嫌う事でしょ う。早い段階で交渉を打ち切ったり、十分な検討をせずに交渉をまとめてし まうかもしれません。 ◎「堅実」な交渉相手は、大きなリスクを嫌い何らかの確実な保証を求めてく る事でしょう。しかしながら無難な結果で妥協したり、交渉が長期に及ぶ事 もあるかもしれません。 ◎「強欲」な交渉相手は、可能な限り自分の利益を優先し、可能な限りのリター ンを求めてくるでしょう。キャラクターの弱みに付け込んだり、リスクを失 念してやけどを負う事もあるかもしれません。 ◎「理性的」な交渉相手は、感情に左右される事を嫌い「説得」よりも「取引」 を優先する事でしょう。感情的な出来事に流されず冷静に価値を判断したり、 原理主義的な硬直した考えに囚われるかもしれません。 ◎「感情的」な交渉相手は、理性的な「取引」に納得しない事が多いでしょう。 交渉相手自身の因習に拘泥したり、矛盾する条件を突きつけて来るかもしれ ません。 ◎「特殊な価値観」を持つ交渉相手は、その価値感を最優先する事でしょう。 宗教や哲学、個人的な趣味や思想といった事柄を優先し必要とあればその他 の物事を投げ出すかもしれません。