[KATARIBE 31396] [HA06N] あんまり思いつめるなよ?

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Date: Mon, 8 Oct 2007 02:21:14 +0900
From: Subject: [KATARIBE 31396] [HA06N] あんまり思いつめるなよ?
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[HA06N] あんまり思いつめるなよ?
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登場人物
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 箕備瀬梨真=りまりま
 御羽貞我 =オワタ


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 十一時を過ぎた頃。
 オワタの携帯のランプが、ちかちかと光る。
 もう何年も使い込んだ、傷だらけの携帯。こんな時間にかけてこられることは
あまりないが、予習に集中していたから、確かめもせずに出た。

「はい」
「もしもし、オワタくん?」
「ん、ああ、りまりまか、どした?」
「ごめんね、遅くに……っと、ちょっと相談したいことがあって……」

 いつになく落ち込んだ口調に、オワタは手を止める。
 この声のトーンは、以前にも聞いたことがあった。あの時、泣き止まなかっ
たことを思い出しながら、オワタは真剣に耳を傾ける。

 一部始終を聞いて、オワタはまず一言、なるほど、と言った。

「なんかすごい落ち込んじゃって……もしかして、あたしまたやっちゃったん
じゃないかって……」

 失敗をしでかした、それがわからないほど鈍くはない。ただ、それに不慣れ
なだけで。

「……えーーと、な、うん。たぶん、問題はちょっとこう、お兄さんの気持ちに
なって考えるとこがちょっと抜けてたんじゃないかと、思う」
「兵兄ちゃんの気持ち……もしかして、嬉しくなかった……のかな」
「……その、ええと、たまちゃんって人とは、もう別れてんだろ……」

 うん、とりまりまが頷く仕草が目に浮かぶようだった。

「うん……でも、たまちゃんも今彼氏いないっていうし、普通にあってしゃべっ
たりとかしてるし、それで……また付き合ったらいいのになーって思ったんだ
けど」
「……いや、そういうのは、さ。仲がいいからとかそういうことだけじゃなく
て……」

 りまりまらしい、と思った。
 出会って半年くらい、付き合い始めては一月も経っていないが、りまりまの
思考は基本的にポジティブだ、というのは十分把握している。
 それを否定するつもりはない。咎めるつもりもなかった。オワタ自身、彼女
のその前向きな姿勢に、救われる思いでいるのだから。
 ただ、否定せずに、どう説明していいのか。

「……仲がいいから付き合う、とか、そういうことじゃなくて、さ。やっぱり……
好きな相手じゃなきゃ駄目で」
「うん……それはそうだよね」

 だから俺、りまりま好きだからつきあってるし!
 脳裏でそう言うのにとどまった。恥ずかしくてとても言えない。
 そして。
 りまりまに理解してもらうには、まだ説明が必要なようだった。

「……もしかして、兵兄ちゃん、他に好きな人いて、なのにあたしが……」
「あ、ええと、その……だから、そうじゃ、なくて……ひょっとしたら兄さん
はまだ好きかもしれないけど、その、相手が……そうじゃなかったら」

 オワタは、りまりまが言ったのとは違う状況を想定していた。
 もちろん、本人から確認したわけではないし、そんなことが出来るわけもな
いのは心底わかっている。りまりまの兄たちに対する心理と、兄たち、特に
上の兄のりまりまに対するそれが、ずいぶんと乖離していることは。
 そしてそれは言っていい類のものではない。だから尚更説明が難しい。

「だったら……辛いだろ」
「……そっか……そうだよね……あたし、やっぱりひどいこと言ってたんだ」

 一段トーンが落ちる。

「だからさ、こう、言葉にしちゃう前にちょっと考えればいいんじゃないかな」
「……うん……やっぱりそうしないと……それ徹底してやんないと、あたしダメ
だね」

 冷静でいるときは、それなりに気をつけるようにはしているようだった。
 ただ、まだまだそれは意識しないと出来ないようで、今回もきっと、何か緩ん
だ際に、ぽろっと言ってしまったんだと思った。
 故意ではないし、もちろん悪意もない。
 でもりまりまは。それに気づいて、受け止めて、直そうとしている。どうやっ
ていいかわからないなりに。

 前からうっすらと思っていたが、最近確信を持ったことがある。
 それは、りまりまが、目をそらそうとしないということだ。正面から向き合っ
て、対決するわけでもない。ただ、色々と見て、起きたことを受け止める。
 慣れの問題、時間の問題だと思った。
 何度も経験すれば、また、時間を少しかければ、きっと彼女は理解して、上
手くやっていけるようになる。

 ただ、不運なことに、彼女は、天才肌な面があって。そして努力を努力と思っ
ていないという面もあって。
 大抵のことは上手に出来てしまうし、少し難しいな、と思ったことに対して
は、きっちりと準備をする。それが当たり前のように出来る。
 それ故に、失敗、特に当たり前のようにとった行動から生じた失敗に対して
不慣れなんだと思った。だからあんなにショックを受けて、泣き止まなかった
のだ。

「兄ちゃん帰ってきたら……謝って……とにかく謝んないと」
「でもあんまり思いつめるなよ?」

 謝ってどうする、どうしたらいい、まではわからない。
 オワタは堂々巡りになって落ち込む前に、釘をさしておいた。

「ただ……こういう、色恋沙汰とかは、さ。こうなったらいいなって思ったこと
が……全部うまくいくわけじゃあ、ない、から」
「……そうなんだ……好きになったら、幸せで……実際今そうだし、周りもそう
なんだって、思っちゃってたな」
「……うん、幸せだと思う」

 一息ついて、続けた。

「でも、さ、それは相手も同じじゃなきゃ、だめだから」
「……こっちがそう思っても、相手がそうじゃなかったら、辛い時もあるから」
「うん……そうだね。なんか、ちょっとわかってきた感じ。ありがと、オワタ
くん」
「うん……ほら、あの、その」

 ん? と、耳から少し遠く聞こえた。
 りまりまの声が小さくなったわけでも、携帯の音量が下がったわけでもない。
 息を吸って。

「……俺は、さ……りまりまのこと、好きだから、さ……」
「……うん! あたしも……好きだよ、オワタくんのこと……」

 一、二秒の沈黙の後、聞こえるささやく声。耳元で本当にささやかれている
ようで、心臓がばくばく動いているのを感じた。

「……うん……がんばれよ、りまりま」
「……うん……がんばる。オワタくんのこと、もっと……わかってあげれるよ
うになりたいし……」
「……うん、じゃあ……また、今度俺から電話する、から」
「うん。それじゃまた明日……あ、明日、お弁当……持ってく」

 二人して、うん、うん、繰り返して。
 オワタは部屋中うろうろしながら何度も頷いた。

「ああ……楽しみにしてる」
「おやすみなさい」
「お休み、明日な」

 電話が切れる直前に。

「きゃー」

 という嬉しそうな声と、すぐ後に、ゴンという鈍い音が聞こえた。
 明日、お弁当をつつきながら聞いてみよう、そう思った。



時系列と舞台
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 10月初旬。
 http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/31300/31395.html
 の続き。


解説
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 もう。


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Toyolina
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