[KATARIBE 31395] [HA06P] Episode:たまちゃん

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Mon, 8 Oct 2007 01:07:51 +0900
From: Subject: [KATARIBE 31395] [HA06P] Episode:たまちゃん
To: kataribe-ml <kataribe-ml@trpg.net>
Message-Id: <2f58daf20710070907t5ce67b25qb80ef9a51e44ac1e@mail.gmail.com>
X-Mail-Count: 31395

Web:	http://kataribe.com/HA/06/P/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/31300/31395.html

[HA06P] Episode:たまちゃん
===========================
登場人物
--------
 箕備瀬梨真
 箕備瀬兵馬
 箕備瀬数馬


スーパーで無防備
----------------

 スーパーの精肉売り場で。
 学校帰りらしいりまりまが、豚肉のパックとにらめっこしていた。
 大きめのベージュのカーディガン。スカートがぎりぎり隠れてしまう程の。
 前屈みになって、右から左へ、左から右へ、上段にずれてまた右から左、と。
 ずいぶんな熱心さだ。

 りまりま   :(こっちはちょっと厚いけどグラム50円高い……)

 厚いのはカツ用のロース。薄いのは生姜焼き用、と書かれている。
 生姜焼きを作るのに、どちらがいいのか悩んでいるようだ。

 りまりま   :(厚めの大きいお肉と、薄めの食べやすいのがいっぱいなの
        :と、どっちがいいんだろ)

 それは好みによる、としか言いようがないが。
 厚めのお肉でステーキ風に仕上げるのもいいし、薄めのお肉で焼き肉風に仕
上げるのもいい。
 むしろ、背後を通る他のお客さんが、微妙に視線をそらしたり、ちらちら見
たりしているのが気の毒に思えてくる。
 しかし、当人は気づかないままで、前屈みのまま、メールを打ち始める。

 りまりま   :(兄ちゃんは生姜焼きのお肉、厚いのと薄いのとどっちが
        :好き?)

 程なく。一分と開けずに返事がくる。

 兵馬@メール :「厚いのがいい」
 数馬@メール :「薄いのがいい」

 見事なまでに正反対で、まったく参考にならなかった。
 本人もそれは予想していたようで、ぷっ、と吹き出して携帯をカバンにしまう。

 りまりま   :「……両方してみたらいいか」

 厚めのカツ用と、薄めの生姜焼き用を1パックずつ買って、りまりまは帰宅
した。


自宅で無防備
------------

 りまりま   :「ただいまー」

 玄関で靴を脱いでいると、大男が二人、ぞろぞろと顔を出す。
 二人の兄、兵馬と数馬だ。

 兵馬     :「お帰り。晩飯は生姜焼きか? 分厚いの買ってきたか」
 数馬     :「いや薄いの買ってきたよな」
 りまりま   :「んー? 両方買ってきたよ。どっちがいいかわかんない
        :から」

 パックを見せるりまりま。
 明らかに怪訝そうな顔をする二人。

 兵馬     :「……なあ、これで足りるわけないとおもわねえ?」
 数馬     :「いや、晩ご飯じゃないんだろコレ」
 兵馬     :「酒のツマミか?」
 りまりま   :「兄ちゃんたちが食べ過ぎなんだって。これでも正直多いっ
        :て思うのに。冷蔵庫入れてくるから返してソレ」

 今日の晩ご飯のおかずだと思っていた兵馬。同じくそう思っていたが、すぐ
気がついた数馬。このあたり、弟の方が頭が回るらしい。
 もー、と兵馬の手から豚肉のパックを取り返して、りまりまは台所に行って
しまった。
 少し素っ気ない、そう思えた。
 そんな可愛い可愛い妹の背中を見送ってから、兵馬が呟く。

 兵馬     :「……どういうことよ。数知ってんなら教えろ」
 数馬     :「……手料理か弁当なんじゃねえの」

 手料理、弁当。
 しかも、量から言って自分向けではない。
 ショックを受けつつ、兵馬は数馬に向き直る。
 その拳を、数馬の脇腹にたたき付けながら。
 ひるむのは一瞬だけで、数馬もすぐさま脇腹を殴り返す。
 ゴス、ゴスと鈍い音が響く。
 いつもの箕備瀬家の光景だ。

 兵馬     :「……てめえ、知ってんなら黙ってんじゃねえ」
 数馬     :「アホか! テメエのカンが鈍いだけだろうが!」
 兵馬     :「くそ、まさかもう付き合ったりしてんじゃねえだろうな」
 数馬     :「本人に聞けよ、このヘタレシスコン」

 ヘタレ、という言葉で兄のスイッチが入る。

 兵馬     :「そうしたらぁ、てめえぶっ殺してからな」
 数馬     :「やれるもんならやってみろや、この顔だけヘタレ」

 弟も負けてはいない。
 身長が同じくらいになってからは、勝敗は五分五分だ。
 正確には、決着つかずばかり。
 なぜなら。

 りまりま   :「兄ちゃんたち、プリン買ってきてるから、おやつね」

 廊下から顔だけ出して、りまりまが口を挟む。
 二人の兄は、程度の差はあれ、妹が可愛くてしょうがない。
 だから、妹の声には真っ先に反応する。

 兵馬     :「プリン? おやつ?」
 数馬     :「あ」

 振り返った兵馬のこめかみあたりに、数馬がフックで一撃。
 反射的に手が出ていた。
 ぐお、と呻いて倒れる兵馬。
 しかし、これも見慣れた光景なので、りまりまも、ちょっとびっくりしたく
らいで、そのまま続けた。

 りまりま   :「あ。っと……うん、プリン。一人一個ね。めっちゃ美味
        :しいから、仲良く食べてね?」
 兵馬     :「……」
 数馬     :「……おっし、プリン食うかプリン」

 誤魔化すように台所に向かおうとする。
 そこに、地の底から響くようなドスの効いた声が。

 兵馬     :「待てコラ……」

 しかししかし。
 りまりまには効きめがないようだった。

 りまりま   :「もー、仲良くしてって言ったのに。兵兄ちゃん、オトナ
        :げなさすぎ」
 数馬     :「そうだよ、兵兄ちゃんガキだよなあ、リマ子」
 りまりま   :「ほんとほんと。数兄ちゃんの方がオトナだよねー」

 ねー、と年の近い兄妹が息の合うところを見せつける。
 兵馬は二十歳、数馬は今年十八。りまりまは今年十六。

 兵馬     :「……リマ、お前、もう……」

 オトナという単語に過剰反応しているのか。
 二の句を告げないまま、ゆらりと立ち上がる兵馬。

 りまりま   :「? もう何? プリンだったら食べたけど」
 兵馬     :「プリンは……プリンは後で食べる」
 りまりま   :「うん」
 兵馬     :「それはいい。リマ、お前……まさか……」
 りまりま   :「?」

 まさか、なんだろう。
 わからないので、首をかしげて兵馬の言葉を待つ。

 兵馬     :「……付き合ったり……してんのか……?」

 ぎくり。
 たしかに、オワタとつきあい始めて間もない。
 だから、まだ二人には、むしろ家族にはそれを話していなかった。
 それでも、聞かれたから素直に答えようとする。
 あっという間に、顔が熱くなった。

 りまりま   :「……え、え、えっと……や、やだ急に。兵兄ちゃん、
        :そういうの、ふつう、鼻血出しながら言わないって、やだな
        :もう」
 数馬     :「ああ、オワタくん、彼氏になったんだ。そっか。何、割と
        :早かったんじゃねえ? 何ヶ月とかそんなレベルっしょ」

 知る人ぞ知る名店。
 ケーキのイチハラのカスタードプリンを手に、数馬が戻ってきた。
 相変わらず、比較問題とはいえカンがいい。
 りまりまはそれに驚きながら、やっぱり素直に答えた。

 りまりま   :「え、なんでわかるの!? 何ヶ月っていうか……えっと、
        :最初会ったの、入学式だから、半年……くらい?」
 兵馬     :「……入学式!? って、あいつか!?」

 兵馬が言うあいつ、とは。
 入学式の日に、可愛い可愛い妹の下着を偶然とはいえ拝むことに成功した、
エロガキ(主観的な表現)のことだ。
 一瞬で、入学式の晩ご飯の会話がよみがえる。

----

 りまりま   :「なんか今日あるいてたら、急に突風吹いてスカートめくれ
        :ちゃってー」
 兵馬     :(ブフォッ)
 りまりま   :「下の方にいた、二年生の人と目、あっちゃって、すごい
        :気まずかったー」
 お父さん   :「ちゃんとスカートおさえとかんとなー」

----

 大変な話題なのに、ハハハ、と笑ってすます父親と、恥ずかしかったよー、と
言いながらやっぱり笑って済ませる無防備な妹。
 やはり、リマはオレが守らないと。
 父親は豪快すぎる。母親は無防備過ぎる。
 両親の性格を見事に受け継いでいる年頃の妹。
 守らなくてはならない。誓いを新たにした、四月の初旬の出来事。

 当のりまりまは、成り行きとはいえ、付き合ってる、ということを話すことに
なって、なんとも幸せそうな顔になっている。
 精神的にも少し緩んだのか。
 とある人物の名を出した。


自宅でうっかり
--------------

 りまりま   :「なんか今ねー、たまちゃんの気持ち、ちょっと分かって
        :きたかなーって、もしかしてこんな感じかなーって」

 たまちゃん。本名:瑶萌(たまも)という。兵馬の前の彼女で、地味な中学生
だったりまりまを高校デビューさせた張本人でもある。
 今は美容師見習いだが、当時、美容師志望だった彼女は、りまりまを練習台
にしたのだった。

 りまりま   :「兵兄ちゃんも、たまちゃんとまた付き合ったらいいのに。
        :今でも会ってるんだしー。ねえ、数兄ちゃんもそう思う
        :よね?」

 さすがにギクリ、とする数馬。
 何を思ってりまりまがそう言ったのか。
 答えはわかっている。そうしたらいい、と心底思っているのだろう。
 確かに付き合っていたときの二人は仲が良かったし、りまりまもたまちゃんと
仲良しだった。

 数馬     :「そ、そうだよな、今度たまちゃんに会ったら、オレもいっ
        :とくわ」

 さすがにこれは。
 兵馬に同情してしまう。
 とはいえ、叱るよりはさらりと流してしまおう、そう思った。

 兵馬     :「……ちょっと出てくるわ……プリン食べんなよ……」
 りまりま   :「あ、うん。晩ご飯は?」
 兵馬     :「帰ってきて腹減ってたら食うわ」

 ふらふら、よろよろと兵馬はサンダルをはいて。
 歩いて出て行った。

 さすがにその様子がおかしい、と思ったらしく。

 りまりま   :「……兵兄ちゃん、なんか変じゃない? たまちゃんと今、
        :仲悪かったりする……のかな」
 数馬     :「いや……たまちゃんは相変わらずの筈なんだけど……
        :いやその……」

 別れてはいるけれど、それで断絶しているわけではない。
 友人として、普通に話したりはしている筈だ。実際、兵馬の坊主頭は、毎回
練習を兼ねてたまちゃんが当てているのだ。

 りまりま   :「たまちゃんにメールしてみよっかな」
 数馬     :「いや、それはやめとけ、マジで」
 りまりま   :「……なんかまずってる? もしかして……」

 数馬を見上げるりまりま。
 身長差は30センチほど。見上げてもなお上目遣い気味の視線に、数馬は少し
焦りながらこたえる。

 数馬     :「……いやその……あー……ほら、リマ子のこと心配してん
        :だよ、だから、彼氏出来たっての、ショック受けてんじゃ
        :ねえの、多分……」
 りまりま   :「でも、たまちゃんの名前出したらすっごい落ち込んでた
        :けど……」
 数馬     :(それはなあ……)

 さすがに、世間知らずだな、と思わざるを得ない。
 ただそれも無理はないし、過保護にしてきたのは自分たちでもある。
 口には出せない数馬だった。

 数馬     :「どうせ今日、飲んで帰ってくんだろ。そしたら布団でも
        :かけてやったら、機嫌治るって」

 あいつ単純だからな、とまでは言わない。
 りまりまの頭をぽんぽんしながら、忠告する。

 りまりま   :「……うん、そうする」

 なんか隠してる、そう直感しつついろいろ腑に落ちないりまりまだった。


時系列と舞台
------------
 10月上旬。


解説
----
 いよいよ危なっかしくなってきたりまりまさん。


-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
Toyolina
 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/31300/31395.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage