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Date: Fri, 9 Feb 2007 22:58:33 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30781] [HA21N] 小説『 FROZEN ROSES へ至る者』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200702091358.WAA52075@www.mahoroba.ne.jp>
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Web: http://kataribe.com/HA/21/N/
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2007年02月09日:22時58分33秒
Sub:[HA21N]小説『FROZEN ROSESへ至る者』:
From:いー・あーる
ども、いー・あーるです。
ちょと書いてみました。
以前、流れたログを元にしています。
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小説『FROZEN ROSESへ至る者』
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登場人物
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片桐壮平(かたぎり・そうへい)
:吹利県警巡査、魂の無い不死身の男。
薔氷冴(みずたで・ひさえ)
:FROZEN ROSESのマスター、凍てつく女。
今宮タカ(いまみや・たか)
:流れを見て操る少女。多少不思議系。
本文
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人の流れ、という。
ならばそれは、『人』という構成粒子による……一つの流れである。
風は大気の流れ、という。
ならばそれも……波を伴う、一つの流れである。
様々な流れはタカの目の前で、重なり、足し合わされ、時に異様なくらい複
雑な文様を描く。
「……みやま、綺麗だね、これ」
肩の上の鴉は、こうやって二人っきりの時には、結構反応を示す。今だって
みやまはタカの肩の上で、ぱたぱたと翼を動かしている。
「綺麗。ほんといっぱい綺麗」
いつの間にか入り込んだ路地には、きらきらと細い青白い波が、どこかその
晩の月の光の質感に似て漂っている。
ぱたぱたと歩くタカの周りで、その波は淡く砕けては消えてゆく。
「綺麗、これも綺麗、ここも綺麗」
ぱたぱたぱた。
踊るように、走るように、波を追って進んでいたタカは……ある意味非常に
迂闊であったともいえる。つまり。
ごん。
「…………いたーっ」
……つまり周囲の風景を、全く視野から排除してしまっていた、という点で。
「扉を教えてくんないんだもん、みやまのばかーっ」
ごん、とぶつかった扉は木製、かなり丁寧に作られた一枚板のドアである。
知らん振りのまま、肩に止まって明後日の方向を向いているみやまに文句を言
いながら、とりあえずタカはよいしょ、と扉を押した。両開きの扉は、でも、
片方だけでも相当に重い。よいしょよいしょ、と押して、ようやく充分に開い
た途端。
「嬢ちゃん?!」
最初に飛び込んだのは、黒く深い穴。そしてぱたりと身動きするみやまの羽
音と一緒に。
「……あれ、おじちゃんだー」
二、三度瞬きして、タカは店内を見直す。
きのこに似たスツールが、いくつも並んだカウンター。幾つかテーブルが配
置されている店内には、でも今は片桐と、もう一人。
「あら、小さなお客様。お知り合い?」
くすくす、と、笑う声にそちらを見ると、カウンターの向こうから、一人の
女性がにこにことこちらを見ていた。
「あーなんちゅうか、まあ……ちょっとたまに面倒見てる子じゃのう」
少しだけ困ったような顔で、片桐は自分の隣のスツールを手で軽く叩く。
「うん、おじちゃんなんです」
その合図に、タカはとことこと近づいて、よいしょとスツールに上る。結構
高いスツールで、足はとても床には届かない。
「ふふ、お嬢さん。お飲み物でもいかが?」
「あ、はい、ほしいです」
ぶらぶらする足を、出来るだけ抑えて、膝に手を置いて。ぺこ、と頭を下げ
るとその女の人はにっこり笑った。
「はい、おとなしいいい子ね。じゃあオレンジジュースでいいかしら?」
「はいっ」
こんな、おとなのひとのお店(タカ主観)で、ジュースなんて飲ませてもらっ
たことは、無論無い。わくわくしながら見ていると、チェリーを浮かべたオレ
ンジジュースが、するんと目の前に出てきた。
「わぁ……ありがとうございます」
カウンターの端に指をそろえて、お辞儀する。どういたしまして、と、カウ
ンターの中の綺麗な人はほんのり笑った。
「……でも、おじちゃん、ここどこ?」
ストローを口にくわえて一口飲み込む。ほわっとした甘さと酸味が口の中に
広がる。何となくほっとして……そしてようやくタカは周りに視線を移した。
「ここか?まあ……色々と探し物や調べ物をしてもらうとこじゃの」
「……へー」
無論のこと、そういう場所をタカが知っているわけもないし、そもそも何を
調べるのかすらよくわからない。目をぱちくりさせたが、
「あ、そしたらそしたら、おじちゃんのおなかの穴の中身、探してもらうの?」
ストローを咥えながら首を傾げると、片桐は少し笑った。
「そうじゃな。穴の中身と、いやなモンが流れてこんように元を正すためのネ
タ探しをな」
なるほど、と頷いたタカは、カウンターの中の女性のほうに向き直った。
「ええとええと、探す人、なんですか?」
綺麗な人である。
年齢から考えたら、亡くなった母親とどっちが上かわからないが、けれど、
以前の友達のお母さんたちのように『おばちゃん』と呼ぶのは似合わない。そ
れで何となく、人称代名詞を略してそう尋ねながら、タカは首をかしげた。
「…………あれ」
「どうしたの?」
どこか人懐こい笑みを浮かべてこちらを見ている女の、その長い髪の辺りを
さらさらと光るものが流れる。
細い、少し青みがかった光が。
「…………みやま」
ぽつり、と、小さな声で呟くと同時に、肩の上の鴉がかくっと首を曲げた。
「…………っ」
途端にタカは息を呑んだ。
人間の形をした、青白い光の塊。よく見ればそれは、白い中を流れてゆく青
の多面体の群れで、それがかろうじて人型の枠組の中を移動している。
綺麗な綺麗な……異形。
「お嬢ちゃん?」
怪訝そうな声に押されたように、みやまがまたかくりと首を曲げる。
泣き出しそうになっていたタカの視野が……普通のものに戻る。
目の前の綺麗な異形は、綺麗な女性に戻った。
下手をすると冷たい印象すら受けるだろう綺麗な顔立ちは、人懐こそうな表
情のせいで柔らかなものに変わっている。それでもどこか、怖くて。
「…………でも、綺麗だったもんっ」
優しく笑う人からどろりと零れる臭気を放つ流れ。ぐるぐると大気を巡る、
内臓のような色合いの流れ。
そんなものに比べたら、さっきのは遥かにマシだと思う。
……初めて見る異形だったとしても。
「だからだいじょぶっ」
「嬢ちゃん?」
不審そうな片桐の声に、タカは何度か瞬きを繰り返した。気がつくと、目の
前の女性も、相当不思議そうな顔でこちらを見ている。
「……ジュース、おいしいです」
「そう?よかった」
もごもご、と呟くように言ったタカに、それでも女性はほんのり笑ってそう
答えてくれた。
この人はいい人なんだから。
もし、普通のひとじゃないとしても、いいひとなんだから。
だから……怖くない、怖くなんて無い。
と。
不意に頭をわしわしと撫でられて、タカは目をぱちくりさせた。
見上げると、心配そうにこちらを見ている目に出会った。
不審ではなく、ただ……心配そうに。
だから。
わしわしと撫でてくれた手を捕まえて、上着の袖に額をぎゅっと押し付ける。
怖いものが現れても、大丈夫なように。
(怖くないでしょ、もう)
以前、まだ母親が生きている時にも、怖いものを見ることは何度もあった。
その度にこうやって、額を押し付けて目をつぶった。
(何にも怖くない。何にも悪いことなんてない)
(おかあさんいるからね)
怖くない、怖くない。
おじちゃんが居るならこわくない……
「でもな、嬢ちゃん。ここは嬢ちゃん一人ではいっちゃいかんぞ」
何だかようやく安心してタカが顔を上げる。それを待っていたように、片桐
が口を開いた。
「……え」
とても静かなお店である。
お客も、今は彼女と片桐だけである。
そんな危ないところには、とても思えないのだが。
「…………なんで?」
きょとんとして、大人二人を見やる。二人ともが苦笑した。
「あーここは本当はお酒を飲むところじゃ」
すい、と、念を押すように指を立てて。
「もしくるんじゃったらワシと一緒にな」
片桐にすれば『注意』の積りだったか知れないが。
「……おじちゃんといっしょ?」
「おう」
「…………うわあいっ」
タカにとっては、それこそ『ばんざーい』な話である。あんまりの喜びよう
に、カウンターの女性がふふ、と笑った。
「ええ、また一緒に遊びにきてね、お嬢ちゃん」
「ありがとうございますっ……ええと」
おばさんではないし、多分おねーさんでもないし、何て言えばいいんだろう、
と、ええとええと、と考えていると。
「マスター、よ」
くす、と、口元を艶やかに綻ばせて、相手が答える。
「マスターさん、ありがとうございます」
「どういたしまして」
嬉しくて嬉しくて。
一緒に来てくれるんだ、と、思うだけで嬉しくて。
ぺったりと片桐の腕に張り付いてみる。苦笑する気配はあったが、決して振
りほどかれない。
それが余計に嬉しくて嬉しくて。
タカは声を立てて笑った。
マスターこと、薔氷冴はほんのりと笑って二人を見ている。
片桐は、半ば諦め、半ば居直ったような顔で、やはり苦笑しながらタカを見
ている。
そんな、或る夜のことである。
時系列
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2007年1月ごろ。
「チャットログ『ギリちゃん、FROZEN ROSESに訪れる(http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/30700/30701.html)から書き下ろしたもの。
解説
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片桐家三女(あれ?)に至る道の、その途中。
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てなもんです。
であであ。
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