[KATARIBE 30347] [HA06P] the rusty knife

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Date: Fri, 17 Nov 2006 12:02:17 +0900 (JST)
From: Saw <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30347] [HA06P] the rusty knife
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年11月17日:12時02分16秒
Sub:[HA06P] the rusty knife:
From:Saw


エピソード:『the rusty knife』
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登場人物
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小日向素直 :脳に策士の棲むだめっこどうぶつ。
神終空音  :二学期から復学してきた謎の絶対領域。

縁故
----
 『同盟』を結んだ数日後の昼休み。中庭の隅、生徒たちの生活ラインから死
角になったような低木の陰。素直は息を潜めるように乾いた落ち葉の上に座っ
ている。
 ここ数日で急激に下がった気温の影響で弁当を食べに来る生徒も少ない。庭
は閑散としていた。
 素直は胸ポケットから取り出したカッターナイフを手にとる。見た目には何
の変哲もない厚手のカッターナイフ。錆付いていて刃を出すことすら出来ない。
 しかしコレは先日空音に預けたものだ。

 素直     :「うーん、やっぱり戻ってきた」 

 今朝素直が席に着くと机にソレは収まっていた。預けたときの口振りからい
っても空音が勝手に入れていったとは考えにくい。ならばやはり「戻ってき
た」のだろう。
 素直は内心期待してもいた。このカッターナイフに目をつけて預かっておく
とまで言ったのは空音が初めてだったからだ。本能と経験から危険なものだと
いうのは流石にわかる。安全な形で手放せるのならそれに越したことはなかっ
た。だがいざ戻ってくるとソレをそのままにしておく気にはなれずに仕方なく
持ち歩いている。

 その素直を観察しているものが居る。彼は仲間達と話しながら中庭の反対側、
校舎間を繋ぐ連絡通路を歩いていた。その仲間たちすら、彼が20mも先の物陰
にいる素直のことを観察しているとは思いもよらない。無論素直自身に気づけ
るわけもない。
 
「ウッホ! マジかよソレ。俺様もよー、昨日は例のF中の女と深夜まで一緒
に居たからもう眠いの眠くないのって」
「アハハ! やだー、ありえないでしょソレ」
「ていうか話の流れ完全に無視してるよね」
「これでツヨシは結構モテるらしい。見たことはねーが」
「で、何してたの? 具体的にどうぞ」
「いや、だからよー?」

 彼は素直の持っているナイフを見て酷薄な笑みを浮かべる。彼の仲間たちは
その無関心と愚鈍さから、彼が何を見て笑っているのかと言う疑問すら持たず
に自分の話に熱中していた。

破壊
----

 空音     :「……あの、ちょっといい?」
 素直     :「あ、かみはてさん」

 人のやってくる気配がしたので素直は咄嗟にナイフを隠す。
 長い黒髪、長い手足、シルエットだけでも目立つ。同盟者の神終空音だ。
 空音は眉間に皺を寄せて神経質に目を泳がせている。先日話した時の落ち着
きは見えない。何か怒らせるようなことをしたかもしれないと素直は不安にな
る。怒られるのは得意じゃなかった。

 空音     :「ごめんなさい。預かってたアレ、見つからなくて。まだ
        :諦めてないけどどうしても見つからなくて。ゴメン……」

 空音は二度謝罪の言葉を口にして頭を大きく下げた。
 なんだそんなことかと素直は一安心。
 胸ポケットからカッターナイフを取り出して差し出してみせる。

 素直     :「えっと、机に入ってたよ」
 空音     :「え? そんなはず……」

 空音の顔がこわばり、間違いなく自分の預かったソレだということを確認す
ると額に指を当てて何か考え始める。そうか、そういうことか──意識せずに
独り言を呟くに至り、空音は素直に強い視線を向けた。
 ぼけっと空音を見ていただけの素直は意味がわからずに小首をかしげる。

 空音     :「小日向。それ、誰に貰ったの?」 
 素直     :「えーっと、学生なんとか支援機構の人」 
 空音     :「まともな肩書きある人が学生にそんなモノ渡すはずない。
        :貸して」
 素直     :「あ」

 素直が声を上げるより早くカッターナイフを奪い取り、空音は中庭のタイル
敷きされた箇所にそれを叩き付けた。
 プラスチックと金属の乾いた音が人気のない中庭に響く。
 空音は何か呟くが素直には聞き取れない。
 そしてカッターを何度も何度も踵で踏みつけ始めた。その度にプラスチック
と金属の乾いた音が鳴り、時にカッターはバウンドしたりもするが空音は執念
深く踏み続けた。
 ソレは意味がない、と素直は思う。カッターナイフがそう簡単に壊れないと
いうことを素直の脳のどこかが告げている。だから空音が納得いくまでやらせ
てみようと思った。
 20秒もすると空音は肩で息をして行為に見切りをつけた。

 素直     :「かみはてさん、どうして壊そうだなんて考えたの?」 
 空音     :「……おかしいでしょ!? だって。私はちゃんと鞄に入れ
て持って帰った。それに、これだけ踏んでも壊れない。こんなただのカッター
ナイフが」

 空音は初めて声を荒げた。
 素直の脳のどこかが「彼女は動揺をみせて事態の大きさを表現し、こちらの
反応を引き出そうとしている」と告げる。別に隠すつもりもないのに、と素直
は思う。
 空音はじっと素直を見据えている。肩で息をしてはいるが、その目は観察者
のそれだ。

 素直     :「違うね。かみはてさんは、壊れないから変だと思ったん
じゃない。変だから壊そうとしたんでしょ」 

 素直は暗に「そのカッターナイフの異常性はこちらもわかっている」という
事を告げる。そして同時に空音の勘が良すぎる事にカマをかけてみた。
 空音は姿勢をただして落ち着き払った表情を取り戻す。やはり先ほどの動揺
は演技だったようだ。意外に芸達者だなあと素直は感心する。

 空音     :「あなた、どこまでわかってやってるの」 
 素直     :「実はあんまり」

 ほにゃっとした素の笑みを素直は浮かべる。相手があんまり警戒心むき出し
なものだから、その期待にそぐえなかったのが逆に気恥ずかしかった。

 素直     :「ただのナイフじゃない、ってことしか」

 申し訳ばかりに付け加えるが、情報価値はないに等しい。
 空音はため息をついてまた沈黙する。素直は何を言っていいかわからずに、
相手が口を開くのを待つ。

 空音     :「……近いうちに話す。私のこと、コレに関する推測」 

 やがて空音は視線を合わせず、憂鬱そうに言う。そしてカッターナイフを拾
い上げて素直に手渡す。

 空音     :「少し考えたいことがあるし、材料を揃えたい。」
 素直     :「いいよ」

 素直の脳のどこかがまた「入手の日時、普段は刃を出せないが一度だけ出せ
た事実、その時の状況」を告げろと囁く。素直は「あ、そっか」と一人ごちて
その事を空音に告げてやった。

 予鈴が鳴ったのでばらばらに教室に戻ることにした。まだ一緒に行動してい
るところをあまり連中には見られたくなかった。
 別れ際、空音は素直に言う。

 空音     :「その落ち着き払った態度、確かにバカには嫌われそう」
 素直     :「あーうー、普段はそうでもないんだけどなぁ」 
 空音     :「……大物だよ」

 空音は呆れたように笑った。釣られて素直も恥ずかしそうに笑う。

 素直     :「小物だよう」
 空音     :「頑張ろう。こっちには後がないんだから」 
 素直     :「かみはてさんは、そんなに悪い立場じゃないと思うんだ
        :けど」 
        :「なんとなく一目置かれてるし、一人でも強そうだし、そ
の、年上だし、えと、美人だし」

 素直はどうしてもぬぐえない疑問をたどたどしく口にする。空音がここまで
この件に頭をつっこむ理由がいまいちわからない。それは不安要素だった。最
後に褒め言葉を付け加えたのは脳のどこかが「そのほうが円滑に話を進められ
る可能性がある」と囁いたからだが、意外と自然に口に出来たのは素直自身に
も意外だった。
 空音は一瞬まじまじと素直を見て、憮然と言う。

 空音     :「やだな、年上ってツライよ結構」

 空音が一年休学していたのは周知の事実だが、ただなんとなく年上という認
識だけでいたのは素直だけだったらしい。世間的な留年のイメージを思い出し
て素直は咄嗟に反応する。
 
 素直     :「あ、うん。だよね。ごめん」 

 別にかまわないよ、と言う空音の顔は本当にどうでもよさそうだったので、
素直はどうもよくわからない娘だなあと思った。

 空音     :「じゃ、また明日ここで」 
 素直     :「じゃあ、明日」

その日の放課後、素直はまた武田達に絡まれることになる。

時系列と舞台
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11月。国立吹利学校中等部。


解説
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an alliance(http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/30300/30338.html)の続
き。
元ログ→http://kataribe.com/IRC/HA06-01/2006/11/20061115.html#010000



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