[KATARIBE 29517] [HA06N] 小説『一通の手紙』 ( 中編)

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Date: Thu, 17 Nov 2005 23:33:50 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29517] [HA06N] 小説『一通の手紙』 ( 中編)
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年11月17日:23時33分50秒
Sub:[HA06N]小説『一通の手紙』(中編):
From:久志


 久志です。
一通の手紙、続きます。
参考にこっちも読んでおくとよいかも。
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28300/28356.html

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小説『一通の手紙』(中編)
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登場キャラクター 
---------------- 
 本宮和久(もとみや・かずひさ)
     :吹利県生活安全課巡査。生真面目さん。あだ名は豆柴。
 如月尊(きさらぎ・みこと)
     :体は女子高生、心は年上お姉さんな人。

帰宅して
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 家に帰り着いて、ポケットにはいった封筒をテーブルに置いて上着を脱いで
ハンガーに掛けた。
 雨こそ降らなかったものの、風がかなり冷たかったせいで随分身体が冷えて
いる。コーヒーでも飲んで身体を温めようと、台所でヤカンをコンロに掛けて
火をつける。

 テーブルの上に乗ったままの淡い水色の封筒。
 何が書いてあるのだろう。

 クリスマス前のあのやり取りの後、どちらともなく距離をおくようになり、
仲間内で表向きは話していても、以前のように一緒に親しく話し合う機会は殆
どなかった。そして三月に故郷の吹利での勤務になってから、それきり連絡を
取ることもなくなってしまった。

 吹利に戻ってから。幼い頃からの懐かしい風景を見て、昔馴染みの友人らに
会って。そしてフラナと佐古田。ずっと一緒だった親友二人と久しぶりに会っ
て話して、今まで忘れようとして自分の中に閉じ込めていたものが溢れ出して。
ただ、懐かしさと時間の流れと、あの子との別れの辛さとが、何もかもごちゃ
混ぜにになって、ただ泣いていた。だから逆に、やっと自分の中でずっとわだ
かまってた行き場のない気持ちがほどけていくのがわかった。

 故郷吹利での新しい生活はやっぱりそれなりに忙しくて。東京にいた頃の仕
事量と変わらないけど。あの頃に感じていた、胸が詰まるような息苦しさも、
ぽっかり穴の空いた喪失感もすっかり消えていて。
 それはフラナや佐古田、兄貴達、そして吹利での懐かしい友人達がいてくれ
たからで。周りに支えられていたお陰で、辛くとも目を逸らさずに現実を受け
入れられて、辛いときには話を聞いてくれたり力づけてくれて。

 そうやって、あの子のことが少しづつ思い出に変わっていって。

 そして。
 昔からの馴染みで、一緒にいてどこか懐かしい気持ちにさせてくれる人が。
 あの頃は年上のお姉さんとして、高校生だった自分らを励ましたり元気付け
てくれていて。

 今は……

 ぴーっというヤカンの音にふと顔をあげる。
 コンロの火を止めて、マグカップにヤカンのお湯を注ぐ。

 なんだかなあ。
 自分でも随分、勝手だと思ってる。あの時、あんなにあの子のことを忘れら
れないと言っていたくせに。
 今、ふとした時に目に浮かぶのは、あの子でなく。

 高校時代からの昔馴染みのお姉さんで、でも今は自分より年下の姿になって
しまっている、あの人。

 ああ、それより手紙を読まなきゃ。
 マグカップを手にひと口コーヒーを飲んでから封筒を手にとって、糊付され
た封を注意深くはがした。


ちょっとお話
------------

 吹利県警、広い道場の中で響く竹刀の音。
 すっかり寒さの増したこの時期でも、県警道場での剣道の稽古はやはり手に
汗握る。夏の稽古での練習試合以降、あの人――尊さんとは何度となく一緒に
稽古を続けていた。

「鋭!」
「応!」

 白胴着に白袴、赤胴姿の尊さんとの手合わせ。白い防具に包まれた小手から
繰り出す一閃はとても女性の細腕とも思えぬ鋭さと力強さで。最初は技術量の
差から、尊さんに何度も遅れを取ってしまったものの、最近ではお互いに技術
を磨きあって、競い合えるほどになっている。
 圧倒的な力量差を感じる相羽さんや史兄とも違い、取るか取られるかという
ギリギリのラインで競い合える相手というのは、逆に取られるものかという負
けん気と、互いに腕の上達を感じられる楽しさがある。

 正眼に構えた竹刀の先、面に覆われた更に奥、睨み合う視線。そんな激しい
やり取りの中で感じる競争心と力量を認め合う信頼。

「めぇぇんっ!」
「せいっ!」

 そして。
 正直、今は少し別な気持ちが自分の中にあって。



「お疲れさま、本宮くん」
「はい、お疲れ様です」
 被っていた面と頭に巻いたタオルをはずして、少しくせのついた髪を軽くな
でつけながら、尊さんが汗の浮かんだ額を拭っている。
「なかなか上達早いね、うかうかしてると追い越されちゃいそう」
「そんな、まだまだですよ」

 尊さんの顔を見ながら、ふと、迷う。
 持田さんとのことは自分がけじめをつけなければいけないことで、どうする
かは自分で決めなければいけない、それはわかっている。
 でも、どうするべきなのか咄嗟に答えがだせなくて。
 突然こんな話をするのは変だと思う。だけど、ただ、話を聞いて欲しくて。

 稽古を終え、帰り際。
「あの、尊さん」
 胴着を入れたスポーツバッグを片手に小さく首を傾げる。
「なに?本宮くん。どしたの、改まっちゃって」
「ちょっと……迷ってることがあって、その、聞いてくれるだけでいいんです」
 一瞬、戸惑いつつもなんとか言葉をひねり出す。
「ん、そこ、座ろか」
「はい」
 ふわりとした笑顔を浮かべて、道場の出口近くのコンクリートをちょいと指
差した。腰をおろした尊さんの隣に座って、ちらりと見上げてくる目が合う。
ことんと首を傾げて口をひらいた。

「で?」
「あの、実は……手紙をもらったんです。東京に居た頃の研修仲間だった女の
子から……」
「東京……大学……の、とき?」
 なんだかすごく言いづらい。何も知らずに、ちょっぴり視線を宙にさまよわ
せる尊さんの姿を見て、妙な後ろめたさを感じている。
「いえ、大学卒業して。県警の研修で若手の集中育成の為に地方から何名か。
その時に一緒だった子で」
「そっか……でも、それ、あたしが聞いていい内容?」
 一瞬言葉に詰まる。
「ええ、そのっ、実は」
 言うべきか言わないべきか。そもそも尊さんに話す必要があることなのか。

 じっと見つめる目が答えを待っている。

 ちゃんと言おう。
 余計に考えすぎて悩むより、きちんと話して迷いをなくしたほうがいい。

「実はその子とは一緒に勉強したり飲みにに行ったりしていて。その……仲良
く、してたんです。それで……」
「そ、そう……」
 一瞬、尊さんが小さく肩を震わせるのが見えた。

「その、一年ほど前の時に……こ、告白されたんです」
「っ…………そ、そう……なん……だ」
 どことなく言葉に詰まらせる尊さんになんだかどぎまぎする、どうしてもっ
と普通に話せないかな。
「でも、その頃。俺は吹利での過去のことを引きずってて。彼女の気持ちに応
えられなくて。以来、その子との付き合いはそれきりだったんです」

 吹利での過去のこと。彼女が居たあの頃のこと尊さんは知っている。

「そう……だったんだ。で、その子から……手紙が?」
「はい」

 持田さんの手紙の内容。
「彼女、母方の実家が吹利みたいで。今度、吹利に来るらしくて。中途半端に
会わなくなってしまったのは気まずいから、ちょっとだけでも会わないかって」
「そ、そうなんだ」
 尊さんの少し声が上ずってる。
「返事は……したの?」
「それで、会うべきか会わないべきか」

 大切な仲間で話し合える友人だった彼女と、うやむやな別れ方をしたくない。
 でも。

「返事の連絡を入れようとおもって、ちょっと迷ってたんです」
「そっか、それで今日の稽古」
 くすっと、目を見て悪戯っぽく笑う。
「太刀筋に乱れがあったのね?」
「あ、す、すいませんっ!どっかで、迷ってて……」
 うわ、恥ずかしい。
 心を映す鏡、というか。心の迷いが太刀筋にまででてきてたのか。

「本宮くん」
「はい」
「あたしは、本宮君に代わって会ってあげる事もできないし、どうしなさいっ
て命令も出来ないし、本当に適切なアドバイスが出来るかも判んない」
「…………」
「ただ、出来るのは」
「はい」
「あたしならこうする、って事を教えてあげるだけだよ」
 ふっと柔らかく微笑んで。でも、なぜかその笑顔にほっとする。
「……はい。なんていうか、後ろめたかったのかもしれないな……って」
 すとんと視線が落ちる。
「彼女の言葉を断った時には、そういう事をまだ考えられないって言って」

 忘れられないから、と言った。
 心の中から消すことができなくて、失った痛みが癒えなくて。

 でも、今は。

「……でも今は」
「きちんと考えられる?」
「え?」
 顔をあげた先、尊さんの視線がぶつかる。
「今、自分がどうしたいか」

 自分はどうしたいのか。
 自分が想っているのは。

「……はい、考えられます」
「ん、結論をあいまいに先延ばしにしないで、しっかり答えを出せるなら」
「はい」
「会ってあげたら? いつまでも膿んでいる傷口なら、多少痛くてもザックリ
抉っちゃうほうが」
「そう、ですね」
 尊さんの視線がふと遠くを見て、小さく肩を竦める。
「治りも早いものよ」
「はい……」

 その遠くを見た視線の先。
 かつての自分も良く見知っていた……尊さんの恋人……あの人も、今はもう
吹利に居なくて。
 力強くて、頼りになって、一本筋の通った意思の強さがあって。

 自分は、そんな風になれるだろうか。

「もし」
「え?」
「悪い奴が必要なら、あたしを悪人にでっち上げちゃいなさい」
「そ、そんなっ」
「今更恨みのひとつや二つ増えたところで、どってことないしね」
 悪人って、そんな何て事を言い出すんだか……

「本宮くん」
「はい?」
「たぶん、これはあたしの予想だけど。その彼女、自分の気持ちに整理つけた
いんじゃないかな、いつまでも中途半端なままでなく」

 中途半端なまま。きっと、彼女の想いのほうが自分より辛い。

「きっちり、区切りつけてあげないと」
「そう、ね、どんな結論でも、中途半端でズルズルいくのが……たぶん、一番
辛いから」
 言葉を切って、ふっと横を向く尊さんの横顔が、なんだか寂しげで。

「……尊さん」
「ん?」
「ありがとうございました」
「うん」
「ちゃんと会って、彼女と話してみます」
「そう、ね、それが一番いいと思う。 結果が……どう、あれ……ね」
 最後がどこかすぼむような口調で、小さく俯いた。

「尊さん……?」

 尊さんはすぐそこにいて、少し手を伸ばせば届きそうで。
 でも、今の頼りないまま自分では、まだ駄目で。

 伸ばしかけた手が宙を泳ぐ。

「……さっ、踏ん切りついたでしょっ」
「わっ」
 ぱしんと背中を叩かれて、尊さんが勢いよく立ち上がる。慌てて手を引っ込
めて傍らの胴着を掴んで身体を起こした。

「……ありがとう、尊さん」
「ん、じゃ、おなかすいちゃったから、どっかで御飯食べて帰ろ?」
「え、あ、はいっ」
 スポーツバッグを肩にかけて、跳ねるように歩き出す。少し後ろから後を追
いながら、自分が赤面してるのがわかる。

 持田さんに会わないといけないと思う。
 そして、今まで自分が目を背けていたせいで傷つけてしまったことを謝って、
今の自分の気持ちがどうなのかをちゃんと伝えないといけない。


時系列
------
 2005年11月初め
解説
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 東京で振った女の子から手紙がきて、尊さんに話す和久。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
続く。

 つか、もとみー止まるな。


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