[KATARIBE 28356] [HA06N] 日記『やっぱり三人組』

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Date: Mon, 31 Jan 2005 02:02:21 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28356] [HA06N] 日記『やっぱり三人組』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年01月31日:02時02分20秒
Sub:[HA06N]日記『やっぱり三人組』:
From:久志


 ちは、久志です。

久々に三人組で日記をつづってみた。しかしまあ長い……
ちなみに千影ちゃんはいなくなってしまったものとして扱ってます、はい。

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日記『やっぱり三人組』
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登場人物 
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 富良名裕也(ふらな・ゆうや) 
     :方向音痴な一見中学生(中身も?)のお気楽極楽青年。 
     :紅雀院大学文学部国史学科職員さん 
     :http://kataribe.com/HA/06/C/0067/ 
 佐古田真一(さこた・しんいち) 
     :ギターで語る謎の無口男、スナフキンちっく。 
     :フラナ、本宮とは中学高校時代からの無二の親友。
     :http://kataribe.com/HA/06/C/0074/
 本宮和久(もとみや・かずひさ)
     :お人よしで面倒見のいい三人組のまとめ役。
     :恋人である千影を失って、いままで東京にいた。
     :http://kataribe.com/HA/06/C/0073/

本宮和久 〜故郷に帰る
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「いままでありがとうございました」

 ぺこりと頭を下げる。

「いやいや、今までご苦労さま。吹利は故郷なんだって」
「はい、吹利で生まれて吹利で育ちました」
「ならいいことじゃないか、がんばりなさい」
「はい、こちらで学んだことを生かすためにがんばります」
「あいかわらず生真面目だねお前も、素直に故郷に帰れることを喜びなさい」
「はい……」

 吹利に転属。正直嬉しいけれど。

 今の吹利に、あの子はいない。


富良名裕也 〜1月も終わり
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 もう一月終わりなんだねえ。
 なんかまだ新年のぽへーっとした感じが抜けてないや。
 でも大学の職員さんとしては、これからが大忙しなんだよね。新入生さんの
書類とか受付とか案内とかいっぱいお仕事くるし。あと、教授の講演会のお手
伝いとか、お使いとか、色々。

 それより、もとみーが帰ってくるんだよね。
 えへへ、二年しか離れてなかったけど、なんだかすごく懐かしい。普段から
メールとか電話とかしてるけど、やっぱり帰ってくるってのが違うなあ。

 佐古田と一緒に僕んちでお鍋でもやろっかな?
 三人が久しぶりに揃うなんて嬉しいなあ。

 大学の帰り道、河原をてくてく歩きながら。そーいえば、高校の頃は学校帰
りにもとみーと佐古田と歩いたよね。帰りにいつもベーカリーに寄って、パン
食べながら、誰かしらいる人としゃべって、遊んで。

 足を止める。
 懐かしい、よね。

 今はもうベーカリーに立ちよることもなく、遊んでいた仲間もすっかり様変
わりして、今は連絡もとってない人が一杯いる。たぶん元気なんだろなあとは
思うけど。
 さわさわと流れる草むらを眺める。
 なんとなく思い出すのは、今はもう吹利にいないふわふわとした春の雰囲気
をもった人。

「どーしてるのかなあ」

 元気だと思うけど。


佐古田真一 〜あいかわらず
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 弦をはじく。
 学生時代から使い込んだ年季の入ったギターは、まるで体の一部のように佐
古田の手にしっかりと馴染み、よく響く音を奏でる。

「…………」

 本宮が帰ってくる、という話はフラナと本宮当人から聞いた。
 正直に嬉しいと思う。

 ギターの音色が響く。

 本宮は東京で立ち直れただろうか?
 あの銀色の髪の少女の面影から逃れられたのだろうか?

 無理だと思うけれど。
 不器用で真面目でお人よしで世話焼きで、どうしようもなく頑固で。
 あいつは昔からそういうやつだから。
 高校の時から、ずっと。


 指先で弦をはじく。
 フラナのいない風見アパートは妙に静かで、本当に静かで、沈み込むように
静かで。

 指先で弦をはじく。
 心の中でのしかかってる何か。
 焦りなのか、寂しさなのか、なんなのか。

 時間が流れて、色々と変わっていった。
 自分も、フラナも、本宮も。
 生活も、周囲も、隣人も、街並みも。

 見えないナイフで削り落とすように、ゆっくりと確実に変わっていく。

 でも、時間が流れても、変わらないものはある。


本宮和久 〜夜、吹利にて
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 何度となく通った彼女の館。
 もう主はいないのに、それでも目が彼女を探している。

「やあ、本宮くん。久しぶりだね」
「こんばんは、前野さん」

 主のいない館を託された、執事の前野さん。
 一時、彼女との仲を疑ったこともあったけれど。

「すみません、こんな遅くに。さっき吹利についたばっかりで」
「いいんだよ、さあ入って。外は寒かったでしょう、熱いお茶を用意するから」
「いえ、ちょっと挨拶に立ち寄っただけで、すぐに実家へ戻りますから」
「遠慮なんてしなくてもいいんだよ、体も冷えてるでしょう」

 本当に心配そうな声、でも、やっぱりこれ以上この屋敷にいるのは耐えられ
ない気がする。

「本当に大丈夫なんです、お邪魔してすいません」
「……本宮くん」

 心配気な前野さんの声。

「君は頑固だから、こうと決めたらテコでも動かない事を知ってるから、私は
もう言わないけれど」
「……はい」
「千影さんは、戻らない」
「はい」

 きっぱりと、彼女自身から別れを告げられたはずなのに。
 もう吹利に戻らないと。館は前野さんに託し、自分とも二度と会えないと。

 それでも。

「それでも、まだ、だめなんです」
「本宮くん」

 吹利を離れて、東京の勤務を希望して。二年間東京で暮らして、なお。

「まだ、だめなんです」

 彼女の面影は心から消えない。

「そうか」
「お邪魔しました、前野さん」
「本宮くん」
「はい」
「……君がそんな風にずっと心を痛めるのを、彼女は望んでいないよ」
「……はい」

 一礼して、館を後にする。

 彼女はいない。
 この街のどこにも。


本宮和久 〜彼女と似た雰囲気の
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 気がつくと、まるで見も知らない森のそばにいた。ふらふら歩いていたせい
か道がまるでわからない。自分が吹利を離れているうちに街並みも少し変わっ
ていたのだろうか。

 変わらないものはない、当たり前のことなのに。

「……まだ、だめだなあ」

 自分はまだ変われない。
 忘れたくて、吹利を離れたのに。離れてるほうが、ずっと彼女を思い出す。


 ふと、森に気配を感じた。

「ん?」
「おや?」

 そこにいたのはひとりの青年。年のころは自分より下の。
 いや、でもこれは、この雰囲気は……彼女と同じ、何かを感じる。

 吸血鬼。

「あなたは?」
「人に名を聞くときは君から言うべきだと思うな」
「すいません、俺は本宮和久といいます」

 自分の答えにちょっと驚いたように肩をすくめた。

「やれやれ、素直に返すからちょっと気がぬけたちゃったよ」
「そう、ですか?」
「僕は六兎結夜、結夜でいいよ」
「はい」

 彼女と同じ空気を持つ人。
 この人も、彼女と同じ運命を持っているのだろうか?

 なぜだか、なんでだか知らないけれど。
 俺は、あったばかりのこの人に、ぶしつけに自分の話をし始めていた。


「ふうん」
「……すいません、いきなり」
「いや」
「どうして、一緒に生きられないんだろう……」

 人と吸血鬼と。いや、彼女はハーフだったから添い遂げたかは知らないけれ
ど人間の母親がいたはずなのに。

「吸血鬼と人間の恋なんて、なかなかどうして上手くいかないもんだよ」
「……でも、俺は人間だから。人間であるってことを捨てられなかったから」
「私は臆病な吸血鬼だから、彼女を不死の世界に引きずり込めなかった」
「俺は、吸血鬼にはなれなかった。けど、人間のままでも彼女を好きでいた
かった」

 人間であること、今まで自分が生きてきたことを捨てたくなかった。

「おふたりとも甲斐性がありませんのね」

 不意に、背後から高い声が聞こえた。まだ幼い小さな子供の声。
 振り向くと、一瞬彼女を思いおこされる長い銀髪に青みがかった銀色の眼の
小さな女の子がこちらを見ていた。

「ローザ」
「わたくしのお父さまは人間でしたが、吸血鬼であったお母さまと見事添いを
遂げておりますわ」

 まるで自分をにらむように、きっぱりと言い切る。

「彼女の母さんは人間だったらしい、けど。……彼女は父親とあって、向こう
へいってしまった」

 長い間行方の知れなかった父親と会って、そして。

「彼女は、俺を……連れて行ってはくれなかった」
「……」

 隣で何か胸に刺さるような顔をして結夜が自分を見つめている。

「愛しているなら追いかければよろしいのに。それが恋愛というものじゃあり
ませんの」
「追いかけたかった、一緒にいきたかったのに……」

 本当に、心から追いかけたかった。

「……人間をやめられなかった」
「意気地なし」

 ばしっと叩きつけるような言葉。

「ローザ」

 結夜が口を開く。

「連れて行けない理由、終えない理由。人それぞれいろいろある。わからない
のに口出しするのはやめといた方がいいと思うよ」
「俺は、俺の意思で人間をやめなかった。彼女は、俺をひきこもうとしなかっ
たし、俺の気持ちもわかっていて

 積み上げた自分を捨てられなかった。

「……行ってしまった」
「理解できません。人間であることなんてそんな固執することかしら」
「それでも俺は人間です」

 それでも。

「……短い命だろうと、歳をとろうと、人間であることを俺は好きです」

 きっとにらみつけてくる銀色の瞳を見返す。

「だから、俺は人間のままで、彼女を好きでいようと思いました」
「……理解できません」

 ぷい、と顔を背ける。
 そのままローザと呼ばれた少女は闇に溶けるように蝙蝠に変じて、ぱたぱた
と飛び去っていった。
 その姿を見送る自分をみて、結夜が口をひらいた。

「……わかってもらえない、か」
「すみません。ローザは見ての通りまだ子どもなんで」
「いいんです、あの子が言ったことも、あの子なりに正しいことだと思うから」
「真っ直ぐに正しすぎて胸が痛いくらい……私は、似たような経験があるんで。
その彼女の気持ちも分からないではないかもしれない」
「ええ、彼女が俺を連れて行かなかった理由も、わからないわけじゃあないで
すから」
「本当に好きだからこそ、連れて行けない気持ち……私の場合は結局、我侭な
だけだったのかもしれないけどね」

 彼に何があったのか。興味本位でそれを聞けるほど自分も厚顔じゃあない。

「俺は彼女の重荷になりたくなかったし、彼女も、俺を重荷にしたくなかった
はず、だから」
「それでも、勝手でも、追ってきてもらえれば……いや、なんでもありません」

 勝手にでも追えたら。
 そうしたかったけれど、自分にはできなかった。

「私もそろそろ帰ります。良い夜を」

 さあぁっと、足元からその姿が消えていく。

「……はい、さよなら」

 残ったのは自分ひとり。
 ざわっと揺れる木の陰から空を見上げる。

「千影ちゃん……」

 答えはない。


本宮和久 〜ひさびさ三人組
--------------------------

 最近フラナが引っ越したばかりだというマンションの部屋は、とても家賃か
ら考えられないほど広く、立派だった。

「フラナ……ホントに、ここに住んでるのか?」
「うんっ」
「…………(じゃん)」

 なんだか、こういう三人揃っての構図はすごく久しぶりだ。
 そんなに長い時間が経っているわけでもないのに、なんだか、すごく昔のこ
とのように思う。

「あ、お茶買ってきたからね〜あと、おかしも」

 佐古田がずいっと、日本酒一升瓶を差し出す。

「そそそ、紙コップどこやったっけ」
「ほら、ここに埋まってるだろ」
「ありがと、もとみー♪」

 とくとく、と紙コップにお酒が注がれる。
 そういや、もう、とっくに飲んでも怒られない歳、なんだな。

「では、もとみーが帰ってきたことを祝して〜」
「……(じゃじゃぁ〜ん)」
「いや、そんな大げさな」

「かんぱーいっ!」



『ねぇ、もとみーベーカリー寄ってこうよっ』
『ジャジャン!』
『ああ、そうだな』

 あの頃、俺らは高校生で。
 いつでも三人でいて。ギターが好きで、毎日ベーカリーに通ってて、からか
われたり、遊んだり、恋をしたり。

『ねえ本宮くん♪』

 彼女がいて。



 今は、俺達はバラバラになって。
 フラナは大学の職員、佐古田はまだ大学生、俺は警察官になって。
 だんだん、互いの時間が合わなくなっていって、互いに互いの別の知り合い
が増えていって。

 だんだん。

「……もとみー?」
「……(じゃじゃん?)」

 だんだん、三人、会わなくなっていって。

「どしたの?」

 初めて、ベーカリーに来てからもう9年。
 変わらないものなんて、何もないのに。

「もとみー」

 フラナの手が頭を撫でる。

「…………」

 佐古田の手が背中を叩く。

「どしたの?」

 俺。
 どうして。
 泣いて……る?

「どうしたの?」
「…………」

 俺がフラナと佐古田に心配されるなんて。
 ……情けない。

 それなのに。
 二人に答えることもできず、声も出せずに、ただ泣き崩れていた。


本宮和久 〜やっぱり三人組
--------------------------

 目が痛い、腫れてるかな。
 こんな顔で帰ったらなんていわれることか。

「もとみー顔洗う?」
「ん、ああ」
「…………」

 無言の佐古田からずいっと、差し出されたのはタオルハンカチ。

「サンキュ、佐古田」

 恥ずかしいというか、情けないというか。
 今まで、保護者ぶって面倒見てたと思ってた二人にこうして心配かけてるの
は何とも言いようもないほど、情けない。


 冷たい水が目にしみる。
 ゆっくりと頭が冷えていく。

「あ、おかえりー」
「………(じゃん)」

 テーブルの上にはさっき中断したままのコップとお菓子とつまみが並べたま
まだった。

「へへ、仕切りなおし〜」
「……(じゃじゃん)」

 さっきの飲みかけのコップを渡される。
 なんだか、泣いたせいか気分がすっきりしている。

「えっと、もっかい乾杯」
「ああ、乾杯」

 こつん、と紙コップ同士がぶつかる。


『愛しているなら追いかければよろしいのに』

 追いかけたかったけど。

『人間であることなんてそんな固執することかしら』

 それでも。
 自分という人間が、人間として吹利という故郷で積み上げてきたもの。
 フラナ、佐古田、父さん母さん、史兄貴、幸兄貴、ベーカリーの仲間、高校
の先輩達、大学の友人、飲み仲間、そしてなにより自分自身。

 それは、どうしても捨てられなくて。

「だから……俺はいけない」
「え?」
「…………?」
「あ、いや、なんでもない」

 だから、俺は行けない。でも、後悔はしない。

「俺達、色々変わったね」
「ん、そだね」
「…………」

 何を今さら、と思うけど。


「三人は変わる、けど、三人であることは変わらない」

 ものすごく、久しぶりに聞く佐古田の声。

「え?」
「何の為に俺達が三人いる?」


『三人でいよう 
 楽しいとき、さみしいとき 
 三人でいよう 
 つらいとき、嬉しいとき、いつも一緒に 
 一人ではつらいから、二人では甘えてしまうから 
 だから、三人でいよう 
 いつも、わかちあおう 
 一人では、弱いかもしれないけど、三人いれば強くなれる 
 三人でいよう、誰よりも強くなろう 
 ぼくらは、いつだって、ここにいるから』

 正直、思い出すのも恥ずかしい。昔、三人で作った曲。

 何の為に俺らは三人いる。


「ねえ」
「ん?」
「……」

 フラナがにかっと笑う。

「やっぱ、三人だよね♪」
「そだな」
「…………」

 じゃじゃん、と。ギターの音色が響く。

 この先、なにがあって、どんなに変わっていっても。
 やっぱり、三人。


時系列と舞台 
------------ 
 2005年1月某日 無道邸、神域の森、フラナの部屋にて
解説 
---- 
 千影が去った傷心の本宮と久々に顔をあわせた三人。
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以上。

 なんか、書いててもとみーが可哀想で涙が出そうになったり、
もとみーが昔を思い出してるシーンで涙が出そうになったりしました(鬼)
で、三人でいようの歌の乗ってるEPを見て恥ずかしさに鼻血を吹きそうに
なりました。うあああ。




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