[KATARIBE 29230] Re: [HA06P] エピソード『吹利学校高等部学園祭 2005   Never Forget Memories 』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Fri, 23 Sep 2005 00:00:01 +0900
From: 月影れあな <tk-leana@gaia.eonet.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29230] Re: [HA06P] エピソード『吹利学校高等部学園祭 2005 	  Never Forget Memories 	』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <4332C6F1.40006@gaia.eonet.ne.jp>
In-Reply-To: <200509221346.WAA25238@www.mahoroba.ne.jp>
References: <200509220628.PAA06946@www.mahoroba.ne.jp> <200509221346.WAA25238@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 29230

Web:	http://kataribe.com/HA/06/P/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/29200/29230.html

 おいっす、れあなです。
 セリフチェックと、折角なのでいくらか描写追加して流します。

**********************************************************************
エピソード『吹利学校高等部学園祭 2005  Never Forget Memories』
===============================================================

登場人物
--------

     桜居津海希:多忙な(はずの)生徒会長
     乃藤礼門:にたまたま捕まった友人

空腹と愚痴
----------
 日の傾いたグラウンドには文化祭に向けて巨大迷路を製作している生徒達が
いて、彼らはようやく真昼の暑さから解放されたことに喜んでいたけれど、そ
れにもまして蓄積した疲労ですっかりだれているのは明らかだ。とりわけ昼ご
飯を食べ損ねた乃藤礼門はすっかり参っていて、胃の収縮する音とカラスが山
に帰っていく声を聞き流しながら、意識を形而上の広大な闇に沈めて塀の継ぎ
目を釘止めする作業に埋没する。
 ふいに、長く伸びた釘の影法師が目に留まる。
 小さな息苦しさを感じて、礼門はふと顔を上げた。長い間釘打ちに没頭して
いた所為か、肩や腰の部分が妙に苦しい。天に向けて両手をかざし、大きく伸
びをすると、コキコキと全身の骨が鳴った。
 そのままぼんやりと上を見上げる。空は真赤に染まっていた。

 礼門     :「……夕焼け、綺麗だなあ」

 何も考えてないが故に脳と口は最も自然な反応をした。

 つみき    :「どうしたの? 部長さん。しょぼくれちゃって」

 突然の声に礼門が振り返ると、肩越しに手元を覗き込むようにして立ってい
た津海希と目が合う。

 礼門     :「や、昼飯を食い損ねてしまって」
 つみき    :「ふむ……」

 津海希は左手に提げた袋をなにやら険悪な視線で一瞥し、「ちょうど良いと
いえばちょうど良いか」などと呟いて礼門の方を向き直る。

 礼門     :「会長殿。どうかしたのかな?」
 つみき    :「今暇?」
 礼門     :「暇ってわけでもないけど……そんなに急いでる作業は無
        :いね」
 つみき    :「つまり暇なのよね。付き合って貰える?」
 礼門     :「え、あ……」

 礼門は半ば強引にグラウンド脇のケヤキにまで引っ張られていく。
 津海希は木陰にハンカチを敷いてそれに座ると、黙々と袋からプラスチック
製のバスケットを取り出して広げていった。
 礼門は普段表向き穏和に振る舞ってる彼女が妙に地を出していることを察し
て、言葉を選ぶようにしてたずねる。

 礼門     :「ええと、なにかあったの?」
 つみき    :「うん。ちょっと聞いてくれる?」

 これは答えを求めていないタイプの質問だよな、などとなんとなく礼門はな
んとなく思う。

 つみき    :「今日約束したのに帰っちゃったのよ。信じられない。わ
        :ざわざお弁当作ってきたのに。だからこれ食べて」

 答えどころか意味の理解すら求めていない津海希の勢いに礼門はのけぞり、
突き出されたツナのサンドイッチをおずおずと受け取る。なにしろ腹の減って
いた礼門は「はぁ、それじゃ遠慮なく」と呟くとそれにかぶりつく。
 津海希はその様子を見届けるとアルミ製の水筒を取り出して、少し落ち着い
た口ぶりで話を続ける。

 つみき    :「三年の和泉先輩。知ってる?」
 礼門     :「和泉先輩……っていうと、番長の人かな」
 つみき    :「番長というか侍よね。でも今日はちょっとダメだわ。減
        :点。そりゃあ三年生だから受験で忙しいのは分かるけれど、
        :久々に一緒に御飯食べようと思ったのに」
 礼門     :「友達なんだ」
 つみき    :「友達って言うか、親友──だと思うんだけどな」

 何か思うところがあるらしく、津海希は手に取ったサンドイッチをぼうっと
見つめながらゆっくりと口に運んでいく。

 つみき    :「昔からの付き合いなんだけどね。たまに何考えてるかわ
        :からないこともある」
 礼門     :「まぁ、親友でも、他人だからね。全部は理解できないで
        :しょ」
 つみき    :「素直に謝ってくれればいいのに」

 会長が自分から謝ると言うことはあまりなさそうだものなと礼門は思うが口
には出さずにおく。

 礼門     :「……でも、いいの? 折角作ったものを私なんかに食べ
        :させちゃって」
 つみき    :「いいの。気にしないで。食べさせようと思った相手がも
        :う帰っちゃったみたいだから。お腹空いてる人がたまたま
        :見つかってよかったわ。よく言うでしょ? 空腹は最高の
        :スパイスって。なにしろあまりおいしくないでしょう。私
        :料理下手なのよね。あ、これ秘密よ」
 礼門     :「そうかな、このツナサンドなんか結構美味しいけど」
 つみき    :「それは執事が味付けしてくれたから。こっちの私が味付
        :けしたクラブサンドを食べるとわかるわ」


 サンドイッチをまずく作れるのはある種の才能だという言葉を思い出しなが
ら礼門はそのサンドイッチに手を伸ばす。
 ぱさぱさしたササミと萎びたレタスと潰れたトマトとそれらの汁気を吸った
パンが印象的な外観であったけど、食べれば同じだろうと一気にかぶりついて
咀嚼する。
 噛めば噛むほどくどいほどの甘みの出るマスタードらしき液体が口の中に広
がる。それでいて何故か舌がひりひりするのが新しい食感を醸し出している。

 礼門     :「……言っちゃなんだけど、その、個性的な味だね……何
        :入れたの?」
 つみき    :「マクドのマスタード。既製品なら無難に行くと思ったの
        :だけど、その後ちょっと手を加えたのが失敗だったかな」
 礼門     :「え、あれはマスタードっていうか……手を加えたって?」
 つみき    :「アジアンテイストっていうの? 甘辛いのがいいかなと
        :思ってチリソースと蜂蜜まぜてみたのだけど。私蜂蜜って
        :特別好きなのよね」
 礼門     :「いや、確かにハニーマスタードっていうのもあるけど、
        :マクドのマスタードじゃちょっと……」
 つみき    :「もう、残飯処理だと思って気にせず食べちゃって。ほら
        :どうぞどうぞー」

 津海希は勝手なことを言って捨て鉢気味に食事を促す。
 気にするのは食べる方だということに気付いてるのかいないのか。礼門もど
こからつっこんでいいのか判断が付かずに安全そうなところから手を付けてい
く。こうなると空腹であったのが幸いだと思えた。

 礼門     :「サンドイッチはシンプルな料理だから、手を加えるとむ
        :しろ難しくなるんじゃないかな」
 つみき    :「どうせならいいトコ見せたかったのだもの」

 つみきは自作の出来映えに眉をしかめながら少し唇を尖らして言う。
 ここで美味しいというと嘘になるし、不味いというと傷つけてしまいそうだ。
かと言って、何も言わないというのもあんまりである。
 礼門はどう言ったものかと困惑しつつ、慎重に言葉を選ぶ。

 礼門     :「背伸びしてもあんまりいいことは無いよ。自分の手の届
        :く範囲で精一杯やることが、いいトコを見せるってことだ
        :と思う」
 つみき    :「……これは確かに、酷いか。凛に食べさせずにすんだの
        :はある意味よかったのかな。喧嘩売ってると思われかねな
        :いわね」

 津海希が自嘲気味に苦笑したのを見て、礼門はしまったと後悔した。

 礼門     :「ごめん。折角分けてもらってるのに、説教くさく言う事
        :じゃなかった」
 つみき    :「いいわよ、どうせ下手だもの」
 礼門     :「いや、ええと、その……」

 何かうまいことを言わなければとあれこれ考えるが適当な文句は浮かばず、
仮に浮かんだとしてもいい加減な慰めで喜ぶ彼女ではないよなと思う。だから
結局何も言わずにフルーツサンドをとってデザート代わりに食べる。

 礼門     :「あ、これは会長さんの作?」
 つみき    :「うん、そうですけど。あ。結構いける?」
 礼門     :「うん、デザートに良さそうだね」

 途端に津海希は得意げな顔になる。
 見た目が悪いから津海希の作だとすぐにわかった、とは礼門も言わない。

 つみき    :「そうでしょう。お菓子づくりはコレで結構プロ並みだと
        :思うのよ、実は」
 礼門     :「へ〜。会長さん、甘いもの好きそうだもんね」
 つみき    :「世の中にはお菓子だけあればいいと思うのよね。本当
は」

 津海希はそう言って不敵に微笑み、口元をナプキンで拭いてスカートをなお
しながら立ち上がった。
 ふとそのさりげない仕草に目を奪われる。
 伏せられた長いまつげに、ナプキンを持つ細い指先に。軽くうつむかせたう
なじにかかる、細い後れ毛。

 心臓の鼓動が跳ね上がる。数瞬の間、呆と見とれていた。

 我に返り、さり気なく視線をずらそうとしたところで津海希が顔を上げる。
その時、わずか一瞬だけ視線が交錯した。
 礼門は、内心の動揺を押し隠すように「そりゃ極端だなあ」と笑い、適当な
サンドイッチを口に運ぶ。挟んであるのは鶏肉のはずなのに、なぜか甘酸っぱ
い。

 つみき    :「ありがとう。一人だったらゴミ箱行きだったわ。サンド
        :イッチ氏に代わって礼をいいます」
 礼門     :「え、ああいや。こっちこそ、丁度おなかすいてたから助
        :かりました」
 つみき    :「じゃ、またね。邪魔しちゃってごめんね」

 そう言って軽く手を上げて去っていく津海希の指先の細さが礼門の視覚に妙
に鮮明に残る。

 礼門     :「いや、会長さんも頑張ってね」

 もういない津海希に呟くように言い、礼門は作業の現場に気持ち早足で戻っ
ていった。

時系列
------
文化祭準備期間。エピソード『状況報告と確認』の翌日。
   http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/29200/29224.html


解説
----
和泉凛と喧嘩中の津海希。たまたまみつけた乃藤礼門に愚痴る。


$$
**********************************************************************



 / 姓は月影、名はれあな
/Mail : tk-leana@gaia.eonet.ne.jp
 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/29200/29230.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage