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Date: Thu, 22 Sep 2005 22:46:10 +0900 (JST)
From: Saw <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29228] Re: [HA06P] エピソード『吹利学校高等部学園祭 2005 Never Forget Memories 』
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2005年09月22日:22時46分10秒
Sub:Re: [HA06P] エピソード『吹利学校高等部学園祭 2005 Never Forget Memories』:
From:Saw
Sawです。渋柿さんとの喧嘩を受けて愚痴る図。
或いはフォークダンスへの伏線。
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エピソード『吹利学校高等部学園祭 2005 Never Forget Memories』
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登場人物
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桜居津海希:多忙な(はずの)生徒会長
乃藤礼門:にたまたま捕まった友人
空腹と愚痴
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日の傾いたグラウンドには文化祭に向けて巨大迷路を製作している生徒達が
いて、彼らはようやく真昼の暑さから解放されたことに喜んでいたけれど、そ
れにもまして蓄積した疲労ですっかりだれているのは明らかだ。とりわけ昼ご
飯を食べ損ねた乃藤礼門はすっかり参っていて、胃の収縮する音とカラスが山
に帰っていく声を聞き流しながら、意識を形而上の広大な闇に沈めて塀の継ぎ
目を釘止めする作業に埋没する。
礼門 :「……夕焼け綺麗だなあ」
何も考えてないが故に脳と口は最も自然な反応をした。
つみき :「どうしたの? 部長さん。しょぼくれちゃって」
突然の声に礼門が振り返ると、肩越しに手元を覗き込むようにして立ってい
た津海希と目が合う。
礼門 :「や、昼飯を食い損ねてしまって」
つみき :「ふむ……」
津海希は左手に提げた袋をなにやら険悪な視線で一瞥し、「ちょうど良いと
いえばちょうど良いか」などと呟いて礼門の方を向き直る。
礼門 :「会長殿。どうかしたのかな?」
つみき :「今暇?」
礼門 :「暇ってわけでもないけど……そんなに急いでる作業は無
:いね」
つみき :「つまり暇なのよね。付き合って貰える?」
礼門 :「え、あ……」
礼門は半ば強引にグラウンド脇のケヤキにまで引っ張られていく。
津海希は木陰にハンカチを敷いてそれに座ると、黙々と袋からプラスチック
製のバスケットを取り出して広げていった。
礼門は普段表向き穏和に振る舞ってる彼女が妙に地を出していることを察し
て、言葉を選ぶようにしてたずねる。
礼門 :「ええと、なにかあったの?」
つみき :「うん。ちょっと聞いてくれる?」
これは答えを求めていないタイプの質問だよな、などとなんとなく礼門はな
んとなく思う。
つみき :「今日約束したのに帰っちゃったのよ。信じられない。わ
ざわざお弁当作ってきたのに。だからこれ食べて」
答えどころか意味の理解すら求めていない津海希の勢いに礼門はのけぞり、
突き出されたツナのサンドイッチをおずおずと受け取る。なにしろ腹の減って
いた礼門は「はぁ、それじゃ遠慮なく」と呟くとそれにかぶりつく。
津海希はその様子を見届けるとアルミ製の水筒を取り出して、少し落ち着い
た口ぶりで話を続ける。
つみき :三年の和泉先輩。知ってる?」
礼門 :「和泉先輩……っていうと、番長の人かな」
つみき :「番長というか侍よね。でも今日はちょっとダメだわ。減
点。そりゃあ三年生だから受験で忙しいのは分かるけれど、久々に一緒に御飯
食べようと思ったのに」
礼門 :「友達なんだ」
つみき :「友達って言うか、親友──だと思うんだけどな」
何か思うところがあるらしく、津海希は手に取ったサンドイッチをぼうっと
見つめながらゆっくりと口に運んでいく。
つみき :「昔からの付き合いなんだけどね。たまに何考えてるかわ
からないこともある」
礼門 :「そういうこともあるよ」
つみき :「素直に謝ってくれればいいのに」
会長が自分から謝ると言うことはあまりなさそうだものなと礼門は思うが口
には出さずにおく。
礼門 :「……でも、いいの? 折角作ったものを私なんかに食べ
:させちゃって」
つみき :「いいの。気にしないで。食べさせようと思った相手がも
:う帰っちゃったみたいだから。お腹空いてる人がたまたま
:見つかってよかったわ。よく言うでしょ? 空腹は最高の
:スパイスって。なにしろあまりおいしくないでしょう。私
:料理下手なのよね。あ、これ秘密よ」
礼門 :「そうかな、このツナサンドなんか結構美味しいけど」
つみき :「それは執事が味付けしてくれたから。こっちの私が味付
:けしたクラブサンドを食べるとわかるわ」
サンドイッチをまずく作れるのはある種の才能だという言葉を思い出しなが
ら礼門はそのサンドイッチに手を伸ばす。ぱさぱさしたササミと萎びたレタス
と潰れたトマトとそれらの汁気を吸ったパンが印象的な外観であったけど、食
べれば同じだろうと一気にかぶりついて咀嚼する。噛めば噛むほどくどいほど
の甘みの出るマスタードらしき液体が口の中に広がる。それでいて何故か舌が
ひりひりするのが新しい食感を醸し出している。
礼門 :「……言っちゃなんだけど、その、個性的な味だね……何
:入れたの?」
つみき :「マクドのマスタード。既製品なら無難に行くと思ったの
:だけど、その後ちょっと手を加えたのが失敗だったかな」
礼門 :「いや、あれは……手を加えたって?」
つみき :「アジアンテイストっていうの? 甘辛いのがいいかなと
:思ってチリソースと蜂蜜まぜてみたのだけど。私蜂蜜って
:特別好きなのよね」
礼門 :「いや、甘いものと辛いものを混ぜたら甘辛くなるわけじ
:ゃないから」
つみき :「もう、残飯処理だと思って気にせず食べちゃって。ほら
:どうぞどうぞー」
津海希は勝手なことを言って捨て鉢気味に食事を促す。気にするのは食べる
方だということに気付いてるのかいないのか。礼門もどこからつっこんでいい
のか判断が付かずに安全そうなところから手を付けていく。こうなると空腹で
あったのが幸いだと思えた。
礼門 :「サンドイッチはシンプルな料理だから、手を加えるとむ
:しろ難しくなるんじゃないかな」
つみき :「どうせならいいトコ見せたかったのだもの」
つみきは自作の出来映えに眉をしかめながら少し唇を尖らして言う。
礼門 :「背伸びしてもあんまりいいことは無いよ。自分の手の届
:く範囲で精一杯やることが、いいトコを見せるってことだ
:よ」
つみき :「……これは確かに、酷いか。凛に食べさせずにすんだの
:はある意味よかったのかな。喧嘩売ってると思われかねな
:いわね」
津海希が自嘲気味に苦笑したのを見て礼門はしまったと思う。
礼門 :「ごめん。折角分けてもらってるのに、説教くさく言う事
:じゃなかった」
つみき :「いいわよ、どうせ下手だもの」
礼門 :「いや、ええと、その……」
礼門は何かうまいことを言わなければとあれこれ考えるが適当な文句は浮か
ばず、仮に浮かんだとしてもいい加減な慰めで喜ぶ彼女ではないよなと思う。
だから結局何も言わずにフルーツサンドをとってデザート代わりに食べる。
礼門 :「あ、これは会長さんの作?」
つみき :「うん、そうですけど。あ。結構いける?」
礼門 :「うん、デザートに良さそうだね」
途端に津海希は得意げな顔になる。
見た目が悪いから津海希の作だとすぐにわかった、とは礼門も言わない。
つみき :「そうでしょう。お菓子づくりはコレで結構プロ並みだと
:思うのよ、実は」
礼門 :「へ〜。会長さん、甘いもの好きそうだもんね」
つみき :「世の中にはお菓子だけあればいいと思うのよね。本当
は」
津海希はそう言って不敵に微笑み、口元をナプキンで拭いてスカートをなお
しながら立ち上がる。
礼門はそんなさりげない仕草に目を奪われてしまい、その動揺を押し隠すよ
うに「そりゃ極端だなあ」と笑ってみせる。
つみき :「ありがとう。一人だったらゴミ箱行きだったわ。サンド
:イッチ氏に代わって礼をいいます」
礼門 :「え、ああいや。こっちこそ、丁度おなかすいてたから助
:かりました」
つみき :「じゃ、またね。邪魔しちゃってごめんね」
そう言って軽く手を上げて去っていく津海希の指先の細さが礼門の視覚に妙
に鮮明に残る。
礼門 :「いや、会長さんも頑張ってね」
もういない津海希に呟くように言い、礼門は作業の現場に気持ち早足で戻っ
ていった。
時系列
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文化祭準備期間。エピソード『状況報告と確認』の翌日。
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解説
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和泉凛と喧嘩中の津海希。たまたまみつけた乃藤礼門に愚痴る。
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