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Date: Thu, 22 Sep 2005 02:06:36 +0900
From: "Sakurai.Catshop" <zoa73007@po.across.or.jp>
Subject: [KATARIBE 29220] Re: [HA06P] エピソード『無明の天使:師匠と弟子』
To: kataribe-ml@trpg.net
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Web: http://kataribe.com/HA/06/P/
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こんばんは、桜井@猫丸屋です。
無明の天使、再始動計画ということで、ひとまず切り掛けのまま止まってた
エピソードを流します。
さー、再開しようっ!
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[HA06P] エピソード『無明の天使:』
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登場キャラクター
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桜木達大 (さくらぎ・たつひろ):http://kataribe.com/HA/06/C/0365/
本業はシステム運用管理者だが、何者とでも会話が成立する異能を見込まれ
対怪異専門の交渉人を副業としている。通称を若旦那、通り名は猫回し。
前野浩 (まえの・ひろし):http://kataribe.com/HA/06/C/0128/
桜居津海希の元執事にして恋人、また時には保護者的存在。
吹利市内の異能者の中で随一の策謀家で、エンチャンターでもある。
桜居津海希 (さくらい・つみき):http://kataribe.com/HA/06/C/0298/
桜木達大の弟子にして飛頭蛮、桜居の姫。
ワガママで負けずキライだが、責任とプライドの意味はわきまえている。
煖 (なん):http://kataribe.com/HA/06/C/0136/
前野の部下で無道邸のメイド。精霊術の使い手。
おっとりといつも優しい笑顔だが、これで怒らせると怖いタイプでもある。
煌 (こう):http://kataribe.com/HA/06/C/0135/
前野の部下で無道邸のメイド。格闘術の使い手。
豪快な笑顔と明るい性格が売りだが、細身に似合わぬ力持ちなのでやっぱり
怒らせると怖いタイプである。
無道邸、夜更けの居間
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前野 :「……すいません。こんな時間に」
達大 :「いえいえ。ボクもハラワタ煮えくり返っちゃってどうし
:たもんかと思ってたところでしたから」
頭を下げる前野。茶杯を片手に応える達大。
つみきが天使憑きに襲われた夜、無道邸の応接間には珍しい1シーン。
言葉とは裏腹に、いつもの笑みを浮かべたままの達大の顔を一瞬だけ見つめ
前野はソファから降りて膝をつく。
前野 :「申し訳ない……」
両手さえ毛足の長い絨毯に埋めて、土下座する。
普段なら、自分の失敗さえ駆け引きの材料にしてしまう前野である。
つまり、それほどに大きいわけだ。つみきちゃんの存在は。
そんなことを思いながら達大は、立ち上がるように促した。
前野にとって、つみきは弱点であり逆鱗でもある。上手くつつけば優位に
立てるが、ヘタを踏めば逆襲にある。
さて、ここはどこまで踏み込み、どこで引くか──
わずかに一秒。脳裏のソロバンを弾いて答えを出す。
達大 :「スノウドームのお代、7割引きでチャラにしましょう」
前野 :「……此処でそれを出すか……良いでしょう、わかりまし
:た」
達大 :「なに、連中も『猫回しなんて言っても大したことない』
:なんて吹いて回るでしょうけど。それくらいで揺らぐほど
:の駆け出しじゃありませんから」
にこやかに婉曲に交渉の成立を宣言。
しかし、つま先はデタラメなリズムで、毛足の長い絨毯を踏みつける。
元よりつみきにも、その恋人で保護者の前野にも思うところはない。止めた
ところで止まるつみきでないことも、それを止められる前野でないことも、
わかっていた。
むしろ別に惜しむほどもな二つ名の小さな瑕と引き換えに、大きな借りを
割引させた格好で歓迎すべきとも言える。
だが、デタラメなリズムは止まらない。
前野 :「たすかります……」
達大 :「それよりも、ですよ──」
交渉の成立を受けて立ち上がりソファに腰掛ける前野、それを見計らった
ように無駄のない仕草でティーポッドを運び込んだ煖。
そのいずれも遮って達大は切り出す。
達大 :「どうせ前野さんも動くんでしょう? ボクも一枚噛ませ
:ちゃもらえませんか?」
茶を注ぐ前野を見つめ、提案する。
達大 :「正式にお断りした手前、会社のバックアップは受けられ
:ませんが。その分、うさんくさい連中の思惑に乗らなくて
:済みます」
前野 :「私が動くと家が空いてしまいますからね……なかなか」
ティーポッドを置いて、前野は掌を天井に向けて左手をテーブルに置く。
そして唇の端にいつものように笑みを含む。
前野 :「こういうモノでしか動けそうにないですが?」
達大 :「──?」
ズズズズ、とおどろおどろしい楔が数本。
シャンデリアの灯りを受け、前野の掌に陰影を刻みながらせり出していく。
達大 :「相変わらず演出にも凝りますねぇ」
前野 :「……達大さんには、逆にお願いしたい」
思わずもらした本音を、前野は何かを含んだような笑顔で受けて言った。
静かな開戦会議
--------------
達大 :「相変わらず我慢してますねぇ──まぁ、それだけ責任が
:重いんでしょうけど」
前野 :「『纏め』をお願いできますか、連絡役だけでもいいと思
:います」
軽く思案するように視線をティーカップに落とし答えを保留する。
使える頭数を増やさないと、たいそう格好悪いハメになるだろう。ここまで
言った以上は綺麗に始末をつけないことには、立つ瀬もない。
段取り、だんどり。
口の中で小さく呟いて次の言葉を待つ。
前野 :「アレは『啖うモノ』でしょう?」
達大 :「そうらしいですね」
前野 :「なら、貪欲に啖い続けますよ。本能として」
達大 :「でしょうね」
ティーカップをソーサーごと持ち上げて頷く。
お陰で、うかうか前に立てない。思えば、とんでもないのと交渉させようと
したものである。例の政治家筋の依頼人とやらは。
思いながらカップを持ち上げる。
ゆらり、と琥珀の水面。
見つめつつ、次の言葉を待つ。返事をするにはまだ早い。
前野 :「人は、ほっといても集まるでしょうから」
達大 :「──」
企みも悪気もない様子で前野。
呆気に取られ、カップを持ち上げる手が止まる。ほんの少し、目を丸くして
前野の顔を見る。
前野 :「犠牲が出れば、縁者は仇を取りたがるでしょう?」
補うように説明した前野の顔には、やはり企みごとの様子も悪気の影も見え
ない。1足す1は2になると説明するような、そんな自然体の表情だ。
流石に、苦笑いが浮かぶ。
達大 :「──相変わらず、また、エゲツないですねぇ。流石にそ
:こまではボクも考えませんでしたよ?」
前野 :「言ったでしょう?……不甲斐ないことながら」
前野は言葉を止めて、おどろげな楔の一本を弄んでみせる。
前野 :「私は『支援』でしか動けそうにない、と」
達大 :「なるほど。無道邸を本部に徹底抗戦。指揮官として後方
:支援に徹しますか。そうなると目と耳の役が必要ですね」
ようやく理解した、という風に頷いて前野の立ち位置を受け容れる。
誰か適任はいたかな。
指先で少しむくんだまぶたを揉みつつ、心当たりを検索する。
何人か居ないこともないが、素直に合流するかどうか。利害だけで動く知り
合いは思いのほか少ない。
前野 :「私は兵站ですよ?」
達大 :「前野さん、つみきさんの敗因はなんだったと見ます?」
前野の異議をそらして、話を切り替える。
前野 :「情報不足、リスク判断の間違い、少々の自信過剰」
あえて異議を重ねることもなく、前野はバチンッと指を鳴らす。
前野の部下で、無道邸のメイドたち。
煌と煖、二人が揃って部屋に入ってくる。
さっきまでのエプロンドレス姿ではなくスーツ姿に着替えていた。つまり、
戦闘モードということなのだろう。
達大 :「こんばんは。また、今日は動きやすい服装ですね」
前野 :「簡単な連絡役なら、こいつらにやらせましょう。よき戦
:闘を」
煌 :「サー、よろしくサー」
達大 :「ボクは飽くまで交渉屋ですよ。アラゴトを期待するなら
:他を当たってください」
煖 :「お願いするのは指揮ですから」
苦笑する達大を、煖が品の良い笑顔で遮る。
煖の後は前野が継いだ。
前野 :「まずは、私の知ってる敵生体情報を纏めます。対処結界
:も、単発なら何とか……(ぶつぶつ)」
飽くまで達大に戦闘指揮を押し付けるつもりらしい。
まったくもって、好戦的な人たちである。
達大 :「いずれ、つみきさんの敗因は情報不足の他に、作戦なし
:に突っ込む無謀さ,下準備の軽視もありますね。勝負を
:仕掛けるのは、勝敗を決してからでないと」
達大は、と言えば生まれて幸運にも戦闘指揮なんて荒っぽいことには生まれ
てこの方とんと縁のない暮らしをしている。あえて戦闘経験といえば学生の頃
にやった取っ組み合いの喧嘩がせいぜいだ。
是非ともご遠慮申し上げたいところである。少なくとも他に適任が現れる
までは戦闘を回避させていただきたい。
達大 :「そういうわけで、目と耳が必要です。短期決戦が前提な
:ら、数はある程度いる。目の方は心当たりが一人あるん
:ですが──あそこはガードが固いからなぁ」
前野 :「あげはに拠点を起きましょう。あそこの店主は金で動か
:せる」
達大 :「無道邸は──まぁ、襲われたときがマズいか」
前野 :「まぁ、そういうわけです」
達大 :「では手配はお願いします」
前野 :「……知り合いには連絡網しておきますか?」
達大 :「スカウトもお願いできますか? いずれ、吹利市内の
:異能者になにかあれば前野さんの耳に入るでしょうから」
前野 :「そんなに大したものじゃないですよ……ハンターの方に
:は噂を流しておきます」
達大 :「コマがそろうまで、ボクは情報収集とスカウトに回りま
:す。お互い、状況に変化があれば連絡を取るってコトで」
前野 :「よろしくお願いします」
腰を浮かせた達大に、前野は楔の束を差し出した。
羊皮紙に血で書いた契約書。
一瞬だけ、イメージが重なって──達大は今さらと思い直して受け取った。
師匠と弟子
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居間を出ると、よろよろとつみきが出てきて深々と頭を下げた。
おそらくドアの脇に控えていたのだろう。
いつもなら部屋に飛び込んで言いたいだけ言うところが──やはり、流石に
思うところがあったらしい。
達大 :「勝負服の調達と有給と火狐さんの避難と──いやぁ、
:忙しくなってきました。今日はもう遅いので、お説教は
:明日にしましょう」
少しおどけるように言って、笑顔を向ける。
いつもなら、少し生真面目な顔で誤魔化すなと返って来るか、皮肉の一つ
二つも返って来るところだが。
つみき :「……」
さっと部屋から出てきた前野に支えられ、つみきはもう一度、深々と頭を
下げた。
よほど失敗が堪えているらしい。
これから商売道具にしようとしていた言葉を奪われたことが、いっそう拍車
を掛けている。
達大 :「つみきさんの小生意気な反論がないと、お説教のしがい
:もないことですし」
しかし達大が意地悪く唇の端を揚げて言えば。
つみきの滑らかな頬からは、落ち込んだ表情も反省した様子も僅かに引っ
込んで、怒りをこらえる引きつりが浮かぶ。
この様子なら、大丈夫。
まだ心は折れ切ってない。立ち上がる力は残っている。
前野 :「……さ、部屋に戻るよ」
つみき :(こくり)
慌てて割って入った前野に、つみきは素直に頷く。
そのまま自分の寝室へ戻ろうとする彼女に、声をかける。
達大 :「おやすみ。まぁ、疲労感が取れたら対策本部へどうぞ。
:事務仕事ができる秘書とか居ると仕事がはかどります」
つみき :「・・・・・・・・・」
不意をつかれ、つみきは驚いたように──次いで、ぽろぽろと大粒の涙を
こぼす。泣き顔を隠すようにうつむいて、慌てて部屋に戻ろうとする。
滅多に見せない可愛らしさに、甘やかしたくなる衝動をこらえ。
達大 :「一度くらいの敗北で尻尾まくような弟子を育てた覚えは
:ありません。ガッツがあるなら、顔をあげて歩き出して
:ください」
背中越しに、言葉を投げかけた。
たまには『先生』らしいこともしないとな。
絶対に、つみきにだけは聴かれないよう口の中で小さく小さく呟いて。
達大は無道邸を辞去した。
時系列と舞台
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桜居津海希が無明の天使から言葉を奪われた夜。
無道邸の居間にて。
解説
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[HA06P] エピソード『無明の天使』 / 桜居津海希が言葉を奪われること
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28900/28973.html
桜居津海希が、無明の天使に敗れ、言葉を奪われること
狭間06Wiki:無明の天使
http://hiki.kataribe.jp/HA06/?HA06P_DarkAngel
長編エピソード『無明の天使』シリーズのtopic速報サイト。
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