[KATARIBE 28973] Re: [HA06P] エピソード『無明の天使』編集版

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Date: Thu, 28 Jul 2005 18:05:58 +0900
From: gallows <gallows@trpg.net>
Subject: [KATARIBE 28973] Re: [HA06P] エピソード『無明の天使』編集版
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gallowsです。とりあえず流しときます。
まだ詰めるとこ多そうですが。ていうかなげえよ。
時系列的には桜木さんのBARでのシーンと響姉さんのカッチョイイ活躍の
間に入る予定です。

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エピソード『無明の天使』
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登場人物
--------
 桜居津海希(さくらい・つみき)
     :桜木達大の弟子にして飛頭蛮、桜居の姫。
 前野浩(まえの・ひろし)
     :桜居津海希の元執事であり恋人。

サトミマンション、桜木達大宅
----------------------------
 特例事項──
 吹利近辺の開発の進行に伴い、土着の霊、神、移民妖怪の子孫ら総称して人
外との軋轢は増加の傾向にある。従来の退魔制度では対処しきれない事例も少
なくはない。そこで吹利では司法の下に人外問題専門の調停人、仲裁人を広く
集め、また養成する方針できた。が、現状人材不足なのは明白である。これに
対処すべく、民間のご意見番、交渉役と言われる者達から実績のある者を特例
的に採用する案を近日可決する方針。

 正直、多忙で判断力が落ちていた。昨晩のBARの一件の後、達大が疲れ果て
てベッドにそのまま倒れ伏す直前にサイドテーブルに放り出した書面。つまり、
あの狐面の男に渡された資料が弟子である少女の目に止まったらどういう展開
になるか、普段なら思い至らぬ達大ではない。
 少女はここ最近明らかに現場に出たがっていた。身につけた力量を試してみ
たいと考えるのは当然であるが、人外絡みの交渉をそうほいほい高校生に任せ
られるわけもない。それが自身もまた人外であり、それなりに優秀な弟子であ
る彼女であってもだ。
 今日は定例の勉強会の日であったが、件の書面を見てしまった彼女はまった
く身が入っておらず、しかたなく休憩時間をとっていた。
 もうかれこれ5分ほど押し黙り、立ったまま書斎のデスクを挟んで向き合う
二人。こんな時に限って話題を逸らしてくれそうな火狐が遊びに出てしまって
いるのが悔やまれた。

 つみき    :「先生、ですから今晩の件私に任せてください」
 達大     :「段々なりふり構わなくなってきましたね。先程も言いま
        :したが身の程をわきまえなさい」
 つみき    :「どうして無理と決めつけるんですか!」
 達大     :「僕は、これを社の仕事として依頼され、一度断ったんで
        :す。もう介入の余地は如何ほどもない」

 少女は達大にこの日三度目のトライをかけた。最初二度は婉曲的に達大を誘
導しようとしたが当然それにかかる師でもなく、もはや駄目元のごり押しでし
かない。達大もいい加減呆れ、溜息すら出た。まさかここまでこだわるとは思
わなかった。

 つみき    :「だけど、私を代理人として立てることは可能ですよね。
        :先生が身の保証さえしてくれればクライアントとの交渉 
        :だって私──」
 達大     :「自惚れちゃいけません。確かにこの業界能力と経験さえ
        :あれば年齢は問わない面がある。だが今のあなたに何があ
        :るって言うんですか?」

 達大にはやや挑発的な物言いをしてでも少女を抑え込む必要があった。こう
でもしないとまるで効かないじゃじゃ馬なのだ。ただでさえ多忙であるのにこ
れ以上心配事の種を増やすわけにはいかない。
 少女は肩を怒らせて両の拳を握りしめているが、微かに口を動かしながら本
を読むかのように視線を虚空に走らせている。まだ、諦めていない。次の手を
読み込んでいる。

 つみき    :「誰もが、最初は──」
 達大     :「学生の研修でしたら、もっと他に適切な事件がいくらで
        :もありますよ。功を焦ると取り返しのつかないことになる。
        :大体つみきさんはまだ高校生だということ、ゆめゆめ忘れ
        :ないように」

 発言を遮り根気強く落ち着いた口調で畳みかける。土台無理な相談なのだ。
なのだが、少女は引かなかった。この辺り、未だにわがままを押し通す癖が抜
けきれない。

 つみき    :「高校生なのはそれ程問題になりません。少ないですけど
        :同年代でプロとして国に雇われている例もあると聞きます。
        :民間なら尚更。保護者がいて依頼人の許可さえあれば私で
        :も交渉にあたることは可能です」
 達大     :「保護者、ね。僕は行きませんよ? まず依頼主が、こう
        :言っては何ですがあまりいい噂はありません。そして先方
        :の立てた代理人もカタギという感じではなかった。交渉の
        :対象──天使憑きも普通なら警察沙汰ですよ、まず」
 つみき    :「そんな事例は他にもたくさん──」
 達大     :「以上を踏まえて! 僕は自分が当該事件を担当するのも
        :危険と判断したんです。そこにあなたのような人を送る道
        :理がどこにありますか。確かに先方は交渉役を欲しがって
        :いたが、企業に属していないつみきさんが介入することを
        :保証するとしたら僕にどれだけの責任が発生するか考えて
        :下さい」

 達大は後半意図的に語気を強めた。少女は唇を噛む。

 達大     :「だいたい、証言を見るにこれはもう警察沙汰じゃなけれ
        :ば退魔師の仕事です。既に知人が動くようでもある。僕の
        :知るところではありませんが。いずれにしろこの件は僕達
        :の出番じゃないですよ、先方の望みがどうであろうとね」
 つみき    :「……退ければ……排除すればいいってものじゃない」

 少女の瞳に光が宿り、達大が一瞬口をつぐむ。

 つみき    :「じゃあこうしましょう。助手として退魔士、前野浩を付
        :けます。いざとなったら退魔士としての彼に委ねる」
 達大     :「現段階の先方の依頼は交渉だ。退魔じゃない。第一、あ        :なたは、前野さんまで巻き込んでどうする気です。それは        :もう甘えだという事を自覚した方がいいですね」
 つみき    :「──っ。とにかく先方と掛け合ってみます。調停は原則
        :第三者のいない場所で行われることになっていますが、危
        :険度が高いと調停人が判断した人外相手に退魔師やそれに
        :準じる第三者を連れることは認められています。保護者の
        :役目も彼に任せます」
 達大     :「前野さんがそれに応じるはず無いでしょう!」
 つみき    :「説得して見せます。次に私の身元保証ですが猫回し桜木
        :達大の弟子の名は使わせてください。でも、これはあくま
        :で私の独断であるという前提で先方と直接交渉にあたりま
        :す。これなら責任の全ては私とその将来にかかります」
 達大     :「自分が何を言っているか理解してますか。そしてそれを
        :僕が見過ごすとでも思っているんですか」
 つみき    :「元々、初手としての交渉のようですし、失敗した際の安        :全弁も既に用意されてるのでしょう? それならばこの程
        :度の詭弁でも通して貰えるはずだわ。先方からしたら成功
        :すれば御の字ですもの」
 達大     :「あちらが認めても僕がそんな行為は認めない」
 つみき    :「心配してくれてありがとう先生。でも、応援してて下さ
        :い。私、やり遂げてみせますから」

 わずかに、ほんのわずかにではあったが、若者らしい前向きさの籠もった眼
差しに達大は気圧されてしまったのかもしれない。結果、次の言葉を紡ぐ前に
つみきが自室から出て行く隙を作ってしまった。

 達大     :「ちょっと待ってください。まだ話は──」

 力強く玄関の扉を閉める音が響く。ご丁寧に先方の連絡先を記した書面もな
くなっている。

 達大     :「まったく──生き急いでるというかなんというか。あれ
        :じゃあ火狐と変わらないじゃないか」

 軽い目眩を覚え、崩れるように椅子に身を預ける。
 行きすぎた若さというのはそこを通り過ぎたばかりの者にとって少々毒だ、
と達大は思った。


天使が巣くうビル
----------------
 薄い緑の柱が林立する地下駐車場にはもう車はほとんど停まっていない。
 壁際にとめられた一台のバンの中には黒い服の少女と男が一人ずつ。一見親
子ほどにも歳が離れているかのような二人だが、黒服の男はまだ青年といって
いい年齢であるし、少女はもう高校生になる。
 車中の時計が21:30を示し、少女、つみきは天井右側のランプを点して手帳
を広げる。

 つみき    :「交渉対象は現在クライアントの所持するビルの屋上に潜
        :伏……というよりこれは占拠しています。私の仕事は非暴
        :力による事態の終結。及び対象の任意による同行。22時、
        :ビルの警備員を除く一般職員が全て帰宅した後に交渉開始。
        :現場にはクライアントの立てた代理人も同伴します」

 つみきはここで手帳から目を離し、視線を隣に座っている男に向けた。

 つみき    :「それと、護衛役兼保護者の前野浩もね」
 前野     :「まったく……」
 つみき    :「ごめんなさい。でもチャンスなの。それに、交渉にあた
        :るのは私が最後。この段階を逃したらあとは退魔機関の仕
        :事になるし、そうなったら死人も出るかもしれない」
 前野     :「……」

 男はそういった潰し合いをもう長いこと見てきたゆえ、つみきのそれは狭窄
的なエゴに過ぎないと感じる。そんなことはこの件以外にもありふれているし、
一方で交渉の結果死人が出ることだったある。つみきの思い描く結果は10の不
幸な結果の上にある1でしかない。こんなにも自分を賭け、周りに迷惑もか
けて彼女が出張ったところでそれは変わりはしないのだ。
 こんなことになるのなら、高校生の間はこっちの世界からなるべく遠ざけて
おくべきだったな──つい、そんな風に考えてしまう。

 つみき    :「それじゃあ、行きますよ。前野」


 執事を呼びつけるかの口調で車から降りる。つみきは男のことを三種類の呼
び方で呼び分けているが、苗字を呼び捨てるときは自分が主となり仕事をする
時。こうなるとお互いに自然と背筋が伸びる。
 駐車場の鉄扉を押し開け、エレベータホールに出るとオフィスビルに場違い
な狐面の男がひょろりと立っていた。

 狐面の男   :「先ほどはお電話でどうも。あなたが猫回し桜木達大氏の
        :お弟子さんですか。これは、また随分と」
 つみき    :「よろしくお願いします。本日の交渉を担当することにな
        :りました人外問題専門調停人見習い、桜居津海希です」

 狐面の男の冷笑的な反応を受け流すように笑顔で切り返してみせる。つみき
は不思議と落ち着いている自分に驚き、傍らにいる前野に感謝した。

そして──
----------
 弧面の男   :「この扉の向こう、屋上に当該人外はいます。準備はよろ
        :しいですか、お嬢さん」
 つみき    :「桜居で結構です。まずはどの程度のコミュニケーション
        :が可能かのチェックの為に近付くので、あなたは前野の背
        :後で待機していてください。その後、安全と言える距離を
        :保ちつつお互いに納得の行く落としどころを模索する段階
        :に入ります」

 一度大きく深呼吸しノブに手をかけるつみき。
 前野がその肩に手を置き、無理はしないようにと小さく声をかける。一度、
ゆっくりと瞼を閉じ大丈夫と唇を動かす。そしてそれを返事として扉を開け
放った。途端に外からの突風が舞い込む。
 屋上はベンチと貯水タンク、そして小さな稲荷の社が一つ。その社の鳥居の
上に少女が、天使が腰掛けていた。
 白と黒の斑に塗り分けられたような猛禽の翼を強風にはためかせ、無表情に
空を見上げている。真夏とはいえ少々肌寒そうな白いワンピースは所々すり切
れ、髪は風にあおられるままになり、骨ばんだ手には所々血が滲んでいる。
 寄生主の体を大切にするタイプではない。早期の解決が求められる。寄生体
の分類表を頭に思い浮かべ、彼女はすぐさまそう判断した。

 つみき    :「こんばんは」

 天使は、つみきの存在を認識するやいなや獣のような表情と声を上げて飛び
かかる。刹那、踊るように半身を翻しターンしてこれを回避するつみき。咄嗟
に前に出ようとした前野を手の平で制する。

 つみき    :「いい夜ね。風が強くて気持ちいい。月を見てたの?」

 返ってくるは獣性のうなり声。

 つみき    :「あなたの欲しいものはなんですか? 出来る限りのこと
        :はしようと思って今日は話し合いに来ました」

 憑物であれば獣性であれ母体の脳を通して言葉が通じる例は多い。勝算がな
いわけではない。

 つみき    :「声帯が使えないのであれば、これ、文字盤です。どんな
        :手段でもいい。あなたが誰なのか何がしたいのかを教えて
        :欲しいんです」

 天使が地に降り、ゆっくりとつみきに歩み寄る。
 つみきは両腕を下げ、それでいてすぐにバックステップが可能な姿勢で相手
の出方を探る。
 天使がつみきと五歩の間合いに入って立ち止まる。

 狐面の男   :「やはり駄目か」
 前野     :「……?」

 無造作に腰を捻り、目一杯腕を背中に回す。
 そして、突き出した。信じられないほど腕が伸びる。否、その手には槍状の
武器が握られていた。間合いを無視し、つみきのいた空間を貫く。つみきは咄
嗟に大きく後ろに飛び、この突きもまたかわす。
 が、その一撃の直後天使は飛び込んできた。枯れ枝のような腕で宙を舞って
いるつみきを薙ぐ。
 咄嗟にガードにまわした左腕の上腕骨が折れる音を聞きながら、つみきは屋
上のフェンスに叩き付けられる。金網の乾いた音がすぐさま風の音に吹き消さ
れる。
 前野がつみきと天使の間に走り込み、対峙する。サングラスの下でその眼球
がピンク色に発光する。

 前野     :「……交渉は、決裂と言うことでよろしいか!」
 狐面の男   :「調停人のお嬢さんはまだ続けるつもりみたいですが?」

 前野の頭上に、つみきの頭部だけが浮いている。飛頭蛮、つみきの生来の種。
首だけで空を舞い人肉を屠るモノ──

 つみき    :「……止まれ! それより近付くば我が結界の内ぞ!」

 天使がぴたりと歩みを止める。

 つみき    :「やっぱり、言葉は通じてるんじゃない。その上でこの反
        :応……人の血を求める類? 今のままだと早晩あなたは退
        :魔士に排除される可能性が高いです。こちらとしてもあな
        :たの望むモノを用意する準備は──」
 天使     :「カカカッ!」

 天使は目を大きく見開き、歓喜の表情で槍を投げつけた。
 咄嗟に前野が目の細かいグリッド状の光線を展開し壁を作るがその隙間を
縫って槍はつみきの額を貫通し、消滅する。
 落下するつみきの頭部。
 咄嗟に受け止める前野。
 その隙に舞い上がる天使。

 狐面の男   :「いかん、逃げられます。排除してください!」
 前野     :「クソッ!」

 つみきの頭部を見た限り大きな外傷はないが、安心出来る状態ではない。あ
の槍の狙い、皆目検討が付かない。死、という言葉が頭に浮かび次の一手が致
命的に遅れる。退魔士前野浩としての責務を怠ってしまう。
 前野が捕縛のための策を打った時にはもう、天使は彼の能力の及ぶ領域から
消え去っていた。

 狐面の男   :「ええ、やはり駄目でした。逃げられました。はい。ここ
        :から離れたとなると、次の動きは──」

 早くも携帯を取りだし淡々と話し続ける男を無視し、前野はつみきの頭部を
体に繋げる。彼女は頻繁に頭部を落っことすのでこの作業はもうすっかり慣
れっこであるが、くっつきはしたものの目を覚ます気配はない。全身から汗が
引いていくような感触。
 脈を取る、呼吸の確認をする、怪我の状態をスキャンする。骨折箇所が複数
あるものの生存の確認はとれた。とりあえず、生きてはいる。しかしまるで地
に足がついた感じがしない。もう一度詳細に全身をスキャンしようとするが、
集中力が、持続しない。

 狐面の男   :「飛頭蛮、桜居の姫と聞いたのでもう少しやるかと思った
        :のですが、ええ、まあまだ想定の内です。既に何人か動か
        :してはいます。奪われたものですか、見当が付きませんね。
        :やり取りの中では首を飛ばせる程度にしか見えませんでし
        :たが」

 狐面の男は小声で話しているが、過敏になった感覚で全てが前野の耳に入っ
てくる。唐突にいらだちがわき起こる。

 前野     :「おい、何か知っているな。何処まで知っていた? 彼女
        :がどうなったのかわかってるのなら言え」

 歩み寄り狐面の男の胸ぐらを掴む。男は携帯を切り、腕を払いのける。

 狐面の男   :「何を言っているんですか。そちらのお嬢さんは自分の責
        :任でこの件にかかわり勝手に失敗したんですよ。あなた、
        :素人じゃないのならそれがどういう事かわかるでしょう」
 前野     :「口上はいい」
 狐面の男   :「物騒な人だ。ほら、お嬢さんがお目覚めですよ」

 前野が振り返るとつみきは目を開き、苦痛に顔を歪めていた。

 前野     :「津海希ちゃん!」
 狐面の男   :「それでは、失礼します」

 前野が抱き起こすと、つみきは動く方の右手で喉を掻きむしり始めた。困惑
の表情がすぐさま絶望に染まる。喉から空気の漏れるような微かな音のみが出
ていく。上半身を自力で起こし、前屈みになり、血が出るほど首筋を掻きむし
る。そうして、次にコンクリートの床を叩き始める。
 前野は力尽くでそれを制したが、何が起きているの理解出来なかった。

 前野     :「津海希……ちゃん?」

 つみきは声を、話す力を失っていた。

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