[KATARIBE 29104] [HA06N] 小説『伝言(改訂版)』

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Date: Thu, 25 Aug 2005 23:59:29 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29104] [HA06N] 小説『伝言(改訂版)』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200508251459.XAA78489@www.mahoroba.ne.jp>
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Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
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2005年08月25日:23時59分28秒
Sub:[HA06N]小説『伝言(改訂版)』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
以前書きました、『伝言』という話。
ここまで書いてみて、時期とか背景とかが、初期の状態とかなり変化しましたので、
改訂版にしてみました。
こちらが、一応、『本筋』ってことで。
前回のログは、
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28900/28953.html
です。
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小説『伝言(改訂版)』
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   登場人物
   --------
    相羽尚吾(あいば・しょうご)
      :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。ヤク避け相羽。
      :http://kataribe.com/HA/06/C/0483/
    軽部真帆(かるべ・まほ)
      :自称小市民。多少毒舌。ネズミ騒動以来相羽宅に避難。
      :http://kataribe.com/HA/06/C/0480/

本文
----
 
 相羽さんのところに移ってから、早いもので、もう1ヶ月半ほどになる。
 最初はほんとに『避難』状態、取るものも取り合えず、だったんだけど、あ
れから何度か元の家に来ては、その度に荷物を運んでいる。
 家賃は家事全般。期間は無制限。
 ある意味では、ほぼ完全に向こうに移ってるのだけど、でもまだ結構、こち
らに荷物は残ってる。冷蔵庫とか洗濯機とか。
 一人で暮らすには、必須の家電製品。
 故に、まだ部屋は借りた状態になっている。

 無駄じゃない、と、相羽さんには言われた。
 自分でも、そう思わないでもない。
 
 ただ……なんてか、独り暮らしが染み付いてて、頭では大丈夫と判ってても
どっかでそれを信じきってない、のかもしれないって思う。
(追い出されるとはこれっぱかりも思ってないけど)
(ある意味、矛盾している、と思っているけど)

 いわば、背水の陣を敷く前。背後に一本だけ残る橋。

 捨ててしまうには……度胸がいる。

 実際問題、ネズミに荒らされた後の片付けを考えると、相当躊躇するっての
もあるんだけど。

         **

 妙にほっこり時間が空いて、半ば待機状態だ……と。
 相羽さんが珍しく家に居る。
 ベタ達が大喜びで、周りを飛び回ってる。

 洗濯物を干し終えてから、飛び回ってるベタのところに行く。空気中を転が
るように近づいてくるベタ達を片手で撫でながら。

「えっと……」
「ん?」
「向こうのうちに、電話聴きに行きたいんだけど……」

 電話は留守電状態にして置いてきている。最初に行った時はそれこそまだネ
ズミの気配が濃厚で、あたしは部屋に入れもしなかった。
 入り口で躊躇しているあたしに代わって、部屋の中から入り口まで、相羽さ
んが電話を引っ張ってきてくれて。
 以来、そこに電話を置きっぱなしにしてる。
 あれから一ヶ月半が過ぎて、ネズミの姿は滅多には見かけない。ただどうや
ら棲みついた奴も居るようで、行くと時折、足音が押入れから聞こえてきたり
する。
 持って帰るものとかあるから、無論その後は何度か家に入ってはいる。押入
れだって開けて探し物をすることもあるし、大概そういう場合、ネズミは先に
逃げているらしいし。
 でも、やっぱり電話はその場所に置きっぱなしである。
 本来、こういう場合、相羽さんに頼む理由も権利も無い、とは思う。せっか
くのオフの日に、留守電確認に付き合わせるのって、それは迷惑だと思う。
 だから一人で行けと言われれば、それは問題無いし、実際今までも何度か、
一人で行っている。
 …………んだけれども。

 ぼろぼろになった敷物は、ネズミの糞や毛ごと廃棄した。
 だけど、何となく、臭いがする。足音もする。

 ……だから。
 
「……良ければ、一緒に、来て貰えませんか?」
「いいよ」
「……すみません」

 ネズミのアレルギーではない、と思う。
 ……アレルギーより厄介かもとは思うけど。

         **

「……あ」

 玄関口の電話は、留守電のボタンが明滅している。
 やっぱ、来てみて良かった。

 ぽん、と、押して。

 まず一件、無言で切れた電話(多分勧誘とかの電話)。そして一件、これは
完全に勧誘の電話。
 そして一件。

「……なあ、姉貴ぃ……えっと後からだけど結婚したっつか、届けたわ」
 え?
「ええ……ええと、子供、出来て」
 つか名のれよ……多分矢木の奴だけど。
「……姉貴の言ったとおりになったわ……ごめん」

 ぷちん、と途切れた声。
 そして時刻を告げる声。
 そして、それが最後の伝言。

「……あーあ」
 留守電に設定しなおして……少々溜息。
「やっぱりなあ……あーの莫迦が」
 そうなると思ったんだよね。頑張るとは言ってたけどさ。

 ふと気が付くと、相羽さんがこちらを見ていた。
「……弟分。どーしようもない奴だったけど、やっぱどうしようもない」
「ふうん」
 微妙な返事と、微妙な表情のまま、相羽さんは黙っている。

「……愚痴、ちょっと聞いてもらえます?」
「何?」
「……今の電話」


 留学で、あの国に来たのはまだ彼が十代の頃。それなり器用で外交的で、何
より言葉を覚えるのが早かった彼は、あたしより遥かに友人を作り、学問に励
み、それは楽しそうにあの国で過ごして。
 そして、こちらが帰国する少し前から。
 恋愛問題を、少しずつ起こすようになった。


「何かね、一度に一人、ではあるらしいんだね。本人の主張によると」
「……」
「ただその一人ってのが……とっかえひっかえ次から次にでさ。子供が出来た、
結婚しろって言われれば他に逃げ、留学から帰らねばって時になると、日本の
留学生に彼女を作り……」


 彼が日本に戻ってすぐ、あたしのところに呑みに来た。
 女はもう俺こりごりよ、と、偉そうに言うから、ああまた引っかかるね、と
断言してやった。
 
(真帆姉貴は?)
(んあ?)
(姉貴だったら、俺引っかかっても良いけど?)
(……今からお前、酒代と酒の肴代耳揃えて出すか?)
(…………ごめんなさいもういいません)
(よし)


 一年程して、彼の家に遊びに来い、と呼ばれた。
 しっかりと彼女がそこに居た。
 
(あの、クマのぬいぐるみ作った方ですか?)
(あーそーです。ってか彼女が出来たら、是非彼女にあげるよーにっつってあ
げたんだよね?)
(やだ。これ俺の。真帆姉貴、も一つ作ってよ)
(……おまいねえ……)


「そんで、その後に、彼女と一度別れて、他の子と結婚して、またその子とも
速攻別れて」

 そして。


(姉貴、俺ほんっと、今度は思うわ。絶対もう女に引っかからない)
(あーそれ無理。あんた多分また誰か女の子引っ掛けるわ)

 遠慮会釈無く言ったら、電話の向こうで絶句された。

(そんでもって何番目かの彼女に、子供が出来て結婚ね)
(あーねーきっ)
(孤独に耐え得る根性の一つも無いくせに、何をいいやるか)

 沈黙。
 流石に言葉が過ぎたかな、と、こちらはちょっと身構えたけど。

(……姉貴くらいやん、そう言ってくれるの)
(は?)
(俺さあ……偉そうに言うけど、一人で居るのさびしいんよ)
(よく、そう言うね)
(で、そう言うと……納得されるんよ)
(……そらー納得する奴のが根性ないね)
(うん)
 その癖に、その声は嬉しそうで。
(そやってお前が悪いって、言うの姉貴くらいやねん)

 ……そらさあ、そう愚痴る相手が、当の引っ掛けた女の子だったら、「貴方
が悪いのよ」とは言わないだろうなとは思ったけど。

(……あーほっとしたー)
 妙にのびのびと、そんなことを言って。

(これが、真帆姉貴やったらな)
(ありえないから言える台詞という自覚をしっかり持つように)
(あ、それ自覚してるしてる)


「結婚したとは聞いてたんだよね。道理で電話してこない筈だわ」

 ゆっくりと歩いて、相羽さんの家に戻る。
 こちらも厄介な弟分の話を吐き出して、ほんの少しほっとする。
 一体どの彼女に引っかかって、どの彼女と年貢を納めたのかは不明だけど。

「ああまったく……莫迦だわ、あれも」
「……」
「ほんっと肩凝る」
 ったくしようもねえ話だ。
「……という、まあ愚痴。ごめんね聞かせて」
「いやあ、耳が痛いね」
「あ、やっぱり?」

 不意に、すとん、と頭に手が乗っかった。
 くしゃっと一度だけ、撫でるように……あやすように。

 それきり、相羽さんは何も言わなかった。

        **

 帰りがけに買い物を済ませて、そのまま家に戻る。
 後は、相羽さんはほぼ一日、本を相手にしていた。


 昼御飯と夕御飯。お風呂の用意。
 家賃の代わりなんだけど、すっかりそれが普通になっちゃってて。
 お弁当の用意もしておいて、明日のご飯の用意だけして。

「あとは……明日なんかやっとくことある?」
 一応、確認。
「いや、別に」
「普通の時間で良いよね?」
「うん、頼むわ」
 一ヵ月半の間に、すっかり慣れっこになったやり取りを終えて。
「じゃ、お休み」
 借りてる部屋の、扉を開こうとした、時に。

「?」

 肘のあたりを掴まれた。
 そのままひょい、と、引っ張られて。
 すとん、と。

 一瞬何が何だかわからなかった。ただ。

 頭を撫でる、手。
 そして一度だけ、抱き締めたままの腕に力を入れて。

「お休み」

 すとん、と。
 それだけ言って、相羽さんは手を広げて……そのまま自分の部屋に入ってし
まった。


「……えっと……おやすみ」
 いや、聞いてないだろうなとは思ったけど。


 ええと。
 …………何だったんだろう、今の。
 何考えて……って……

 何か、気に障ることを……言った、わけじゃないだろうし。
 
 
 何となく一瞬、矢木の奴がここに居たらなあって思った。
 どう考えても、あたしよりか、こういったややこしいことを得意としてそう
だったから。

 ……何だろうね。一体。


時系列
------
 2005年8月下旬

解説
----
 鈍いのと、わかってないのと。
 二名揃えて……の、日常断片です。

********************************:

 最初の部分を中心に、書き換えてみました。
 ではでは。




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