[KATARIBE 28953] [HA06N] 小説『伝言』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Thu, 21 Jul 2005 01:38:46 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28953] [HA06N] 小説『伝言』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200507201638.BAA92136@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 28953

Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28900/28953.html

2005年07月21日:01時38分46秒
Sub:[HA06N]小説『伝言』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
ねづみ騒動の後、というか並行してというか。
真帆の一人称での、風景です。
……いや、ちょと色々思い出しまして(苦笑)
ひさしゃん、赤ペン先生有難うございます。
****************************************
小説『伝言』
===========

 相羽さん宅に避難して数日。
 取るものも取り合えず……というのも変だけど、どこにも連絡入れてないし、
流石に留守電のことが気になる。
 ネズミは消えたか、と、尋ねたら、数秒の沈黙の後に、ネズミ『は』ね、と、
妙に強調した答えが戻ってきた。
 ……その答えだけで、相羽さんを自宅に付き合わせた自分は、それなりに悪
党だとは思う。
 ……いや現在進行形で思ってるんだけど。


「……無理」
 あっさりと断言される。
「い、いやでも……だけど」
「見えてるでしょ?」
「……う」

 食べ物は全部、台所に置いといたし、乾物も含めて入るだけ冷蔵庫に入れて
おいた。だからこちらの部屋はそこまで荒らされていないと、思ってたんだけ
ど。
 よほどのネズミが居たのだろう。
 畳の上の敷物はぼろぼろ、あちこちにネズミの糞らしいものがついている。
それよりも大量の、ネズミのものらしい歯形や毛。

「……電話が遠い……」
 見えてるんだけど。きっちり見えているんだけど。
「ああ、ちょっと待ってて」
 相羽さんが靴を脱いで部屋に入る。この場合靴を履いたままでも良かったの
に、と思っているうちに、コードを伸ばしながら電話をこちらに引っ張ってき
てくれた。
「……すみません」

 引っ張ってきてもらった電話は、留守電のボタンが明滅している。
 やっぱ、来てみて良かった。

 ぽん、と、押して。

 まず一件、無言で切れた電話(多分勧誘とかの電話)。そして一件、片帆の
声で(どう連絡しよう、と、一瞬悩んだけど)。
 そして一件。

「……なあ、姉貴ぃ……えっと後からだけど結婚したっつか、届けたわ」
 え?
「ええ……ええと、子供、出来て」
 つか名のれよ……多分矢木の奴だけど。
「……姉貴の言ったとおりになったわ……ごめん」

 ぷちん、と途切れた声。
 そして時刻を告げる声。
 そして、それが最後の伝言。

「……あーあ」
 留守電に設定しなおして……少々溜息。
「やっぱりなあ……あーの莫迦が」
 そうなると思ったんだよね。頑張るとは言ってたけどさ。

 ふと気が付くと、相羽さんがこちらを見ていた。
「……弟分。どーしようもない奴だったけど、やっぱどうしようもない」
「ふうん」
 微妙な返事と、微妙な表情のまま、相羽さんは黙っている。

「……愚痴、ちょっと聞いてもらえます?」
「何?」
「……今の電話」


 留学で、あの国に来たのはまだ彼が十代の頃。それなり器用で外交的で、何
より言葉を覚えるのが早かった彼は、あたしより遥かに友人を作り、学問に励
み、それは楽しそうにあの国で過ごして。
 そして、こちらが帰国する少し前から。
 恋愛問題を、少しずつ起こすようになった。


「何かね、一度に一人、ではあるらしいんだね。本人の主張によると」
「……」
「ただその一人ってのが……とっかえひっかえ次から次にでさ。子供が出来た、
結婚しろって言われれば他に逃げ、留学から帰らねばって時になると、日本の
留学生に彼女を作り……」


 彼が日本に戻ってすぐ、あたしのところに呑みに来た。
 女はもう俺こりごりよ、と、偉そうに言うから、ああまた引っかかるね、と
断言してやった。
 
(真帆姉貴は?)
(んあ?)
(姉貴だったら、俺引っかかっても良いけど?)
(……今からお前、酒代と酒の肴代耳揃えて出すか?)
(…………ごめんなさいもういいません)
(よし)


 一年程して、彼の家に遊びに来い、と呼ばれた。
 しっかりと彼女がそこに居た。
 
(あの、クマのぬいぐるみ作った方ですか?)
(あーそーです。ってか彼女が出来たら、是非彼女にあげるよーにっつってあ
げたんだよね?)
(やだ。これ俺の。真帆姉貴、も一つ作ってよ)
(……おまいねえ……)


「そんで、その後に、彼女と一度別れて、他の子と結婚して、またその子とも
速攻別れて」

 そして。


(姉貴、俺ほんっと、今度は思うわ。絶対もう女に引っかからない)
(あーそれ無理。あんた多分また誰か女の子引っ掛けるわ)

 遠慮会釈無く言ったら、電話の向こうで絶句された。

(そんでもって何番目かの彼女に、子供が出来て結婚ね)
(あーねーきっ)
(孤独に耐え得る根性の一つも無いくせに、何をいいやるか)

 沈黙。
 流石に言葉が過ぎたかな、と、こちらはちょっと身構えたけど。

(……姉貴くらいやん、そう言ってくれるの)
(は?)
(俺さあ……偉そうに言うけど、一人で居るのさびしいんよ)
(よく、そう言うね)
(で、そう言うと……納得されるんよ)
(……そらー納得する奴のが根性ないね)
(うん)
 その癖に、その声は嬉しそうで。
(そやってお前が悪いって、言うの姉貴くらいやねん)

 ……そらさあ、そう愚痴る相手が、当の引っ掛けた女の子だったら、「貴方
が悪いのよ」とは言わないだろうなとは思ったけど。

(……あーほっとしたー)
 妙にのびのびと、そんなことを言って。

(これが、真帆姉貴やったらな)
(ありえないから言える台詞という自覚をしっかり持つように)
(あ、それ自覚してるしてる)


「結婚したとは聞いてたんだよね。道理で電話してこない筈だわ」

 ゆっくりと歩いて、相羽さんの家に戻る。
 こちらも厄介な弟分の話を吐き出して、ほんの少しほっとする。
 一体どの彼女に引っかかって、どの彼女と年貢を納めたのかは不明だけど。

「ああまったく……莫迦だわ、あれも」
「……」
「ほんっと肩凝る」
 ったくしようもねえ話だ。
「……という、まあ愚痴。ごめんね聞かせて」
「いやあ、耳が痛いね」
「あ、やっぱり?」

 不意に、すとん、と頭に手が乗っかった。
 くしゃっと一度だけ、撫でるように……あやすように。

 それきり、相羽さんは何も言わなかった。


        **

 ご飯を用意して、お風呂入れて。
 そらもう現時点、無償で避難させて貰っているのだ。その程度しないと罰が
あたる。
 お弁当箱を洗って、明日のご飯の用意だけして。

「あとは……明日なんかやっとくことある?」
「いや、別に」
 一応、それでも確認して。
「じゃ、お休み」
 借りてる部屋の、扉を開こうとした、時に。

「?」

 肘のあたりを掴まれた。
 そのままひょい、と、引っ張られて。
 すとん、と。

 一瞬何が何だかわからなかった。ただ。

 頭を撫でる、手。
 そして一度だけ、抱き締めたままの腕に力を入れて。

「じゃ、お休み」

 すとん、と。
 それだけ言って、相羽さんは手を広げて……そのまま自分の部屋に入ってし
まった。


「……えっと……おやすみ」
 いや、聞いてないだろうなとは思ったけど。


 ええと。
 …………何だったんだろう、今の。
 何考えて……って……

 何か、気に障ることを……言った、わけじゃないだろうし。
 
 
 何となく一瞬、矢木の奴がここに居たらなあって思った。
 どう考えても、あたしよりか、こういったややこしいことを得意としてそう
だったから。

 ……何だろうね。一体。


時系列
------
 2005年7月初め

解説
----
 鈍いのと、わかってないのと。
 二名揃えて……の、日常断片です。

********************************:

ってなわけで。
……双方見事にわかってねえ(苦笑)

ではでは。




 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28900/28953.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage