[KATARIBE 29008] Re: [HA06P] エピソード『無明の天使:白い部屋』(改稿)

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Date: Tue, 02 Aug 2005 20:43:16 +0900
From: "Sakurai.Catshop" <zoa73007@po.across.or.jp>
Subject: [KATARIBE 29008] Re: [HA06P] エピソード『無明の天使:白い部屋』(改稿)
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こんばんは、桜井@猫丸屋です。

 白い部屋、時系列的にいささか厳しいことが判明したのと、少し気になる
箇所があったのとで改訂しました。
 というわけで改訂版をお送りします。

 ではでは。

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[HA06P] エピソード『無明の天使:白い部屋』
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登場人物
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桜木達大 (さくらぎ・たつひろ):http://kataribe.com/HA/06/C/0365/
 本業はシステム運用管理者だが、何者とでも会話が成立する異能を見込まれ
 対怪異専門の交渉人を副業としている。
 通称を若旦那、通り名を猫回しと言う。 

大藤隆喜 (おおふじ・たかのぶ):
 達大の上司であり、仕事の基礎を仕込んだ男でもある。
 現在の役職は矢垣物産(株) 渉外室 第三企画部部長。要するにとても偉い。


上司と部下の会話
----------------

 吹利近鉄新本町ビルの四階、吹利物産株式会社の吹利事業所の応接室。

 達大の前、応接用テーブルを挟んで向かい合わせに壮年の男──大藤隆喜が
座っている。
 肩書きで言えば矢垣物産(株) 渉外室 第三企画部部長。そして達大に仕事の
基礎を仕込んだ男でもある。──職制上、直接のつながりはないが。

 隆喜     :「それで結論は?」
 達大     :「あれは──ちょっと無理ですねぇ。手に余ります」
 隆喜     :「そうは言っても、堺さんの紹介だからねぇ。うかつな
        :こと言って面子を潰すわけにもいかんしなぁ」

 渡された報告書をテーブルの上に放り、隆喜は面長の顔を渋くしめる。
 はぁ、と生返事して達大は手元の書類から顔を上げた。

 この暑いのに、よくもまぁ。

 隆喜のスーツ姿を改めて見て、そんなことを思う。
 確か朝の天気予報では、今日はこの夏一番の暑い日のはずだ。それなのに、
すっきりと、スマートなシルエットのスリーピースを着こなし襟元にも袖にも
乱れがない。
 着道楽を自認する達大でも、これは真似できなかった。

 同じイングリッシュスタイルのスーツでも、昨日の代理人とは真逆だな。
言うコトの容赦なさは大して変わらないけど。

 呆れ混じりに感心しつつ次の言葉を繋ぐ。
 こんな仕事を押し付けられては割に合わない。

 達大     :「知り合い連中にあたってみましたが、天使憑きさん、異
        :能を奪うらしいです」

 言葉を切って、ひと呼吸。
 それから殺し文句。

 達大     :「うかつに手を出せば、今後、こっち関係の仕事を全て
        :お断りせざるを得ない、なんてことになりかねませんが」
 隆喜     :「──それも困るねぇ」

 腕組みして隆喜は首を傾げる。
 予想した通りの反応だ。
 個人の能力、それも特殊で希少な能力に異存する職種だから人材は常に不足
している。あたら失った場合の機会損失を秤に掛ければ、お断りする方に傾く
のは当然だった。

 達大     :「本業の方も立て込んでますし」
 隆喜     :「まぁ、先方の噂もいまひとつ良くないしなぁ」

 ぼやくような迷うような声音でいいながら、スーツの胸ポケットからソフト
ケースのタバコを取り出す。
 暖かく柔らかいオレンジ色のパッケージに『ECHO』の黒字。
 オジサンタバコの定番。定価\270-が主流のこの時代で\170-という低価格が
懐に優しい銘柄である。

 達大     :「相変わらずソレなんですね。最近はめっきり見かけなく
        :なりましたけど」
 隆喜     :「桜木君もどうだね?」
 達大     :「いえ、タバコはやめましたので。それに、応接室は禁煙
        :ですよ?」
 隆喜     :「相変わらず変なところで堅いな」

 もの柔らかく断りつつ、さらにたしなめた達大に、隆喜は顔をひそめる。
こんな頭の固い部下を育てた覚えはないぞ、とでも言いたげだ。

 達大     :「約束は守る、ってのは交渉人の基本心得ですから」
 隆喜     :「その調子で、なんとかやってみんかね? 先方、評判は
        :悪いが、先に自民党の偉いさんがつながっててねぇ」

 むかし当の本人から学んだ言葉を慇懃に投げつけ、達大は笑顔。密かにして
やったりと思ったのもつかの間、流石に隆喜は上手だった。
 達大の言葉尻に乗せて切り返す。

 隆喜     :「関係が切れちゃうのは会社的に痛いのも、まぁ事実な
        :わけ。やっぱ、いろいろシガラミがねぇ」
 達大     :「社是にもあります。フェアな会社経営って」
 隆喜     :「政治家の先生と友好な関係を保つのは、別にアンフェア
        :なわけじゃない、ってのは少し苦しいかね」
 達大     :「──と、思います」

 あまり上手くもない達大の受けに、さらに苦しい隆喜の返し。
 どうも、この話に前向きになれないのは隆喜も同じらしい。

 そうは言っても、ままならない──ってのは宮仕えの苦しさだよなぁ。

 自分も同じ立場のはずなのに他人事みたいに思う。
 隆喜にも、それが伝わったらしい。苦笑して、次の言葉を継ぐ。

 隆喜     :「──あぁ、そういえば弟子を取ってるんだって? 女子
        :高生の」
 達大     :「言い方がヤラシイですねぇ。オジサン化、進んじゃっ
        :てるんじゃありませんか?」
 隆喜     :「あと10年もすりゃ、お前もこうなるよ」

 揶揄するように言った達大に隆喜は手をひらひら。その手の誤魔化しは取り
合わないよと余裕の顔だ。
 仕方なしに、達大は本音を答える。答えざるを得ない。

 達大     :「とりあえず言わんとするところは分かりますが、お断り
        :します。そもそもうちの社員じゃありませんし」

 また言葉を切って、ひと呼吸。
 反撃に出る。

 達大     :「だいたい女子高生を人身御供に出してエクスキューズを
        :立てようだなんて、発想がセコイし小さい。偉くなったん
        :ですから、もっと大局的な視点でお願いします」
 隆喜     :「お前、遠慮ないなぁ。普通、平社員と部長の会話っての
        :は、もうちょっと固いもんだよ?」
 達大     :「8年も差し向かいで仕事してれば遠慮も尽きます。それ
        :から、ここ禁煙ですって言いませんでしたっけ?」

 いかにも作った渋面で苦情を言いながらECHOのソフトケースの右肩を叩き、
タバコを取り出そうとする隆喜。可愛げなく言い返す達大。

 隆喜     :「──あ、あぁ、わかってる」

 言われて、隆喜はなかばまで出掛かったECHOのフィルタを戻し、つま先で
リズムを取るように床を叩く。そろそろニコチンが切れ始めたらしい。
 こういうやり取りが許される。
 我ながら変わった関係だと思う。思えば、くすりと小さく笑みこぼれる。
 それを見て隆喜も表情をゆるめた。

 隆喜     :「まぁ、しょうがないわなぁ。こっちで聞いてる話を考慮
        :しても損得ぶつけて損の方が多い──これから先方のトコ
        :行くかね」
 達大     :「では、そのように」

 ようやく折れた隆喜に、達大は殊勝な顔で頷いた。
 一拍おいて。
 少しわざとらしく、いかにも不意に思い出したように。

 達大     :「あ──ちなみに先方の代理人さん、ボクと同じタイプで
        :す。そのつもりでお願いします」

 言い添えれば、隆喜の顔が露骨に厭そうに歪む。

 隆喜     :「お前ねぇ、どうしてそういうの相手させるかな」
 達大     :「久しぶりに先代猫回しの交渉術を勉強させていただき
        :ます」

 ぼやいた隆喜の言葉を笑顔でかわし、達大は席を立った。


時系列と舞台
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 達大と狐面の男の対話の翌日の午前中。
 矢垣物産(株) ITサービス事業部 吹利事業所の応接室にて。


関連リンク
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[HA06P] エピソード『無明の天使:黒い部屋』
   http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28900/28980.html
   達大と狐面の男の対話。乱入するトリックスター。

狭間06Wiki:無明の天使
   http://hiki.kataribe.jp/HA06/?HA06P_DarkAngel
   長編エピソード『無明の天使』シリーズのtopic速報サイト。


解説
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 いかにして達大が狐面の男の依頼を断るにいたったか。
 或いは猫回しの弟子が、無明の天使と関わっていくための伏線。


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