[KATARIBE 28980] Re: [HA06P] エピソード『無明の天使:黒い部屋』

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Date: Fri, 29 Jul 2005 02:10:22 +0900
From: "Sakurai.Catshop" <zoa73007@po.across.or.jp>
Subject: [KATARIBE 28980] Re: [HA06P] エピソード『無明の天使:黒い部屋』
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こんばんは、Catshop/桜井@猫丸屋です。

 無明の天使シリーズ、倉守氏とは別の角度からのストーリーラインの
始まり。
 元はチャットログです。先にTK-Leanaさんが切り出してくださってましたが
一発書きで少し気になるところがあったのでリライト&独立させて投稿します。

 ではでは。

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[HA06P] エピソード『無明の天使:黒い部屋』
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登場人物
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桜木達大 (さくらぎ・たつひろ):http://kataribe.com/HA/06/C/0365/
 本業はシステム運用管理者だが、何者とでも会話が成立する異能を見込まれ
 対怪異専門の交渉人を副業としている。
 通称を若旦那、通り名を猫回しと言う。 

狐面の男 (きつねづら・の・おとこ):
 達大に厄介な依頼を持ち込む謎めいた男。
 やせた狐に似た顔をしている。なお、狐の面を被っているわけではない。

遠野響 (とおの・ひびき):http://kataribe.com/HA/06/C/0438/
 巫女の家系に生まれた姉御。放浪癖があり、へビィスモーカー。
 神道の作法や行に通じ、発火能力者でもある。


依頼人
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 薄暗い照明。
 淡い闇が、境界も曖昧に二人の男のシルエットを浮かび上がらせている。
 吹利市内のとある高級BARの、さらにその奥にあるプライベートルーム。
 会員、つまり正気を疑うような会費を支払う選ばれた顧客だけが使用できる
秘密の部屋である。

 じわりと染むように浮かぶ調度品のシルエット一つひとつが調和しながら、
重みある存在感を主張している。
 そこに呼び出された、そのことが事の面倒さを予感させる。

 達大     :「つまり、天使憑きですか」

 自分の言葉を脳裏のキーボードに入力するように、クリスタルグラス製の
テーブルの天板を指先で叩く。
 あるいは、居心地悪さに微かなストレスを感じているのかもしれない。
 なにしろ平社員街道まっしぐらな達大には、いかにも縁遠い場所だ。そこにい
かにも面倒な話を持ってきそうな男と二人で居るのである。
 ストレスも、溜まろうというものだ。

 狐面の男   :「厳密には異なりますが──そのように言い換えた方が、
        :インスタントな理解が得られるでしょうね」

 やせた狐に似た顔の男が、友好的な笑みを浮かべ頷く。

 一見して派手なところがないように見える。
 しかし、スーツはおそらくイギリス製のオーダーメイド。右腕にまいた腕時
計もスイスの有名メーカーの一点ものだろう。

 達大     :「(地味派手の典型だな。趣味は悪くないけど)」

 達大の値踏み。
 嫌いではない。むしろ好みと言ってもいい。
 しかし男の笑顔のうさんくささが、それを厭味に感じさせる。

 狐面の男   :「先ほどもお話した通り、さる方のたってのお願いでして
        :ね。いかにしても平和的に解決いただきたい」
 達大     :「ボクもそう願いたいところですが」

 いったん言葉を切って、相手の顔を正面から見る。

 達大     :「誰かれ構わず襲い掛かる、野良犬みたいな天使さまが
        :相手ではなんともしかねます。ありていに言って、ボクの
        :手には負いかねるかと」

 狐面の男に負けず劣らず友好的な笑みで、できるだけ柔らかくお断り。
 夏休みに入った火狐の世話に忙しく、自立を求めて達大の部屋を出た六華と
の関係修復にも忙しい。かててくわえて問答無用の闘争本能むき出しの妖異が
相手だ。
 しかも。
 平和的解決が必須──つまり反撃はするなとまで言う。
 割りに合わないにもほどがある。

 達大     :「その方のコネクションを辿れば、ボクよりもよほど力の
        :ある方をアサインできるでしょう? 確実さを考えれば、
        :その方が賢明ですよ」
 狐面の男   :「力尽くでの解決なら、何人か心当たりはありますが」

 勿体つけるように言葉をいったん切って、グラスを持ち上げる。

 狐面の男   :「飽くまで平和的──つまり非暴力の解決でないと依頼主
        :の意向に逆らうことになります」
 達大     :「そうは言っても手に余るの事実です。非暴力にこだわっ
        :て取り逃がすのも本意ではないのでは?」

 達大の言葉に、狐面の男は笑みを浮かべた。
 相手の知らない情報を握る優位の笑み。そして、不運な相手に対してそれを
免れた自分の優位を改めて確認する笑み。
 それが、かちんと達大の気に障る。

 狐面の男   :「易占の結果が、猫回しをご指名でしてね。あのお方は
        :たいそう占いを頼りになさっております」
 達大     :「占い──と来ましたか」
 狐面の男   :「えぇ、占いです」

 互いに笑みを浮かべ、グラスを片手に頷き合う。

 達大     :「こんな業界に片足入れて言うのもおかしな話ですが──
        :よくもまぁ、そんな非論理的な意志決定に」
 狐面の男   :「私は所詮、代理人にすぎませんから」

 達大が呆れた風に肩をすくめれば、それをあえて真似るように狐面の男も
肩をすくめて応えてみせる。

 達大     :「(同じタイプとやりあうのが、これほど腹立つとはな)」

 一瞬、頭に血が上りかけ、グラスを干してそれを沈める。

 達大     :「危険手当は通常よりもかなり多く見積もる形になるかと
        :思います」

 ビジネス、ビジネスとおまじないのように、テーブルの下で掌に書く。

 達大     :「それから平和的に、という意向には極力従いますが、あ
        :まりに危険と判断したばあ──?」

 SE      :からん

 音がしたのはそのとき。
 氷の崩れる音は意外と大きかった。


招かれざる客
------------

 響      :「――世の中、論理なんかでまわっちゃいないのにさ。無
        :理やり論理に固めようとして。くだらない」

 いつからそこにいたのか。
 プライベートルームのはずの部屋の一番奥に座る女ひとり。最初から招かれ
てそこに居るように、当然のようなふてぶてしさで悪態をつく。

 狐面の男   :「──ご同僚ですか?」

 狐面の男が問う。
 余裕の笑みを崩さず、足も組んだままだ。

 達大     :「さて──」
        :(視線を女のほうに向ける)
 響      :「残念ながらご同僚じゃないことにしたほうが面白そう
        :なんでそうしておく」

 あまりにも空間に似つかわしくないラフな服装。人に見られることを計算
していないぎりぎりの線は、部屋の空気から明らかに浮いている。
 よれよれのTシャツにジーンズ,サンダルで高級レストランに入り込んだ
ような場違いさがあるが──しかし、それでも、彼女がそこにいることを否定
させない。堂々して退くところのない姿勢が、否定を許さない。

 達大     :「そういうことのようです。職場にこんな美人が居たら、
        :仕事の進みもはかどりそうなものですけれど」
 狐面の男   :「であれば、ご遠慮いただければ助かります。わざわざ
        :プライベートルームで話をしているということの意味は、 
       :ご理解いただけますよね?」

 にこやかに、男は言う。
 お願い、の体裁を取った脅し。
 言葉面だけ追えば迫力はないが、絶妙なバランスの笑顔と剣呑な雰囲気が
伴えば脅し意外に受け取りようがなくなる。

 響      :「わざわざプライベートルームで話をしているという意味
        :は『盗聴してください』だろ、えー?」

 にやにやと浮かぶ笑みは……まるで狐のそれだ。
 口にくわえたシガリロは、なにもせずとも火を灯す。まるで手品のように。

 狐面の男   :「発火能力者(ファイアスターター)は間に合ってまして」

 狐面の男の指がクリスタルグラスの表面を軽く叩けば、女のくわえたシガリ
ロは一瞬で灰になり崩れ落ちる。
 巧みに制御された火──光を伴わぬ無明の焔の仕業。

 響      :「ご同輩かい。どうりで臭いとおもったさ……ふん。ご自
        :分でやればいいのに。ああ、失敗した駒を焼くことしかで
        :きないのかもしれないねぇ」

 ころころと鈴のような不快な笑い。明らかに計算された声。
 嫌がらせにもほどがある──普通なら相手はそう言って席を立つ。
 しかし。

 狐面の男   :「私は代理人に過ぎませんから」
 達大     :「(まったく──可愛げの欠片もない)」

 ふっ、と力の抜けた笑み一つ。
 たったそれだけで狐面の男は鈴の声を受け止める。毛一筋ほども余裕を崩さ
ない男の態度は、確かに可愛げがない。

 響      :「代理人、ねぇ。……そこの若旦那さん。降りたほうがい
        :いよぉ?」
 達大     :「生憎と宮仕えはつらい立場でして」

 おどけたように笑顔を浮かべ、達大は立ち上がった。
 そろそろ引き際だ。これでは交渉にならない。

 達大     :「ボクもできることならお断りしたいんですけどね。姪っ
        :子が夏休みなので」
 響      :「あーあーあー。そりゃーいけないねぇ。大丈夫大丈夫。
        :三日も休暇をとってれば依頼がとりさげになるだろーし」
 達大     :「依頼取り下げと同時にボクの首が飛びます」
 響      :「じゃあとんじまえそんなもん」
 達大     :「おまんまの食い上げになっちゃいますよ」

 豊かな胸を張って笑顔で答える女の言葉を苦笑で受け止め、達大はお手上げ
のジェスチャー。
 実際、比喩表現の『首が飛ぶ』ではすまない可能性がある。
 さっきの手並みで灼かれれば苦しみを味わう間も証拠を残す余裕もなく、
この世からバイバイできること請け合いだ。

 響      :「しらない。あたしゃこの臭い男が気に食わなくなった。
        :ついでに言えば妖は嫌いだ。だから消し炭にする」
        :「Are you right?」
 狐面の男   :「それは困りますね」

 そこでようやく男は立ち上がった。

 狐面の男   :「早々に退散いたしましょう。桜木さん、契約書と約款の
        :詰めはまた後ほど」

 気障なくらい鮮やかな仕草で、芝居がかった一礼。
 悠々と、女に背を向け、達大を擦れ違い部屋を出て行く。

 響      :「さてと、あたしゃお先に動かさせてもらうかね。妖の次
        :はあんたさね、一尾狐」
 狐面の男   :「はっはっは。生憎と私は──いや、いけないいけない。
        :長話は怪我の元でした」

 一秒か二秒だけ振り返り、言いかけてまた背を向ける。

 SE      :ぱたん

 ドアの閉じる音。

 響      :「……とっとと雲隠れすることをお勧めするよ若旦那。
        :どっちにしても消し炭になりたくなきゃね?」
 達大     :「──ふぅ」

 見送って大きなため息を一つ。
 そして向き直って困惑を滲ませた笑顔。

 達大     :「響さん、あんまり脅かしたり場を引っ掻き回したりしな
        :いでください」
 響      :「――ふん。気に食わない気に食わない気に食わない。あ
        :たしの知らないところで化け物がうごいてるのが気に食わ
        :ない」
 達大     :「こう見えて、ボク、繊細な性質なんです。もうストレス
        :で胃が空くかと思いました」
 響      :「あん?あたしゃ本気なんだけど」

 貼り付けた笑みをはがして生来のふてぶてしさを前面に押し出した笑顔。
それがアタリマエのように、間髪入れず達大に返す。
 おそらく、本当に本音で本気なのだろう。
 狐面の男も厄介だが、響も別の意味で厄介で──しかも剣呑だ。

 達大     :「本気ならなお性質が悪い」

 肩をすくめ、また苦笑。

 響      :「妖怪は生まれのせいで嫌いだ。狐はもっと嫌いだ――神
        :頼みよりもうちょっと効果のあるものをやろうか」
 達大     :「遠慮しときます。高くつきそうですから」
 響      :「ちぇ。恋人との間にごたごたおこしてやろうとおもった
        :のに」

 苦笑してかわす。
 アヤカシがアヤカシを嫌う、その矛盾。滑稽さより哀しさが付きまとう。
 生来、争いごとを嫌う達大にすればそう思う。思うが、言わない──いや、
言えない。

 響      :「……なにさその物いいたげな顔。あたしゃ巫女だよ?こ
        :れでも」

 口は災いの門という。
 うかつなことを言えば──想像もしたくない。

 達大     :「いいえ、なにも」

 にっこりと受け止めて、さらに言葉を継ぐ。

 達大     :「ボクはこれで失礼します。姪に留守番を任せきりにして
        :ますので。では」

 腰低く頭を下げて、達大もまた部屋を出た。
 残るは響ひとり。

 響      :「ふん。お幸せなご家庭ってやつか。……極めて汚も滞無
        :れば穢とはあらじ内外の玉垣清淨と申す……戯言かな」

 ひとり残った部屋で呟く。
 呟きに応えるように細荒れた空気が鎮まる。

 響      :「祝詞の一つで沈んでくれる相手ならいいんだけどね。
        :いってみなきゃわかんない、かぁ」

 しん、と相槌もなく。
 静かなその部屋に、くつろぐものはもう居ない。
 ただ一人、居残った響だけが立ち尽くし天を仰ぐ。


時系列と舞台
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 倉守雛が無明の天使に襲われる少し前。
 吹利市内、高級BARのプライベートルームにて。


関連リンク
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『無明の天使』(2005年07月27日 23:40頃までの総集編)
   http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28900/28967.html

狭間06Wiki:無明の天使
   http://hiki.kataribe.jp/HA06/?HA06P_DarkAngel
   長編エピソード『無明の天使』シリーズのtopic速報サイト。


解説
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 無明の天使を巡る、もう一つの動き。


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