[KATARIBE 28781] Re: [HA06N] 小説『若旦那、ころころ』 (リライト版)

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Date: Wed, 18 May 2005 23:45:14 +0900
From: "Sakurai.Catshop" <zoa73007@po.across.or.jp>
Subject: [KATARIBE 28781] Re: [HA06N] 小説『若旦那、ころころ』 (リライト版)
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こんばんは、Catshop/桜井@猫丸屋です。

 昨日の送ったお話、ブラッシュアップしたので再投稿です。
 お話の筋は変わってないですが、習作として描写回りを直してます。

 引き続き、挿絵は募集中(笑)。

 ではでは。

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[HA06N] 小説『若旦那、ころころ』
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登場人物
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桜木達大 (さくらぎ・たつひろ):http://kataribe.com/HA/06/C/0365/
 しがないシステム管理者なサラリーマン。
 オオカミになりきれないヨコシマさが売り。──情けない。

六華 (りっか):http://kataribe.com/HA/06/C/0481/
 元冬女。さらにその前は花魁。
 無邪気な笑顔とは裏腹に、男心を転がす手管が売り。──手ごわい。

豊川火狐 (とよかわ・かのこ):http://kataribe.com/HA/06/C/0452/
 達大の姪っ子。
 無邪気な笑顔で達大と六華を振り回す。──でも出て来ない。


若旦那、ころころ
----------------
 カラン。
 少し溶けた氷がウィスキーグラスの中でぶつかり合う。その澄んだ音が達大
の耳に心地よく響く。
 グラスを7分目ほど満たす琥珀色の麦焼酎越しに、ここ最近で妙に小奇麗に
なった達大の部屋の壁が見える。生活くささは薄い。
 カラン。
 グラスを回す。ほどよく冷えた焼酎を一口ふくむ。
 スコッチに勝るとも劣らぬ香りが口の中に広がる。冷たく熱い液体が喉を
するすると滑り落ちていく。
 カラン。
 グラスをテーブルに置いて、ほぉっと一息。
 視線をグラスから六華の横顔に移す。

「ってか、達大さん帰ってくるの遅いし」
 タイミングをぴったり合わせたように六華の声。細い指先でグラスをふんわ
り包んでいる。
「だから帰ってきた時には火狐ちゃん居るし──遠慮しますよね、やっぱり」
 トドメは、いつもの花咲くような笑顔。
 達大は、この笑顔にめっぽう弱い。
「あー、確かに。休みの日は休みの日でやっぱり居ますしねぇ。火狐さん」
 置いたグラスをまた持ち上げ、曖昧な笑みで相槌を打つ。
 きっかけは『六華さんって甘えないヒトですよね』という何気ない一言だっ
た。会話の流れから出てきた話で他意はない──なかった。
 少なくも最初は。
「はい」
 焼酎を飲み下し、六華は頷いた。心なし楽しそうに見える。
「あー、えっと、火狐さんが寝た後は?」
 カラカラとグラスを回しつつ、我ながら苦しい切り返し。
 玉なす結露が達大の指先を冷たく濡らす。
「達大さん枕にして寝ちゃおうかな?」
 くすくすと六華が忍び笑う。
「──っ」
 一瞬、真に受けて焼酎を軽く吹きかけた。
 いやいや、からかわれてるんだとすぐ気がついて自分に言い聞かせたが。わ
ずかでも真に受けてしまうのは、半ば願望の表れだ。
「転がしますねぇ」
 喉の奥、軽く灼けたような感触を誤魔化して苦笑い。
 あやうく理性の限界省みず乗ってしまうところだった。
 思い返し、また苦笑い。その苦笑いさえ誤魔化してグラスに口をつける。

 すーっと喉を降りていく軽い酩酊。

 目の端に、くすりと笑む六華の顔が映る。
 全く人の気も知らないで。
 恨めしげに視線を向ければ、六華は笑顔のまま手招き。
「はい?」
 誘われるまま顔を近づける。
 風呂上りの体温が鼻先をかすめ、ほつれ髪が頬に触れ、甘いささやきが耳を
くすぐる。
「──ほら、本気にはなさらないのが若旦那」
 すっとそのまま、六華は立ち上がり、寝室の方へ身をひるがえす。タイミン
グの絶妙さに、思わず抱き寄せかけた達大の腕が宙を泳ぐ。
「ははは」
 行き場を失った腕をもてあまし、もてあましたことを誤魔化すために手を
振って見送る。我ながら滑稽で、なさけない。
「そのうち理性の綱が切れちゃいますよー?」
 せめてもの反撃にとグラスを片手に。
 しかし、それも六華には通じない。
「おやすみなさい」
 戸口から顔だけだして微笑う。
 チェシャ猫のように笑顔を残し、六華は寝室に消えた。
 ひと息、ふた息。
 視線はそのまま、間を置いて。
「ころころと、まぁ」
 達大は足を放り出すようにしてルーズに座りなおし、大袈裟に呷るような
仕草で焼酎を飲み下した。

「──転がされてるなぁ」

 そして。
 まんざら不満げでもなく、唇の端に浮かぶ笑み。


時系列と舞台
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 5月の半ば頃、吹利市内の古本市が終わったあとの夜。
 吹利マンション、達大の部屋にて。


解説
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 ヨコシマだけどオオカミになりきれない達大と、無邪気な笑顔で男心を
転がす六華の、ある夜の攻防戦。


関連ログ
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   2005年05月17日 01:00頃、HA06-01のログから。
   http://kataribe.com/IRC/HA06-02/2005/05/20050517.html#010000

   リライト前のバージョン
   http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28700/28769.html


$$
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