[KATARIBE 28769] [HA06N] 小説『若旦那、ころころ』

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Date: Wed, 18 May 2005 02:04:22 +0900
From: "Sakurai.Catshop" <zoa73007@po.across.or.jp>
Subject: [KATARIBE 28769] [HA06N] 小説『若旦那、ころころ』
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こんばんは、Catshop/桜井@猫丸屋です。

 ログから一つお話を起こしてみました。
 ──誰か挿絵かいてみませんか?(ぉぃ


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[HA06N] 小説『若旦那、ころころ』
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登場人物
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桜木達大 (さくらぎ・たつひろ):http://kataribe.com/HA/06/C/0365/
 しがないシステム管理者なサラリーマン。
 オオカミになりきれないヨコシマさが売り。──情けない。

六華 (りっか):http://kataribe.com/HA/06/C/0481/
 元冬女。さらにその前は花魁。
 無邪気な笑顔とは裏腹に、男心を転がす手管が売り。──手ごわい。

豊川火狐 (とよかわ・かのこ):http://kataribe.com/HA/06/C/0452/
 達大の姪っ子。
 無邪気な笑顔で達大と六華を振り回す。──でも出て来ない。


若旦那、ころころ
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 カタン、とウィスキーグラスをテーブルに置く。
 中は琥珀色の麦焼酎。九州の知人が見繕って送ってくれたもの。
 カラン、と少し溶けた氷が崩れグラスの中でぶつかり合う。
 里見マンション、達大の部屋。ここ最近、妙に小奇麗になった生活くささの
薄い空間。
 カラカラと、達大はグラスを回して一口ふくむ。
 スコッチに勝るとも劣らぬ柔らかで芳醇な香り。喉を滑り落ちていく冷たく
熱い液体。

 ほぅっ、と一息。
 達大はグラスから、隣に座る六華に視線を移した。

「ってか、達大さん帰ってくるの遅いし」
 タイミングをぴったり合わせたように六華の声。細い指先でグラスをふんわ
り包んでいる。
「だから帰ってきた時には火狐ちゃん居るし──遠慮しますよね、やっぱり」
 トドメは、いつもの花咲くような笑顔。
 達大は、この笑顔にめっぽう弱い。
「あー、確かに。休みの日は休みの日でやっぱり居ますしねぇ。火狐さん」
 カラカラとグラスを回しながら、曖昧な笑みで相槌を打つ。
 きっかけは『六華さんって、甘えてこないですよね』という何気ない一言
だった。
 会話の流れから出てきた話で他意はない──なかった。
 少なくも最初は。
「はい」
 焼酎を飲み下し、六華は頷いた。心なし楽しそうに見える。
「あー、えっと、火狐さんが寝た後は?」
 我ながら苦しい切り返し。
「達大さん枕にして寝ちゃおうかな?」
 くすくすと六華が忍び笑う。
「──っ」
 一瞬だけ真に受けて、焼酎を軽く吹きかけた。
「転がしますねぇ」
 喉の奥、軽く灼けたような感触を誤魔化して苦笑い。
 あやうく理性の限界省みず乗ってしまうところだった。
 思い返し、また苦笑い。その苦笑いさえ誤魔化して、グラスに口をつける。

 すーっと喉を降りていく軽い酩酊。

 目の端に、くすりと笑む六華の顔が映る。
 全く人の気も知らないで。
 恨めしげに視線を向けると、笑顔のまま六華は手招き。
「はい?」
 誘われるまま顔を近づければ、風呂上りの体温が鼻先をかすめ、ほつれ髪が
頬に触れ、甘い声のささやきが耳をくすぐる。
「──ほら、本気にはなさらないのが若旦那」
 そのまま六華、思わず抱き寄せかけた腕をかわしてすっと立ち上がり、その
まま寝室へ。
 行き場を失った腕をもてあまし、もてあましたことを誤魔化すために手を
振って見送る。我ながら滑稽で、なさけない。
「そのうち理性の綱が切れちゃいますよー?」
 せめての反撃と、グラスを片手に。それも六華には通じない。
「おやすみなさい」
 戸口から顔だけだして微笑い、チェシャ猫のように笑顔を残して去る。
「ころころと、まぁ──」
 足を放り出すようにしてルーズに座りなおし、大袈裟に呷るような仕草で
焼酎を飲み下す。

「転がされてるなぁ」

 そして。
 まんざら不満げでもなく、唇の端に浮かぶ笑み。


時系列と舞台
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 5月の半ば頃、吹利市内の古本市が終わったあとの夜。
 吹利マンション、達大の部屋にて。


解説
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 ヨコシマだけどオオカミになりきれない達大と、無邪気な笑顔で男心を
転がす六華の、ある夜の攻防戦。


関連ログ
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   2005年05月17日 01:00頃、HA06-01のログから。
   http://kataribe.com/IRC/HA06-02/2005/05/20050517.html#010000


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