[KATARIBE 28681] [HA06N] 小説『雪野に散る桜、雲海に浮く桜』 (改稿)

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Date: Thu, 21 Apr 2005 22:40:23 +0900
From: "Sakurai.Catshop" <zoa73007@po.across.or.jp>
Subject: [KATARIBE 28681] [HA06N] 小説『雪野に散る桜、雲海に浮く桜』 (改稿)
To: Kataribe-ml <kataribe-ml@trpg.net>
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Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
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こんばんは、Catshop/桜井@猫丸屋です。

 ちょこっとブラッシュアップしてみました。
 併せて、Creator's Networkのお題もの書き『開花』にも投稿。

 お手すきの時にでも、ご笑覧いただけましたら幸いです。

 ではでは。

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[HA06N] 小説『雪野に散る桜、雲海に浮く桜』
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登場人物
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本宮史久:http://kataribe.com/HA/06/C/0263/
 警察官。本宮家の長男坊で温和な人柄の持ち主と評判。
白犬(白雲):http://kataribe.com/HA/06/C/0224/
 仙犬。ピレネー犬のような真っ白な巨体だが気性は極めて穏やか。


雪野に散る桜、雲海に浮く桜
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 暖かく穏やかな午後の日差し。
 どこまでも突き抜けていく青い空。
 花盛りを少し過ぎた春の日。

 やわやわと柔らかく、ふんわりと包むようにそよ風が吹いている。春の陽が
薄紅色の花が作るアーケードを抜けて降り注いでいる。
 さくら通り。
 真鶴公園から吹利春日神社に向けて南北に伸びる、かつての参道である。
 その道を、ゆったりと急ぐでもなく史久は歩いている。
 春の陽気と桜吹雪を全身で楽しんでいる風情だ。

 その向かいから、ほてほてと。

 白犬が歩いてくる。大きくて暖かそうなピレネーに似た犬だ。
 本当のところ、なんという犬種なのか史久は知らない。ただ知る限り、他に
ふさわしい犬種を思いつかない。
「おや。またお会いしましたね」
 友好の笑みを浮かべ、会釈する。
「……」
 白犬が足を止め、鼻面を上げ下げする。
 多分においをかいで、知り合いかどうか確かめているのだろう。でも史久はそ
の仕草を白犬が会釈を返してくれたのだと思う。
 思いながら、改めて白犬を見た。
 桜吹雪の中をほてほてと歩いたせいだろう。その白い毛の上に桜の花弁が
幾ひらも幾ひらも、降り積もり降り積もり──
 そのさまがなんだか心をくすぐって。
「すっかり、桜にそまってますね」
 失礼かな、と思いつつくすくすと微笑ってしまう。
「……?」
 忍び笑いの意味を図りきれぬ様子で、白犬が顔を上げた。

 雪野に散る桜。
 雲海に浮く桜。

 そのどちらもありえない。だが、ありえないその風景が史久の内に浮かんで
消える。ふわふわと注ぐ春の陽にふさわしい、心くすぐる白昼夢。
「……おふん」
「……」
 あぁそうかねと頷くように白犬の声。それを受けて史久はまた、くすりと
微笑う。
 そういえば。
 犬に例えればピレネーだと、署内の噂に囁かれていたのを思い出す。
 この穏やかに老熟した風情の白犬に自分は似ているのだろうか。通り掛りに誰
かが見たらピレネーが二匹、すれ違いざまに挨拶しているように見えるの
だろうか。
 そんな他愛もないことを思いながら、白犬の頭にちょこんと積もった花びら
を軽く払い落とす。
 それで初めて気づいたように。
「……」
 白犬はまじまじと落ちる花びらを見、ついで自分の身体を顧みる。
 ぶるぶるぶるるいっ。
 まるで水気をふるい落とすように大きく身震い。
 小さな桜吹雪が、はらはらと舞い立つ。
 また心くすぐられ、史久はくすくすと忍び笑い。
 その手先をすんすんと白犬がかぐ。それをかわして、史久はしゃがみこみ、
軽く親しみを込めて白犬の頭を撫でる。
「……やっぱり、似てるかな」
「ふすん」
 呟いた史久の言葉にまた、そうかねと頷くような白犬の声。

 桜吹雪の中。
 うららかな春の日の風景。


時系列と舞台
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 2005年、桜吹雪の頃。
 さくら通りの桜並木の下にて。


解説
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 うららかな春の日に、似たもの同士がばったり会って──
 なんとも長閑な風景です。

 blogの方で指摘をもらったんで少し手をいれてみました。
 併せて、Creator's Network お題もの書き『開花』参加作品として投稿
しました。


関連リンク
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 元ログ:
      http://kataribe.com/IRC/HA06/2005/03/20050312.html#230000
 推敲前:
      http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28600/28674.html
 お題もの書き『開花』:
      http://www.cre.jp/writing/event/2005/bloom.html

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