[KATARIBE 28674] [HA06N] 小説『雪野に散る桜、雲海に浮く桜』

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Date: Mon, 18 Apr 2005 01:06:08 +0900
From: "Sakurai.Catshop" <zoa73007@po.across.or.jp>
Subject: [KATARIBE 28674] [HA06N] 小説『雪野に散る桜、雲海に浮く桜』
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こんばんは、Catshop/桜井@猫丸屋です。

 史久氏と白雲先生がぱったり会う、それだけの話を小説化してみました。
 ──そーいや、自分のキャラが出てないのを小説化するの初めてでした。

> ひさしさん&ごんべさん
 チェック、お願いします。

 ではでは、ご笑覧くださいませ。

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[HA06N] 小説『雪野に散る桜、雲海に浮く桜』
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登場人物
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本宮史久:http://kataribe.com/HA/06/C/0263/
 警察官。本宮家の長男坊で温和な人柄の持ち主と評判。
白犬(白雲):http://kataribe.com/HA/06/C/0224/
 仙犬。ピレネー犬のような真っ白な巨体だが気性は極めて穏やか。


雪野に散る桜、雲海に浮く桜
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 暖かく穏やかな午後の日差し。
 どこまでも突き抜けていく青い空。
 花盛りを少し過ぎた春の日。
 やわやわと柔らかく、ふんわりと包むようにそよ風が吹いている。春の陽が
薄紅色の花が作るアーケードを抜けて降り注いでいる。

 さくら通り。
 真鶴公園から吹利春日神社に向けて南北に伸びる、かつての参道である。
 その道を、ゆったりと急ぐでもなく史久は歩いている。
 春の陽気と桜吹雪を全身で楽しんでいる風情だ。

 その向かいから、ほてほてと。
 白犬が歩いてくる。
 大きくて暖かそうなピレネーに似た犬。
 本当のところ、どんな犬種なのか史久は知らない。ただ知る限りこの白犬に
似た犬種はピレネーしか思いつかない。
「おや。またお会いしましたね」
 友好の笑みを浮かべ、会釈する。
「……」
 白犬が足を止め、鼻面を上げ下げする。
 多分、においをかいで知り合いかどうかを確かめているのだろう。でも、
史久はその仕草を白犬が会釈を返してくれたのだと思う。
 思いながら、改めて白犬を見た。
 桜吹雪の中をほてほてと歩いたせいだろう。その白い毛の上には桜の花弁が
降り積もり、すっかり桜色に染まっていた。
 そのさまがなんだか心をくすぐって。
「すっかり、桜にそまってますね」
 失礼かな、と思いつつくすくすと微笑ってしまう。
「……?」
 忍び笑いの意味が図りきれぬような風に、白犬が顔を上げた。

 雪野に散る桜。
 雲海に浮く桜。

 そのどちらもありえない。だが、ありえないその風景が史久の内に浮かんで
消える。ふわふわと注ぐ春の陽にふさわしい、心くすぐる白昼夢。
「……おふん」
「……」
 あぁそうかねと頷くように白犬の声。それを受けて史久はまた、くすりと
微笑う。
 そういえば。
 犬に例えればピレネーだと、署内の噂に囁かれていたのを思い出す。
 この穏やかに老熟した風情の白犬に、自分は似ているのだろうか。通り掛り
の誰かが自分達を見たら、ピレネーが二匹、すれ違いざまに挨拶している風に
見えるのだろうか。
 そんな他愛もないことを思いながら、白犬の頭にちょこんと積もった花びら
を軽く払い落とす。
 それで初めて気づいたように。
「……」
 白犬はまじまじと落ちる花びらを見、ついで自分の身体を顧みる。
 ぶるぶるぶるるいっ。
 まるで水気をふるい落とすように大きく身震い。
 小さな桜吹雪が、はらはらと舞い立つ。
 また心くすぐられ、史久はくすくすと忍び笑い。
 その手先をすんすんと白犬がかぐ。それをかわして、史久はしゃがみこみ、
軽く親しみを込めて白犬の頭を撫でる。
「……やっぱり、似てるかな」
「ふすん」
 呟いた史久の言葉にまた、そうかねと頷くような白犬の声。

 桜吹雪の中。
 うららかな春の日の風景。


時系列と舞台
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 2005年、桜吹雪の頃。
 さくら通りの桜並木の下にて。


解説
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 うららかな春の日に、似たもの同士がばったり会って──
 なんとも長閑な風景です。


関連リンク
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 元ログ:http://kataribe.com/IRC/HA06/2005/03/20050312.html#230000

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