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Date: Fri, 25 Feb 2005 01:09:29 +0900
From: "Sakurai.Catshop" <zoa73007@po.across.or.jp>
Subject: [KATARIBE 28484] [HA06N] 雪兎 ─ Side B.
To: Kataribe-ml <kataribe-ml@trpg.net>
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こんばんは、Catshop/桜井@猫丸屋です。
ERさんが書いた雪兎を達大の視点から書いてみました。
たまにはこういう変則技も面白いかと思ってみたりして。
ではでは、よろしかったらご照覧くださいませ。
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[HA06N] 雪兎 ─ Side B.
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登場人物
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桜木達大 (さくらぎ・たつひろ):
底の知れない──と巷で噂されてるらしいシステム管理者。
ヨコシマな下心込みで六華に協力中。
六華 (りっか):
冬女。冬の終わりに向けて記憶が戻っている。
今のところ達大のヨコシマな思惑には気づいていない模様。
1. 横顔
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ぼんやりと。
目の前にいるのに、とても遠く行ってしまったような。
そんな横顔。
なんだか置いてけぼりにされたような気がして悔しくて。或いは、帰って
来ないんじゃないかと不安になって。
「……どうしました?」
努めて穏やかな口調で、達大は六華を呼び戻す。
「あー……」
はたと瞬きをした六華の表情が、なんだか兎みたいだと思う。雪野で不意に
見つけられた雪兎の驚いた顔みたいだと──そんな連想が働く。
「おにーさん達が心配ですか?」
自分の連想を悟られまいと─悟られるはずもないけれど─話題を誘導。この
話題に乗ってこなくてもいい。意識を逸らせればそれで。
「いえ、そうじゃなくて」
言いかけた六華の視線が迷う。
誤魔化したいのは彼女も同じか──
そんなことを思いながら六華の横顔を眺めるように見る。
「……そうなの、かな」
上の空で呟いて、六華はまた遠くに行ってしまう。
うつむいて、さらりと揺れた黒髪に、ふだんは感じさせない色香を感じて
戸惑う。
きっと思い出しているのだろう。
つらい、つらい身を切るような記憶を。
逃げたとて逃げたとて、けして振り切れぬ、べったりとまとわりつく業を。
呼び戻さなければ──
そのまま行ってしまう、遠くへ──彼女を奪われる。
「六華さん」
つとめて静かに呼びかける。言霊にゆるゆると呪をこめて。
もう貴方は花魁の雪野ではないのだと──雪野の業に呑まれてはいけない
のだと。
達大を見る雪野の目が、すぅっと六華の目に戻る。
2. 凍ったグラス
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六華のグラスはすっかり冷え切って──もはや冷え切るというより半ば凍り
つき、グラスの表面には霜が降りていた。
六角の結晶が、六華─雪の結晶─を象る氷が水面に揺れていた。
「新しいのをどうぞ」
空気を変えたかっただけなのか。それとも六華というキーワードに反射的に
動いてしまったのか。
ともかくも新しいグラスを六華に手渡す。
「凍ったお酒か……うん。こういう呑み方もオツなもんですね」
なんだか照れくさくて、独り言のように呟いてみる。
「……あ、いえ、あの、達大さん、そのグラス」
戸惑う六華の顔が可愛くて。
ふっと余裕を取り戻す。
「大丈夫、手をつけてなかったようですし」
新しいグラスを指して、笑う。
六華の手は少し迷ったように止まっていたが、ふっと逆にふっきるように
グラスを手にとった。
表面についた露が──
滑らかに丁寧に磨かれた硝子が──
するりと、六華の細く頼りない指先をすり抜ける。
「……六華さん」
「っ」
達大の声に、六華は慌ててグラスを持ち直す。
「ご、ごめんなさいっ」
「……どうしました?」
彼女から話し出すまでは、訊くまいと思っていたのに。
なんだか、グラスが別の──脆く壊れやすい大切なものと重なってしまって
訊かずにおれなくなってしまう。
知りたい──彼女の笑顔を凍らせるものがあるなら、どこか遠くへ退けて
しまいたい。
そんな10代の若造みたいな青臭い気持ち。
流石にそれが照れくさくて、知られたくなくて、誤魔化すように穏やか過ぎ
るほど穏やかな声を作ってしまう。
「何かあれば……聞きますよ」
聞きますよという受身な言葉とは裏腹に、話して欲しいというニュアンスが
こもる。でも、それ以上は踏み込んでいけない。踏み込ませない壁が、まだ
達大と六華の間にはある。
その間にもするすると。
表面についた露が──
滑らかに丁寧に磨かれた硝子が──
危うげに六華の指の中に納まっていたグラスがすり抜けようとしていた。
思わずグラスを取り上げてしまう。
「あ」
「落としちゃいますから」
ここにおきますよ、とグラスを避ける。
硝子の割れる、あの澄んだ音をどうても聞きたくない。
胆が決まった。
「何か、ありましたか?」
真っ直ぐに六華を見つめて、穏やかに問う。
3. ゆらり、ゆらりと行ったり来たり
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「………なに、も」
六華の瞳が、雪野に変わる。
遠くへ。
手の届かない遠くへ。
でも、それは、六華の閉ざした扉が開く兆しでもある。踏み込めばタダでは
済むまい。でも、踏み込まなければ──結末は知れている。
「え?」
間の抜けた自分の声に少し苛立つ。どうしてこう、肝心な時に気の利いた
ことの一つも言えないのだろう。
「ない、です」
指をぎゅっと、か細い力をなお絞るように握りこんで拳を作る。膝の上に
手をそろえ、座りなおす。
開きかけた扉が、また閉じる。
「大丈夫ですから」
にこやかな六華の──いや、雪野の笑顔。
そうやってきみはすべてをにぎりこむ──つらいばかりだろうに。
思う達大の前で。
ぽろぽろと雪野──いや、今度は六華の瞳から涙が零れ落ちる。
揺れる、揺れる。行ったり来たり。
「泣きたいときは、気が済むまで泣くといいみたいです」
今度こそ、と気負う間もなく口をついて出る。やっぱり肝心なときに気の
利いたことがいえない。
「──達大さん」
「はい」
「ごめんなさい──手伝って下さい」
「謝らなくていいですよ」
謝らないで下さい、と言うつもりだったのに。君の笑顔がみたいから、好き
でしていることなのだからと。
「でも、ごめんなさい」
かみ締めるように六華は謝る。
「……ごめんなさい」
もう一度。
いつか──
いつかきっと、ありがとうと。
飛び切り上等な日本酒を片手に、笑顔で言わせてやろう。
もう胆は決めたのだから。
たといボロボロになっても、真正面から向き合うのだ。
時系列
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2005年2月。
解説
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『雪兎』を達大の視点から。
かみ合ったり、すれ違ったり──或いは、ぜんぜん明後日の方向だったり。
男女の間のことは難しいみたいです。
関連リンク
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『雪兎』
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28400/28482.html
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