シミュレートとしての首ナイフ状況の妥当性

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シミュレートとしての首ナイフ状況の妥当性



著:sfこと古谷俊一

色々と論は有りましたが、なぜかシミュレートとしての首ナイフ状況の妥当性について問われることは少ないようです。

しかし、実際に「首にナイフを当てて脅迫している」状況で、相手が従わなかった時に、適切に即時に殺せるのでしょうか。心理面・物理面で考えてみます。

心理面での問題

戦争における「人殺し」の心理学によれば、人は自分の命が危険に晒されていてさえ、たいていは人間を殺せるものではないとのことです。首にナイフをつきつけて脅迫している時には、目の前で呼吸しており、脅え、哀願さえしてきますし。首にナイフを沈めれば、手応えもあり、目の前で末期の様を見ることになります。これは心理的にはなかなかハードな問題で、一般には殺害は困難なようです。

もちろん戦闘がルール的に処理されるようなゲーム世界においては、このような殺害に慣れ親しんで訓練された存在(少なくともPCとはそういうものでしょう)あるいは世界情勢だということはできるでしょう。

しかし人質を取る以上は、取らねばならない理由があるわけです。勝ち目がない敵への打開策としての人質の命を、大切な交渉材料を、そうそうたやすく失う決断ができるものでしょうか。

物理面での問題

首は確かに急所であり、適切に切り開けばそのうちに死亡します。しかし、人間に限らず生き物というやつは、なかなかに頑丈なものです。解剖実験などをした人は分かるでしょうが、良く砥がれたメスを用いてさえ、死体の革や脂肪を切り裂くのは手間仕事です。

また動物(猫などが身近ですね)が狩りをしているのを見たことがあるのであれば、首筋に一撃を加えたあとも長々と獲物はじたばたとしており、早期に救出すれば一晩くらいは生き長らえる(そしておそらくは生き延びることもある)ことは知っていると思います。天性の狩人たる肉食動物が、小型動物の急所を狙ってさえ、これです。

いざ殺されるとなれば、それまで大人しくしていたとしても、抵抗は避け難いでしょう。縛り上げてあってさえ、首という小さな目標を適切に狙えるかは問題があります。また生体の血管は逃げるため、容易に切り開けるものではありませんし、動脈を切断しても大量出血ののちに死亡するだけで、ショック状態にならなければ即死するわけではないようです。気管を切り開いたところで呼吸が止まったあともしばらくは動けます。神経節を適切に破壊できれば即死に近いでしょうけど、それは訓練を積んだ上での特殊技能ですね。

確かに重症ですが、近代医療で治療できることもある、命を長らえることも不可能ではない、その程度なわけです。剣などで殴り合いをする連中を治癒できる治療魔法の存在する世界では、特別扱いするような傷だとは考えにくいのではないのでしょうか。

首ナイフで即死処理する根拠は薄い

以上のように考えますと、シミュレートとしても首ナイフ状況を戦闘ルール以外の特殊ルールで解決する必然は少ないように思われます。

むろんゲーム的に「即死状況」の元での交渉などを必要とする場合があるのは確かでしょうし、そのためのルールがあるのは便利です。そして、即死状況の演出として「首にナイフをつきつける」という描写が、通俗的でわかりやすいのは事実でしょうね。


さいごに

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月刊TRPG.NET 2005年06月号

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