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「首ナイフ問題」とかいった愉快クイズが出題されているらしいと小耳にはさんだ。
それと直接関係はないかも知れないが、ひょっとしたら根っこは同じかもしれない
問題がかつてあったのを思い出したのでここに紹介しよう。
戦士 :さーて、外の敵は片づいたな。
魔法使い:うむ。手こずったが後は親玉を片づけるだけだな。
僧侶 :しかし、敵はお姫様を人質にとっているそうじゃないか。
戦士 :それがどうかしたのか?
僧侶 :人質を盾にされたら困るだろう。
戦士 :俺は困らない。
僧侶 :おまえはカオティックだからいいが、俺はローフルなんだよ。お姫様を見捨てたらまずいんだって。
魔法使い:任せたまえ。私にいい考えがある。
ダンジョンの最深部。
親玉である悪の魔術師のいる部屋にパーティーはなだれこんだ。
悪の魔術師は案の定、お姫様の首にナイフを突きつけている。
GM :「ふふふ、よくここまで来たな。姫の命が惜しければ武器を捨てて――」
戦士 :接近して剣で攻撃
僧侶 :接近して槌で攻撃
魔法使い:魔法の矢で攻撃
GM :待て待て待て待てっ。おまえら、お姫様が人質なんだぞ?
戦士 :とはいわれてもなぁ、助けるには親玉殺すしかないし。
GM :だから、武器を捨てろって言ってるだろ
僧侶 :おや、そんな事を言われているのか。
戦士 :聞こえないから何言われても困るよな。
GM :聞こえない事はないだろ」
魔法使い:いや、本当に聞こえないんだよ。この部屋に入る前に全員、耳栓をしたんだ。
GM :なにっ?
戦士 :だから耳栓。何言われても聞こえないよ、わしら。
そう。
脅迫が成立するためには、相手に脅迫の内容が伝わらなくてはいけない。
「助けて欲しければ〜〜しろ(あるいは〜〜するな)」
脅迫の内容を聞いて悩むぐらいなら、いっそ何も聞かない。
ムチャクチャではあるが、ひとつの交渉術であろう。
GM :でも、魔法使いがお姫様にナイフ突きつけてるのは見れば分かるだろう?
僧侶 :だから1ラウンドでも早く助けようとしてるんじゃないか。
戦士 :イニシアティブは俺が最初なんだが、もうダイス振っていい? お姫様を早く助けないと。
魔法使い:うむ。何も聞こえないが、「こうなったらお姫様を殺して俺も死ぬ」とか
言ってるような気がするからな。
GM :言ってねーよ。耳栓はずして聞いてくれよっ。
僧侶 :そうは言われても、耳栓はずすのに1ラウンドかかるしな。その間にお姫様がぶっすり刺されて死んだら元も子もない。
GM :大丈夫だってっ! お姫様のヒットポイント10点あるから1ラウンドでは
死なない――あっ。
戦士 :……
僧侶 :……
魔法使い:……
GM :え、えーと。今のは――
戦士 :ほほー。そうかそうか。1ラウンドではお姫様死なないのか。
僧侶 :いいことを聞いたなぁ。どうやらこのラウンドは気にせず攻撃してもいいようだぞ。
魔法使い:速攻あるのみだな。次のラウンドの敵の手番までに片を付けるぞ。
GM :あうーあうー。
なぜこのような問題が発生したのか?
それは、人質を救出する手段を、プレイヤー側が持たなかったためである。
敵であれば、倒すか逃げればいい。
罠であれば、解除するか避ければいい。
だが、人質を取られた場合、プレイヤーにはどうしようもないのである。
「自分達ではどうしようもない」という状況ほど、プレイヤーにとって腹立たしい
事は他にない。
人質を救出する方法はどこかにある(GMが決めている)のかも知れないが、事前に
知らされていないのであればそれはないのと同じである。
目の前で人質にナイフを突きつけられてから、救出方法を考えても遅いのだ。
かくして、悪の魔術師は倒され、お姫様は救出された。
だが――
戦士 :ちっ、こっちにも衛兵がいやがる。
魔法使い:王め。姫を救出した我々に褒美をくれるどころか、牢屋に入れようとするとは。
GM :当たり前だーっ! お姫様は、今もショックで自室に閉じこもったままなんだぞっ!
戦士 :死ななかったからいいじゃんか。
GM :そういう問題ではないっ!
僧侶 :しかしこのままではまずいな。
魔法使い:任せたまえ。私にいい考えがある。
戦士 :どうするんだ?
魔法使い:この先は姫の部屋だ。姫は今そこに閉じこもっているらしい。彼女を
人質にすれば、衛兵は手出しできまい。
戦士 :なるほど! 俺の剣ならヒットポイント10点でも1撃で死ぬからな。脅しになる。
GM :待てっ! それはカオティックな行動だぞ!
僧侶 :先に契約違反をしたのは王様だからな。これはとてもカオティックな行動だ。
よって、アライメントの問題は発生しないと判断する。
戦士 :よーし。なんかわくわくしてきたぞーっ。
魔法使い:うむ。人質を取る敵の気持ちが分かる気がするな。とても気分がいい。
GM :やーめーろーっ!
以上――
今は昔の物語である。
【おしまい】
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