日シナの理緒ちゃん(31)

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日シナの理緒ちゃん(31)


1.

宇宙船内部。慣性飛行中らしく、ボールペンやクリップボードなどの細々した道具、パイロットらしい服装の男、普段着のままの理緒が室内を漂っている。そこへアナウンス――

『エンジントラブルに端を発する推力の不足が許容範囲を超えています。10分以内に推力を確保できない場合、予定時刻における目的地への到達が達成できません。繰り返します。エンジントラブルに……』

パイロット「余分な荷物どころか、機能維持装置もいくつかは既に投棄した後だ。この上、たった10分でできる対策があるはずがないさ」
理緒「なんだかよく解らないけど、大変な場面で乗り合わせてしまったみたいね」
パイロット「君が密航してきた分の質量増加がね、最大の頭痛のタネなんだよ」

2.

コンピューターからのアナウンス『計画の遅延が許されない以上は、パイロットに、古典的な手段による解決を提案します』

理緒「……古典的な手段って?」
パイロット「密航者の分の質量増によって航行に支障を来しているのだから、密航者をを投棄する」
理緒「わあ、なんて非人道的な解決方法」
パイロット「交代してあげようにも、私も死にたくはないし、君に宇宙船の操縦をかわってもらう訳にもいかん。密航者の命の重みは無いということに、昔からなっているのさ」

3.

コンピューター『<強制されて仕方なく従えば冷たい方程式だけど、自発的に行えばたったひとつの冴えたやりかただ>という格言もあります。状況を理解した上での適切な判断を期待します』
パイロット「おんなじ極限状況を扱ってるからって小説に書かれてる通りに誰でも行動できるのなら、誰も苦労はしないだろうに」
理緒「小説に書かれている状況を上手に参考にしたいのなら、60年の実績を誇る『日シナのマスタリング講座』がお勧めよ」

4.

パイロット「マスタリング講座?」
理緒「『日シナのマスタリング講座』なら、ゲームシステムの開発や運用に実際に関わってきた講師陣が、小説の構成や印象に残るシーンを再現するために必要な技術を、懇切丁寧に指導してくださるのよ」
パイロット「職業柄、小説の状況設定は充分理解してはいるんだが、主人公のした通りに実行するのは全然気が進まんよ」

5.

理緒「そんな貴方にぴったりなのが、バインダー式のテキストと、実用新案のマスタリング練習器。あらかじめ特訓しておけば、予定していた行動を実行するときにつきまといがちな抵抗感を、きっと克服できるわよ」
パイロット「抵抗感って、例えば?」
理緒「漠然とした不安かも知れないし、照れかも知れない。本番での失敗が怖いという気持ちも無視できないわ」

6.

理緒「さりげなく重要なのが、1日20分の練習を続けるだけで、権威あるシナリオ検定にも楽々合格できるってこと」
パイロット「日々の訓練が重要なのは、なにごとでも同じだな」
理緒「シナリオ検定1級に合格した人のうち、実に9割以上が日シナの出身者なのよ」

7.

再びアナウンスが入る。

コンピューター『残り時間が、あと5分を切りました』
パイロット「最期に何かやりたい事があるか聞いておきたかったが、もう5分しかないのか。実行に移すとしても小説通りに進行できるとは限らない、というわけだ」
理緒「参考にしていた小説が役に立たないのなら、別の小説を利用してみる、っていうのはどうかしら」
パイロット「別のと言うと?」

8.

理緒「野尻胞介の『ロケットガール』に、一人乗りの大気圏突入カプセルから計器盤や電子装置を全部外して二人詰め込み、手動制御で生還したっていうエピソードがあったね」
コンピューター『…………』
パイロット「…………それだ!」

9.

遠ざかる宇宙船。虚空に漂う、四角く大きな電子機器。

パイロット「どうせ犠牲を払うのなら、良心の痛まないほうを廃棄するさ。どうせ目的地に辿り着けば制御を向こう任せにできるんだ」
コンピューター『戻りなさい。考え直しなさい。……このコンピューター殺しー』
理緒「我慢してね。きっと、帰り道で回収してあげるから」
コンピューター『信用できるかーっ』

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日シナの理緒ちゃん まとめ

さいごに

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月刊TRPG.NET 2005年06月号

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