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著:松谷雅志
御大より原稿依頼を受けたので、つらつらと思う処を述べるとしますが
なにぶん旧来のゲームに特異適応した人間の言い草、馬鹿馬鹿しいと
思し召しならば、何卒ご寛恕賜りたく、どうぞお願いいたします。
ぶっちゃけ結論から言えば『ルールに従うのが』一番問題ありません。
ルールの上で、ダメージ算出法とHPの算出法が明記されているならば、
そいつに従ってダメージを与え、死んだら死にます。
ルールとは現実を再現するものではありません。
ゲーム内部の法則を規定するものなのだから、それに従うのが当然でしょう。
とは言え、こいつはあんまり不人情です。ていうか温かみに欠ける。
こうもバッサリ切られたら、さぞかし頭にも来るでしょう。
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「人間が首を切られて生きていられるはずがないッ」
目を血走らせたPL1、懐のスイスナイフを抜き放つや、
DMの首筋につきつけた。
「サア、サア!! これで死なないって言うんだろう?
どうだい、どっちが正しいか試してみようじゃねえか!」
ところがDM、あくまで鉄面皮を崩す様子がない。
「もちろん、正しいのは僕だ」
落ちつきはらって、こう言った。
「人間を相手にしてる、なんて、いったい僕がいつ言ったんだ?」
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さて、再びルールです。
首切断による即死が発生するとルールに明記されている。これは問題ありません。
ここで問題となるのは、首を切っても死なないルールの場合です。
首筋とか急所とか、そういう概念すら無いルールですね。
・前者の例としては、D&D3rdが挙げられます。
D&D3rdでは、人はアサシンの攻撃によりHPが+でも即死します。
また「とどめの一撃」ルールにより、首ナイフ時の即死は再現されます。
また、近年では、NPCに対してPCが演出的即死を行うことが可能なルールも
複数存在しています。
・後者の例としては、T&TやD&Dが挙げられます。
人は鉄塊や火炎を叩きつけあい、HPが0になるとようやく一時的に死にます。
0にならない限りは、ナイフで何回切りつけられても死にません。
後者におけるHPが何を示すのか、ポイントはそこかもしれません。
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「このナイフ。見たところでは廉価品。魔力も無ければ逸品でもない。
刃渡りからしてダメージは1d2と言った所だが、マア、1d4としてやろう」
薄い唇に笑みを浮かべて、DMは言を継ぐ。
「このまま突きこむか。あるいは刃を滑らせるか?
見たところ君は、ウェポンマスタリーを習得していまい。スマッシュも打てまい。
だからダメージは最大4と、君のなけなしのストレングスで2。あわせて6点だ。
――まあノーマルマンを殺すには充分かな。でも冒険者はどうだろう」
卓を囲んで凍りついた誰の目にも、名状しがたい違和感があった。
いったいこいつ、どうしてこう他人事みたいな口がきける?
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D&Dで遊んだことはあるでしょうか。
つまり以下に示すような目にあったことはあるでしょうか?
・凶悪な火を吐く爬虫類のせいで、全身を炎に包まれダンシングした。
・凶悪な魔道士の呪文によって、胸板で隕石をナイスキャッチする羽目になった。
・凶悪な巨大生物に飲みこまれ、半刻の間胃液の海でスイミングした。
・凶悪な罠にかかり、火口の中にダイブして赤い溶岩で一風呂浴びた。
・凶悪な戦車型の生命体の進路上に立っていたら、上を通りすぎていかれた。
――でも生きていました。生きてるって素晴らしい。
ここにおいてHPは何を指すのでしょう?
敏捷性による攻撃の回避でしょうか――これらを避けることは困難です。
修練によるダメージの無効化でしょうか――高熱を修練で無効化するのは困難です。
魔力の加護でしょうか――あり得ることです。ただし、アンチマジック効果のあるエリア内部でも、同様の処理が行われることには留意せねばなりません。
つらつら考えるに。恐らくこれは体力です。頑丈さです。ぶっ壊れにくさです。
こと、この手のゲームにおいて、人はざくざく損壊し、そしてぐじゅぐじゅ治るのです。
ていうか、それはもう人ではありませんね。
モンスターどもを打ち殺し、その魂か何かを経験値として取り込んだあの日から、
あなたのPCは人外道を真っ直ぐに歩みつづけているのです。きっと。
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「さあ刺したまえ。思いきり。君がやらぬと言うのなら僕がこの手でやってやる」
一閃。
握った右手ごと掴んだナイフを、己が首筋に突き立てる。
顔半分を蘇芳に染めて、DMは初めて楽しげに笑った。
「これで6点。あと三回刺してみようか。何か割りこんで行動するかい?
無いか――ならあと15点。ああ。今日のダイス目はいいなあ」
マスターの首筋はなかば抉れ、白い骨さえ見えている。
喉とてとっくに断ちきれているだろうに、そんな当たり前の物理になど
縁がないとばかりに、びゅうびゅうと血を噴き出しながら、
少年じみたひどくカン高い声で、DMは言った。
「ほら。冒険者やモンスターなんてのは人じゃないんだ。
首筋にナイフを刺すと死ぬなんてのは、狭いプライムマテリアルプレーン的常識だよ。
もっと多元宇宙的な視野で物事を語ろうじゃあないか? ねえ?」
果して、己たちはそうとも知らず、何物と遊戯を交わしていたのか。
たちこめる血煙はいよいよ濃く、恐怖のうちに身を震わせながら、ただ、
PLたちはいつしか触手状に変じたDMの手が、じりじりと近づいてくるのを
なすすべもなく、見守るのみであった――。(完)
(注:この枠内はD&D的ルール体系に従って記述された事例です。
現実世界の皆様は決して真似をなさらないよう、
狭いプライムマテリアルプレーン的常識からお奨めします)
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ええと。何の話しでしたっけ?
そうですね。首ナイフにはこんな考え方もあるのではないか、という話です。
現実の常識から論理的に判断したものが、ゲームの世界観で示されるものとは異なる、そういうことだって、時にはあるのかもしれません。
まあ。あまり長くなるのも問題でしょう。
この小文が皆様の考察の何らかの助けになればと、心より願いつつ
この辺りで筆を置きたいと思います。
P.S.――びたいち助けにならねえと思いますが。
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