首ナイフ問題に関するごく偏った考察。

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首ナイフ問題に関するごく偏った考察。



著:松谷雅志

 御大より原稿依頼を受けたので、つらつらと思う処を述べるとしますが なにぶん旧来のゲームに特異適応した人間の言い草、馬鹿馬鹿しいと 思し召しならば、何卒ご寛恕賜りたく、どうぞお願いいたします。

1.『まずは一般的結論』

 ぶっちゃけ結論から言えば『ルールに従うのが』一番問題ありません。
 ルールの上で、ダメージ算出法とHPの算出法が明記されているならば、 そいつに従ってダメージを与え、死んだら死にます。
 ルールとは現実を再現するものではありません。
 ゲーム内部の法則を規定するものなのだから、それに従うのが当然でしょう。

 とは言え、こいつはあんまり不人情です。ていうか温かみに欠ける。
 こうもバッサリ切られたら、さぞかし頭にも来るでしょう。

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  「人間が首を切られて生きていられるはずがないッ」
   目を血走らせたPL1、懐のスイスナイフを抜き放つや、
   DMの首筋につきつけた。
  「サア、サア!! これで死なないって言うんだろう? 
   どうだい、どっちが正しいか試してみようじゃねえか!」
   ところがDM、あくまで鉄面皮を崩す様子がない。
  「もちろん、正しいのは僕だ」
   落ちつきはらって、こう言った。

  「人間を相手にしてる、なんて、いったい僕がいつ言ったんだ?」
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2.『ルールによる相違』

 さて、再びルールです。
 首切断による即死が発生するとルールに明記されている。これは問題ありません。
 ここで問題となるのは、首を切っても死なないルールの場合です。
 首筋とか急所とか、そういう概念すら無いルールですね。

  ・前者の例としては、D&D3rdが挙げられます。
   D&D3rdでは、人はアサシンの攻撃によりHPが+でも即死します。
   また「とどめの一撃」ルールにより、首ナイフ時の即死は再現されます。
   また、近年では、NPCに対してPCが演出的即死を行うことが可能なルールも
   複数存在しています。

  ・後者の例としては、T&TやD&Dが挙げられます。
   人は鉄塊や火炎を叩きつけあい、HPが0になるとようやく一時的に死にます。
   0にならない限りは、ナイフで何回切りつけられても死にません。

 後者におけるHPが何を示すのか、ポイントはそこかもしれません。

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 「このナイフ。見たところでは廉価品。魔力も無ければ逸品でもない。
  刃渡りからしてダメージは1d2と言った所だが、マア、1d4としてやろう」
  薄い唇に笑みを浮かべて、DMは言を継ぐ。
 「このまま突きこむか。あるいは刃を滑らせるか?
  見たところ君は、ウェポンマスタリーを習得していまい。スマッシュも打てまい。
  だからダメージは最大4と、君のなけなしのストレングスで2。あわせて6点だ。
  ――まあノーマルマンを殺すには充分かな。でも冒険者はどうだろう」
  
  卓を囲んで凍りついた誰の目にも、名状しがたい違和感があった。
  いったいこいつ、どうしてこう他人事みたいな口がきける?
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3.『HPが示すもの』

 D&Dで遊んだことはあるでしょうか。
 つまり以下に示すような目にあったことはあるでしょうか?

・凶悪な火を吐く爬虫類のせいで、全身を炎に包まれダンシングした。
・凶悪な魔道士の呪文によって、胸板で隕石をナイスキャッチする羽目になった。
・凶悪な巨大生物に飲みこまれ、半刻の間胃液の海でスイミングした。
・凶悪な罠にかかり、火口の中にダイブして赤い溶岩で一風呂浴びた。
・凶悪な戦車型の生命体の進路上に立っていたら、上を通りすぎていかれた。

 ――でも生きていました。生きてるって素晴らしい。

 ここにおいてHPは何を指すのでしょう?
 敏捷性による攻撃の回避でしょうか――これらを避けることは困難です。
 修練によるダメージの無効化でしょうか――高熱を修練で無効化するのは困難です。
 魔力の加護でしょうか――あり得ることです。ただし、アンチマジック効果のあるエリア内部でも、同様の処理が行われることには留意せねばなりません。

 つらつら考えるに。恐らくこれは体力です。頑丈さです。ぶっ壊れにくさです。
 こと、この手のゲームにおいて、人はざくざく損壊し、そしてぐじゅぐじゅ治るのです。
 ていうか、それはもう人ではありませんね。
 モンスターどもを打ち殺し、その魂か何かを経験値として取り込んだあの日から、 あなたのPCは人外道を真っ直ぐに歩みつづけているのです。きっと。

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 「さあ刺したまえ。思いきり。君がやらぬと言うのなら僕がこの手でやってやる」
  一閃。
  握った右手ごと掴んだナイフを、己が首筋に突き立てる。
  顔半分を蘇芳に染めて、DMは初めて楽しげに笑った。
 「これで6点。あと三回刺してみようか。何か割りこんで行動するかい?
  無いか――ならあと15点。ああ。今日のダイス目はいいなあ」
  マスターの首筋はなかば抉れ、白い骨さえ見えている。
  喉とてとっくに断ちきれているだろうに、そんな当たり前の物理になど
  縁がないとばかりに、びゅうびゅうと血を噴き出しながら、
  少年じみたひどくカン高い声で、DMは言った。
 「ほら。冒険者やモンスターなんてのは人じゃないんだ。
  首筋にナイフを刺すと死ぬなんてのは、狭いプライムマテリアルプレーン的常識だよ。
  もっと多元宇宙的な視野で物事を語ろうじゃあないか? ねえ?」

  果して、己たちはそうとも知らず、何物と遊戯を交わしていたのか。
  たちこめる血煙はいよいよ濃く、恐怖のうちに身を震わせながら、ただ、
  PLたちはいつしか触手状に変じたDMの手が、じりじりと近づいてくるのを
  なすすべもなく、見守るのみであった――。(完)

  (注:この枠内はD&D的ルール体系に従って記述された事例です。
     現実世界の皆様は決して真似をなさらないよう、
     狭いプライムマテリアルプレーン的常識からお奨めします)
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 ええと。何の話しでしたっけ?
 そうですね。首ナイフにはこんな考え方もあるのではないか、という話です。
 現実の常識から論理的に判断したものが、ゲームの世界観で示されるものとは異なる、そういうことだって、時にはあるのかもしれません。

 まあ。あまり長くなるのも問題でしょう。
 この小文が皆様の考察の何らかの助けになればと、心より願いつつ
 この辺りで筆を置きたいと思います。

 P.S.――びたいち助けにならねえと思いますが。

さいごに

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月刊TRPG.NET 2005年06月号

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