『ダブルクロス』ファーストインプレッション

http://www.trpg.net/rule/DoubleCross/book/Rule_FirstImpression.html

先ごろ発売されたばかりの新作『ダブルクロス』について、ねこぱんち◎;さんによります、初見での分析を頂きましたので、紹介します。本記事は、2001年07月22日発行の日刊TRPG総合メールニュース 語り部日報増刊の記事をWebに掲載したものです。

著者ページArchaicArclight

概要

『ダブルクロス』とは2001年7月19日に発売したばかりの新作TRPGである(本テキストは2001年7月21日に書いている)。

本作品は、第一回ゲームフィールド大賞の入選作品である『ユニバーサル・ガーディアン』がリファインされ発売された作品である。

ゲームフィールド大賞からはじめて商品化まで漕ぎつけた作品として興味を覚え、購入にいたった。

本テキストは一通りルールブックを読みとおした段階での感想であり、今後実際のプレイによって評価は変わりうるものであることに留意いただきたい。

ゲームの背景

ゲームの舞台は、現実世界に限りなく近い架空の近未来を舞台にしている(具体的な現在年は設定されていない)。

発端はゲーム世界の19年前、古代の遺跡より発見された未知のウイルスがジェット気流に乗り、人知れず世界中に拡散していった。

世界ではその後、連続人体発火事件・吸血鬼や天使の目撃といった奇妙な事件がタブロイド誌を賑し始めてゆく。

各国・各組織がその奇妙な現象の謎を追い求めるうち、彼らはついにその原因であるウイルスへとたどり着いた。

「レネゲイド・ウイルス」

それは感染した対象のDNAを書きかえ、感染者に超常能力を与える性質を持っていた。

その発症率は非常に低いながらも、発症した人物は「オーヴァード」と呼ばれ、「シンドローム」という異能を発揮するようになり、やがては正気を失い衝動に駆られた暴走行為を繰り返すようになる。

そしてウイルス散布より19年が経過した現在、日本も含めたさまざまな組織が「レネゲイド・ウイルス」にさまざまな形で関与している。

例えば、日本の公安組織は彼ら感染者をテロリスト予備軍として認識している。 またユニバーサルガーディアン(UNG)と言う組織は、積極的に感染者やその子供を治療研究という名目で”保護”している。

しかしながら、今だ大多数の人間に対してウイルスの存在は未だに秘匿されており、社会は平穏であるかのようである。

所感

どこかで聞いたような……? という印象を受ける方もおられるかもしれない。ルールブックには参考文献の一例として、以下の作品が上げられている。

小説からは『ワイルドカード』『ダブルブリット』『レベリオン』『ザンヤルマの剣士』。コミックからは『仮面ライダー』『ARMS』『魔人〜DEVIL〜』。

キャラクター

プレイヤーは「レネゲイド・ウイルス」に侵蝕され発症したキャラクターを遊ぶ事になる。

キャラクターは9系統ある異能力のうち二系統を選択す事ができる。

この時、別の二系統選択した場合『クロスブリード』、同じ系統を重ねて選択した場合『ピュアブリード』と呼ぶ。

特に感染者から生まれた18才未満の年齢のキャラクターは「第二世代」と称される。

キャラクターが選択可能な異能力の系統は以下の通り。

「エンジェルハィロウ」
光・レーザー・知覚強化などを扱う。
「ブラックドック」
電撃や電子機器を自在に操る。
「ブラム=ストーカー」
血液を操る吸血鬼のような存在。
「キュマイラ」
主に身体強化と肉体変貌を行う。
「エグザイル」
心身を自在に軟化・変形させる。
「ハヌマーン」
視神経や身体速度の強化。
「ノイマン」
脳の限界を超えた思考力を得る。
「サラマンダー」
熱や冷気を操る。
「ソラリス」
自分身体で化学物質を合成する。

そして、そのキャラクター達には「ロイス」と称される人間関係が設定される。この「ロイス」は、キャラクターを暴走状態から人間の側へと繋ぎとめるための役割となる。

所感

『トーキョーNOVA』や『ブレイド・オブ・アルカナ』と比べて、キャラクターが獲得可能な能力のカテゴリーが絞られている。これだけでも、ゲームの説明に要する時間が短縮されるのは歓迎できる。

しかしながら、相変わらず直感的に意味の理解が不可能な用語が多すぎるとも感じた。

ゲームコンセプト

当初、世界やキャラクターの説明はあるが、ではなにをどうやって遊ぶのか? に関して明確に(そしてまとまって)明示されている項目が発見できなかった。

ようやくそれらしい項目を見つけたのが、P143の「トラブルシューティング」 の項目であり、そこには以下のように書かれている。

(以下引用)

この二つをゲームの参加者が理解し、尊重しているならば『ダブルクロス』 は基本的にうまくいくだろう。

(以上引用終了)

他にも”「誰も知らない知られていけない」というシェチューションを実現したかった”という記述が見つかった(P38、●超人と枷)。

所感

つまり、「自分達の正体を隠しつつ、日常(システム的には「ロイス」が相当する)を攻撃してくる敵を打ち倒し、自らの日常を守る」ゲームと言う事のようだ。

このような最も重要な事がルールブックの後ろのほうに書かれているのは、しごく配慮に欠けた配置だと言わざるを得ないだろう。

ユーザーが知っておくべき事は、よりわかり易い位置に(かつ繰り返して)書くべきではないだろうか?

「自分の日常を守る」というコンセプトは「魔獣の絆」や「ゼノスケープ」も同様だが、より「守るために”戦う”」という方向に、バランスが揺り戻されているようだ。

侵蝕率

このゲームのキャラクターは、 その異能(シンドローム)を使用する毎に、「侵蝕率」という数値が上昇してゆく。

この「侵蝕率」は%で表され、この値が上昇するほどキャラクターはその能力をより強力に発揮し易くなる。

しかしながら、ゲーム終了時点においてこの「侵蝕率」が 100%を越えていた場合は、自我を維持する事ができなくなり、キャラクターとして脱落する。

所感

ある値が一定のポイントを超えるとNPC化する『ブレイド・オブ・アルカナ』における”尊厳値”と丁度同じ構造を持っている(補足:『ブレイド・オブ・アルカナ』では尊厳値と呼ばれる値がゲーム終了時点で0を下回っていると、NPCとなる)。

キャラクターの行動と数値の上下関係にあまり明確な関連性がみられなかった『ブレイド・オブ・アルカナ』に対して、「異能力をつかえばウイルスにより侵されていく」という説明は、私的にはより納得のいきやすい説明であった。

判定

このゲームの判定方法は「能力値分の10面ダイスを振り、そのなかの最大の出目」+「技能のレベル」という上方無限ロールになっている。

このとき、ダイスの中に10(クリティカル)の出目が出ていればそのダイスをさらに振り足し10よりもさらに高い目を出す事ができるようになる。

PC達の異能力は、主ににこの判定と組み合わせて使用するようになっている。

所感

異能力には「侵蝕率」の上昇する値と共に「下限値」という数値が設定されている。判定においてこの値(異能力を組み合わせていればその合計値)以上の達成値を出さなければその能力は発動しない、というものだ。

異能力を使用する毎に、達成値の計算、侵蝕率の計算・書き換え、下限値の計算と言った3手順を踏まねばならない (もちろん他にもダメージなどの計算もおこりうる)。

しかもこの「下限値」は「侵蝕率」の現在値によって修正をうける。

これは著しくゲームのテンポを遅くするものではないだろうか。

「侵蝕率」はゲームの肝であるとしても「下限値」に関しては毎回の判定毎に計算せねばならないほどの重要な物だとは思えなかった。

ロイス

この「侵蝕率」を下げる事ができるのが「ロイス」と呼ばれる人間関係のルールである。この特定の人間との”関係”のことを「ロイス」と呼ぶのである。

キャラクターは基本的にゲーム中以下の「ロイス」を獲得する

  1. キャラクター作成時に獲得した「ロイス」(三つ)
  2. セッションに参加した他PC(左となりのPC)
  3. GMから渡されるシナリオ用の「ロイス」

この「ロイス」にはそれぞれ「ポジティブ」と「ネガティブ」な感情、そしてそのどちらが表面に現れているのかを設定する。

どのような感情(関係)が当てはめられるのかは、PLが任意で(リストから)選択する事も出来るし、ダイスを振ってランダムに決めることもできる。

「ロイス」の効果は以下の二つ存在する。

この「ロイス」との関係がゲーム終了時まで維持できていた場合、キャラクターは上昇してしまった「侵蝕率」を下げる事ができる。

また逆に「ロイス」との関係が維持できなかった場合、以後そのキャラクターは「タイタス」と呼ばれ、”判定の値にボーナスを得る””死亡状態から蘇生する”と言った効果を得る事ができる (タイミングは任意、効果の適用は一度限り)。

「ロイス」の喪失の条件は、「ロイスの死亡」「ロイスの裏切り」「ロイスとの人間関係の急激な変化」と規定されている。

所感

いわゆる”演技(声に出した台詞の独白)”を強制するルールが存在しないというのは、個人的なプラス評価である。

シナリオ

サンプルシナリオを参照するところ、このゲームのシナリオは一人のPCに対して一つの人間関係(「ロイス」)を与えることを基本として作成されるようである。

そしてこの場合のポイントは、 NPC側からの感情は決まっていても”その人間関係実際にをどうあつかうのかはプレイヤー自身に任されている”と言う点であろう。

PC側がどのような感情をもっているのかは選択可能であり、またルール上その関係を維持することも維持しない事も、システム上はどちらでもかまわない。

例えば、GMが貴方のPCを慕っているという「ロイス(NPC)」を出しても、 あなたがそれをうとましく感じたならば、貴方のPCはその「ロイス」嫌っているという感情を設定する事ができる。

また、ゲーム中にその「ロイス」との関係が解消するようなことを意図的に行う事もできる。

逆に言えば、 GMもまたNPCとPCの関係がどちらに転んでも良いように考えておくべきであろう。

所感

ある知人はこう予測を立てていた。

「プロフィール欄の一番上に”幼馴染”って書くゲームになるんじゃないの?」

その通りであった。

総評

ルールブックの構成上、このゲームではなにをどう遊ぶのかが分かりにくかった。

プレイヤーやマスターそれぞれが必ず知っておくべき事柄は、一つの項目にまとめるなり、チャート類として一読で全体の把握が可能であってほしかったと思う。

「自分の日常を守る」というコンセプトゆえに、自分からなにかを実現しようとするタイプのプレイにはあまり向いていない。

しかしながら個人的には全体としては好印象である。

『魔獣の絆』『ブレイド・オブ・アルカナ』『テラ・ザ・ガンスリンガー』『ゼノスケープ』と言った最近の類似システムに比べてルールブックの体裁にも余裕があり、洗練度合いが進んできている (これらのゲームは購入しても遊ぶまでには至らなかった)。

製品情報

タイトル
ダブルクロス
著者
矢野俊策
発行
有限会社ゲーム・フィールド
形体
B5版(210ページ)
価格
\3600
ISBN
ISBN4907792247

日報編集者よりちょっと一言

できる限り情報を得ていないひとにも、どのようなゲームなのかわかるよう に突っついてみたつもりですが、いかがでしょうか。

遊ばれる環境なども含めた案内であったD&D3eの紹介とは違い、こっちはルー ル解説系の記事として構成されています。別に案内系のもあったほうが便利な んでしょうね。


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