[KATARIBE 32442] [LGN] 小説『虚構の時代――緒方小百合編纂『八曾業平遺作集』より』

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Date: Sun, 27 Mar 2011 01:54:02 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 32442] [LGN] 小説『虚構の時代――緒方小百合編纂『八曾業平遺作集』より』
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2011年03月27日:01時54分01秒
Sub:[LGN]小説『虚構の時代――緒方小百合編纂『八曾業平遺作集』より』:
From:月影れあな


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小説『虚構の時代――緒方小百合編纂『八曾業平遺作集』より』
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本文
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 ベミヤ・アーケツラヴについて、歴史が語る言葉は多い。
 彼を、残忍な虐殺者であるというものもあれば、ただの妄想家であると語る
ものもあり、或いは高邁な理想をもった革命家であるとするものもある。彼の
なしたことを思えば、そのどれもが正解であると言えるだろう。しかし、彼が
何を思い、自らの進む道を定めたのか、言及したものはあまりに少ない。
 彼は来訪以後、想念の力というものにいち早く着目していた人物の一人であ
り、彼の著した『新世紀の一神教』は、新エネルギーの出現に、高揚と困惑を
隠せずにいた当時の人々に、新しい世界そのものを提示したものだ。
 地球封印の本来の役割を、絶対神を生み出すための揺籃であるとし、グラン
ドクロスによる封印解除をあくまで偶発的な事故。未熟なまま卵を割る行為と
する説を唱えた。これが、後々まで議論を生み出す「ベミヤ仮説」である。
 封印解除直後、地球人の持つ想念の異常な強さに着目し、「異星系国家のよ
うに、この力が一つの思想に統一されていたなら、絶対神とも呼べる強大なシ
ステムが生まれ得たのではないか?」という仮定から生まれた結論だった。

 二十面体船来訪当時、彼は民間の一宗教学者に過ぎなかったと言われている。
ここではっきり断言しないのは、彼の身元を明確にする資料が、今日に至って
も未だに発見されていないからだ。
 ベミヤ・アーケツラヴという名前自体、執筆用のペンネームに過ぎなかった
ようで、彼が所属していたとされる、太平洋新大陸移民団の名簿には、その名
前自体見つけることが出来ない。
 件の移民団が、大陸ごとキング・テラー軍団に沈められた後は、確かめる術
も失われてしまった。
 或いは、と思う。
 彼も、あの混迷を極めた21世紀初頭という時代の中で、光芒の如く現れ、消
えていった星獣機レーヴェオンと同様。いや、その対として「絶対悪」という
枠に囚われた被害者の一人に過ぎなかったのではないか、と。

 彼は自著の中で、翻訳したナアカル碑文を根拠に、地球という封印された星
を『いずれ彼方より来たるラ・ムーの民』への対抗手段として作られた最終兵
器なのだと警鐘を鳴らしている。一時期はそれを信じ、絶対神の必要性を説く
者も多かった。
 アトランティス帝国や、他の星間国家との国交が正式に確立された今では、
彼の言う『ラ・ムー』に該当する星が銀河系に存在しないことが判明している。
 それを根拠に、彼の主張した言葉、信じぬいた信念を、まったくの世迷い言
に過ぎないものとして、片付けてしまおうとする人は多い。
 しかし、本当にそうだったのだろうか?
 完全な星図と言っても、それは我々の知る範囲でしかない。銀河系の外につ
いて、我々が知る事はあまりに少なく、内についても、知らない事はあまりに
多い。封印の中にあった20世紀の地球と違い、この宇宙は未だ冒険に満ち溢れ
ているのだ。
 誰が、一体どうして、『いずれ彼方より来たるラ・ムー』の脅威を否定する
ことができるだろうか?

 あの時代の私は、揺り籠の如く平和だった旧世紀の、ぬるま湯に浸かったよ
うな感覚から抜けきれないただの一学生で、ベミヤ・アーケツラヴのことも、
新聞の紙面をにぎわす花の一つくらいにしか思えなかった。
 それは、彼の駆る怨神機グランド・テラーが世界を席巻した時も変わらず。
人類の築いてきた歴史に終わりが訪れようとするに至っても変わらず。新聞の
見出しを、テレビの中継を、あの地球全土の空を黒々と染め上げた邪悪な霧を
見上げても、なお変わらず。降りかかる現実の全てを、他人事のように眺めて
いたのだ。
 それは私の周囲に居た『良識ある大人たち』の大半も同様で。あの頃の我々
にとって、日々変わりゆく世界は色あせた虚構の悪夢のようなものだった。
 ベミヤが最後まで己が敵と信じ、レーヴェオンがその最期まで胸に抱き続け、
戦い抜いた『次代への希望』というものが、時代に追いつけなかった大人たち
の、蒙昧な楽観視に過ぎなかったとしたらどうだろう。
 世界を一つにまとめようとしたグランド・テラーは亡く、それに抗う一筋の
希望となったレーヴェオンも、最早失われてしまった。
 地球人の想念の力が弱まりつつある今だからこそ、もう一度、彼の言葉を吟
味し直してみるべきなのかもしれない。


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