[KATARIBE 32422] [HA23P] 『少女のヒーロー』

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Date: Thu, 27 Jan 2011 01:51:17 +0900
From: Subject: [KATARIBE 32422] [HA23P] 『少女のヒーロー』
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 ごんべです。
 珍しくログを切ったので、エピソード形式にまとめました。

 少女の願いを異形のヒーローが叶えるのは、王道過ぎてびっくりですね。


***********************************
エピソード『少女のヒーロー』
============================

登場人物
--------

一条恵那(いちじょう・えな):
   常人離れした身体能力を持つ女の子。小学三年生。
骨ライダー:
   都市伝説。最近横浜の子供たちの間で噂になっている。
   人間体の時の名は木田修二(きだ・しゅうじ)。
ようこ:
   恵那の近所に住む、幼稚園の頃からの幼なじみ。
   恵那のあまり多くない親友の一人。
あかり、なるみ:
   ともに、恵那やようこの級友。


うわさ
------

 発端は、学校で聞いた噂話。

 あかり    :「ねぇ恵那ちゃん、加藤くんのお兄さんが聞いたらしいん
        :だけど」

 こういう話は大抵、彼女から伝わってくる。

 あかり    :「骨ライダーの噂って聞いたことある?」
 恵那     :「なにそれ……こわい」
 なるみ    :「知ってる! 夜に大きい道路を車とかバイクで走ってる
        :とすれ違う、ってやつだよね!」
 あかり    :「そうそう、首都高とか16号で走ってるらしいよ」

 横から割り込んできたクラスメイトに、あかりが得意げに受け応える。

 恵那     :「本当……?」
 なるみ    :「恵那ちゃんはこわがりだなあ」
 ようこ    :「恵那ちゃんは怪談とかダメだもんねー」
 恵那     :「うん……」

 幼稚園来の友達であるようこにフォローされても、その言葉にすら、そう答
えるので精一杯。

 あかり    :「意外ー。恵那ちゃん、何でもできる感じするのになー」

 文武両道だよね、と言ってくれているニュアンスだが

 恵那     :「そういうの……噂でしょ?」

 怖さと不安は募るばかり。

 ようこ    :「そう、信じなけりゃ大丈夫だから!」
        :(元気づけるように)
 あかり    :「わかんないよー? 本とかテレビじゃなくて人から聞い
        :た話だから、見た人がいる、ってことだし」
        :(ちょっと低い声でわざとらしくにやりとしながら)
 恵那     :「もう、やめてよー!?」(耳を塞ぐ)
 あかり    :「あははは」

 噂は噂。だが、そこをそう断言するのも、信じてしまうのも、噂に弱い年代
の限界だったりする。

 なるみ    :「大丈夫だって。見ても何かされるとか呪われるとかって
        :ことじゃないんでしょ?」
 ようこ    :「…それ恵那ちゃんに言っても安心しないと思うけどなー」

 そしてあちこちに広まる骨ライダーの噂。


思い出しては
------------

 BaySide23、横浜、夜、日ノ出町交差点。

 恵那     :「……」(不安そうにきょろきょろ)

 祖母に連れられて自宅に戻る途中、大通りに出てから、周囲を気にすること
しきりの恵那。
 特に日ノ出町交差点に到達してからは、四方に目を配っている。

 恵那祖母   :「……恵那ちゃんどうしたの?」
 恵那     :「……おばあちゃん」
 恵那祖母   :「何?」
 恵那     :「……骨ライダー、って、ここ通るかな……」
 恵那祖母   :「…………え??」

 祖母の目が点になっているトンボが飛んでいくうちに、やがて目当ての信号
が青になり、祖母を引っ張るように交差点から去っていく恵那。


そしてある朝
------------

 「いってきまーす」
 「行ってらっしゃい、気をつけてね」
 「あれ、お父さんは?」
 「今日はお休みですって。随分調子悪そうなの。昨日もまた夜遅かったし」
 「ふーん。……お父さん、早く元気になってねっ。いってきまーす」

 『ソウカ……アレガ娘カ……ククククク』


帰り道
------

 あかり    :「それで骨ライダーってさ。おまじない唱えたら来るん
        :だって。知ってた?」
 なるみ    :「それ本当なん?」
 恵那     :(びくびく)
 ようこ    :「えー何それ」
 あかり    :「『がいこつさん、がいこつさん、』」

 そこでおもむろに言葉を止め、一呼吸置く。

 あかり    :「それから『助けてください』、って3回繰り返すとね。
        :来るんだって。
        :でも、ふざけて呼ぶと……」
 ようこ    :「……呼ぶと」
 恵那     :(逃げ出したい顔)
 なるみ    :「あ、知ってr」(あかりに口を押さえられる)
 あかり    :(低い声で)「……呪い殺されるんだってー」

 にたあ、と笑いながら、ふふははは、と芝居がかった声で笑ってみせる。

 恵那     :「きゃー」(耳を押さえて傍らにしゃがみ込む)
 ようこ    :「恵那ちゃん、噂だから! ね?」
        :(あわててなだめる)
 なるみ    :「……でも」

 ふと辺りに目をやって、なるみが言う。

 なるみ    :「ハマッコ寄ってたらもう暗いしねー……」
 あかり    :「本当だー」
 恵那     :「……ぇ-……」(涙目)>もう暗い
 なるみ    :「じゃ、またねー。今日はハマッコに呼んでくれて
        :ありがとー」
 あかり    :「また明日ねー」
 恵那     :「……うん、ばいばい」(元気がまだ戻ってない)
 ようこ    :「ばいばーい」

 別の道へ離れていく友達を見送り、恵那とようこも自分たちの道を辿る。

 恵那     :(……ふう、と)
 ようこ    :(苦笑して)
        :「大丈夫だよ恵那ちゃん、町中みんなで帰ったら
        :怖いのなんて出ないから」
 恵那     :「うん……あ、今日はハマッコに来てくれて、ごめんね」
 ようこ    :「いいよ? 時々寄ると面白いから(笑)。いつも帰りは
        :一緒じゃないから、楽しかった」
 恵那     :「うん、ありがと」(にこ
 ようこ    :「えへへ」(にこ

 そして分かれ道。

 ようこ    :「じゃ、また明日ねー」
 恵那     :「うん、またねー」

 階段になった坂を下りていくようこ、手前の路地を通り過ぎていく恵那。

 しかし……ふと。

 恵那     :「……?」

 ようこの声が聞こえた気がした。
 午後5時、既に暗く、しかし通学する児童生徒も通勤の大人たちも姿が途絶
える、丁度谷間の時間。道にいるのは恵那一人。

 恵那     :「…………」
        :(ぶんぶんぶん、と頭を振る)
        :(帽子が脱げそうになって慌てて押さえる)

 恵那     :「……ようこちゃん……?」
        :(坂の上まで戻ろうと駆け出す)


階段坂にて
----------

 坂の上。

 恵那     :「……」(坂を見下ろし、暗がりの中にようこの姿を探す)

 ようこは、いた。
 坂の途中に佇んでいる。

 が。

 恵那     :「……え……?」

 ようこ    :(何やら黒い煙のようなものに上半身を吊り上げられて
        :いるように見える)
 恵那     :(ざわっ)

 目を見開き、ようこの状況を認識するほどに、恵那の肌が粟立ち総毛立つ。

 ようこ    :(彼女の周りに漂う黒い煙が、次第に小さくなっていく)

 否、ようこの鼻と口から、ようこの中へと入り込んでいく。

 恵那     :「…………う」
        :「うわあああああっ!」

 恵那は思わず、坂を駆け下りていった。
 まっしぐらにようこの元へ。
 何かがおかしい。それをなんとかしようと。

 ようこ    :(煙がすべて吸い込まれ、空を見上げるように、煙を
        :吸ったままの姿で立ちつくす)
 恵那     :「ようこちゃん!」
 ようこ    :「……」

 ようこ    :(振り向く)

 そこに恵那が見たのは、大事な友達が、今までに見たことも形容すらした
こともないような、残酷な笑みを浮かべる姿だった。

 恵那     :「ようこちゃん、大丈夫!?」
 ようこ    :「どうしたの?」(平静を装って何気ないそぶりで笑う)
 恵那     :「何も無い!? 大丈夫だった!?」
 ようこ    :「だいじょうぶって……そんなに慌てて、そっちこそ
        :大丈夫?」
 恵那     :「……ようこちゃん」

 恵那は、ようこの両の肩に自分の手を置いた。
 自分自身を落ち着かせるかのように。
 しかし。

 恵那     :「あたしを名前で呼んでみて」
 ようこ    :「……、……」(無表情になり、答がない)
 恵那     :「……っ」

 恵那の顔が、怒りにゆがむ。

 恵那     :「ようこちゃんの中から出ていけ!」
 ようこ?   :「……なるほど、やっぱり見られていたか」
        :(にたりと笑って)
 ようこ?   :(ぐ、と、肩に置かれた恵那の手首を握り、そのまま、
        :ぶんっと横に恵那を投げ飛ばす)
 恵那     :「!?」

 SE      :ドカッ

 横のブロック塀に叩き付けられる恵那。
 激突の瞬間とっさに受け身を取れた恵那だが。

 恵那     :「……痛ぅ……」
        :(地面に落ち、よろよろと立つ)
 ようこ?   :「目的を果たせばすぐに出ていってやるとも。このまま
        :自分の家に帰ればいいだけの話だ……そこで見ていろ」

 言うが早いか、ようこの身体からわずかに黒い煙が吹き出し、恵那を襲う。

 恵那     :(ランドセルを放り出し、とっさにかわす)
 ようこ?   :「なにっ」

 母に買ってもらった大事なランドセルを激突からかばって腕が痛いが、何と
か態勢を立て直し。

 恵那     :(ようこ?に突進してつかみかかる)
 ようこ?   :「おおっと」(ふわり、と宙に浮く)

 ようこの周囲を漂っていた黒い煙が、そのままようこの身体を空中へと引っ
張り上げる。

 ようこ?   :(ブロック塀の上に着地)
        :「邪魔をするな。もっとも、できるものならな」
 ようこ?   :(そのままもう一度ふわりと飛び、街灯の上へ、電線へ、
        :と跳び渡っていく)
 恵那     :「待て!」(追う)
 ようこ?   :(別の路地のブロック塀に跳び降りる)

 追いすがる恵那、辺りに目をやって。

 恵那     :(反対の塀に向かって、三角飛び)

 そしてそのまま、相手の一瞬の隙を突いて、塀の上のようこの肩をつかむ。

 ようこ?   :「!? 貴様ッ!」
 恵那     :「つかまえた!」

 その勢いのままブロック塀を踏み台にして、路地から見て奥側へ、大きく
跳躍する。
 二人はもろともに敷地の反対側の植え込みに突入し、そのままはじかれて
舗装された道へ転がり出る。


絶体絶命
--------

 ようこ?   :「邪魔を! するなっ!!」
 恵那     :「ようこちゃんを放せ!」
        :(ようこの腕をしっかりと握る)
 ようこ?   :「ええいしつこい!」(ふりほどき)

 しかし敏捷さは恵那の方が上、とっさに追いつく。

 ようこ?   :「貴様何者だ……はなせ!
        : 我が恨み、あの男に晴らすまでは!」
 恵那     :「はなさない!」
 ようこ?   :「馬鹿力が!」
        :「お前にはわかるまい!? 麗しの我が家を! 血と心の
        :通った財産を! 勝手な侵入者どもの都合でめちゃくちゃ
        :にされ、打ち壊された者の気持ちを!?」

 怒鳴り始めた相手は、噛みつくように恵那につかみかかってきた。
 がしっ、と両手で組み合う二人。

 恵那     :(力で対抗しながら)「……ようこちゃん……っ」
 ようこ?   :「あの男が憎い! 憎い! 憎い! あの男がうろたえ
        :泣き叫ぶ様を見ながらくびり殺さなければ、この恨みは
        :晴れんのだ!」
 恵那     :「…勝手だ! ようこちゃんを、みんなを、まきこむな!」
 ようこ?   :「……巻き込みたくないと思うなら」

 突如一転、ぞくっとするような舐めるような目つきと声が恵那を睨め上げる。

 ようこ?   :「お前こそそんなことでいいのか、娘ぇ……」
 恵那     :「……?」
 ようこ?   :「私が取り憑いているこの娘…ちょっと私が“抜ければ”、
        :お前の馬鹿力でこんな細腕はぽきっといってしまうだろう
        :なぁ……?」(ククク)
 恵那     :「……っ!?」

 恵那が思わず力を抜いたその瞬間。
 相手にぐいっと押し切られて恵那は、舗装道の反対側、公園の植え込みの間
の芝生に押し倒される。
 たかが小学三年生の女子のとっくみあい。植え込みに隠れると道の前後から
は見えない。その状態を知ってか知らずか。

 ようこ?   :(すかさず恵那の喉元に両手をかける)
 恵那     :「う……あっ」

 躊躇無く力を込めてくるその腕を振り払おうとするが、先程と同じ目つきが、
表情が、恵那を試すように見下ろす。
 恵那は、ほどくことができなかった。
 その間にも、ギリギリと容赦なくのどが締め上げられていく

 ようこ?   :「邪魔をするからこうなるのだ……っ」(さらにぐいっと)

 人間離れした力に、恵那の骨は耐えられても、気管と血管は押し縮められ
圧迫されて、その流れを止めつつあった。

 ようこ?   :「そうだ、その表情をあの男が浮かべる時が楽しみだ」
 恵那     :「かっ……はっ」(ぱくぱく)


 あかり@回想 :「それで骨ライダーってさ。
        :おまじない唱えたら来るんだって。知ってた?」


 がいこつさん、がいこつさん、助けてください

 がいこつさん、がいこつさん、助けてください

 がいこつさん、がいこつさん、助け て  く   だ     


 恵那     :(かはっ)

 恵那の腕から力が抜けていく。

 SE      :ぱさ(恵那の片手が芝生に倒れる)


ヒーローの登場
--------------

 その時。

 SE      :ざっ、ざっ、ざっ、ざっ

 近づいて来る靴音。

 ようこ?   :「……?」(身を潜めるそぶり)
 ??     :「よう、兄弟。随分と楽しそうじゃねぇか」

 突然投げかけられる声。
 声の主、その姿は。

 ようこ?   :「……なっ」(自分に名指し?とわかり、浮き足立つ)

 真っ黒なライダースーツを纏い、目には紫の光を灯す白骨死体。

 恵那     :……ひゅー……
        :(ようこ?の手が緩み、息が細く喉へ戻っていく)
 骸骨     :「で、何やってんだ?」
 ようこ?   :「何だ! お前は!?」
 骸骨     :「おいおい、人に名前を聞くなら、まずはそっちが名乗る
        :モンだろ?」
 ようこ?   :「人の邪魔をせずにお前はお前のテリトリーへ行け!」
 骸骨     :「噂ぐらい、聞いたことはあるだろ?」
 ようこ?   :「なんだと!?」
 骸骨     :「呼ばれたから来たんだよ。……お前が首絞めてた
        :その子にな」

 恵那     :「…………ほね……らい、だあ……?
        :……げほっ! けほ、けほっ!」
        :(かすかな声、一瞬遅れて激しく咳き込む)
 骸骨     :「ああ。もう大丈夫だよ」

 骸骨の声が、一瞬、優しい声になる。

 骸骨     :「とにかく、お前が間借りしてるその子の体から今すぐ
        :離れろ。そしてこんな事はしないと誓え。そうすれば
        :見逃してやる」
 ようこ?   :「……何様のつもりでそんな口を利くんだ、新参が!」
        :(醜い憤怒の表情)

 骸骨が軽く掲げた左の手に、紫色の炎が灯る。

 骸骨     :「ハ! 憑依しなけりゃてめぇの身さえ維持できねぇよう
        :な雑霊が何言ってやがる」
 骸骨     :「しかも選んだのが小さな女の子とはとんだロリコン野郎
        :だなおい」

 嘲笑うような声。

 ようこ?   :「言わせておけば! 邪魔をするつもりなら許さん!」
 骸骨     :「交渉決裂、か」
 ようこ?   :(恵那をほっぽって骸骨に対峙)
 骸骨     :(一瞬でようことの間の距離を縮め、紫の炎(?)の
        :灯った右手でようこに触れる)

 恵那     :「……骨ライダー……?」
        :(喉を押さえて身を起こそうとする)

 紫の火はようこの身体に燃え移ったように見えるが、よく見ると髪の毛一本
燃えていない。

 ようこ?   :(とっさに、展開した黒い煙で、操り人形のような奇怪な
        :動きで飛び退く)

 だが既に遅く、触れられた部分の煙が、溶けるように消滅していた。

 ようこ?   :「ああああああっ!?」(ダメージ)
 骸骨     :「少しは出来るらしいな」
 骸骨     :「これで最後だ。その子から離れろ」
 ようこ?   :「……ふん。何様のつもりか」(油断無く対峙)

 恵那     :「…………骨ライダー」

 ようやく声が戻ってきた恵那が、手をつきながら身を起こす。

 骸骨     :「大丈夫か?しばらく休んでいた方がいい」

 応える声は、優しいトーンに変わる。

 恵那     :「……ようこちゃんを……」

 精一杯の声、すがるような声を、振り絞る。

 恵那     :「ようこちゃんを助けて!」
 骸骨     :「わかった」

 少しの間もおかず、骸骨が応える。

 骸骨     :「その願い、聞き入れた」

 ようこ?   :「かっ!」
        :(先程と同様宙づりのような読めない跳躍で間合いを
        :縮め、宙を飛んだまま跳び蹴り)
 骸骨     :「!」(右手でガードし、蹴り足を軽く払った後、
        :掴もうとする)
 ようこ?   :(蹴りが当たると思った時、ひらりと空中で態勢を変え
        :られ、骸骨の背後の路面に着地する)
 骸骨     :「ちっ!」(振り返る)
 ようこ?   :「関わっている暇はない。せいぜい吠え面かいておれ!」
        :(逃げの一手)
        :(またふわりと宙へ飛んでそこらの塀の上へ跳ぼうとする

 はなから、相手の目的は別にあった。
 しかし骸骨は。

 骸骨     :(口を開け、灰色がかった紫の霧のような何かを吐き出す。
        :霧のような何かは、ようこの身体に纏わり付こうとする)
 ようこ?   :「なっ!?」

 霧に絡め取られた瞬間、重さがかかったように、ようこの身体ががくんと
引きずり下ろされる。

 ようこ?   :「な、何だこれは!?」
 骸骨     :「さぁ、終わりだ」

 パチンと指を鳴らすと、絡みついた紫の霧が燃え上がった。

 SE      :ぎゃああああ!

 響き渡る断末魔の声。
 ようこの身体からぶすぶすと黒い煙が湧き出すように見え、その都度、紫の
霧と相克して蒸発していく。

 ようこ    :「……」(糸が切れたように気を失う)
 骸骨     :「おっと」

 骸骨がようこを抱き留めると、怪異を焼き尽くした紫の霧も、程なくして
散っていく。


少女とヒーロー
--------------

 骸骨     :「怪我は無いな。……気をうしなっているだけだな。
        :良かった」

 そして、支えるものがなくなってぐったりと骸骨の腕の中に沈んだようこの
もとに。

 恵那     :「……ようこちゃん?」
        :(おそるおそる近づいてくる)
 骸骨     :「大丈夫だ。すぐに目を覚ます筈だよ」
 恵那     :「……よかった……」

 見た目バケモノでありながら、骸骨の声は再び、普通のそこらのお兄さんの
ような優しい声音になっていた。

 骸骨     :「君はもう大丈夫なのかい?」
 恵那     :(へなへな)「よかったぁ……」
 骸骨     :「あ、おい!?」

 ぺたんと座り込んでぽろぽろ泣き出す恵那。

 恵那     :「ようこちゃんが……ようこちゃんが」

 とても怖い顔をされて。
 あのままようこがどうにかなってしまったら、どうしようかと思って。
 いなくなったら。おかしくなったら。死んじゃったら。
 ……もし、あやつられるままのことを、してしまったら。

 大事な友達なのに。

 骸骨     :「大丈夫。あれはようこちゃんじゃないよ」
 恵那     :「……うん」(しゃくりあげながら)

 骸骨の白骨姿が、人間の男へと姿を変えた。

 骸骨→木田  :「悪さしてた奴はもう居なくなったからね。それにようこ
        :ちゃん、だっけ? この子も怪我は無いし、大丈夫だよ」
 恵那     :(見上げる。ふと、そこにいるのが骸骨でないことに驚く)
 木田     :「どうしたの?」
 恵那     :「……骨、ライダー?」(なの? と)
 木田     :「そうだよ。君が呼んでくれたから来たんだ」
 恵那     :「……」(口を大きく開けて、改めて、そうなのか、と)
 木田     :「さぁ、帰ろうか。家まで送ってくよ。
        :この近くなんだろう?」
 恵那     :「うん」(立ち上がる)
 恵那     :(ようこを覗き込む)
 ようこ    :(気を失っているとは言え、寝てるかのように穏やか)
 恵那     :(ほっ、と胸をなで下ろす)
 木田     :「ようこちゃんの家はどっちかな?」
 恵那     :「先にこっち。ランドセル忘れちゃう」
 木田     :「あ、ゴメンゴメン」

 途中で落とした帽子を拾ったりしながら、階段坂に残したランドセルの
ところに戻る。

 木田     :「随分ハデに暴れたんだなぁ。……あ、家の人に話すとき
        :にさ、俺は学童保育の人ってことで言うから、ちょっと話
        :合わせてくれるかい?」
 恵那     :「うん」>学童保育の人
 ようこ    :「……ん……」
        :(木田の背中に負われながら、そろそろ起きる様子)
 木田     :「起きたかな?」

 丁度ランドセルを回収した頃合いで、ようこが目覚めた。

 ようこ    :「……え? あれ?」(ぱちくり)
 木田     :「これで全部かな?……あ、起きたかい?」
 ようこ    :「え、あの」(おぶわれながら、引く)
 恵那     :「大丈夫、ようこちゃん?」
 ようこ    :「……恵那ちゃん?」(びっくり)
 木田     :「大丈夫かい?急に倒れちゃったからびっくりしたけど、
        :立ちくらみかな?」
 恵那     :「ランドセルあたしが持ってるから……お家まで送って
        :もらおう?」
 木田     :「お家まで送ってくから、今日は夜更かししないで早く
        :寝るんだよ」
 ようこ    :「あ……はい」

 何か腑に落ちないが、身体の節々も痛いし、恵那も言ってるし、何か調子が
悪いのは本当なんだろう……と納得してしまうようこ。
 もっとも、木田の近くにあまり一般人が長居するのはよくない。

 SE      :ぴんぽーん

 木田     :「ごめんくださーい」

 インターホン :『はい』

 恵那     :「あの……一条恵那です」
 木田     :「こんばんはー。ハマッコふれあいスクールの木田と申し
        :ます。お世話になりますー」

 インターホン :『恵那ちゃん? ……あ、はい、少々お待ちください』

 ようこの母親が出てくる。

 ようこ母   :「ようこ!?」

 木田に下ろされたようこの様子に驚く母親だが、口裏を合わせる木田と恵那。

 木田     :「大丈夫、保健の先生の話だとちょっと疲れて立ちくらみ
        :起こしただけだそうですから」
        :「今日は早めに休ませてあげてくださいね」
 ようこ母   :「そうですかー、わざわざすみません。お父さんのが
        :うつったのかしら? 大事にしないとね」
 木田     :「あら、お父さんも風邪か何かですか?」
 ようこ    :「そうだ、お父さんはどう?」
 木田     :(……さっきの悪霊の仲間がいるのか?)

 だがそれもどうやら杞憂だった。

 ようこ母   :「うん、午後からすっかり元気になったみたい。
        :よかったわ」(よかったよかった、と
 木田     :「いやー、それなら何よりですよ。とにかく、ぶり返すか
        :もしれないから、今日は皆でゆっくり休んでくださいね」
        :「それじゃ、これで失礼します。ようこちゃん、またねー」
 木田     :「(……また何かあったら呼んで貰えばいいか)」
 恵那     :「じゃ、また明日ね、ようこちゃん」
 ようこ    :「うん、ばいばい」
 ようこ母   :「ありがとうございました」
 木田     :「いえいえー。それじゃ、お休みなさーい。お大事にね」
        :(にこにこ)

 実のところ、ようこの父親は某ゼネコンの現場責任者で、昨日古い洋館を
取り壊してきたところであった。棲みかを奪われたことを恨んで父親に憑いた
悪霊が、さらにようこの身体を奪って父親を殺そうとしたというわけである。

 木田     :「さてと、次は恵那ちゃんの家だね。どっちかな?」
 恵那     :(手を振りながら、木田と一緒に元来た道を)

 恵那     :「……よかった……」(歩きながら)

 闇夜でもはっきりと見える木田には、平静を装い夜道の暗さに隠している
恵那の、目元に残る涙の跡が見えていた。
 しかし、それについては触れないでおく。

 木田     :「恵那ちゃんが知らせてくれるのが間に合ってよかったよ」
 恵那     :「……骨ライダー」
 木田     :「うん?」
 恵那     :「骨ライダーは、やっぱり人間じゃないの?」
        :(歩きながら、見上げて)
 木田     :「んー……人間『だった』のかな?」

 ちょっと困った顔になる木田。

 恵那     :「……そういうこと……か……」

 ふーん、と。

 木田     :「ん?」
 恵那     :「……思ってたより、優しいから」

 かすかに、はにかむような笑みを浮かべる恵那。

 木田     :「どんな噂を聞いてたのかなー。……あ、俺の名前、木田
        :修二って言うんだ。さすがに他の人がいる前で骨ライダー
        :ってのはね(苦笑)」
 恵那     :「きだしゅうじ……きだ、さん」
 木田     :「まぁ、また何かあったら呼んでよ。すぐに行くからさ」
 恵那     :「ありがとう」
 木田     :「ところで、恵那ちゃんって苗字は一条って言うのかい?」
 恵那     :「うん」

 木田     :(そういえば、何かどっかで見たことある顔な気がする
        :な……)
 木田     :(一条、何か引っかかるけど思い出せない。うーん)

 で、そうこうするうちに。

 恵那     :「あ、このマンション」
 木田     :「……ん?」

 不思議そうな顔で見上げる木田。

 恵那     :「送ってくれてありがとう、ほ……きださん」
 木田     :「あ、うん」
 木田     :「それじゃ、お疲れ様。色々大変だったね」
 恵那     :「うん。ありがとう。ほ……きださん」
 恵那     :「……」

 家に帰り着いたことを実感した時、恵那は、起こった諸々のことがフラッ
シュバックして泣きそうになった。

 木田     :「どうした? 大丈夫かい?」
 恵那     :(うつむき、木田の手を取って、ぎゅ、と)
        :「……ありがとう」

 もし。

 恵那     :「ありがとう、骨ライダー」

 もしも、あなたが来なかったら。
 自分は……ようこは。

 木田     :「呼んでくれたら、いつでも行くからね。……お日様が
        :出てない時なら」

 恵那には、血の通わぬ木田の冷たい手すら、骨ライダーがここにいることの
証明と感じられた。

 恵那     :(こくん)

 木田     :「あと、俺の体は生きてる人には良くない物が出てるから、
        :あんまり触ってると気分悪くなっちゃうよ」
 恵那     :「……大丈夫、あたしも頑丈だから……」
 恵那     :(顔を上げて)「それじゃ、おやすみなさい」(にこ)
 木田     :「うん、お休み」

 手を振りながら、オートロックの向こうに姿を消す恵那。

 木田     :「……さてと、俺も帰るか」


そして明くる朝
--------------

 澪      :「顔洗ったー?」
 恵那     :「うん」
 澪      :「じゃ食べよっか」
 恵那     :「いただきますっ」

 一条家の朝食風景。

 澪      :「……ねえ、恵那」
 恵那     :「何?」
 澪      :「ホネライダー、って何?」
 恵那     :(けふっ)
 恵那     :「……どうして」(まだ詰まりかけの胸を撫でながら)
 澪      :「寝言で言ってたのよー。うなされてたみたい」
 恵那     :「……オバケ……」
 澪      :「おばけ?」
 恵那     :「あかりちゃんが言ってたの。うわさなんだって」
 澪      :「へえー。そっか、それで怖かったんだねー」
 恵那     :(うなずきはせず、澪の反応を見る)
 澪      :「恵那ったらねー。泣きながらお母さんの手を、きゅっ、
        :て握ったんだよー。それだけでお母さん今日一日がんばれ
        :ちゃうなー♪」(きゃー)
 恵那     :(真っ赤に)
 恵那     :「……ごちそうさま」
 澪      :「よく食べました。気をつけて行ってらっしゃい。今日は
        :(帰りは)おばあちゃんのところだからね?」
 恵那     :「はーい」

 SE      :ピンポーン

 澪      :「あ、ようこちゃんじゃない?」
 恵那     :「……行ってきますっ」(たたた)
 澪      :「いってらっしゃーい」

 そして、マンション1階

 SE      :ういーん
        :(オートロックの自動ドアが開いて恵那が駆け出してくる)

 恵那     :「おはよう、ようこちゃん!」
 ようこ    :「おはよう、恵那ちゃん」(にこ)
 恵那     :「……」(ようこの許まで来て、まじまじと見つめて)
 恵那     :「(いつもの)ようこちゃんだあ」(ほわあ)
 ようこ    :「……え? 何何?」
 恵那     :「ううん……安心したの」
 ようこ    :「何それ」(くす)
 恵那     :「ようこちゃん、身体はもう大丈夫なの?」(歩き出す)
 ようこ    :「うん、夜はちょっとだるかったけど、もう大丈夫」

 二人で、そして友達と、いろんなことを話しながら。
 いつものように登校していく。

 そして再び、日常が訪れる。


時系列
------
 2011年1月中下旬。


解説
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 骨ライダーこと木田修二と、一条恵那の、第一次遭遇。


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 では。

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