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Date: Thu, 15 Jul 2010 17:52:42 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 32383] [HA06P] エピソード『転帰』
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From:うたこ
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エピソード『転帰』
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登場キャラクター
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無戸室近衛
:『クリエイター』
影蜥蜴
:創造物。
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2010年07月14日
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本文
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まずは、駅のトイレで着替える。
ワックスで髪形を変え、眼鏡をコンタクトに、普段着をスーツに、やや目立
つ赤黒いワイシャツは普段のオタクファッションとはかけ離れ、柔らかい人相
を変えるために常に、少しだけ顎と眉に力をこめる。袖口に香水を強めにつけ
て全身に香りを回す。高級ブランドの革靴と時計をして準備は整った。
それが無戸室近衛の本当の仕事着。
普段着とPCは電源を落とし鞄に積めてコインロッカーにしまう。
小さな電子端末機をポケットに忍ばせてから近衛は駅から離れた。
目的地は駅から数キロ離れた街外れ。
人通りが少なく、しかし決して絶えず。なるべく決まった人物が通らない場
所。そんな土地は前々から探していたがその内、一つのルートにたどり着く。
近衛 :「ラビ。」
名前を呼ぶと近衛の肩の上にベージュ色の毛玉のようなものが現れ、翼を生
やして飛ぶ。姿は周囲に溶け込みすぐに見えなくなった。
無戸室近衛はゆっくりと通りを進む。
周りに人の姿はない。上空からの反応もないため、姿を隠している者の姿も
確認されないようだった。
外れたか、と呟いて端末機を軽く振ると足元に、1mほどの黒く長いものが
蠢く。
近衛 :「見つけたら情報をラビに伝えろ。
:攻撃は禁止する。逃走しろ。」
姿がはっきりと現れると、黒い物は視線を近衛に向ける。
それは鼻先から尻尾の先まで一本の筋を通るように眼が並んだ黒く半透明な
蜥蜴だった。
影蜥蜴 :「…リョウカイ」
蜥蜴はぎょろりと眼が動かして肯定を示し、静かに暗闇に姿を消す。
近衛 :「…………」
少しだけ迷う様に周囲を見ると―――暗闇から声がした。
影蜥蜴 :「…ヨロシイノデスカ?」
近衛 :「あぁ…」
無戸室近衛は時間を置いてゆっくりと夜空を見上げた。
だが、夜空は曇天のようで月も星も見えなかった――
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影蜥蜴は考える。
影蜥蜴 :(フタリガ、ソバニイナイ…)
二人とは外の世界の方が気に入っている人間型の創造物。
香具山門音と四皇子ヶ峰横臥。
普段はいつものその二人のどちらかが主の傍について護衛を果たす。
最近はそうでもないらしいが、一番目の香具山門音が決めた事らしい。
その二人の姿が無いという事は、外に出したままどこかに置いてきたという
事なのだろうと思う。
影蜥蜴 :(アルジハナニヲオカンガエカ…)
影蜥蜴は考える。
主が求めているものを与える。
生命を与えられたからには創造主の意向に沿うのは本能の様なものだった。
影蜥蜴は考えることが苦手だった。
妖怪をモチーフに作られたため中途半端な思考ができる。だが人型ではない
せいか喋る事がやや困難だった。それは思考に影響を及ぼし、素直で率直な己
を作り上げる要素になっているという事は理解している。だがそこまでだ。
生来の性格なのだろうと思う、考えることが苦手なのだ。
だが、考えなくても解ることはある。
この世界が住み辛いという事を―――自分を含め、ほとんどの固体には外出
の権限が与えられているが、皆外に出ない。
それは世界に居づらいからだった。
香具山門音や四皇子ヶ峰横臥を羨ましく感じる事もあったが、それまでだ。
人の好みはそれぞれと言う。それで良かった。
己は住み易く、居心地の良いPCの中にいるのが一番良いと感じている。
そう考え、静かに走り出した。
素早く任務を終えるために、影蜥蜴は影となり、疾走する。
人の眼は避けるように移動しているつもりだが如何せん、白い壁などに映る
己の姿を見た人間が悲鳴を上げるような事もあった。
それも任務の一つ。人に少し姿を見せては消える。適度に驚かせて怪談を作
るのが目的。そうすれば向こうから姿を現すだろうと踏んでの事だった。
後は主が定めたルートを巡回し、それらしい物を見つけて報告する。
それだけの任務―――。
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この日を境に町で大きな蜥蜴が現れる、たくさんの眼がこっちを見てくると
いった噂が経つようになった。それは小さな噂。小さな始まり。
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