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Date: Sat, 5 Jun 2010 06:10:22 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 32375] [HA06P]エピソード『贈り物』
To: kataribe-ml@trpg.net
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Web: http://kataribe.com/HA/06/P/
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From:うたこ
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エピソード『贈り物』
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登場キャラクター
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無戸室近衛(うつむろ・このえ)
:201号室の住人。割と初心なやつ。
新間紗枝(あらま・さえ)
:101号室の大家。初心な少年を弄るのが好きなやつ。
??
:102号室の怪しい人。ビールよりワイン派。
門音(かどね)
:101号室の忍者。
時系列:五月中旬。エピソード『転居』の翌日。
本文
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201号室―――
布団と鞄、そして数着の衣類だけで家具のないシンプルな部屋に少年は座っ
ていた。
開いたノートパソコンに視線を落として、うむむ、と低く唸る。
近衛 :「…引越し祝い。」
そんなものは生まれてこの方、選んだこともないし貰った事もないし上げた
ことも無い。
近衛 :「タオル…?蕎麦…?」
思いつくキーワードを並べながら更に頭を捻り、パソコン上のメモ帳に箇条
書きしていく。
近衛 :「いらない物貰ったって…まぁ、いらねぇわな。」
誕生日のプレゼントを選んでいるような気分になりながら、浅くため息をつ
いた。
前回の引越しのことを思い出す。
仕事が決まり始めての就職と一人暮らし。
そして退職。
近衛 :「あ。考えてみりゃぁ、寮みたいなもんだったし…引越し
:祝いなんて配ってねぇか」
寮でも必要だったかねぇ、と呟いてPCのメモ帳を閉じる。
近衛 :「貰うとしたら、やっぱり欲しいもんが良いよな。」
こういう時の決まり物を上げれば良いのだろうが、面白くなさそうだ、とそ
の思考を切り捨てて近衛は出かける準備をした。
101号室前―――
紗枝 :「はーい」
柔らかな声が部屋の中から聞こえる。
がちゃりと扉を開けて出てきた紗枝は
近衛 :「あ、と。ちょっと聞きたい事があって…」
ぽりぽりと頬を掻いて、何か気まずい感じをごまかした。
近衛 :(…気まずい?)
紗枝 :「どうぞ、お上がりください。
:良いお茶があるんですよ。」
和やかな笑顔に誘われるままに部屋に上がる。
近衛 :(何だろう変な汗かいてきた……あぁ)
悲しいかな。
無戸室近衛は気づいた。
近衛 :「女の人の家に上がるのって初めてか…」
紗枝 :「?。何か言いました?」
近衛 :「何でもねぇさな。」
何やら恥ずかしいような、そんなに気にもなったが頭を振って苦笑いした。
紗枝 :「変な人ですね。」
くすくすと紗枝は笑って、お茶の準備を始める。
近衛は卓袱台の前に座って落ち着かない様子で紗枝を待った。
近衛 :「……」
また、違和感を感じて壁のほうを向いた。
近衛 :「……?」
やはり、何も…ない。
ただの壁。それだけ。壁の染みが顔に見える何てことも無い。
紗枝 :「どうかしました?汚れてます?」
卓袱台にお茶を置いた紗枝は近衛の見ていた壁に寄って、さわさわと触って
いる。紗枝は汚れていないか入念に調べると近衛にお茶を出して近衛と対面す
るように座った。
近衛 :「いや…なにも…ねぇかな。」
首を傾げながら、近衛は出されるお茶を飲んだ。
紗枝 :「それで?聞きたい事って何なんですか?」
近衛 :「あぁ…新間さんは、えっと…」
少し迷うように視線を泳がせる。
近衛 :「違った。新間さんにプレゼントしてぇもんがあるんだけ
:ど、何か欲しいもんとかある?」
紗枝 :「ぷれ、ぜんと…ですか?」
何を言われた解らない、と言った顔で紗枝はきょとんとする。
紗枝 :「えっと、何で私に贈り物を?」
近衛 :「え、あぁ…これからさ。
:色々とお世話になるかもしれねぇし…その…」
んん?と何かに気づいたように紗枝は首を傾げると、にんまりと笑った。
紗枝 :「気を使わなくて良いですよぉ〜」
近衛 :「別に気とか使ってないってぇの!!」
顔を真っ赤にして否定する近衛。それを見てにやにやする紗枝。
近衛 :「………で、何か希望とかあるのかよ?」
紗枝 :「そうですね。
:強いて言うなら、新しい湯のみが欲しいですね。」
口元に手を当てて、ほほほと笑いながら注文する。
近衛 :「……ちっ」
照れを隠すように舌打ちしてお茶を飲み干して立ち上がる。
近衛 :「ありがとうございます。」
紗枝 :「いいえ。」
和やかな笑顔で送り出す紗枝。
102号室―――
?? :「……私のところに湯のみとか持って来られても、私お茶
:飲まないんだけどなぁ…」
隣人は生ビールを飲みながら、壁に向かって一人呟いた。
そして、そのまま視線を斜め上に向ける。
?? :「あの新人さんもなかなか楽しそう…いや、面白そう?」
くふふふ、と笑ってもう一口生ビールを飲んだ。
201号室前―――
近衛 :「湯のみかぁ。名前入れたりとかした方が良いのかな…」
うんうん、と構想を決めながら部屋に入るために鍵を出す。
近衛 :「ん……?」
違和感―――扉の向こうが見えるような妙な違和感。
ノブを回す。開いていた。
眼が合う。相手は丸眼鏡のサングラスをしているが、その奥の瞳ははっきり
とわかる。
近衛 :「門音…」
門音 :「おかー」
床に寝転がりながら門音と呼ばれた女性は生返事をした。
門音を呼んだ近衛は心底面倒くさそうな顔をして頭を掻くと―――
近衛 :「あぁ、ただいま」
無戸室近衛は少し照れくさそうに言った。
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