[KATARIBE 32368] [HA06P] エピソード『変わらない想いを求めて』

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Date: Tue,  4 May 2010 22:13:19 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 32368] [HA06P] エピソード『変わらない想いを求めて』
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2010年05月04日:22時13分19秒
Sub:[HA06P]エピソード『変わらない想いを求めて』:
From:久志


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エピソード『変わらない想いを求めて』
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登場キャラクター
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 富田靖(とみた・やすし)
     :ひまわりの家で保護されている少年。右足が悪い。
 白雲(はくうん)
     :霊犬。白犬とも呼ばれている。デカイ。
 月影宗谷(つきかげ・そうや)
     :宇宙刑事な人。とてもそうは見えないけど男の人。

龍神池
------

 吹利、明神市平河町。

 やすし    :「…………」 

 自転車を押しながら歩いていたやすしが足を止める。
 その先には『この先立ち入り禁止』とかかれた札が立ち、その向こうには葦
が生い茂る遊水地が広がっている。

 やすし    :「…………」 

 かつてそこにあったはずの竜神再臨の為に作られた祠はなく、遊水地の更に
奥にある龍神池は一般人は立ち入り禁止になっている。
 遊水地の周囲には金網が張り巡らされ、片隅にある入り口には厳重に幾重も
針金が巻かれており、金網のフェンスの上には乗り越えないように鉄条網に覆
われている。

 やすし    :「……きよし……」 

 きゅ、と。金網に手を触れる。
 隔てられてしまった向こう側、今は遠くなってしまった池を見つめる。

 早瀬ノ喜由川。
 吹利の地を護る龍神として、かつての友人だったきよしは還ってきた。
 けれど。
 隔てられた向こう側、きよりはもはや人ではない人を超えた龍神として手の
届かない存在であること。
 ほんの目と鼻の先にいる、それなのに、届かない。

 やすし    :「きよし……たけし……みんな、変わっちゃう……
        :多菜ちゃんも、いくよちゃん、くるよちゃんも……」

 きゅっと冷たい金網を握り締める。

 龍神として河に還ったきよし。
 山のヌシとして吹利山に行ってしまったたけし。

 そして春になれば、やすし自身も一人で中学に通わなければならない。
 ひまわりの子供達が自立できることを示すために。

 やすし    :「……みんな、変わっちゃう……不安で……たまらない」

 同じ時間を過ごしてきた仲間達が、大切な居場所であるひまわりが変わって
いく。そして自分自身も、変わらなければならない。
 目まぐるしく変わっていく、何もかもが。追い立てられるように。

 やすし    :「…………」 

 膝からくずおれるようにその場にしゃがみこむ。
 冷たい風が吹きつけ熱を奪っていく。
 練習のおかげで大分自転車に慣れてきたとはいえ、一人で吹利市から少し離
れた明神市までの移動ですっかり疲れきってしまっていた。

 やすし    :「…………さむい」 

 手を擦り合わせる、が。すっかり冷え切ってしまった手は暖かくならない。
 しゃがみこんだ小柄な体に容赦なく風が吹き付ける。
 助けを求めようにもあたりに人の影もなく、移動しようにも疲れきった体は
動いてくれない。

 やすし    :「……」

 このまま誰もこなかったらどうなってしまうのだろう。

 がさり、と。
 枯れ草の揺れる音が響く。

 やすし    :「……あ」

 びくりと体を震わせて顔を上げる。
 視界一杯に広がる白い毛並。

 白犬     :「……おふん」
 やすし    :「…………いぬ」

 やすしよりふたまわり以上大きな白い犬、鼻を鳴らして黒い目がやすしを見
下ろしている。

 やすし    :「…………よしよし」 

 おっかなびっくり手を出す。
 伸ばされた手の匂いをかいで、様子を伺うように歩を進める。

 白犬     :(どうしたんだろうね、こんなところで会うとは)

 草を踏みしめる乾いた音を立てて、傍らまで近づくと大きな顔を寄せる。

 やすし    :「……おいで」

 犬が近づいてくるより先に、白い毛並に埋もれるようにしがみついた。
 頬をくすぐる毛、触れた先がほこほこと暖かい。

 白犬     :(……冷たいね)
 やすし    :「…………」

 両手を白犬の首に回してぎゅっとへばりつく、柔らかくて暖かい。
 突然しがみついてきたやすしに驚くことなく、白犬は労わるように顔を押し
付けてやすしの頭に顔をすり寄せる。

 やすし    :「……あったかい」 

 じわじわと、体が暖まってくる。
 冷たい風に吹かれていたさっきまでの寂しさと、悲しさを溶かすように。
 同時に鼻の奥からつんと突き上げるように滲んでくる涙。

 周りがどんどん変わっていくことの不安。
 自分が変わらなければいけないことの怖さ。
 そして頑張らなければいけないという重荷。

 やすし    :「……うぅ」

 零れた涙が毛並に吸い込まれていく。

 やすし    :「……みんな、変わっちゃう……ひまわりのみんなも……
        :バラバラになっちゃう……」 
 白犬     :(何か不安でもあったかね?)

 急に泣き出したやすしに軽い驚きを感じながらも、しがみついたままのやす
しを見守るように頭に鼻先を寄せる。
 そして、ふと思い出す。

 白犬     :(……そうか。そうかい)

 やすしをはじめとしたたくさんの子供達。一緒になってはしゃいでいた子ら
を思い出して。そしてその数名は今は彼らと居ないことことも。

 やすし    :「…………きよし……たけし」 

 ぎゅっと白犬の首にくっついたまま、後ろを振り返る。
 金網の向こう、遊水池のほうを見る。

 白犬     :「ふすん(そう言えばここも変わったね)」

 池の方をじっと見つめる。
 どこかで憶えのある気配、やすしらと一緒にいた子ととても近い、だが少し
違う気配を感じる。

 白犬     :「……」
 やすし    :「……きよし……還ってきたの……でも、ひまわりにいた
        :きよしじゃなくて……」 

 誰に聞かせるでもなく、つぶやくように。

 やすし    :「……たけしも……ずっと遠く……山の向こう……」 
 白犬     :(そうか……なるほど)

 憶えのある気配。だがそれは今は人ではなく、神域として尊重すべき霊験で
あることを理解し、同時にきよしとたけし、二人ともが人外としてあるべき所
に戻っていったこともうっすらと悟った。

 白犬     :(……さて、どうするかね)

 ひくひくと鼻を鳴らしてやすしの様子を見つつ。
 毛皮で暖まってきているとはいえ、体力もすっかり消耗して疲れきった状態
のまま置いていくことは出来ない。

 宗谷     :(るんたるんた)

 丁度その時。

 宗谷     :「うぃ?」

 足を止めると、枯れ草の先に大きな白い犬。
 そして犬によりかかったままぐったりした少年と傍らに止められた自転車。

 宗谷     :「あれ、白雲さんだ。久しぶりー」 
 やすし    :「…………ん」>うっすら目をあけて
 白犬     :「……ふすん(おや、どこであったか、確かに覚えのある
        :匂いだが)」

 ふわふわもこもこのコート姿でひょこひょこと近づいてくる。

 白犬     :「おんっ(ちょうど良い、この子を何とかする手配をして
        :もらおう)」 
 宗谷     :「その子? どうかしたの?」 
 やすし    :「…………あ」

 見あげると長い髪をポニーテールにした女の人?が見下ろしている。

 やすし    :「……こんにちは……」

 もぞもぞと白犬に隠れるように挨拶。

 宗谷     :「こんにちは」(にこっ) 
 白犬     :「おふん」

 じっと宗谷の目見て、人の言葉ではないニュアンスで、この疲れきってしま
った少年を連れて行きたいと告げる。

 宗谷     :「なるほど」 
 やすし    :「…………?」 

 当人同士で会話が成立しているようだが、やすしには白犬が鼻をふすふすと
鳴らしているようにしか見えない。

 白犬     :「(運ぶなら、背中に乗せていってもいいんだが、人間と
        :連絡がつけられないのでね)」 
 宗谷     :(やすしにコートを着せる) 
 やすし    :「え……?あの」

 ふわりと体が暖かくなるが、わけがわからず目を瞬かせる。
 お構い無しにつけてた手袋をはずして、ひょいとやすしにはめさせる。

 宗谷     :「はい、手袋。事情はよくわからないけど、まずはあった
        :まろう。寒い所で縮こまってても、いいことはないよ」
 やすし    :「……はい……」
 宗谷     :「大丈夫?」

 頷くやすしににこりと笑って見せる。

 やすし    :「……えと、ありがとうございます……お姉さん」
 宗谷     :(ぱちくり)

 お姉さんという言葉に一瞬おどろいたような顔をして。

 宗谷     :「あっはっは、やだなあもう。お姉さんじゃなくて、お兄
        :さんだよぼく」 
 やすし    :「……………………え?」 
 白犬     :「(……おにいさんだったねえそういえば)」 
 やすし    :「……おにいさん……?」 
 宗谷     :「どこからどう見てもお兄さんでしょう」

 長い髪を揺らして笑う姿は、一瞬どうみてもお姉さんにしか見えなかったが。

 やすし    :「………………ええと」 
 宗谷     :「はい、しょうが湯。あったまるよ」 
 やすし    :「あ……ありがとうございます……」 

 お姉さんのようだけどお兄さん?と混乱しつつも、ぺこりと頭を下げてしょ
うが湯を受け取る。

 やすし    :「えと……僕、富田靖、です……お……にいさんは」
 宗谷     :「ぼくは月影宗谷」
 やすし    :「月影さん……」
 宗谷     :「やすしくんだね。それで、きみはどうしてあんな風に凍
        :えてたの?」 
 やすし    :「……月影さん……あの、ありがとうございます……ちょ
        :っと遠出したら……寒くて動けなくなっちゃって……」 

 早瀬ノ喜由川、きよしに会いたいと思って遠出したものの、疲れきって動け
なくなってしまったこと。

 やすし    :「自転車の……練習してて……遠くに、きすぎちゃって
        :……体、動かなくなっちゃって」 
 宗谷     :「それで、白雲さんに保護されたのか」
 やすし    :「…………はい」 

 お世辞にも運動が出来そうに見えない細い体、顔も疲れと冷えのせいで青ざ
めている。

 白犬     :(ひととおり会話のニュアンスを理解しながら、とてとて
        :と歩き続ける)
 宗谷     :「そうまでして、会いたいお友達なの?」 
 やすし    :「……はい……大事なお友達で……前は一緒だったけど、
        :離れ離れになっちゃって。自転車、乗れるようになって、
        :会いに行ってみようと思ったら」
 宗谷     :「思ったより遠かったんだね」(うんうん)
 やすし    :「……はい……」 
 宗谷     :「よし、それじゃあぼくがその友達の所まで連れて行って
        :あげるよ」 
 白犬     :「(……そのお友達は、あそこが住まいらしいね)」
        :(宗谷くんに、補足としてぼそっと) 

 顔を上げて、金網の向こうの池を見る。

 宗谷     :「なんだ、じゃあもうちょっとじゃないか」 
 白犬     :「(だがあのまま凍えさせるわけにもね)」(とてとて)
 やすし    :「……友達に、会いたかったのも……そう、だけど」
 宗谷     :「うん」
 やすし    :「……色々、不安……だったんです」
 宗谷     :「色々?」
 やすし    :「自分のこととか……ひまわり、僕が保護されてる施設の、
        :お友達……とか」
 宗谷     :「施設……」
 やすし    :「……僕……学校、いったことないんです……普通の、家
        :じゃなくて……それで」

 ぽつぽつ、と。
 初めてあった人なのに、零れるように溜まっていた言葉が溢れてくる。

 やすし    :「ひまわりに保護されて、その時の仲間が明神のきよし、
        :吹利山のたけし……多菜ちゃん、いくよちゃんにくるよ
        :ちゃん……みんな」
 宗谷     :「ふむ」 
 やすし    :「……でも、変わっていくんです……きよしは池に還って、
        :たけしは……山に、みんな……変わってく」
 宗谷     :(池の方を見た)

 そこに『居る』気配。何かを察したように口をつぐむ。

 やすし    :「僕も……春から、中学に入って……社会復帰、しないと
        :いけないって」
 白犬     :(複雑、なんだねえ)
 やすし    :「……でも、変わるのが……少し、怖い」 
 宗谷     :「やすしくんは、変わらないものを探して友達に会いに来
        :たんだね」
 やすし    :「…………はい」

 変わらないもの。
 何もかもが変わっていく中で、変わらないものは確かにあって。
 それを確かめたかった。

 一緒にひまわりで同じ時間を過ごした仲間達を、その絆を。

 やすし    :「みんな、ずっと友達だって……約束して……だから、
        :きよしに会いたかった」

 それを確かめたかった。
 決して変わらないものがあるから、変わっていくことは怖くないことを納得
したかった。

 宗谷     :「あのね、やすしくん。ぼくは、やすしくんは今日はきよ
        :しくんに会わない方がいいと思う」 
 やすし    :「……え?」 
 宗谷     :「変わらないものは、あるよ、確かに。培った友情はずっ
        :と変わらない。でもね、友達は、人間はどんどん変わって
        :行くんだよ」 
 やすし    :「…………はい」 
 宗谷     :「きよしくんは、池に還って……昔の時分から変わって、
        :今は立派に頑張ってるんだよね」 
 やすし    :「はい……今のきよしは……きよしだけど……少し、違う」

 変わってしまったきよし。

 やすし    :「…………僕も、変わるのかな」 
 宗谷     :「変わらない人間なんていないよ」 
 やすし    :「………………」

 誰も彼も変わっていく。

 やすし    :「……変わりたいって思う、のに……変わるのが怖いって
        :……どこかで思ってるんです」 
 宗谷     :「うん」
 やすし    :「ずっと不安で……でも、変わらなきゃって……だから、
        :思い立って」
 宗谷     :「変わらないものを見つけたら、安心して前に踏み出せる?」
 やすし    :「ずっと大切な友達で……仲間だって、その気持ちだけは
        :変わらないって」

 自分の中の気持ちをもう一度確かめるために、延々と自転車で遠出してきて。

 やすし    :「きよしも……たけしも……ずっと気持ちは変わってな
        :かったのに、僕が……一人で不安になってただけで」 
 宗谷     :「なるほど」 

 やすしを後ろにのせた自転車を押しながら。

 宗谷     :「みんなが先に行っちゃったんだもん。不安になるのは
        :仕方のないことだよ」 
 やすし    :「…………はい。でも、僕も進まなきゃいけないから」 
 白犬     :「(……晴れた日に楽な乗り物でみんなで会いに来れば
        :いいだろうにねえ)」
 宗谷     :(苦笑) 
 やすし    :「……おにいさん……ありがとう、白犬さんも……」
 宗谷     :「どうする? 友達に会って行く?」 
 白犬     :(見上げて、ちょっとだけ足を止める 
 やすし    :「……今日は……やめておきます。もうちょっと、
        :がんばって……自信つけたら、会いに行きます」 
 宗谷     :「そう……」 

 小さく笑って、よいせと自転車を押して。

 宗谷     :「それじゃあ、おうちまで送るよ。疲れてるでしょ」 
 白犬     :(様子を見て、改めて歩き出す 
 やすし    :「……はい、すみません……」 

 ぺこりと頭を下げて、一度だけ振り向いた。
 遠ざかってく遊水池。

 やすし    :「また、来るから。もっと……自信つけて、だから」

 それまで、待っていて。

時系列
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 2010年2月。遭難しかけるやすし。
解説
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 この辺のログから。
 http://kataribe.com/IRC/HA06/2010/02/20100205.html#000000
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