[KATARIBE 32364] [HA06P] エピソード『ある女の末路』

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Date: Mon,  3 May 2010 20:52:36 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 32364] [HA06P] エピソード『ある女の末路』
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2010年05月03日:20時52分35秒
Sub:[HA06P]エピソード『ある女の末路』:
From:久志


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エピソード『ある女の末路』
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登場キャラクター
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 山形かずこ(やまがた・-)
     :ひまわりの家の園長。市原の書化魔女の一人。
 どこぞの収容施設の職員。
 葉島火矢子(はじま・かやこ)
     :葉島多菜の母親、フューリーと呼ばれる発火能力者。

本文
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 ある施設にて
 飾り気のない一室、机を挟んで向かい合って座る二人。

 中年     :「……どうも、このたびは」 
 かずこ    :「いえ、親族でもないのにお話を聞いていただけて感謝
        :します」
 中年     :「面会されますか? 今は落ち着いているようですが」
 かずこ    :「……お願いします」 

 ぺこり、と頭を下げる。

 中年     :「こちらです」

 案内された先、完全密閉、強化防護壁、厳重なロックが掛かった分厚いドア。

 中年     :「直接の面会はできません、こちらから窓を」 
 かずこ    :「はい……」 

 閉ざされた病室の脇にあるドアを開けて、別室の壁を指差した。一面に広が
るマジックミラー、隣の病室の様子が見える。

 中年     :「最近は落ち着いていますが、ここ最近なにかと騒動を起
        :こしていましてね」 
 かずこ    :「…………」 

 病室にいたのは青ざめた顔の女。

 火矢子    :「…………」

 葉島火矢子。
 葉島多菜の実母であり、フューリーと呼ばれる発火能力者の一人。
 がちがちを歯を噛み合わせながらベッドの上でシーツを抱えて震えている。
長い髪が体を包むように伸び、落ち窪んだ目は虚ろで時折痙攣するように体を
震わせている。

 中年     :「我々の気配に気づいているかもしれませんね、これでも
        :落ち着いている方なんですが」 
 かずこ    :「…………」 
 中年     :「以前収容されていた施設でも……三回も小火騒ぎをおこ
        :して、うち一回は職員が背中に大火傷をおって皮膚移植す
        :る重傷を負ったんですよ」 
 かずこ    :「…………はい」

 頷きながら、その手はかすかに震えている。

 中年     :「こちらに移ってからも何度か発火を起こして、今は監視
        :を強化しているんですよ」 
 かずこ    :「……はい」

 じっと病室の火矢子の姿を見る。
 せわしなく髪をかきむしり、握り締めたシーツを噛み締め、ガタガタ震えな
がら宙を掴むように何度も手を握ったり開いたりしている。

 中年     :「申し上げにくい話なのですがね」 
 かずこ    :「……ええ」
 中年     :「正直、我々としても限界なんです」 

 これ以上、彼女を保護できない。
 元々は一般人であり、病んでしまったとはいえ人として保護される権利があ
ったとしても。彼女は異能者であり、これまでに何度も騒動を起こし周囲に危
険を招きかねない存在をこれ以上人として扱うのは限界であると。
 言葉に含まれた、意味を感じ取りながら。

 かずこ    :「…………はい」 
 中年     :「ご家族の方には確認は取りました、ご実家の両親も親族
        :も……了承を得ました」

 火矢子の親族にとって、むしろ彼女は厄介者であり、引き取ってもらうこと、
預かってもらうことを歓迎した。
 幼い頃から両親に疎まれ、親族らも顔を背け、ただ一人信じた夫に裏切られ、
愛した息子は殺され、全く同じ血を継いだ娘を疎み、人を傷つけ病みきった姿。
 彼女の人生はなんだったのだろう。

 かずこ    :「…………」
 中年     :「……彼女は」

 僅かにかずこを気遣うように葛藤しつつ。

 中年     :「別団体に引き渡されます……『サンプル』として」

 それは、死刑宣告と同等だった。人としてではなく、モノとして扱われる事。

 かずこ    :「…………はい」 
 中年     :「娘さんは?」 
 かずこ    :「多菜ちゃんは、私が引き取ります。話は全てとりつけて
        :あります」

 彼女の祖父母、火矢子の両親、そして父方の両親にとっても、多菜は歓迎さ
れない子だった。
 むしろ厄介な娘を引き取ってくれることに感謝されるほどに。

 中年     :「…………そうですか」 
 かずこ    :「彼女は、私が育てます。決して道を誤らないように、人
        :として生きるように」 

 決意を込めて、噛み締めるように。

 中年     :「わかりました……」 
 かずこ    :「はい」
 中年     :「なんですね、不謹慎でも……何の能力もない一般人に生
        :まれてよかったと思います」
 かずこ    :「そう、ですね……」

 異能を持って生まれることは必ずしもいいことだけではない。
 異能を持って生まれたが故に親から、周囲から疎まれて、挙句に心を病み、
暴走し、どうしようもない結末に至ることもある。

 中年     :「もう、よろしいですか?」 
 かずこ    :「はい」 

 病室の火矢子を見て、例え見えないとわかっていても深々と頭を下げて。

 中年     :「では」
 かずこ    :「はい……」

 背を向けて、去っていく。

 帰り道、振り向いて建物を見あげる。

 かずこ    「…………多菜ちゃん」

 もう多菜が二度と母親に会うことはなく、火矢子がこの後どうなってしまう
かは、かずこですら知ることは出来ない。
 きゅっと唇を噛んで踵を返す。
 あの子は、多菜だけは、なんとかしてあげなければ。
 母親と同じ、歪んだ道を歩ませないように、見守り、育てていかなければ。

 想いを噛み締めるように、ひまわりの家への道を急いだ。

時系列
------
 2010年1月。
解説
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 この辺のログから。異能があることはいいことだけではないのだ。
 http://kataribe.com/IRC/HA06-02/2010/01/20100124.html#000002
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