[KATARIBE 32363] [HA06N] 小説『許容範囲』

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Date: Mon,  3 May 2010 18:15:40 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 32363] [HA06N] 小説『許容範囲』
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2010年05月03日:18時15分40秒
Sub:[HA06N]小説『許容範囲』:
From:久志


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小説『許容範囲』
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登場キャラクター
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 山形かずこ(やまがた・-)
     :ひまわりの家の園長。市原の書化魔女の一人。
 校長先生、女教師、男教師:ゾノ中の方達。

本文
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 吹利園辺中学。
 校庭にはこの寒空の下で練習に励む運動部の子供達がトラックを走っている。
 校長室の固い革張りのソファに座り、向かいに座った恰幅のいい白髪の男と
向き合う。
「山形かずこです、この度は」
「ええ、はい、山形さん。教育委員会のほうでも色々お話は」
 忙しなく眼鏡のフレームをいじりながら、時折脇のソファに座っている教師
らしい男女を見ながら頷いた。
「この子達の新年度からの入学についてですが」
 かずこが口を開いてすぐ、脇に座っていた女性が口を開いた。
「……正直、受け入れ態勢に問題があると思うんです」
 凛とした意思のある声。その言葉の裏には、明確な拒否の意志がひしひしと
感じられる。
 女性教師とかずこを交互にみつつ、困りきった様子で校長が言葉を続ける。
「この男子生徒については、こちらとしましても……きちんとお預かりするつ
もりではありますが……」
「重々承知しています、ですが」
 男子生徒、やすしの入学については学校側にとっても大きな問題はない。
 だが、女子生徒、多菜の入学について、教師側からの否定意見が出ていた。
 異能児、生まれながらか後天的か、人と異なる能力を持ち、それ故に団体生
活を送ることが難しい子。
 異能そのものよりも不幸な生まれでの精神的な傷の問題のほうが大きかった
やすしと、発火という異能そのものに大きな問題を抱える多菜とでは、受け入
れ側の考えが大きく違っていた。
 もし、多菜の異能が暴走、あるいは不意な発動が起きた場合、対処は不可能
であるというのが、大きな理由だった。

 女性教師の隣で、中年の男性教師が遠慮がちに口を開く。
「無論、彼女の就学の意思を尊重したいのはやまやまですが受け入れ態勢や対
処が万全でないまま入学して万一の事があったら……」
 口ごもる男性教師の言葉を引き取るように尖った女の声が続く。
「場合によっては他の生徒を巻き込んだ被害に発展する可能性もあります、
彼女に関しては我々の対処できる範囲を超えています」
 女性教師の声が他の生徒の身を案じての言葉であることは、疑いようもなく。
かずこにとっても、最も恐れている事態であるだけに口をつぐむ。
「……えーと、ですね、我々としても辛いのですよ……ただ、昨今保護者らの
生徒保護の声も考えると……」
 間に入り弱りきった様子で仲裁する校長らに訴えるように。
「……多菜ちゃん、彼女の異能については私どもで制御の教育をしております。
意に反した暴走といったものはまず起こりえません」
「子供の集団とは、時に残酷なものです、万全と思われた中でも思わぬストレ
スや圧迫を感じることは普通の生徒にだって起こりえる、ましてや」
 隣で食い下がる女性教師を手で制して、かずこに向き直る。
「……山形さん、私達は決して彼女を忌避しているわけではないのです、これ
は理解していただきたい」 
「はい」
 たとえ、ひまわりの家では安定していても、不特定多数の生徒達の中で多菜
がストレスを溜めないとも限らない。
 力の拠り所が精神的なものに偏っている多菜にとって、受け入れ態勢の整わ
ない市立中学での就学は厳しい。
「えー、この男子生徒。富田くんについてはこちらでも責任もってお預かりし
ます、が」
「…………わかりました」
 ひとつ、息をついて頷いた。
 たとえここで食い下がって多菜の入学を認めてもらったところで、きっと招
かれざる存在だという空気を彼女は敏感に感じ取ってしまうだろう。それこそ
彼女を追い詰めて不安定にしてしまうだけだ。

「多菜ちゃん、彼女の就学については別で考慮します……やすしくんのことは、
どうかお願いします」
「ええ、はい、ええ」
「はい……」
「責任を持ってお預かりします」
 安堵したようにこくこくと頷く校長と、強張った表情の女性教師、深く一礼
する男性教師。
 話し合いを終えて、席を立って一礼し、校長室を後にした。

 玄関を出て、すぐ脇の校庭でジャージ姿でトラックを走る生徒達の姿が目に
映る。

「ゾノ中〜ふぁーいおー」
「おー!」
 白い息を吐きながら、はしゃぎまわるように走る姿をじっと見つめて。

「……あんな、普通の生活すら……彼女には認められない、のでしょうか」
 ゆっくりと首を振って、ゾノ中を後にした。


時系列
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 2010年1月。多菜さんゾノ中に受け入れ拒否られました。
解説
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 この辺のログから小説にしてみました。
 http://kataribe.com/IRC/HA06/2010/01/20100124.html#210000
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